英雄達の王   作:げこくじょー

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約束されていないプライベート

「ふん。これでわかったか。俺は通りすがりの一般人だ」

 

「…………いや、仲間ではないかもしれないが、一般人ではないと思うが」

 

「む……それもそうか」

 

何はともあれ、仲間ではないと伝わったようだ。完全に別方向で厄介な事になりそうだから、さっさと帰らせてもらおう。

 

「ではな。後始末は━━━」

 

任せた。

 

そう言いかけて、俺の頬を何かがかすめていき、遙か後方で爆発を巻き起こした。

 

……へ?

 

「はぁ……はぁ……この、俺が……この程度で、死ぬと……思ったか、人間……っ!」

 

土煙の中から現れたのは、全身血まみれのコカビエル。

 

翼はもげ、服はボロボロ。虫の息に見えるが、生きていた。そしてさっきの頬をかすめたものは、どうやらコカビエルの攻撃だったらしい。

 

危ねぇぇぇぇぇぇ!

 

下手すりゃ頭消し飛んでたんですけど!慢心ダメ絶対なのは理解してますけど、アレは違くない?普通死んだと思うじゃん!「やったか?」とか言ってないんだからさ!フラグも立ってないはずでしょ!?

 

「存外にしぶといな」

 

まさか『王の財宝』の直撃食らって、瀕死とか……これからはちゃんと相手に合わせて武器を使おう。俺は本家ギルガメッシュのような『眼』も『知恵』も持ってないので、なけなしの原作知識を活用して、弱点を突いていくしかないわけだけども。

 

「伊達に……先の大戦を戦い抜いたわけではない!」

 

うおっ!?超接近してきた!?

 

『王の財宝』弱点のひとつ。接近されたら本人が闘うしかないことがバレてしまう。

 

その前に迎撃だ!

 

「射殺せ!」

 

一気に三十ほど展開!弱点とかわからないから有名な聖剣と魔剣の原点のオンパレードだ。

 

ふははは、伊達に金に飽かせた最強武装の名を誇ってはいない!

 

一斉掃射……しようとしたら、ついてきていたゼノヴィアが、先にコカビエルを迎え撃った。

 

「ふんっ。邪魔だ、聖剣使いの娘!」

 

「ぐあっ!」

 

しかし、ボロボロになっても実力差は歴然のようで、いとも簡単に吹き飛ばされてしまう。まぁ、俺も近づかれたら、アレより酷い事になるんですけどね?要は近づかれなきゃいいんですよ!

 

「全く……力の差を理解した上で挑んでくるとは、信徒の本懐。『自己犠牲』というやつか?仕えるべき主を無くしてまで、よくもそんなくだらない真似が出来るな」

 

「何……?」

 

「おっと、こいつは機密事項だったか。……まあいい。今更守る意味もない。先の大戦で、魔王だけではなく、神も死んだんだよ」

 

何……だと……っ!?

 

コカビエルのとんでもないカミングアウトに一同が驚愕する。俺はというと、それに乗っかって知ってるのに便乗してみる。但し、言葉に出すとわざとらしいので無言で。

 

「だからこそ、そこのグレモリー眷属のような『聖魔剣使い』が生まれるわけだが……」

 

コカビエルの視線がこちらに……というより、俺の背後で展開されている宝具に向けられる。

 

「お前の『それ』はなんだ?神器について、俺は詳しくない。だが、お前の『それ』はどう考えても、神滅具(ロンギヌス)クラス。そのレベルなら、俺でも聞いたことぐらいはあるはずだ」

 

「そうか?大したものではないと思うが?」

 

だって、ただのデカイ倉庫ですからねー。ギルガメッシュでないと意味ないアンド扱いきれないものだし。俺が扱えているのは、この世界においては俺が収集したものに留まっているから。本家ギルガメッシュみたいに知らんうちにどんどん増えていくスタイルなら、先に脳みそがやられる。

 

「……まあいい。どんな神器かはさして興味もない。わからないならば、それでいい。俺は戦えれば、それでいいからな!」

 

ふははは、と高笑いを上げるコカビエル。ボロボロなのに元気な奴だなぁ。息絶え絶えだったの、最初の方だけだし。

 

━━━ところで。

 

「話は済んだか」

 

「何?」

 

「くだらん話は飽きた。さっさと終わらせるぞ」

 

だって、眠いんだもの。時間は深夜。良い子は寝る時間なんだよ?

 

「さっさと終わらせるだと?大きく出たな。貴様の神器。先程は不意をつかれたが、今度は上手くいく……と……」

 

俺が右手を上げると、コカビエルを取り囲むように宝具が矛をのぞかせる。数にして百を超えていると思う。

 

まぁ、アレだけ時間があって、かつそこから動かなかったら狙い撃ってくださいって言ってるようなものだし。距離があれば、バビロンの火力でもって殲滅できる。幸い、ゼノヴィアはコカビエルに吹き飛ばされて離れていたわけだし、グレモリー一同も距離があった。巻き込まずに済む。

 

「ではな。堕天使の幹部」

 

手を振り下ろすと、今度こそ逃げ場のない全方位からの攻撃にコカビエルは肉片一つ残さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『堕天使の幹部を倒されたのですか!?』

 

翌日。

 

惰眠を貪っていたら、朝早くに英雄派の幹部の一人。ゲオルクから連絡がきた。

 

それで昨日の一部始終を伝えると、連絡用の魔法陣越しで驚きの声を上げた。うるさい。寝起きだから耳がキーンってなった。

 

「うるさいぞ、ゲオルク。何も驚くようなことではあるまい」

 

『確かに英雄王にとっては何のことはないのかもしれませんが、我らにとっては大きな進歩!堕天使陣営の戦力を削いだのですから!』

 

……いや、そこまでコカビエルは戦力になってなかったような……多分、出てきた時間軸の問題だと思うが、原作じゃあ、ヴァーリの引き立て役だったからなぁ。本当に強いのかどうか、微妙なところなんだよなぁ。

 

『これは英雄王が帰還次第祝杯の準備をしなければ……』

 

「必要ない。それに帰るのは少し後になるやもしれん」

 

『何か問題が?』

 

「ああ。少しばかりな」

 

『では、すぐに我々も』

 

「いらぬ。俺一人で十分だ」

 

そう。俺一人で十分……というか、俺一人でないと意味がない。

 

何故なら……久々のぐだぐだタイムだからだ!

 

いやぁ、やはり日本は素晴らしい!一人で来るのは久々だが、今回は滞在期間を一週間ぐらいにして、だらだら過ごすって決めたんだ。寝る前に。

 

拠点に帰ると、いつ誰が部屋に入ってくるかわからないから、気を張っておかなきゃいけないし、構成員には当然ながら女性もいる。部屋は綺麗にしておかないといけないし、シャツとパンツで過ごすなんて以ての外。一人になれる時間も少ないから、心休まる時間がないのだ。

 

今日はホテルに泊まっているが、こっそり家でも買って、俺専用の別荘を作ろう。人目を気にせず、ゆっくりと趣味を全力で楽しむことができる。

 

「ではな。俺は寝る。用があれば、しばし待て。起きてから聞いてやる」

 

連絡用魔法陣をバビロンの中にしまい、二度寝を━━━。

 

コンコン。

 

……出来なかった。

 

誰だ、こんなに朝早くから。人が寝ているかもしれないこんな朝早くに!

 

しかし、無視出来ないのが人の性というもので、さっさと終わらせて寝ることにした。ドアを連打されたらイライラして余計に眠れないし。大きい音より小さい音の方が気になるタイプなんだよな、俺。

 

「……なんだ。こんな朝早くに」

 

「よう。お前さんがうちのコカビエルを倒した人間か?」

 

……おい。なんでこいつがここにいる。

 

「人違いだ。コカビエルなど知らん」

 

「嘘つけ。うちのやつが見たんだよ。金髪に赤い瞳の男なんて、日本じゃ早々いねえよ。まして、そんなオーラを纏ってる人間なんざ余計にな」

 

ドアを閉めようとしたら、足を挟まれて阻まれた。

 

ぐっ……折角人が久々の休暇をエンジョイしようとしている時に……!何故こうも邪魔ばかりはいるのか!

 

「寝てるのを邪魔したのは悪かったな。詫びといっちゃなんだが、飯奢るぜ?この辺で良いところを知ってるからよ」

 

断る……といいかけて、先に腹の虫がなった。

 

そういえば、バビロン使った後に何も食べてなかったな。アレ使うとエネルギー消費が増えるから、腹がとても減る。

 

「……行こう」

 

仕方ない。寝るのは飯食ってからにしよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで?ここの何処が良いところなんだ?」

 

「良いだろ?良い飯、良い酒、良い女。この三つを揃えてこそだろ?」

 

連れてこられたのは派手な衣装を身につけた女性達。

 

右も左も女、女、女。全員綺麗でスタイル抜群ときた。こいつの趣味か。派手なのはともかく、衣装がやたらと際どいのはどうにかならないものか。目のやり場に困る。

 

「ん?どうした?落ち着かねえか?」

 

「ああ。こうもいるとな」

 

別に苦手意識があるわけじゃないが、ここまでいるとこいつのような女好きでない限り、居心地も悪くなるというものだ。

 

「そう構えんなって。別に何もしやしねえよ。何せ、ここはVIPルームなんだからな」

 

「何処だろうと一緒だ」

 

……まぁ、確かに飯は美味いけど。

 

「ま、お互い気楽にやろうぜ。……っと、そういや自己紹介がまだだったな。俺は━━━」

 

「アザゼル。堕天使の総督だろう」

 

「……知ってたか。有名人だし、仕方ねえか」

 

一組織の長ともなれば、知ってて当然。それがなくても原作知識があるから余裕で覚えてるんだけど。主要人物の一人でもあるし。

 

と、アザゼルが目配せをすると、女性達が部屋から出て行く。目配せだけでやり取りをするとは、余程の常連か。スケベ親父め。伊達にエロで堕天したわけじゃないな。

 

「昨日はコカビエルが世話になったな。本当なら、うちのやつがケリをつける予定だったんだが……」

 

「それは悪い事をしたな。俺も、本当は首をつっこむ必要はなかったのだが、そうせざるを得なくなってな」

 

危うく堕天使陣営の人間と思われるところだった。もし、それが曹操達に知れたら大変なことになる……言い出した人間が。

 

「それについては謝罪せざるを得ない。悪かった。それで今回の一件、俺達に不手際があった以上、三勢力が集まって会合を開くつもりだ」

 

「そうか」

 

俺が首を突っ込んだとはいえ、どうやら物語に違いはないらしい。良かった。

 

「で、ものは相談だが、三勢力の会合。お前さんにも参加してもらいたい」

 

「何故だ?」

 

思わず、ノータイムで聞き返していた。だって、俺関係なくないですか。どの勢力にも属してないし。偶々その場に居合わせてコカビエルを倒し……あ。

 

「コカビエルを倒した張本人がいないと、話がうまく進まないと思ってな。お前さんに参加してもらいたいわけだ」

 

ええ……それって、魔王、天使長、堕天使総督とかいうボスの会合に参加しろと?テロリストが乱入してくるのを知りながら、それに参加しろというわけですか?

 

いや、確かにあわよくば三大勢力の和平交渉の席に参加したいとは言ったけども。でも、そこって戦場になるの確定じゃん?つまり俺も襲われるわけじゃん?それはなんか違う気がする。

 

嫌だなぁ……自分から戦場に凸るスタイルは。いや、昨日は似たような事したけどさ。それとは規模が違うし。

 

「つっても、そんな第三者からしてみれば面倒なだけの会合。普通は嫌だろうな。俺は少なくとも、お前さんの立場なら絶対に参加しない」

 

ですよね。凄くダルそうにしてるのが目に浮かぶよ。

 

「だから、ここは一つ。お前さんの願いを聞いてやる。何せ、今回の一件で三勢力全てに貸しを作る形になったわけだからな。余程のことでなけりゃ、俺もあいつらも叶えてやると思うぜ?」

 

なんと、お願いを一つ聞いてくれるとな?しかも三勢力分?

 

これは大変良い条件だ。邪魔が入るとはいえ、参加する意味はある。

 

お願いは何にしようかな……。

 

「どうだ?悪い話じゃないと思うんだが?」

 

「わかった。では、日程が決まり次第、連絡してこい」

 

そう言って、俺は電話番号を書いた紙を投げた。

 

え?なんで普通に携帯を持ってるかって?それはもちろん便利だから。

 

ゲオルクは魔法使いとして、科学に頼るのは極力避けたいらしい。もちろん、拠点が拠点だし、構成員も現代機器を使う方が生活しやすいということもあって、全く使わないわけではないが。

 

「なんだ、もう行くのか?」

 

「用は済んだ。であれば、こんな所にいる意味はないだろうよ」

 

だって、飯食ってくつろげるような場所じゃないもん。アザゼルはともかく。

 

「そうかい。じゃあ、また後日な」

 

アザゼルに別れを告げ、俺はその場を後にした。

 

今度こそ、邪魔が入らず二度寝出来ますようにと祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「用がねえなら、いる意味はない、か。言ってくれるぜ」

 

ギルガメッシュが立ち去った後、アザゼルは氷が溶け、随分と薄くなってしまったジントニックを口にする。

 

結局、つい先程まで、アザゼルは酒を持ってこさせたにもかかわらず、一度も口をつけていなかった。

 

その最たる理由が━━━警戒。

 

人づてに聞いたが、コカビエルは一瞬でほとんどなす術なく倒されたと聞いていた。

 

決してコカビエルが弱いわけではない。仮にも堕天使の幹部。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の一人であるコカビエルは実力者の一人だ。先の大戦においても先陣を切って戦っていたが、生き残っているのがその証拠だ。

 

だからこそ、アザゼルは単独で戦争を引き起こそうとしたコカビエルに対し、部下である白龍皇━━━ヴァーリをあてがい、自分達の後始末をつけるつもりだったが、結果はギルガメッシュによる抹殺という形で終えた。それも一方的なもので。

 

コカビエルに対して有無を言わせず、瞬殺する程の実力の持ち主。戦闘狂のヴァーリは喜んでいたが、アザゼルはここに来て突如現れた実力者に強い警戒心を抱いていた。

 

無論、それはあちらも同じだ。誘いをかけた時に難色を示していたし、店にいるのが全て堕天使の女と周囲を一瞥するだけで気づいていた。それでも、それ以降はさして歯牙にもかけていなかったのは、実力の高さの証明でもある。

 

故に、アザゼルはいつでも戦えるようにしていたが、意外にも話はうまく進み、結果として今後行うであろう会合に出席させる約定を取り付けた。心底嫌そうな顔をされたが、そこはなんとか交換条件でもって、乗り越えることができた。一先ず、第一関門はクリア、と言った具合だ。

 

(問題はどこまであっちが気づいてるかだが……あの様子だと、全部知ってる上で仕方なく受けたって感じだったな)

 

どの勢力にも属していない以上、三勢力の会合に参加するということは、多方面に顔が知れてしまうということ。そして、選択次第では、狙われるかもしれないということをわかった上で出席すると言った。恐れを知らないというべきか。露骨にプレッシャーにも似たオーラを放ち続けるギルガメッシュを見て、アザゼルはそう思っていた。

 

「ま、どっちにしろ、後はなるようになるか。一先ず、会議でも開くか」

 

グラスの中を一気に飲み干した後、アザゼルもまたその店を後にした。

 

これから起こる波乱の予兆を感じながら。


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