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ロキの件により、『
因みに北欧側は事件の後始末に奔走して参加が出来ない状況だ。仮にも北欧所属の神が他神話の主神や代表を攻撃したのだ。同盟違反で下手をすれば戦争必至である為に、彼等の行動は慎重にならざるを得ない。
天照大神の言葉もあり一応は同盟継続となるが、これで北欧の国際的な地位が揺らいだ形となる。
「先日は妾の危機を助けて貰って、本当にありがとうございます。そなたには日本神話を代表して厚くお礼を申し上げますのじゃ!」
「……いや、気にしないで下さい。自分は職務を果たしただけですから」
無表情で答えるフリードだが自身が思っている以上に今回の功績は凄まじい。ロキと言えば北欧最大のトリックスターと謳われた悪神であり上から数えた方が圧倒的に早い実力を持つと言われる。
彼は神を殺して見せ、更には天照大神を護り抜いた。恐らく今回の一件で名が知れ渡っただろう、とアザゼルは自慢気に告げた。
「人間の身でありながら『神殺し』を成し得た者は、両の手に収まる程しか存在しない。お前もその内の一人になった以上はこれから他方面に注目される筈だ」
悪い意味でも、と最後に付け加えた。オーディンの悔しがる様子を見れて余程に嬉しかったのか凄く上機嫌だ。これが契機で日本神話と長く友好を結べる点もある。徳利を片手に喜ぶ彼を置いて、フリードは部屋に急いだ。
長い一日を終えて戻った時には既に深夜となっていた。ドアを開けると、ミッテルトがテレビを眺めているのが見えた。此方に気付いたのか振り返る。
お帰りと彼女は囁いた。ただいま、とだけ洩らして隣に腰を落ち着けた。画面には悪魔政府のニュースが流れている。どうやら戦争準備を本格的に開始したようだ。
即ち、『
「……カウントダウンが始まったな。もう開戦は避けられない。今この瞬間に、幕が切られるかもしれないんだ」
「あんな世界は嫌っスよ。折角この世界に来たのに、また逆戻りなんて」
負ければどうなってしまうだろうと頭の隅で考えてしまった。賠償金の請求や植民地化、勢力の解体。色々な選択肢が戦勝国には与えられる。敗北者には何も残らない。文句を言う権利すらだ。極端に言えば子供や恋人が撃ち殺されようが、襲われようが何をされようが。悪魔相手なら何も出来ないという事なのだ。
ミッテルトの表情が途端に青ざめていく。以前のトラウマを思い出して、嫌な汗が流れた。
「勝てば良いんだよ」
宥めるように彼は強い口調で言った。手元に抱き寄せると腕に力を込めた。小柄で華奢な身体はすっぽりと包まれる。女性特有の甘い香りがフリードにも移った。
何れは血と硝煙の臭いも混ざるのだろう。上着に刺繍された金十字架も朱色に染まるしか無い。
それなら今だけは、彼女の香りで居たいと思った。
やがて互いに顔を近付けた。愛しているから、寂しさを誤魔化したいから。そのまま数秒程そうしていたが二人は名残惜しそうに離れた。プツンとテレビの電源を消して、フリードとミッテルトは寝室に消えた。
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翌日、甲高いアラームで彼等は目覚めた。未だぼんやりとしている眼を擦って床に捨てられた上着を探る。特徴的なこの音はアザゼルからの緊急呼び出しだ。悴む指で通話ボタンを押した。
からかうような声が最初に飛んできた。
『おう、フリード。昨夜は楽しんだか?』
「……切るぞ」
落ち着けと電話口は飄々とした音声を流す。向こうで笑いを堪えているアザゼルの顔が思い浮かんだ。しかしそれも束の間で真剣な顔となり、次の言葉を聞き逃すまいと耳を傾けた。電話の相手も暫くの沈黙の後には真面目な口調に戻った。
案内係の八坂氏を覚えているか。そう問われたフリードはそれで大体の内容を察した。殺害でもされたのかと訊く彼だが、返ってきたのは否定の声だった。
『誘拐だ。例のテロリスト連中が犯行声明を出してるよ』
二人共に今すぐ来い。それだけ伝えると通話は途切れた。寝ぼけ眼のミッテルトに着替えを促すと、自らも制服に袖を通す。
沸き上がる殺意を抑えながら。
愛の形