首都リリスは勿論ながら、駒の生産拠点であるアグレアスを初めとして、冥界全土に魔獣は降り立った。手当たり次第に強力な光のブレスを放ち、次々に悪魔を殺害して回っている。
彼等も黙って見ていたのでは無い。直ちに軍が出動し殲滅に動いた。その結果として殆どの魔獣を討伐したが、被害も大きかった。倒した瞬間に獣達が自爆したのだから。
更に空気中を漂っていた細菌型の魔獣も動いた。近くの悪魔に寄生し身体を乗っ取ったのだ。しかも質の悪い事に本人の意識だけは残されており、攻撃を躊躇う者が続出した。予想もしなかった奇襲作戦に冥界は大混乱に陥った。
誰が味方かも解らず、人影を見れば敵と勘違いし同士討ちする。悪夢の光景にアジュカは歯軋りするしか無かった。
「最悪の状態だ……」
此処まで民衆がパニックになれば、魔王の言葉ではどうにもならないのは最早眼に見えている。或いは敵として認識されるだろう。建て直しは不可能だった。
鎮圧に向かった軍内部にも寄生された者が現れた時、彼は一つの選択を決意した。
冥界からの脱出だ。戦争の可能性が浮上してから、万一の為に緊急避難先を設けておいたのである。南のごく小さな島を買い取って正解だと思いつつ眷属を呼び寄せた。魔獣の大群はあくまで尖兵。四勢力からなる大部隊の侵攻も考えると一刻も早く逃げ出さなければ。
今は潜伏して力を蓄える。そして何時か悪魔を再興するのさ、と笑みを浮かべていると眷属全員が集結した。皆が怪我だらけだった。
「移動なされるのですね?」
「そうだ。俺は地下深くに潜む」
そのまま彼等に背中を向けると術式を弄くる。これで暫くは安泰な生活。隙を見て再び、魔王として立ち上がる日もあろう。カタカタと順調に操作していき、残すはボタンを押すだけ。触れた瞬間、自分達は南国に避難出来る。
震える指で触ろうとして、背中を剣で斬り付けられた。
「……ッ!? 何故、お前達が……!」
振り向き様に飛来する魔力弾。最初の傷が深かったのか、避けれずにまともに喰らった。転移術式は消え去り残っているのは血塗れのアジュカのみ。計画失敗は明らかだった。
どうして、と言いたげに眷属の顔を見て。彼等が自分を襲った理由が解った。首筋から顔に向けて根のようなものが生えていた。寄生されていたのだ。
そう言えば。魔獣を産み出す能力の
自分達は
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アジュカの死を悟ったファルビウムは降伏し、後の世に語り継がれる『悪魔大戦』は僅か半日で幕を降ろした。悪魔の半数以上が戦死したこの戦争が世界に及ぼす影響は計り知れないのであった。