DSフリードの非日常   作:ミスター超合金

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life.3 憑依

「やけに揺れてるな……」

 

 

「増援が来て、張り切ってるんじゃないの?」

 

 

 カビ臭い通路を全力で駆け抜けるフリード達。申し訳程度に付けられている電灯を辿りながら、最悪の事態が彼の頭を過る。もう基地は崩壊寸前なのかもしれない。仮に大規模な攻撃が仕掛けられればその瞬間、此処はコンクリートの塊と化すのでは、と。

 先程から立て続けに起きる揺れ、そしてパラパラと降り落ちる土片は充分な証拠になり得るだろう。

 

 

 そこまで考えて、二人は無言で顔を見合わせた。どうやら同じ結論に至ったらしい。冗談ではなかった。こんなところで死ねば、先に逝った同志達に何と言って詫びよう。

 

 

「……最後まで生きるぞ」

 

 

「うん……」

 

 

 過ぎ去っていく電灯の光の下で、フリードは言葉を洩らした。ミッテルトもそれ以上は言わずひたすらに駆けた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 黄昏空に整列する『魔翔戦艦』。果てしなく浮かんでいる艦隊は、サーゼクスの命令によって全艦が二連主砲の発射準備を終えていた。彼が砲撃を口にした瞬間、無数の魔力砲が放たれるのだ。モニターに映されたサーゼクスが配下の艦長達は固唾を呑んで見つめていた。その一挙手一投足に最新の注意を払い、言葉を聞き逃すまいと場は静まり返っている。

 モニターの中でサーゼクスは数瞬、瞑目した。そして眼を閉じたまま告げた。

 

 

「撃て」

 

 

 直後、主砲が一斉に動き始める。質量があるかのような重たい音と共に標準を定めた。魔力が砲身に集められ光を強めていく。そして遂にエネルギー充填が完了した。皆が我先にと撃ち始めた。極太の魔力弾が放たれる度に基地は崩れた。

 

 

「魔力の雨を浴びせろ!」

 

 

「二度と逆らえないように!!」

 

 

 基地から逃げ出してきた自軍の兵士すらも標的にした。魔力の雨が降り続ける中でサーゼクスはひたすらに笑う。これ程に滑稽な見世物は無い、という歪んだ顔で。基地が完全に倒壊しても尚、雨は終わらなかった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 どれだけ時間が経ったのか。夢から覚めたような感覚でフリードの意識は浮上した。周囲は瓦礫に埋もれていて、埃と砂煙が眼に刺さる。取り敢えず身体を起こそうとしたが動かなかった。下半身の感覚が無いのだ。まるで重たい何かに押し潰されているかのように。

 自覚すると痛みが口まで流れてきた。砂利と一緒にして吐き出す。

 

 

「クソッタレが、後少しで……ッ」

 

 

 血だ。唯一動かせる右腕で拭うと、確かに袖が赤く染まった。ゴホゴホ、と更に血の塊を溢した。ここで初めて彼は迫り来る死を悟った。呆気ない終幕に思わず苦笑する。結局、自分は此処までのようだ。

 そこでフリードは眼を見開いた。ミッテルトの姿が見当たらない。崩壊する直前まで隣を走っていた筈だ。途端に言い表せない不安が彼にのし掛かった。

 

 

「おい、ミッテルト! 何処だ、返事をしろ!」

 

 

 必死に呼び掛けたものの声は返ってこない。頭をぶつけて気絶でもしているのか。それとも……。浮かんでしまった想像を降りきろうとフリードは叫ぼうとした。だがその前に聞き慣れた微かな声が耳に入ってきた。

 

 

「フリード、生きて……ッ!?」

 

 

 やがて瓦礫の向こう側がミッテルトはひょいと現れた。頭から血を流しているものの、見たところ重傷は負っていない。安堵するフリードとは対称的に彼女は絶句していた。その理由は何となく解った。

 

 

「……すまない、先に進んでくれ。後で必ず合流するから」

 

 

「そう言われても、フリードを置いて逃げれる訳が無いじゃない!!」

 

 

 慌てて自分を抜け出させようとするミッテルトの行動は決して誉められるものではない。致命傷を負った仲間等、重荷になるだけだ。合理性を重んじる彼は出来うるなら咎めたかった。しかし右腕以外が潰されている今の状態では何も出来ず、ただ身を任せていた。

 

 

「逃げろ、俺を置いて」

 

 

 懐かしさに似た感情を殺し、フリードは冷たく告げた。もう血すら出なくなったのだ。いよいよ自分は危ない。そしてこの場所もまた動揺に。今でこそ収まっているが何時再び揺れだすか。彼女を道連れにする事だけは避けなくてはならない。

 初めて聞いた声音に驚いて動きを止めた。長年共に居た自分ですら、聞いた事の無い声だった。恐る恐るといった様子でミッテルトは手を差し伸べようとするも、その手を彼は拒絶した。

 

 

「この馬鹿野郎! 最期の命令が聞けないのか!!」

 

 

「フリード……」

 

 

 崩れていく。壁が、床が。全てが。にも関わらず彼女は離れようとはしない。寧ろフリードの視界に入るように座っている。轟音を立てて、周囲は崩落した天井によって塞がれた。これで進むも退くも出来なくなった訳だ。

 何故自分を見捨てなかった。そう言いたげな彼の前で寝そべる。息をする音が聞こえる程に互いの顔が近い。

 

 

「……こんな形で言いたくなかったんスけど。死ぬ前に、ね」

 

 

 次々に瓦礫が降ってくるのに、二人は笑っていた。一体何を言いたかったのか。押し潰されてしまったその言葉を知るのはフリードとミッテルト。二人だけだった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 夢を見ていた。以前の世界、そして彼女の夢を。公園のベンチで何時の間にか眠っていたようだ。日差しが暖かいせいだ、と頷いてからフリードは起きた。

 何の因果か、死んだ筈の自分は別世界に飛ばされていた。その世界に元々存在していた自分自身に憑依する形で。新しい身体、戦いの経験を得た。文句があるとすればどういう事か『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』として追われている点、そしてミッテルトが居ない点だ。

 

 

「……次は駒王町とやらに行ってみるか。はぐれ悪魔が多いようだしな」

 

 

 不敵な笑みを浮かべて、フリードは次の町に向かって歩き始めた。

 

 




そして唐突に


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