life.11 強奪
北欧のある田舎道。大自然に囲まれたその道を一台の車が走っていた。白のワンボックスカーは見た目こそ旅行に来た家族が乗っているかに見える。実際に搭乗者もラフな格好をした家族だ。だが表情は険しく、まるで敵を警戒しているようだ。
砂煙をあげて走っていく様を上空から眺める影があった。十の黒翼を拡げる男は手元に光の槍を造り出す。
隕石が直撃したかのような、爆発音が轟いた。車は粉砕されてしまい、潰された鉄の塊からやっとの事で搭乗者達は這い出た。目的のトランクケースは耐熱構造の為に無事だった。彼等が抱き抱えているケースを目敏く見付けた襲撃者はどす黒い笑みを浮かべる。静かに降り立つと、相手は次々に剣を取り出した。
「大人しくトランクケースを渡せ。そうすれば命だけは助けてやろう」
「だ、誰が堕天使の言いなりに!!」
交渉は決裂。心底呆れたような溜め息を男は吐いた。尤も、ケースを渡しても殺すのだが。面倒臭そうに光の槍を再び造った。そして無造作に横凪ぎした。何が起きたのか、と緊張を崩さない彼等は直後胴体から真っ二つに別れた。自分の死を自覚する事もなく殺された。
血溜まりを避けようともせず男は進み、最期まで離さなかったトランクケースを手に取った。中身は一振りの剣だ。
「……案外、容易く手に入ったな」
その堕天使、コカビエルは腰に帯びると転移魔法陣に消えた。後日、エクスカリバー強奪事件が立て続けに起こる事となる。
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ソーナ・シトリーは恐怖していた。リアス達が襲撃され、木場と一誠が殺害されてしまった。合流する筈だったライザーとも連絡が取れない。駒王町の悪魔が順番に殺されている以上、次は自分だと怯えても仕方無かった。
「会長……」
日常生活にも支障をきたす程、物音に過剰反応してしまうソーナ。そんな彼女を支えるべく、懐刀の椿姫を筆頭に眷属達が奔走した。普段世話になった恩を返す時だと悪魔稼業もひたすらにこなした。
そして、数日後。季節的に珍しい大雨が降る夜に匙はコンビニへ向かっていた。連日の激務で疲れ果てている皆にデザートでも、と思い立ったのだ。プリンやケーキの入ったレジ袋を庇いながら必死に走る。
「まあ、これ食って少し休憩するか。最近は何かと忙しかったからな」
ふと主君の顔が浮かんだ。何時になれば彼女はまた元気な姿を見せてくれるだろうか。優しげな声で名前を呼んでくれるのか。限界を感じながら彼は近道を進んだ。そこで白髪の男が立っている事に気付いた。
その日、匙元士朗が帰ってくる事は無かった。
恐怖は日常的に繰り返されるものだ。……サイズの違いこそあるがね