ゴウン、ゴウン……。重たい音が何重にも重なって、空に響き渡る。悪魔勢力が開発した『魔翔戦艦』の駆動音だ。大量の魔力を使用する燃費の悪さこそあるが目立つ難点はそれだけで、圧倒的な火力を誇るそれらは何万何千と製造され、悪魔勢力の物量作戦の一翼を担っている。
天を埋め尽くす
「あれが反乱分子の……」
薄暗い司令室。前面のモニターに映し出された基地を眺めながら男は呟く。先発隊として向かわせた匙元士郎、以下二千の兵によって基地は壊滅状態となっていた。撒き散らされた血に、誰の物かも解らない臓器。オペレーター達が思わず眼を背ける中で、彼は平然と言い放った。
集中砲火し基地を完全に潰せ、と――。
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「おい、あったぞ! やはり連中は気付いてなかった!」
「さっさと逃げるっスよ!」
フリードとミッテルトは旧下水道の入口に辿り着いていた。老朽化の影響で錆びたドアを抉じ開けると、大量のパイプにまみれて点検用の道が続いている。敵が此処まで来る前に脱出しなければ。焦りをひた隠してコンクリート造りの床に降り立った瞬間、轟音が遠くで聞こえた。釣られて建物自体も大きく揺れている気がした。
限界を察した二人は力強く駆け出した。
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男の非情な命令にオペレーターや一般兵達は眼を見開いた。基地を完全に潰すという事は、つまり突入している仲間を見捨てるのだ。幾ら上官の命令とは言え味方を犠牲に出来ない。そんな部下の動揺に気付いた彼は、しかし顔色を変えなかった。ただ静かに問うだけである。
「――聞こえなかったか?」
瞬間、停止していた思考が引き戻される。氷のような殺意に当てられて慌てて任務を実行に移し始めた。各艦に連絡を飛ばしていく様を見ながら男はグラスを口にする。血のような赤ワインの何と美しい事か。
紅に濡れたグラス越しにモニターを見ていると三大勢力戦争を思い出す。あの時は若く、未熟だった。敵を殺すのも、流れる血すら嫌悪していた覚えがある。
「サーゼクス様。全艦の発射準備が整いました。何時でも動けます」
「うむ……」
しかし今は違う。弱い敵を踏み潰すのが酷く面白い。悪魔に逆らう者をこの『魔翔戦艦』で容赦なく蹂躙し、滅ぼす。何と痛快だろうか。そして今度は神々が相手だ。反悪魔組織が敵だ。だがその彼等ですらも悪魔に圧され、怯えながら生きる毎日。
全ては悪魔の繁栄の為に。そう遠くない未来、悪魔が我が物顔で闊歩し他種族を支配する世界を築こう。そんな理想郷を描きながら、サーゼクス・グレモリーは口角を三日月の如く釣り上げた。
反乱でさえも、彼等には娯楽なのだ