英雄達の王   作:げこくじょー

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冥界に行くことを、強いられているんだ!

どうも、英雄派の頭領。ギルガメッシュ(仮)でございます。

 

わたくしが今どこにいるかと言いますと、な、な、なんと!原作でも明らかにされていなかった旧魔王派の拠点にいるのでございます、はい。

 

冥界に行くよりも貴重な経験だな、うん。いや、危険な経験かもしれないけれども。

 

「妙な真似はするなよ……つっても出来ないだろうけどな」

 

「どういう意味だ?」

 

「ここは神器が使えないように特殊な結界が張られてるんだよ。神器がなけりゃ、所詮お前らはゴミ屑同然だからな」

 

はぁ……成る程。だからこんなに強気な上に、わざわざ旧魔王派を実質上束ねている奴が顔を見せられるのか。いくら人間を見下しているとしても、神器の強大さは知っているはずだろうし。

 

しかし、神器の使用を阻害する結界か……ゲオルグにでもまた相談しておかないと。これ使われるとうちの主力は封殺されはしないが、大幅に遅れを取る。

 

「本来ならテメェみたいな屑は謁見するのもおこがましいが、シャルバ様がテメェの力に目をつけられた」

 

「それを使って三大勢力を襲えと?俺が和平を結んでいるのを知ってか?」

 

「はっ!見かけだけだろ」

 

そんなわけあるか。ちゃんと守るわ。

 

結果論とはいえ、何故あの場に参加したと思っているのか。破る気があるなら、参加なんぞしに行くか。

 

「さあ、着いたぜ。せいぜい口の利き方に気をつけろよ」

 

到着したのは玉座のある部屋。

 

実に悪魔らしい装飾が部屋に施されており、趣味が悪い。悪魔というのはこんなに趣味が悪いのか。暗いし、ジメジメするし、何より気味が悪い。

 

「よく来たな。人間。いや、英雄王と呼んだ方が良いか?」

 

転移魔法陣を使って現れたのは軽鎧(ライト・アーマー)とマントを身につけた茶髪の男。こいつがシャルバ・ベルゼブブか。

 

むぅ……イケメンだ。ギルガメッシュもイケメンですけども。なんといいますか、俺の顔じゃないしなぁ。あまり自慢出来ないというか、褒められてもギルガメッシュだもの。としか言いようがない。

 

「よもや古き時代の人間を束ねていた者が、今の時代に再度現れようとはな。奇妙なものだ。その身体から溢れるオーラ。成る程、何かに縋らなければ生きていけない人間共にとっては、これ以上にない存在だな」

 

「御託は良い。何故貴様は俺をここに呼び寄せた?」

 

「奴等を、三大勢力を滅ぼすためだ」

 

俺の問いにシャルバは当然のように答えた。

 

「天使も堕天使も滅ぼすべき相手だ。それらと手を組み、種の存続などと甘い事を言っている現悪魔も同様だ。奴等を滅ぼし、我々が新しい悪魔の世界を作る」

 

「それで?今のところ、俺が手伝うメリットがないが?」

 

「メリットだと?お前達と我々が対等だとでも言いたいのか?身の程を弁えろ。王を名乗っても、たかだか人間一人。まして今神器の使えないお前がか?馬鹿も休み休み言うのだな。今殺されなかっただけでもありがたく思うのだな」

 

……こいつ、交渉って言葉の意味を知ってるのか?

 

馬鹿なの?こんなのこの領域でたら、誰でもすぐに裏切るよ?それとも、悪魔ってこんなに高慢ちきな野郎ばっかなの?

 

「そもそも、こちらには人質がいる。殺されたくなければ……わかっているな?」

 

シャルバが指を鳴らすと、部下と思しき悪魔達が七人ほどの人間達を連れてくる。思っていたよりも少ないな。てっきり十人から二十人はいるかと思っていたが。

 

「これで全員か?」

 

「ああ。()()、な」

 

……それはつまり減ったということですかな?旧魔王派のトップ殿。

 

「このゴミ共の命が大事なら、言う通りにするんだな」

 

ものすごい悪どい笑みを浮かべるシャルバ。まるで悪魔のよう……って、悪魔か。

 

原作の主要キャラの面々は悪魔っぽさがあまりなかったから、悪魔が殆ど肩書きレベルだったんだよなぁ。

 

「実に悪魔らしいな、シャルバ・ベルゼブブ。お前は悪魔を名乗るに相応しい存在だな」

 

「当然だ。私達こそが真なる悪魔。魔王の血族だからな」

 

旧魔王派と現魔王派。

 

比較すると、『悪の体現者』としては圧倒的に旧魔王派に軍配があがる。まぁ、作中では敵キャラとして出てきたわけだし、当然と言えば当然だけども。

 

「さあ、どうする?大人しく私に従うか、それとも神器使いを見捨てて逃げるか。もっとも、貴様は後々邪魔になる。断るというのなら、この場で死んでもらうがな」

 

……なんかもう、ただの脅しになってるんですが。話し合いする気が欠片もないな。

 

これ答え一つしかなくね?

 

だって、人質いるし。相手下衆野郎だし。テロリストだし。

 

ここで俺がどうしなきゃいけないかって言えば……うん。やっぱりあれだ。

 

「一時間待ってやろう。それ以上はーー」

 

「断る。貴様ら旧魔王派の悪魔とは組まぬ」

 

「……それがどういう意味がわかっているのだろうな?」

 

まさか断るとは思っていなかったんだろう。シャルバは頬をひくつかせていた。

 

まぁ、確かに普通なら断るわけはない。自分の命が惜しければ、ここは従うに越したことはないからだ。

 

とはいえ、だ。

 

従っても助かる保証はないし、そもそも『約束?なにそれおいしいの?』な奴らを相手に約束事をしようとは流石にもう思わない。

 

「では死ね。愚かな人げ……ごふっ!?」

 

かっこよく決めようとしている最中、シャルバが吐血し、周囲の悪魔達は悲鳴をあげる間もなく塵に帰った。

 

犯人は当然俺ですね。バビロンで後ろからぶすっと。

 

「ば、馬鹿な……神器は使えないはず……だっ!」

 

背中から腹部にかけて突き出た聖剣を見て、シャルバは忌々しそうに、そして驚きを含んだ声音で呟く。

 

「そうか。残念だったな」

 

「っ……貴様、まさかーー」

 

「喜べ。俺は神器使いではない」

 

そう。俺のバビロンは『特典(チート)』であって、『神器(強化アイテム)』ではない。

 

いくら神器使いに対策を立てようが、俺には毛ほども関係ない。何故なら該当していないから。

 

あっはっは。残念だったな、シャルバくん。ギル様の!宝具は!最強なんだ!

 

「じ、神器使いではない……?では、貴様は……!」

 

「さあな。だが、俺は英雄王だ。全ての英雄を統べ、君臨する者。たかだか自分の事しか考えていない矮小な悪魔に屈することは断じてない」

 

「ぐっ……人間風情が!私を見下ーー」

 

「死ね」

 

シャルバの四方から現れた聖剣がその体を貫き、塵に帰した。

 

危ない危ない。聖剣でブッ刺せばすぐ死ぬかと思ったら、流石は純粋な魔王の血族。いや、確かオーフィスから『蛇』をもらってパワーアップしてた事も関係してるからかな?

 

どちらにせよ、一撃で死んでないことには驚いた。これからは最上級クラスの悪魔相手には十本くらい一気にブッ刺そう。

 

「さて、後はお前達だな」

 

捕まっていた神器使いの方に向く。

 

やはりというか、当然というか、酷く怯えていた。見たところ、年端もいかぬとまでは言わないが、どう見積もっても小学校に通っているようなレベルの少年少女のようであるし、シャルバ達がしていた仕打ちなどを考えれば、この反応が正しい。

 

とはいえ、このまま怯えられていると埒があかない。自然に出来る自信がないが、やるしかないか。

 

「安心しろ。これからお前達が行くのはお前達と同じ力を持っている者達のところ。そしてそこは少なくともこんな掃き溜めに比べれば天国のようなところだ。何、俺が保証する」

 

屈んでから目線を合わせ、出来うる限りの笑顔で答える。

 

さっきの聖剣の反応でここに誰か来ないとも限らない。本当は一時的にでも心を通わせて、といきたいが、そうも言っていられない。

 

ゲオルグの簡易魔法陣を使って、子ども達を拠点に飛ばす。後は曹操達に任せよう。俺よりもあいつらの方が子どもの扱いには長けているしな。

 

後は……よし。

 

帰る前に徹底的に壊し尽くすか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、徹底的に破壊し尽くして出てくれば、あら不思議。

 

そこは冥界でしたと。

 

灯台下暗しというか、なんというか。

 

悪魔だから冥界にいてもおかしくないが、逆に堂々とし過ぎじゃないですかね。

 

冥界の端に追いやられたとかいう話だったが、まさかそこをそのまま拠点にしているとは。

 

まぁ、強そうなのがシャルバしかいなかった辺り、本当の拠点はここじゃない可能性も否めないが、ともかく旧魔王派の中心人物の一人を葬ったので良しとしよう。確かあいつ余計な事しかしてなかった気がするし。

 

むぅ、しかしどうするか。

 

簡易魔法陣は一つしかなかったから、ここから帰れないんだよね。ちゃんと確認しておくんだった。

 

この辺りで一つ、キャスターの真似事でもしてみるか。なんだかんだ言って、まだやったこと無かったし。

 

でも、ミスると洒落にならないしなぁ。もし次元の狭間なんかに飛ばされたら終わるし。そもそも転移できたっけ?

 

あ。そういえば。

 

携帯を取り出して、アザゼルに電話をかける。あいつ、冥界に行こうとかなんとか言ってたから、ひょっとしたら冥界にいるかもしれない。

 

『もしもし。さっきの今でどうしたんだ?行く気になったのか?』

 

「行く気も何も、今現在冥界にいる」

 

『そうか……………はあっ!?今冥界にいるだと!?』

 

アザゼルが電話口の向こうで驚きの声をあげていた。うるさい。

 

「喚くな。俺とて、好きこのんで冥界に来たわけではない。連れてこられたのだ」

 

『誰に?』

 

「『禍の団』のボスの一人だ。人質を取られてな。お前達を殺してこいと命令された」

 

『で、どうしたんだ……って、聞くのは野暮だな。馬鹿な野郎だぜ。お前を御し切ろうなんて神にだって出来やしないのにな』

 

そこまで言うか。俺だって、助けられそうに無かったら一時的にでも言うこと聞く気ではあったんだけど。調子に乗ってくれていたお蔭で助けられたわけだし。

 

「さっきの話に戻るがな。アザゼル。お前今冥界にいるか?」

 

『まだついてねえな。後一時間はかかるから、迎えには行けねえよ』

 

マジですか。じゃあ、俺帰れねえじゃん。

 

『オーディンのジジイに会うってんなら、サーゼクスに迎えを頼むが、どうする?』

 

どうするって……答え一つしかないじゃん。

 

そもそも俺連れてこられたと言っても不法侵入だよ?土足で人の領地に足を踏み入れてる身だよ?ついでに言うと、方向音痴だから、どっちに行けばいいとかもわからないよ?

 

「……いいだろう」

 

『OK。じゃあ、サーゼクスに連絡しておくぜ。ちょいと時間がかかるだろうが、腹立ててやるなよ』

 

サーゼクス・ルシファーか。魔王をお迎えに寄越すのはどうなのだろう。

 

それにちょいと時間がかかるって、どれぐらいだ?アザゼルの『ちょいと』とやらの基準がかなり大雑把そうだから、ひょっとしたらかなり待たされ……なかったみたい。

 

俺から少し離れた場所に魔法陣が展開され、そこからサーゼクスが現れた。

 

「……一人か?」

 

「ああ。君一人を迎えに来るのに、大勢は無粋だろう。私だけでいい」

 

大勢とか超プレッシャー。でも、サーゼクスの眷属は見てみたかったな。ほら、沖田さんいるし。こっちの沖田さんは男だし、歴史の人ではないけど、偉人じゃん?是非ともお会いしたかった。

 

しかし、一人とはいえ、魔王が直々に来ることもなかったろうに。

 

「適当な使いを寄越せばいいものを」

 

「礼を失するわけにはいかない。私は悪魔の王。君は人の王だ。まして、こちらからも色々と頼んでいる身だ。私が迎えに来るのが妥当だと思うよ」

 

いえ、頼んでるのはこっちなんです。わざわざありがとうございます。

 

「ところで、ギルガメッシュ。一つ聞きたいのだが」

 

「む?」

 

「ここは旧魔王の血族、シャルバ・ベルゼブブの領地……のはずなのだが」

 

「ああ、俺がやった」

 

とても言い辛そうにしているサーゼクスに、素直に自白した。

 

まぁ、見ればわかるもんね。辺境の地とはいえ、これ見よがしに建っていた城を破壊し尽くしたんだから。

 

更地とは言わないまでも、瓦礫の山と化している。他の悪魔?俺を見た瞬間、全員逃げました。お蔭で破壊活動が捗るのなんの。

 

「……成る程。アザゼルの言っていたこととこれを見ておおよそ察しがついた。本当に、君には借りを作ってばかりだな」

 

「気にするな。此度は事故のようなものだ」

 

「ふっ、それはどちらのかね?」

 

もちろん、俺に決まってる。だって、結果的に冥界に来てしまったんだから。

 

「さて、立ち話もなんだ。話の続きは私の城でどうかな?」

 

「ああ」

 

魔王城か……現魔王はあまり悪魔っぽい趣味じゃないといいな。後、かっこよかったら、参考にさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

ギルガメッシュとサーゼクスが魔王城に着いて、程なくしてアザゼルも合流し、さらに北欧の主神ーーオーディンとその付き人ロスヴァイセも到着し、結果的にはすぐに話が出来る状態になっていた。

 

とはいっても、サーゼクスやアザゼルから話すことはあまりなく、専らオーディンとギルガメッシュの話し合いであるが。

 

「若造どもは老体の出迎えも出来んのかと思っとったが……なんじゃ?サプライズの準備でもしとったのか?」

 

ギルガメッシュは来ない、と聞かされていたオーディンにしてみれば、ギルガメッシュの来訪は想定外であり、嬉しい誤算であった。

 

「久しぶりじゃねえか、北田舎のクソジジイ」

 

「久しいの、悪ガキ堕天使。長年敵対していた者と仲睦まじいようじゃが……小賢しいことでも考えているのかの?」

 

「はっ!しきたりやら何やらで古臭い縛りを重んじる田舎神族と違って、俺ら若輩者は思考が柔軟でね。敵対意識よりも己らの発展向上だ」

 

「弱者どもらしい負け犬の精神じゃて。所詮は親となる神と魔王を失った小童の集まり」

 

「そこまでだ。何故、お前達はいきなり罵り合う?聞かされているこちらの身にもなれ」

 

呆れた様子で言うギルガメッシュ。そこで一旦話が途切れたからか、オーディンの意識はギルガメッシュへと向けられる。

 

「聞いておるぞ。お主もまた、小童どもと同盟を結んだそうじゃの。あれ程傲岸不遜だったお主も、丸くなったものよのう」

 

挑発にも似た物言いに、ギルガメッシュの真紅の双眸がスッと細められ、オーディンに向けられる。

 

これはマズい、と咄嗟に話題の転換を図ろうとしたサーゼクスだが、それよりも先にギルガメッシュが口を開いた。

 

「それは俺の先祖の話だろう。例え、英雄王ギルガメッシュが半神だとしても、紀元前から今の時代を生きられるほどの寿命を持ち合わせてはいない。というか、そこまでして生きる意味はとうの昔に失せている。俺はあくまでギルガメッシュの子孫のようなものだ。性格が違うのは当然であろう」

 

「どうだかの。お主には直接的な関わり合いがないとはいえ、ウルクの神には知己がおった。そのウルク神から、ギルガメッシュが子を設けたとは聞かされておらんが?」

 

オーディンの問いに、ギルガメッシュは間を置いた。

 

サーゼクスやアザゼルも見守る中、視線を虚空に向け、数秒の間、静寂を保ってから、深く溜息を吐いた。

 

「はぁ………当たり前だ。暴君であったとはいえ、後に賢王としてウルクを繁栄させた俺の先祖が、子を設けるのに神の眼を逃れるのは至極当然。寧ろ、それがご先祖の狙いだ」

 

ギルガメッシュの答えに、今度はオーディンが言葉を詰まらせた。

 

直接的にギルガメッシュを目にしたわけではない以上、やはり人伝ならぬ神伝で知ったギルガメッシュしか、オーディンは知らない。そんなことをしないとは言い切れないし、かといってその通りだとも言える程当時のギルガメッシュをオーディンは知らない。結局のところ、他の神話を生きる神であるが故に。

 

「なんだ、聞きたいことはそれだけか?」

 

まるで拍子抜けだと言わんばかりの様子でギルガメッシュは言うが、サーゼクスやアザゼルも同じ気持ちだった。

 

わざわざ会ってまで話すにしては重要性がない。電話で事足りるレベルのものだ。

 

そして、もちろんオーディンも、先の問いが本題ではないらしく、先程までの様子から一転し、ふうと肩の力を抜いた。

 

「まぁ、なんじゃ。お主が本人であろうとなかろうと『英雄王ギルガメッシュが存在する』というのは、神々にとっては危険視して当然のことじゃて。人類史において、あれ程までに全ての神話体系の神々を恐れさせたのはお主ぐらいじゃわい」

 

「ジジイにそこまで言わせるってことは、やっぱりギルガメッシュはヤバいのか?」

 

「ヤバいなどというもんじゃないわい。この男が()()を有しているなら、お主達どころか、儂も殺される」

 

「なんと……っ。それでは、彼は……ギルガメッシュは神にさえ匹敵する力を有していると?」

 

「あくまで聞いた話じゃがの」

 

そう言って向けられた視線に、ギルガメッシュは笑みを持って返す。

 

流石にそれ程までの実力を有していると思っていなかった二人は、静かに胸を撫で下ろしていた。仮に敵対するようなことがあれば、一人で三大勢力を全滅させられるかもしれないからだ。

 

「とはいえ、今のお主に敵対の意思はなさそうじゃ。どこぞの悪ガキ曰く、北田舎のクソジジイじゃが、今後はよろしく頼むぞい」

 

「構わん」

 

どちらでも良いというギルガメッシュの態度に、オーディンも完全に気を抜かれた。

 

ギルガメッシュが神嫌いなのは、有名な話だ。そのギルガメッシュに会いに行くのだから、多少なり覚悟はしていたにも関わらず、それを見透かしたかのような態度に一杯食わされた気分だった。

 

「(全く年寄りをからかうとは、悪趣味な小僧じゃて)時にギルガメッシュ。お主、歳はいくつじゃ?」

 

「正確な年齢は覚えておらん。おそらく二十前後だと思うが?」

 

「若いのう。見たところ、嫁もおらんようじゃし。どうかの?こやつを貰ってくれぬか?」

 

「へ?」

 

いきなり指名されたロスヴァイセは間の抜けた声を上げた。オーディンはいつも威厳の欠片もなく、行動の読めない主であるものの、今回のこれは想定外も想定外だった。

 

「お、オーディン様!?一体何をーー」

 

「絶賛彼氏募集中らしいわい。戦乙女(ヴァルキリー)としての能力は申し分ない上、器量もよいぞ。ちと堅すぎるのが難点じゃがの」

 

「勝手に話を進めないでください!私の意思はどうなるんですか!?」

 

「なんじゃ?不満でもあるのか?」

 

「それはもちろんあ……り?あれ?」

 

勢いに任せて言いかけたものの、ふとロスヴァイセは考える。

 

ギルガメッシュは人を束ねる王だ。一つの勢力を率いている以上、財力は圧倒的だ。カリスマ性もある。

 

神さえも殺す実力を有し、かといって人としての美を損ねていない。寧ろ、完成された美だ。

 

見た目よし、実力よし、財力よし、性格不明と来れば、一蹴どころか、かなり美味しい提案なのではと考え始めていた。

 

ーーもちろん、ギルガメッシュは。

 

「断る。俺にまだ嫁はいらん」

 

「だそうじゃ。残念じゃったな、ロスヴァイセ」

 

「振られた!?私まだ何も言ってないのにぃぃぃ!」

 

考えている最中にバッサリ切り捨てられたロスヴァイセは、思わず泣き出す。『彼氏居ない歴=年齢』の彼女に『告白せずに振られた女』という不名誉な経歴が追加された瞬間だった。

 

「さて、用は済んだであろう?俺はそろそろ帰らせてもらいたいのだが」

 

「なんだ、もう帰るのかよ。こっちは話したいことが山ほどあるっていうのによ」

 

「知らん。話があるのなら、俺抜きでするのだな」

 

ギルガメッシュはサーゼクスに声をかけると、そのままVIPルームを出ていく。

 

それを見届けたオーディンは、ふと視線をアザゼルに向けた。

 

「アザ坊。儂から一つ忠告がある」

 

「忠告?なんだ、スケベも程々にってか?あんたには言われたくないぜ」

 

「茶化すでない。真面目な話じゃ」

 

「へぇ……ジジイにしてはいつになく真剣じゃねえか。なんだよ?」

 

アザゼルの問いに、オーディンは瞑目した後、答えた。

 

「ギルガメッシュを推し量れるとは思わぬことじゃ。ひょっとすれば、あやつは『禍の団(カオス・ブリゲード)』なんぞとは比較にならん事をしでかすやもしれん」

 

 

 

 

 

 

 


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