「そ、そんな馬鹿な……! 真なる魔王の血筋をこうも簡単にッ!!」
翼を拡げ、咄嗟に回避した男は有り得ないと言いたげな顔だ。前魔王の末裔で派閥を率いていたなら、串刺しにされた隣の彼はそれなりに実力があったのだろう。事実として『無限の龍神』から力を与えて貰った二人は前魔王にも匹敵するレベルだった。だからこそ旧魔王派は今回の計画に踏みきったのだから。
だが蓋を開けてみればどうだろう。精鋭部隊と首謀者の一人が、抵抗すら許されずに殺されてしまった。ショックは大きかった。
「流石はイレギュラーな『
気に入ったよ、と血を払いながらフリードは踏み出した。その眼はまるで虫けらを踏み潰すかのような、冷たい色をしている。気付けば足は勝手に動いていた。
少しでも遠くに。目の前の化物から離れなければ。混乱のあまり転移術式の存在すら忘れて、シャルバ・ベルゼブブの名前を誇りに思っていた彼は、何もかもを捨ててひたすらに駆けた。
しかしどうにも詰めが甘かった。五体満足で逃がしてくれる程優しい相手では無い事をシャルバは知らずに居たのである。
恐怖した者は辺りに気を配る余裕など皆無だ。人目も気にせずにひたすら走り続けた。だが、尚も後ろから足音が追ってくる。あの男の眼差しが頭に焼き付いて離れない。
遂には来るなと叫んで、背後に向き直った。白い人影を見るや魔力弾を放り投げた。一度や二度で収まらずに次々と乱射するもフリードは倒れない。針鼠にされた仲間の無惨な骸が脳裏を過った。自分もこうなってしまうのか。
「やめろ、下賎な分際が! 私は偉大なベルゼブブの……」
言い終わる前に口から剣が延びていた。内臓を捲き込みながら天を目指し続けるそれは体内で分裂し身体を食い破った。気絶したくても悪魔特有の生命力が許してくれず、ゆっくり全身を喰い尽くしてもシャルバの意識は覚めたままだった。
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「も、もう殺してくれ……」
一振りの剣を突き立てられ、シャルバは硬直していた。寝言から察するに余程苦しい悪夢が彼を襲っているらしい。ミッテルトは拘束したシャルバの頭に記憶を映し出す術式を描いた。暫く眼を瞑っていたが、急に見開いた。どうやら判明したようだ。
捕虜として彼を転送した後で居場所を明かした。
「人間界の仮設アジトに八坂さんを監禁してるみたいっス!」
「……行くぞ。悪魔共を血祭りにあげてやる」
血祭り騒ぎ