「遠路はるばると、よう来られました。私は案内役の八坂と申します。これより皆様を会談場所へお連れします」
「うむ。何しろ、儂らは日本には不慣れな身じゃ。道中宜しく頼むぞ」
日本神話との会談場所は京都と決まった。案内の大役を任されたのは京一帯を治める狐妖怪、八坂であった。妖怪勢力は日本神話の傘下に収まっており、領土を認める代わりに神々の代行としてある程度の仕事を行う契約となっている。今回も正しくそれだ。尤も、上層部からの信任が厚い八坂だからこそとも言えた。
狐火を片手に灯し先導する彼女と後に続くオーディン。そして護衛の
辺りに魔力が漂いながらも、神秘的なオーラに道溢れている繁華街。中央を横切る大通りの先に会談場所があった。我が物顔で悠然と構えている巨大な城だ。全体的に白を基調としており、周囲の賑やかな輝きにも負けずに圧倒的な存在感を放っている。
大樹ユグドラシルとはまた違う迫力にオーディンとロスヴァイセは思わずたじろいだ。それから八坂の後に続いて、朱塗りの門を潜った。畳張りの質素な客間に通されるなり、待ち構えていたらしい少女が頭を下げる。
「妾は天照大神。オーディン殿、我々は歓迎致しますのじゃ!」
「今日はお互いに有意義な一日としましょうぞ」
上座にと案内し、出された抹茶で喉を潤した。椀を置くと天照がいきなりに悪魔勢力の話を切り出した。オーディンに配られた資料には悪魔に転生させられた妖怪、奪われた領土等が事細かに記載されている。特に前述の転生悪魔は疑わしい者も含めて近年急激に上昇していた。
我々とて対策を怠った訳では無い、と彼女は洩らした。各町ごとの警備を強化したり、悪魔の誘惑に乗らないよう注意を促したり等の活動も積極的に行った。神々も支援したが効果は芳しくなかった。
「……三大勢力に信仰を奪われた妾達は衰退するばかり。妖怪も年々数が減っておる。悪魔連中は数を頼みに押し寄せて来おった」
結果が稀少妖怪の乱獲だ。絶対数の少ない種族は高値で取引され、眷属に持つ事が貴族悪魔の間でステータス化している。拐われた彼等がどのような末路を辿ったのかは想像に難しくない。
このままでは絶滅してしまう。だが現在の日本神話に最早後ろ楯となりえるだけの力は残されていなかった。北欧神話との会談はそれが目的だった。
意図を察したオーディンは眼を瞑った。妖怪云々の話は兎も角として、三大勢力には日本神話と同様に信仰を奪われたという恨みがある。それに他勢力の台頭を考えると、彼等とはなるべく関係を持ちたい。しかし同盟を結ぶのは良いが日本の情勢にはなるべく関わりたく無かった。
思考の海を漂う内に、ふと『
水晶の義眼が怪しく煌めいた。
「……儂に考えがある」
巻き込んでしまえ!