DSフリードの非日常   作:ミスター超合金

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life.32 針鼠

 誘拐された八坂の救出。そして可能ならば犯行声明を出した『禍の団(カオス・ブリゲード)』の旧魔王派の捕縛。二つの極秘任務を受けて、フリード達は京都にやって来ていた。

 テロリストの要求は三勢力の同盟破棄。期限内に実行しなければ人質を殺害すると映像を送り付けてきた。牢に放り込まれた彼女は一糸纏わぬ姿で、つまりはそういう事なのだろう。一刻も早く救出しなければならない。

 

 

 悪魔祓い(エクソシスト)の上着をはためかせるフリード。その隣には相棒のミッテルトが続く。悪魔への敵意を放出しながら闊歩する彼等は要するに囮である。誘拐に成功した旧魔王派は勢いに乗っている状態だ。監視役が様子を報告すれば、士気の更なる上昇を狙い襲撃してくるかもしれない。

 敵のアジトが不明ならば自分達から現れるように仕向ける。それが今回の作戦だった。辺りを警戒していると不意に空がシャボン玉のように歪んだ。人払いの結界だ。

 

 

「……来たか、悪魔共」

 

 

 次々と現れる悪魔達。彼等はフリード達が人間と堕天使の混合チームだと解るや嘲笑を浮かべた。悪神ロキを殺害したのが誰なのか、連日のように報道されたのだから連中も知っている筈だが、弱い人間だと嘗めているのだ。先手はくれてやる、と筆頭格の男が馬鹿にして言った。釣られて他の男達も大袈裟に嘲笑う。

 旧魔王派は気付いていなかった。目の前に立つ二人の憎悪に。

 

 

「ウチが出向くよ」

 

 

 挑発に応じたのはフリードでは無く、背中から巨大な黒翼を生やすミッテルトである。その数は六対十二枚。悪魔の中からどよめきが聞こえた。何故なら、堕天使の実力や格は翼の枚数に比例するからである。下級は四枚以下で中級が六という風に格付けされ、八枚以上の翼を持つ者は上級堕天使と呼ばれ一部しか存在しない。

 では、小柄な体躯に不釣り合いな十二の翼はどれ程の実力を示すのだろう。

 

 

 堕天使組織、『神の子を見張る者(グリゴリ)』に唯一人だけ。同じく十二の黒翼の持ち主が存在している。遥か古の時代に亡き聖書の神に反旗を翻した男。

 『神の如き強者(アザゼル)』と人は言う。

 

 

「こんな奴が居るなんて知らなかったぞ! 急いで撤退を……ッ!!」

 

 

 格が違いすぎる。黄金の眼を光らせ、何百もの槍を宙に描く彼女に敵う筈が無い。冗談では無いと慌てて転移しようとするも間に合わなかった。無数の光槍が流星群のように降り注いだ。

 土煙が辺りを覆うも少しの間だけで、視界が回復するとそこには地獄絵図が広がっていた。下半身が無い者、腹に大穴を抉じ開けられている者。精神の弱い者なら卒倒するような光景だが、悪魔達は生きていた。強い生命力が仇となったのである。

 

 

 しかし殆どが死に絶え、残った者も脚を失ったりで動けない。芋虫のように這い回る男達を手際よく捕縛するフリード。逃げたくてもどうしようも出来ず、最後は全員が転移されていった。

 翼を収納して彼の隣に降りた。フリードの表情は尚も険しい。まだ敵は残っているらしい。すると何処からか場違いな拍手の音が聞こえた。

 

 

「流石だな。精鋭部隊を一瞬で壊滅させるとは」

 

 

「……その紋章。アスモデウス、そしてベルゼブブだな?」

 

 

 術式が浮かび上がり、二人の男が姿を見せた。今までの悪魔とは違う魔力を放っている。彼等が首謀者であるとフリードは察した。

 男達の眼は圧倒的な実力を見せたミッテルトに向けられており、今なら気付きはしない。そっと屈み込むと地面に右手を触れさせた。ベルゼブブが直前に察知するも遅すぎた。

 

 

 瞬間、彼等の真下の地面から聖魔剣が生えた。一人は回避するもアスモデウスの方は対応しきれずに、剣の群れに呑まれた。

 やがて出来上がったのは全身を刺され針鼠と成り果てた肉塊だった。

 

 




悪・即・斬


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