英雄達の王   作:げこくじょー

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気づけばトップに君臨していた

『転生』というものに、少なからず憧れを抱いていた。

 

普通の輪廻転生ではなく、創作物などである記憶を保持したまま、生まれ変わるアレだ。

 

それだけでも強くてニューゲームもいいところだが、これに『特典』なるものを得れば、鬼に金棒。二次創作物で転生といえば、大部分を占める要素の一つで、ありえない事だとわかっていても、憧れを抱いて然るべきだった。

 

だが、それは憧れだけで終わらなかった。

 

普通に眠り、目を覚ました時にテンプレとも言える『見知らぬ場所』にいて、そこで神様と出会い、死んだと教えられた。曰く、病死らしいが、奇跡的に苦しまなかったため、気づいた時には手遅れだったそうだ。

 

それで、若くして死ぬのは不憫という事で、転生させてあげましょうと。

 

そうですか、と努めて冷静に返したものの、内心狂喜乱舞。生きてるうちを含めて、その瞬間が一番嬉しかった。

 

……そう。その時点までは。

 

転生しますか、という問いにイエスと返した瞬間、足元に穴が空いた。

 

最後に聞いたのは、『世界と特典はこっちで決めるから』の一言。そりゃ、無茶苦茶な能力を指定するとマズイのはわかるけど、世界ぐらいは選ばせてくれと突っ込む間もなく、次に目を覚ました時は見知らぬ街にいた。

 

まぁ、この手の創作物ではよくあること。と割り切ってみたら、次の瞬間、頭の中に大量の情報(ナニカ)が入ってきて、ひっくり返った。処理能力を余裕で超える情報量に脳みそがオーバーヒートを起こしたに違いないと、運ばれた病院で気がついた。

 

そしてその情報というのは、特典のもの。

 

一瞬で情報多さでひっくり返るほどのもの。何かと考えたらなんと『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』だった。

 

その能力は一言で表すと『めちゃでかい倉庫』。

 

これのどこが強いのかと、知らないやつは思うが、これがまた持ち主次第で凄いことになる。

 

これの所有者が人類最古の王。英雄王ギルガメッシュで、世界にある財宝を全て手にしたために、その倉庫の中にはありとあらゆる財宝があり、武器から宝石まで超一級の代物が存在する。最終的には時間軸も無視して全ての原点があるという『ただのデカイ倉庫【哲学】』になるぐらいだ。そして持っていないものでも、一度宝物庫に入れれば、記憶したことになり、いつでもとり出せる。所有者次第ではものすごい特典なのだ。

 

もちろん俺なんかに渡しても、意味はないわけだが、そこは神様の計らいというやつで、中身はギルガメッシュ仕様で、その内容を脳みそに無理矢理叩き込んだわけだ。お蔭でキャパオーバーで街中で卒倒した挙句、二度目の昇天を果たしそうになったのは、この際目を瞑ってあげよう。だってアレ、認識してないと取り出せないらしいから。

 

兎にも角にも、世界次第ではチートもいいところの俺は、住所不定かつ身元保証人がいないということもあり、夜に駄賃代わりの宝石だけ枕元に置いて、こっそり脱走。一先ずその街から離れた。ここまでが転生初日。より正確に言うなら、転生してから三日の話。三日間、意識を失ってたらしいので。

 

特にこれといったアテもなく、どこに居を構えるかと考えながら歩いていた時━━━奴は現れた。

 

「━━━その並々ならぬ気配。只者ではないと見た」

 

どこかで見たことのある学生服っぽいものを着たそいつは、立ち塞がるように俺の前に立っていた。

 

なんか変なのが出てきた。

 

そう思って、スルーしようとしたら、腕を掴まれ一言。

 

「俺と一緒に、人間の限界に挑んでみないか?」

 

「いえ、結構です」

 

即座に断った。

 

断ったはずなのに、そいつ━━━もとい曹操は諦めなかった。ていうか、曹操かよ、お前。

 

ここでわかってしまったのが、この世界のこと。どうやらこの世界は『ハイスクールD×D』で、そのキャラの一人。『禍の団(カオス・ブリゲード)』にある派閥の一つ、英雄派の頭に目をつけられたようだった。尤も、現時点では曹操一人で、その派閥も存在しないわけだが。

 

しつこく粘られ、基本的に強く拒絶できない俺は一先ず行動を共にし、なあなあで過ごしてきた。

 

人間の限界に挑む、とか訳のわからない事はともかく、英雄派を作る気なのか、古今東西様々なところに出向き、『神器(セイクリッド・ギア)』と呼ばれる特殊な力を宿し、世間から迫害されてきた人を仲間に迎え入れた。

 

理由はともかく、一応は人助け。その辺りについては協力していた。後のことを考えると手伝わないのが正解なのだろうが、彼ら神器所有者にとっては救済に等しい行為なので、目をつむってあげた。

 

テロリズムに走ることなく、そうやって神器所有者の救済に奔走すること四年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ギルガメッシュ……どうした?酷い顔をしているようだが」

 

……何故か、英雄派のトップに召し上げられていた。

 

あるぇ〜?おかしいでござるよ?

 

曹操がテロリズムに走らないように牽制しつつ、神器所有者の救済のみに尽力していたら、いつの間にか、英雄派のトップになっていた。

 

何が起こったのか、さっぱりわからないです……。

 

俺の財産のごく一部をぶっこんで作り上げた拠点には、千を超える神器所有者が集い、日々研鑽を積んで神器の能力を高めている。ほんの一握りだが、禁手(バランス・ブレイカー)に至るものも。まぁ、一つのパワーアップだ。

 

そんな彼らの目的は人間の限界に挑戦するために、人外に喧嘩を売る━━━。

 

「まぁ、こと君に限って体調不良はないだろう。数年共にいるが見たこともない。今日も『人間世界の平穏』目指して、頑張ろうじゃないか」

 

━━━ではなく、『人間世界の平穏』が目標であったりする。

 

曹操が野望を話すたびに説き伏せること百数回。

 

その結果、曹操の野望である『人外と闘って人間の限界に挑戦』が『人外の手から人間を救う』に方向転換された。なんでこうなったのか、話した内容を特に覚えていない俺からしてみれば、首を傾げるところだが、良い傾向なので指摘はしていない。

 

問題なのは、結果として『禍の団』には所属していないものの、英雄派なる組織は立ち上げられていることだ。

 

因みに創設者も俺にされているし、特に名前の決まっていなかった俺はその場のノリで『ギルガメッシュ』と名乗ったことから、一部の人間を除いて、『英雄王』と呼ばれる始末。最初は恥ずかしさのあまりその場でのたうち回りそうだった。よくもまあ、曹操達は自分の偉大な先祖の名前を呼ばせていたもんだ。地味に中二病なのだろうか。

 

いや、一種のボランティア団体じみているのはいいよ?人のためになっているわけだし。

 

ただ、その為に『悪魔や堕天使などの人外は滅ぼすべき』っていうのはどうにかならないものか。

 

確かに彼らが人間を不当に扱っているのに不満があるのはわかる。とはいえ、地力で彼らに勝てるものはごくわずか。総戦力ですら、何千分の一なのに、勝てるわけはない。そもそも俺、人外と闘ったことないし。他の面子はあるんだけど。

 

だから、俺としては『滅ぼす』のではなく、一定以上の評価を得て、うかつに手を出せないようにすることだ。出来れば、三大勢力の和平交渉の席に立ち会って、神器所有者を勝手に危険と判断して殺したり、問答無用で自陣営に引き入れるのをやめさせる約束をしたいところだ。

 

「曹操。先日言っていた神器所有者の所在は?」

 

「ああ。大まかな位置は絞り込めた。日本の『駒王』と呼ばれる町だ」

 

「……何?」

 

え?駒王?そこってアレじゃね?主人公がいるところじゃね?

 

「君が訝しむのもわかる。あそこはグレモリーの領地だ。既に手に落ちている可能性もあるが……もしまだなら行かないわけにもいかないだろう」

 

まぁ……確かに。それにまだ主人公だと決まったわけじゃない。同じ町に偶々見つかっていない神器所有者がいただけかもしれない。

 

「名前は木崎太一。駒王学園の一年生。神器自体はまだ発現はしていないようだ」

 

そう言って、写真を見せてくる曹操。

 

ほっ。兵藤一誠って言われたらどうしようかと思った。

 

しかし、駒王か……入るなら慎重にかつ迅速に事を済ませるべきだな。

 

「……俺が行こう」

 

「っ……君が直々にか?それ程の神器だと?」

 

曹操が息を飲んだ。いや、違うよ?君達人外が現れると『人外絶対殺すマン』に早変わりするから。もしそれで原作キャラ殺してみ?世界観崩壊の挙句、魔王に狙われる羽目になる。俺はあくまで神器所有者を迎えにいくだけなのだ。

 

……とはいえ、ここで理由を話しても、なんだか面倒なことになるので━━━。

 

「知らん。だが、一波乱起こりそうな気がする」

 

━━━それっぽい事を言って誤魔化す道を選んだ。

 

もしこれで神器が大したことなくても問題ないし、『気がする』といったので起こらなくてもOK。いや、起こらないでください。お願いします。

 

「なら、尚更俺達が向かうべきだ。頭である君を向かわせるわけには」

 

「しつこいぞ、曹操。俺が直々に向かうといった。二言はない」

 

譲れない。

 

俺を含めた人間達の為にも、曹操達を向かわせて、うっかり原作キャラを殺してしまわないようにするには、俺一人が向かうに限る。全く関係のないモブっぽいのなら、最悪な事態として殺してしまっても問題ないが、グレモリーはマズい。原作の主要キャラの巣窟だ。一人欠けるだけでもストーリーが大きく変わる。よって、危なっかしい連中は送り込めないのだ。

 

「…………わかった。必要はないかもしれないが、もしもの時は俺達を呼んでくれ。王である君だけは失うわけにいかない」

 

「ああ」

 

必要のある事態に持っていくほど、俺は好戦的ではない。うちの連中は揃いも揃って話し合いとか向いてないからなぁ。血気盛んとかいうレベルじゃない。人間相手には穏便なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、やってきました駒王町。

 

原作での騒動の中心。いわば特異点なるもの。……いや、特異点ではないな。争いを呼ぶのは主人公の神器の影響らしいし。

 

何はともあれ。さっさと用を済ませなければならないのだが。

 

ここで言い訳しておきたいことがある。

 

俺は駒王町と聞いても、明確に何処かは知らない。携帯アプリのナビを使えば一発だが、それだとしても、どの辺りかぐらいまでしかわからないので、結果として知っているところを目印とし、そこから探していくしかない。

 

そして相手が駒王の学生となると、探すのに一番手っ取り早いのが━━━。

 

「━━━学園を張る事だったんだが……」

 

張るっていうか、なんか張ってない?こう、バリアみたいなものが。

 

いや、確か迷いまくった結果夜遅くはなったよ?というか、深夜だけども。

 

何、ここって実はバリア防備仕様だったの?そんな裏設定あったんだ。

 

どちらにしろ、神器所有者は明日に回す予定だったが……これじゃあ、『ハデスの隠れ兜』で入れはするが、接触した時にバレるな。侵入自体は無理だし、大人しく対象を見つけたら後をつける方法で行くか。

 

うん、と一つ頷いて、今日の宿を探すべく、その場を後にしようとした時━━━。

 

ぞわっ。

 

背後から突如襲った殺気。反射的に飛び退くと、さっきまで立っていたところが轟音と共に爆発した。

 

いや、爆発というよりは抉られたの方が正しいだろうか。どちらにせよ、大した破壊力だ。避けてないと肉片一つ残らなかったかも。

 

「━━━この一撃を見てその反応。やはり一般人ではなかったか。何者だ」

 

土煙の中から現れたのは黒いボンテージ姿の少女。青い髪に緑のメッシュを入れて━━━うん?はて、どこかで見た事のあるような。

 

「それはこちらが聞きたいな。例え、一般人でなくとも、そちらに恨まれる覚えはないが?」

 

「それだけの気配を流していれば、誰だって仕掛けもする。まして、今は状況が状況だ。疑わしきは罰する主義でね」

 

血気盛んだなぁ。カルシウム足りてないんじゃないだろうか。

 

まぁ、勘違いならなんとかなるか。適当に話を合わせておこう。

 

「それは悪かったな。俺は関係ない故、帰らせて━━━」

 

「待て。お前は堕天使側の人間ではないのか?」

 

「いいや。寧ろ、何故……?」

 

堕天使側の人間と思う要素なんて……待てよ。

 

思い出したぞ。こいつの名前を。

 

確かゼノヴィアだ。今は教会の戦士で、後にグレモリー眷属になるはずの。

 

そして今の発言と時期からして、おそらくは今あのバリアの中でグレモリーとその眷属がコカビエル達と闘っているに違いない。ゼノヴィアも、それに合流しようとしているところだったのだろう。

 

……待てよ。じゃあ、俺がここで引き止めているのはマズいな。なんだかんだでゼノヴィアがいないと、グレモリー眷属は劣勢だ。

 

「ともかく、俺は関係ない。そら、さっさと行け。目的は俺ではないだろう」

 

「確かに。私の目的はお前ではない……が、野放しにしておけないのも事実だ。まだ堕天使側の人間じゃないとわかったわけじゃない」

 

ぐっ……面倒なやつ。怪しいのはわかるけど、目的優先でスルーしてくれよ。

 

「見るからに違うだろう」

 

「主を信仰しているか?」

 

「神か?嫌いだが?」

 

「説得力が皆無だぞ」

 

だって、転生のさせ方雑だったし。バビロンの中身一気に脳みそにぶち込んだ馬鹿野郎だし。こんな世界に連れてくるし。俺が抱いていた憧れを返せ。

 

その後も言い争いは続く。

 

こいつ本当に急いでいるのかと疑いたくなるくらいに俺に食いついてくる。何、俺の事大好きなのこの子。

 

それが十分ぐらい続いたあたりでキレた……俺が。

 

「ああ、わかった。もう知らんぞ、俺は」

 

「ふぅ。やっと認めたか。じゃあ━━━」

 

「ついてこい。そんなに証拠が見たいなら見せてやる」

 

踵を返して、学園の中に向かう。

 

気配からして一応ついてはきているようだ。ええい、ついてこいといえば、普通についてきおってからに。

 

学園に張られていた魔法バリアを叩き斬り、文句を言ってくる悪魔(原作キャラ)を振り切り、戦場に赴いた。

 

よし、ついた。

 

グレモリー眷属は……無事だな。ボロボロだが。

 

倒れてるやつは神父服を着てるので違うとして、コカビエルは健在。無傷か。

 

「刮目しろ、脳筋(エクソシスト)。これが仲間ではない証拠だ!」

 

バビロン展開!照準全てコカビエルに!

 

「肉片一つ残すな!王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)ッ!!」

 

号令と共に放たれた数百の宝具群が、虚を衝かれて反応が遅れたコカビエルに殺到した。

 

 

 


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