life.28 群奏
悪魔討伐の任務が無い日。フリードはミッテルトと共にテレビゲームをして過ごす。普段の冷徹なイメージからは想像もつかないが、意外にも彼はゲームが好きだ。今日もトレーニングを終わらせてから二人でのんびりと遊んでいる。何も無い暇な時間が貴重だ。
その内に眠たくなったのか、彼等は同時に意識を落とした。新たな戦いの始まりだった。
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「……これは、どういう事だ?」
「ウチも解らないっス。てか何時の間に移動したんスかね」
自分達は部屋に居た筈である。それがどうしてか、駒王町に転移していた。隣に立つミッテルトも狐につままれたような顔だ。可能性があるとすれば、最初にアザゼルの実験が思い浮かんだ。彼は変な発明をしては周囲を巻き込む悪癖がある。
これも一種のバーチャル技術なのだろうか。辺りを警戒しながらも先に進んだ。
驚くべき事に現実の風景がそのまま再現されていた。鳥は空を飛んでいるし、風も吹き荒ぶ。肌に感じる冷たさも同じだった。アザゼルも張り切ったな、と感心しつつ二人は取り敢えずの目的地である廃教会に向けて歩いた。
教会までは然程時間もかからなかった。改めて観察すると外装の汚れまでも細かく仕上げている。
「取り敢えず休むか。待っていればイベントでも起きるだろ」
面白半分で隅々まで見て回った。礼拝堂、更には自室として拝借していた部屋も作り込まれていて、こうして見ると本当にバーチャルかと疑ってしまう。積もりきった椅子の埃を叩いていると不意に庭から彼女の声が聞こえた。何かに驚いているらしい。
懐の柄に手を突っ込んでからフリードも下に降りた。雑草が生い茂る庭に降り立つと、ミッテルトが狼狽しているのが見えた。何があったのか訊ねようとして違和感に気付く。驚いている理由を察した。
「た、大変っス! アーシアの墓が……」
「消えてるな。まるで最初から無かったかのように」
アーシアの墓があった場所は草木で埋め尽くされていたのだ。死んでしまった彼女は確かに埋めた。だが綺麗に消えている。此処まで作っておきながら、このような初歩的なミスをするだろうか。研究者気質なあの男に限ってそれは無いと断言出来た。
瞬間、噛み合わない恐怖がフリード達を襲った。思えば椅子の埃もそうだ。町を離れてから久しいが、それでも雪のように積もりはしない。
消えたアーシアの墓。積もりきった埃。一体、自分達は何処に迷い込んでしまったのか。冷や汗が背筋に流れる。
その時、フリードが顔を一変させた。悪魔を見付けた時の表情だが、今回は何時もと違った。信じられないと言わんばかりだ。
「有り得ない……」
「……? 珍しいっスね。そんな顔をするなんて」
首を傾げるミッテルト。しかし彼女も魔力をキャッチしたのか、直後に眼を見開いた。驚きながら彼を見る。正解だと言いたげにフリードは頷いた。魔力を感じた方角を睨んだ。
「存在しない筈なんだ。二天龍は唯一無二の存在だからな」
ならばどうして察知したのだろうか。今も尚、痛い程に身体を焼き付けるのだろう。
全く他人の過去を覗いているような感覚で