英雄達の王   作:げこくじょー

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急がば回れ(結果が変わるとは言ってない)

「悪かったって言ってるだろ。目的は達成したし、土産は……木っ端微塵になっちまったけど」

 

『だから、それが問題だと言っている!辺り一帯を更地にしたことはともかく、王が頼まれた物まで木っ端微塵など、死活問題だ!これだから貴様というやつはーー』

 

「わかったわかった。また買い直してくるから、王様には遅れるって言っといてくれや」

 

『貴様、一体何回目だとーー』

 

電話の向こう側で怒鳴っているのも気に留めず、男は通信を切った。

 

これでまた帰れば小言が待っているのだが、その時はその時だ。右から左へと聞き流していくだけである。

 

「それもこれも、全部こいつらが悪いっつーのに」

 

千切れた腕をつまみ上げて、男は溜息を吐いた。その腕の主の姿はない。残っているのは、あくまでも腕のみである。

 

元はと言えば、突如異形の者達が襲ってきた事が原因で、男はそれを迎撃、結果として周囲を更地(・・)にしてしまい、ついでにその辺に置いておいた土産も跡形もなく消し飛んでいた。

 

……実際のところは勝手に男が縄張りを縦断したためであるのだが、男はそれに気づかないし、『いるのが悪い』と言い張るが。

 

「あーあ、転移用魔法陣持ってくるんだったぜ」

 

基本的に何事にも無頓着なせいで、帰る際に使用する転移用魔法陣を忘れ、仕方なく徒歩で帰らざるを得ない状況になっていた。

 

かれこれ半日歩いていたのだが、これでまた半日かけて戻らなければならない。迎えを頼むのもいいのだが、そうなると小言が余計に酷くなるのだ。

 

「しゃあねえ。さっさと帰って……あん?」

 

不意に空を見上げた男ーーヘラクレスの視界に、閃光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?ヘラクレスが帰らない?」

 

「そうらしい」

 

立ち話をしている曹操とジャンヌに声をかけると、そんな事を言われた。

 

ヘラクレス。

 

うちの幹部にしてその名の通り、ヘラクレスの魂を受け継ぐ者で、こちらもやはり原作とは違う。

 

やや脳筋傾向があるが、基本的にはいいやつだ。なんだかんだと言っても、幹部はともかく、他の者には慕われているし、身体能力の高さと打たれ強さはおよそ人間離れしている。正直なところ、人間かどうかも疑わしいレベルに。

 

頼もしい限りだが、問題が多々ある。

 

頭を使うのは面倒くさがるし、会議は参加しない、細かいこともスルーしまくるし、何でもかんでも大雑把過ぎるのだ。そのせいかは知らないが、あいつのサバイバル能力は異常に高いが。

 

「いつものように何処かに寄り道をしているものと思いますが……」

 

「?どうした、何か引っかかるか?」

 

「いえ、最後にゲオルグへ通信があったようなのですが、どうやら何者かと交戦していたらしいのです」

 

「『はぐれ』にでも遭遇したのではないか?」

 

「俺もそう思った。ただ、ゲオルグが言うには『通信越しに神性を感じた』そうだ。それもかなり強大な」

 

「神性だと?」

 

ということは、ヘラクレスは神か、それに近い相手と戦っていたという事になる。

 

しかし、あいつはあれで恨みつらみを戦いには持ち込まないタイプの人間だし、いきなり神に喧嘩を売るような阿呆でもない。

 

そうなると、あちらから絡まれるか、間接的に巻き込まれたとかそういうのだろう。

 

「ヘラクレスは馬鹿ですが、実力は確かです。並大抵の者では手も足も出ないのですがーー」

 

「相手が並大抵の者ではない可能性が高い、か」

 

「そこでどちらか一人が現地に向かうという話になったというわけさ。ひょっとすると、かなり危険な目にあうかもしれないしね。他の人間を迎えに送るわけにはいかないだろう?」

 

なるほど。曹操は神性を持つ者の相性は抜群。ジャンヌも『禁手』を使えば、曹操ほどでないにしろ、神との相性は良い。ジークは魔を宿す者が専門であるし、ゲオルグはあまり戦場に出るタイプではない。二人のどちらかがベストだろうな。他の構成員も、組み合わせ次第では十分に戦えるが、あまり危険な場に送りたくないのも事実。その判断は正しいと言えるがーー。

 

「いや、ここは俺が行こう」

 

俺がそう言うと、反論の嵐が……来なかった。

 

んん?いつもなら全力で反対してくるジャンヌは苦々しい表情で黙るばかりだった。

 

「だから言っただろう?こそこそしても、いずれ王自ら出向くと言いだすって」

 

「ぐっ……こんなことなら、先に私が行った方がーー」

 

「結局変わらなかったと思うけどな。それは君もわかるだろ?」

 

上手い具合にジャンヌが言いくるめられていた。

 

こうなったら、ジャンヌは曹操に勝てない。というか、口論になって曹操を言い負かせるのはゲオルグくらいか。それもごく稀にだが。

 

「……わかりました。本来ならばこのような事にお手を煩わせるのは申し訳ないのですが……」

 

「構わぬ。あちらには用がある。そのついでだ」

 

そういえば、そろそろ俺が頼んでいた秘密の隠れ家が出来ている頃合いだろうし、その確認をする口実にもなる。ヘラクレスの安否を確認次第、そちらに向かうとしよう。

 

善は急げ、早速……ん?

 

ちょいちょいと服を引っ張られる。

 

こんな事をしてくるのはオーフィスか……と思っていたら、違った。

 

「レオナルドか。どうした?」

 

控えめに俺の服を引っ張っていたのはレオナルドという少年だった。

 

わかるかと思うが、この少年もまた原作キャラの一人であり、魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)という神器を持つ人間で、その能力は様々な能力を持った魔獣を創り出す事ができるところだ。

 

この子もまた、神器の能力故に孤独な環境で育っていたために心を閉ざしていたのだが、ここでの生活のお蔭で少し物静かな少年へと戻っていた。

 

基本的に強く主張しないレオナルドが、こうして話しかけてくる事は珍しい。

 

少しだけ屈んでレオナルドの視線の高さに合わせた。

 

「王様……の、力に……なりたい」

 

「俺の?」

 

「僕、の……力。王様の、役に……立て、たい……!」

 

急にそんな事を言い出すなんて……さっきの話を聞いていたのか?

 

危険な目にあうかもしれないって、曹操も言っていたし、レオナルドなりに心配してくれているのだろう。

 

「大丈夫だ、レオナルド。俺たちには危険でも、王ならーー」

 

「いや、その心意気を買うぞ。レオナルド」

 

「王……っ!レオナルドはまだ子どもです!制御しきれていない神滅具を使わせるのは、賛同しかねますっ!」

 

ジャンヌが珍しく反論してくる。

 

俺を慕ってくれている彼女だが、それは妄信的なものではなく、あくまで俺が外道ではないから。信頼に足る行動を多分起こせているからに他ならない。

 

だから、彼女の反論は最もだ。

 

神滅具はそれだけで危険視されるほどの神器。

 

子どもが御し切るというのはなかなかに困難な事だ。

 

だがーー。

 

「ジャンヌ。本当にレオナルドがただの子どもに見えるか?こやつの面構えを見てみろ」

 

「っ……!」

 

レオナルドの決心したような表情を見て、ジャンヌは驚愕の表情をする。

 

いくら子どもとはいえ、レオナルドにだって危険性は嫌という程わかっているはず。

 

なのに、俺に力を貸してくれるというのだから。よほど勇気を振り絞ったに違いない。

 

小さいとはいえ、覚悟を決めた男に対してそれを理由に突っぱねるのは些か非情とも言える。

 

「三体だ。レオナルド。お前の気に入っている魔獣を連れて行く。好きなものを創れ」

 

こくりとレオナルドが頷く。

 

レオナルドは連れて行かない。当たり前だ、危険な可能性が少なからずあれば、子どもを連れて行くわけにはいかない。

 

レオナルドが創り出したのは……うん?

 

「ドラゴン……か?」

 

「かっこ、いい、から」

 

地面から現れたのは三体のドラゴンのようなものだった。

 

もの、というのは正しくはドラゴンではないからだ。

 

見た目こそドラゴンに近いが、翼や胴、手や足などが明らかに別の生物が混じっている。しかも体長も一メートル弱と小型だ。

 

おそらく、レオナルドではまだドラゴンを創り出せるほどの能力はないはずだ。だから、あくまでも他の魔獣との混合になるのだろう。さしずめ合成魔獣(キメラ)というところか。

 

……まぁ、レオナルドの夢を壊しかねないので否定はしないし、そうだとしても一瞬で創り出せるというのはなかなか凄いことだ。

 

「よし。では、この三体を連れて行くとしよう」

 

「うん……レーン、トゥール、ミュトス。王様、守って」

 

名前付きとは恐れ入る。となると、この三体はよほどレオナルドが気に入っている魔獣なのだろう。

 

さて、レオナルドがお気に入りを貸してくれた以上は無事に帰ってこなきゃな。ヘラクレスの奴も、変なのに巻き込まれていないといいが。

 

街の外に出て、ヴィマーナを取り出す。

 

魔獣のサイズが小さめなのも幸いして、全員がヴィマーナに乗り込むことができた。

 

しかしーー。

 

「やれやれ。これではあまり英雄らしいとはいえんな」

 

ゆっくりと高度を上げていき、高度百メートルを超えたところで、一気に加速する。

 

数秒と経たないうちに音速を超える。目的の座標は……日本か。

 

なんかこの時点で嫌な予感がするが、口にはしない。だってフラグだもの。

 

それから数分経ったところで、ふと違和感を感じた。

 

レオナルドの魔獣が同じ方向を向いて、威嚇の姿勢を取っていた。

 

まだ何もいないはずだが……くっ、特に目がいいわけではないから何も見えん。かといって、レオナルドがいないから意思疎通も難しい。

 

……仕方ない。このまま突っ切る!

 

ヴィマーナをさらに加速させる。最早一秒前の景色が遥か後方のものとなる。

 

よし、これなら何かがいても、近くを音速で通過ーー。

 

「ぐぅっ……何者だ、貴様!」

 

出来ませんでした。

 

ものの見事に体当たりをかましてしまっていた。

 

相手の方は魔法陣を展開して、なんとか防いでいるのだが、流石はヴィマーナ。ただの体当たりでもって、魔法陣にひびを入れていた。

 

とはいえ、こちらも無傷とはいかない。前の方は壊れてしまったし、そこから徐々に酷くなっていた。

 

まぁ、減速にはある意味成功しているので、そこから加速することはしないし、謝っておかねば。

 

ヴィマーナが完全停止したところで、玉座から降りて、前に行く。

 

「すまない。わざとではないのだ。たまたまここを通りかかっただけでな」

 

「ふんっ。白々しい」

 

黒いローブを着た男は嘘などお見通しとばかりにそういった。

 

……いや、本当に通りかかっただけなんですが。

 

「オーディンめ。悪魔だけではなく、神器使いの増援を呼んだか」

 

オーディン?あいつが関係あるのか?

 

「何か勘違いしているようだが、俺は増援に来たわけではーー」

 

「おーい!」

 

説明をしようとしたところで誰かの言葉に遮られる。

 

誰だと思い下を見てみればーー。

 

「……ヘラクレス?」

 

「やっぱりな。あんたなら来ると思ってたぜ、王様よ、っと!」

 

デカい犬や蛇みたいなやつの大群と戦うヘラクレスに……グレモリー眷属?しかもヴァーリたちまでいる。

 

なんだ、これ。怪獣大戦?

 

と、そのデカい犬のうち小さめの一匹が飛びかかってくる。っていうか、デカっ!?

 

殺意を撒き散らしながら飛びかかってくる犬に驚いていると、直前でそれを受け止めるやつがいた。

 

レオナルドのドラゴンだ。それが俺と犬の間に入ってきて、正面から受け止めた。

 

「ほうっ。子どもとはいえ、フェンリルの一撃を受け止めるか。面白いものを飼っているな」

 

フェンリルの子ども……だと?

 

……ちょっと待て、待ってくれよ。

 

まさかとは思うが……。

 

「貴様が悪神ロキか?」

 

「如何にも」

 

恐るおそる問いかけてみれば、間髪入れずにそう答えた。

 

やっぱりか……!

 

そういえば『禍の団』の一件で片が付いた後にこういうイベントがあったような気がする。具体的にどれぐらいの時期に起きていたのか覚えてなかったし、そもそも原作との乖離が進んでいる現状、同じタイミングで起きる可能性も少なかったわけだが。

 

つまり、アレか。

 

ヘラクレスは喧嘩を売ったわけでも売られたわけでもなく、帰還途中でグレモリー一行とロキ達の戦闘に巻き込まれる形で参加してるってことか?それか首を突っ込んだか。

 

……十分にあり得る。というか、ヘラクレスの性格上それぐらいしか考えられない……っ!

 

「貴殿こそ何者だ。その身に纏いし神気。並の人間が得られるものでは………む?」

 

俺を観察するように見ていたロキの目がゆっくり見開かれる。

 

「いや……まさか。よもや貴様が……っ!」

 

瞬間、ロキから放たれるプレッシャーか爆発的に上がった。

 

あああああっ!ヴィマーナの損壊率がさらにぃぃぃっ!!

 

一旦完全に壊れると修復までに十日はかかってしまうからやめてほしいんですがっ!?

 

「その面貌、その神気。傲岸不遜な振る舞いは、間違いないっ!」

 

ロキが俺を指差す。

 

その表情はまるで親の仇でも見ているような感じだ。

 

「貴様だなっ!人と神を繋ぎ止める楔でありながら、その役目を放棄し、剰え神との決別を図った愚かな王。英雄王ギルガメッシュとは!」

 

「ああ、確かに俺は英雄王ギルガメッシュに相違ない」

 

役目がどうのこうのは知らんが。多分、本家ギルガメッシュがしたことだしな。

 

「オーディンめ……我ら神に仇なす半神に助力を求めるなど……恥を知れっ!」

 

だから、俺は別にオーディンに頼まれてきたわけじゃないんですが。

 

「決めたぞ。愚かなる王、オーディンよりも先に貴様を手ずから始末してやろうではないかっ!」

 

なんか超絶やる気だ……っ!

 

俺はただヘラクレスを迎えに来ただけで、こんな化け物みたいな強さを誇る敵と戦いたくないんだけども。俺がいなくても誰も死なないし、主人公が倒してくれるしさっ!ひょっとしたら俺が戦場に混じったから死人が出るっていう可能性さえあるんだし。

 

……とはいえ、こいつは俺を生かして帰してくれるつもりはないだろう。殺意と憎悪が相乗効果でえぐいことになってるうえ、この場でとんずらしたら下で戦ってるアザゼルたちにも文句を言われる。しかも、仲間からも見放されるという二段落ちまで見えた。

 

「……いいだろう。俺も、常々貴様のような存在は不要だと思っていたところだ」

 

半壊したヴィマーナの高度を下げ、近くにあった岩場の上に降りる。

 

「来るがいい、悪神ロキ。せいぜい、俺を楽しませろよ?」

 

「ほざけっ、出来損ない風情が!」

 

挑発に乗ったロキの一撃とバビロンから放たれた宝具がぶつかり合い、大きな爆発を起こした。

 

ーー神話の戦いの火蓋が切られるのだけは勘弁してほしい。

 

 


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