東方不死人   作:三つ目

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なんだアレは?
それが八雲の第一印象だった
アリスの家から飛ぶ事、20分程度
遠くからでも分かるほど眼が眩むほどの真っ赤な建物が視界に入り、眼を疑いながらもドンドン接近していく
どれだけの広さがあるのか、外見では想像も出来ないほど広く、その広い屋敷をぐるりと囲うように塀がある
そしてその塀の一箇所に門と思わしき場所があり、その門にめがけ、アリスと八雲は着地した

それに八雲は妙な違和感を覚えた

『どうして?』

門があり、その門の前には門番らしき女性が立っていた
その女性が八雲達に気が付くと、驚いたような表情を見せた
「アリスさん・・・?」
「久しぶりね、メイリン」
「わざわざ紅魔館に何の用でしょう?」
少々変わった緑のチャイナドレスに身を包む彼女は、門番として当然のセリフを言い出した
アリスはそれを聞き訪問してきた理由を隠さず伝えていた
「貴女の主に会いに来たのよ」
「パチュリー様に、ではなくてですか?」
「そうよ、私はレミリアに会いに来たの、門を開けてくれるかしら」
少し考えたような仕草を見せ、緑チャイナの女性はすぐに道をあけてくれた
「分かりました、ですが――――」
だが、あけられた道はアリス一人分だけで、門番は八雲の前に立ちはだかった
「貴女なら問題はないでしょう、ですがこの男は通せません」
「どうしてかしら、私の友人なんだけど?」
「関係ありません、面識の無い者を通す訳にはいきません」
まるで鏡を見ているようだ、八雲はそう直感していた
彼女の言い分は門番として・・・主に仕える者としてとても正しい、どこの馬の骨かも分からない男に主を差し出すような馬鹿な真似をする門番がいるはずがない

その気持ちは痛いほどよく判る

それは八雲もまったく同じだからだ、パイに知らない男が近寄ろうと言うなら、それは断固阻止するであろう
万が一それが得体の知れない怪物なら、八雲は全身全霊をかけて相手と対峙する覚悟がある
この門番も、その八雲と同じ気持ちなら・・・ここは引き下がるべきだ、と八雲は思う

「アポも無しで急に来たんだから仕方ないさ、俺抜きなら大丈夫なんだろ?ならアリス一人で行ってきてくれないか」
少し考えた素振りを見せるアリス、やがて納得出来ないといった顔つきで
「・・・分かったわ」
と不満げに頷いた。

「では此方へどうぞ、貴方はココで待っていてください」

そう言われ、中華少女とアリスは門の中へと消えていった。
八雲は一人取り残され、ただ二人の後を目で追うだけだった




紅魔館の死闘の序曲

 

 

紅魔館の大きな扉をくぐり、門番はそこで引き返し、扉の先はメイド長の十六夜咲夜が主であるレミリアの元へとアリスを案内した。

とはいえアリスは紅魔館に初めて来た訳ではない、舘の構図は頭の中に入っているし、レミリアの部屋の場所だって知っている、そんなアリスに道案内は不要なのだが、馬鹿丁寧にこのメイド長はアリスを初めて来る客人の様に案内していた。

 

「これは何の真似?」

 

さすがにそれに痺れを切らしたアリスは咲夜に問い詰める

 

「それは此方のセリフですわ、アレは一体何の真似でしょう?」

 

アレとは言わずもがな、八雲の事だろう・・・と悟るアリスはそっぽを向いた

 

「貴女には関係ないでしょう」

「もちろん、関係ありませんわ。そして私がしている事もアリス様には関係はありませんでしょう」

 

全てはお嬢様の仰せのままに、そう締めくくり、どこか楽しそうにしているメイド長に苛立つも、怒っては負けだと自分に言い聞かせる

今日はそのお嬢様にお願いする立場で来ている以上は、事を荒立てるのは良くないのも分かってる

その先は互い黙ったまま歩き続け、レミリアの居る部屋の扉まで案内された

 

「さ、お嬢様がお待ちです」

 

真紅の立派な扉が、咲夜の手で開かれた

部屋の中はレッドカーぺットがあり、立派な玉座まで繋がっている、まるで王へと謁見する場のようにも見える

玉座には幼い少女の様な吸血鬼が足を組み、アリスを迎えた

その部屋にアリスが入ると扉は閉められ、部屋にはアリスとレミリアだけとなった

 

「どういう意味かしら?」

 

腑に落ちないとアリスは挨拶もせずに、第一声でそれを聞いた

幼い吸血鬼は、その見た目の年齢不相応な邪気を感じる笑顔を見せ、アリスを見つめた

 

「面白そうだと思ったのよ」

 

クっと口の端を引き上げて、三日月のような口で吸血鬼は笑う

 

「違うわ、あのメイドが言っていたけれど、どうして私を貴女が待っていたの?」

「咲夜・・・口を滑らせたのね」

 

それを聴いた瞬間に吸血鬼の笑みは消え、不機嫌そうな表情へと変わる

 

「貴女がココに来る運命と思ったからよ、だから貴女を待っていた・・・とでも言えば満足?」

「なら私がお願いしたい事も既に理解しているかしら」

「大方察しが付くわね。あの男絡みでしょ?貴女から私の所に来るなんてありえないと思っていたけれど、意外だわ」

「ならその意外ついでに彼の願いを聞いてあげて」

「彼の?・・・”私の”じゃなくて?」

 

まるで見透かしたように、レミリアはまた笑い出した

 

「どういう意味かしら?」

 

そしてまたアリスはレミリアに最初と同じ質問を投げかける

 

「そのままの意味よ、他にどんな意味があるって言うのよ」

 

それからお互い沈黙し、視線同士で喧嘩する様に睨みあっていた

 

「別に、ここで弾幕ごっこしてもいいのよ?」

 

沈黙を破り火蓋を切ろうとしたアリスだったが

 

「そんなつもりは無いわ」

 

とレミリアは一蹴する

 

「私からの条件を貴女が飲むのなら、あの男の願いではなくて、貴女の願いなら聞いてあげる、それ以上の譲歩は無い、モチロン断ってもいいわ、その時は私は彼の願いも、貴女の願いも叶えないけどね」

 

少し考えたが、それでいいとアリスも判断したのか

 

「えぇ、構わないわ」

 

それを見たレミリアは、凄く嬉しそうに手を叩いた

その姿はまるで無邪気に喜ぶ子供の様にも見える

 

「噂は本当だったのね」

「噂って・・・?」

「魔法の森の人形遣いが一人の妖怪に惚れ込んでいるって噂よ」

「なっ・・・!!?」

 

そんな噂が既に出回っているのかと思い、アリスは思考を巡らせる

思い当たる節をピックアップしていき、一つの結果に行き当たる

噂をばら撒くのが仕事のような、そんな妖怪が一匹居た

 

「烏天狗の仕業ね・・・」

「ご名答」

 

忌々しそうに呟いたアリスの表情を、楽しそうに見つめているレミリアは手を組んで語りだす

 

「それで、その条件だけど―――――――――」

 

その条件を聞き、アリスは・・・

 

 






所変わって、紅魔館の門
ここではアリスの帰りを待つ八雲と、門番の二人だけが居た
一人で待つだけならいいが、よく知らない人と二人で・・・となると、なにかと気まずい空気になりやすい
その気まずい空気を壊すべく、門番は口を開いた

「あ、あの~・・・」
「なにかな?」
「私は紅美鈴って名前なんですけど、あなたの名前は?」
「あぁ、俺は藤井八雲だ、よろしく」
八雲は無造作に握手を求める様に横に居た美鈴に手を差し伸べた
その手を美鈴は数秒ほど凝視してから握手に応じた
「藤井八雲さんは拳法をやるんですね?」
「どうしてそれを・・・」
疑問に思った八雲は首をかしげた

「手を見れば分かります、拳ダコが出来てるし、足だってかなり鍛えてあるみたいですね」
「美鈴さんだって、かなり鍛えて上げてるみたいだ」

互いに拳法の心得があると判ると美鈴は拳を作って八雲に向けてみた

「時間もありますし、ちょっと手合わせしませんか?」

美鈴の提案に八雲の心が揺れた
地球どころか聖地にも、八雲に手合わせをお願いする人物など、そういなかった
だからこそ、その久々の手合わせの申し出につい応じてしまった。

「俺でよければ」

それを聞いた美鈴はパァっと笑い、ありがとうございますと深くお辞儀をした
八雲もそうだが、美鈴もそうなのだ
拳法での手合わせが出来る人物が幻想郷にはいないのだ
近接戦闘が出来る人物のほとんどは、拳法ではなく、無法の破壊力だけを求めた拳なだけなのだから

「どういうルールでやろうか?」

そう質問するのは八雲の遠慮もあった
男と女という違いもある、互いに拳法を嗜んでいるが女性を殴るのはさすがに八雲も良くは思わない
・・・リンリンさんを除いて

「打撃あり!急所なし!動けなくなるか降参で終わり、という事にしましょう!」

美鈴のその申し出に八雲も躊躇いながらも頷く
寸止めではなく、打撃ありと言ってくる時点で、かなり実践向けの武道家と見受けられる
逆に美鈴も八雲に遠慮してのルールなのだろう、行動不能にする可能性があると判断してなのか、動けなくなったら終わり、というルールを入れた

「よし、それでいこうか」

降参もあり、その条件であれば八雲も別に問題はないと思っていた

「では、やりましょう!」

美鈴がそういった矢先、今までとは比べ物にならないほどの精の流れを八雲は美鈴の内から感じ取った

『・・・こいつは手加減したら不味そうだ』

女性と思って手加減しようと考えていたが、下手をすると本当に負ける可能性がある
精を放出するタイプの魔理沙、アリス、霊夢とは違い
美鈴は精を内に取り込み、それを自身の中で高めて作用させていくタイプの能力者

「いきます!!」

美鈴の発声と共に、美鈴の足に溜め込まれた精が破裂するように作用し、強力な推進力を得る
その勢いをそのままに、右拳の正拳が八雲に放たれる
その踏み込みは今まで八雲と組み手をやった人物の全員を遥かに凌駕したものだった

「くっ!」

予想以上の速度に八雲は避ける事も受け流す事も出来ず、両手でガードする体性を取り、正拳を正面から受け止めた
その正拳には女性とは考えられないほどの威力を秘めていた
ただ早いだけではない、その拳には発勁の作用が込められている
八雲も発勁は知っている
だがこれほど速く繰り出される発勁は初めての事
発と勁だけではなく、そこに速度という破壊力を増幅させる効果まで練りこんだ美鈴の一撃は

男の八雲を軽々と吹き飛ばした

ゆうに10メートルほど吹き飛ばされた八雲は、重心をずらしながら足から着地をした
たったの一合、美鈴が突き、八雲が受けた
それだけの状況なのにも関わらず、美鈴は何か嬉しそうに

「―――思ったよりも・・・やるみたいですね」

と八雲に向かって呟いた。
美鈴の一撃を真正面から対抗したら、八雲の両手の骨が砕けていただろう
衝撃に対抗せず、衝撃に丸々と体を預けて八雲は『吹き飛んだ』のだ
それにより、美鈴の正拳の威力は半減され、八雲の骨は折れる事はなかった
だが肉の方はそうもいかない、八雲の骨と美鈴の拳の間にあった八雲の筋肉は、その衝撃のせいで痛み、先ほどの美鈴の正拳の威力を八雲に伝えてくる

「そっくりそのままお返しするよ、ここまで速い勁は見たことが無い」

思ったままの感想を言った八雲、それを聞いた美鈴は、えへへと照れくさそうな笑顔を見せた
その笑顔を見て、八雲もしっかりとお返しをしようと構えた瞬間

―――上空から放たれた白刃に八雲は襲われた

完全に不意を付かれた形だったので、投げつけられた刃物を右肩、右腕、右足に数本刺さった

「さ、昨夜さん!?」

その状況を見て、美鈴はその刃物を投げた人物に視線を向けた
八雲もその視線を追ってみると
銀髪のメイド服の少女が宙に浮いていた

「人形遣い・・・彼女はもう帰りません、だから貴方もさっさとねぐらへと帰りなさい」

そうメイド少女は八雲に言い放つ
二人の組み手の邪魔をしたという自覚があるのか、ないのか
そんな事は関係ないと、堂々としている風体だ

「帰らないって・・・どういう事だ・・・」
八雲はさっき投げ付けられたナイフを抜きながらメイドを睨む
「彼女はお嬢様の反感を買ってしまいました、ですのでこの舘で幽閉する事となりました」
「・・・ゆ、幽閉!?」
「お嬢様に迫り、それだけでなくお嬢様に脅迫じみた言動まで行った、それ故の幽閉です」

あの冷静さを失わないアリスが?
八雲にはその事がにわかには信じられない
仮にそれが真実だとしたら・・・

「それで・・・アリスはいつ開放されるんだ?」
「される筈がありません、開放されたとしても、お嬢様の食事と玩具としての役割を終えた時でしょうか」
「つまりそれは・・・」
「彼女の命が尽きたら開放しますよ、室内にあっても腐るだけでしょから」

なんて無茶をしたんだ
八雲は心の中で様々な事を考えていた。

俺はレミリアをまだ知らないが、アリスはレミリアの事を知っていたようだ
それならば、幽閉するような人物と配慮しての行動するべきなのに、定石を無視してアリスは俺の為に無茶をした
無理をして、無茶を通そうとして、幽閉された・・・
考えたくは無いが、もしかしたらアリスは幽閉されるかもしれないと考えていたのではないか?

全ては俺のためにした事

その無謀を、無駄に終わらせないために俺が出来る事は・・・

「すまない、美鈴さん・・・組み手はもう出来ない」

八雲は構えていた
戦闘において、八雲の十八番
一番扱いなれている獣魔を呼ぶときの構え
右手をメイドに向け突き出し、左手をその右手の腕に添えた

「藤井八雲の名において命ずる――――」

それを見て、メイドは門番に指示を飛ばす

「美鈴!止めなさい!」

止めろと言われも、様々な事が起き過ぎて頭の中が整理できていない美鈴にはその光景を見ることしか出来なかった

八雲の放った術は、美鈴には到底弾幕とは呼べない代物、直線的なただの弾でしかない。だがその術に視線と心を奪われた

眩く光り輝く龍が目の前の男から出る瞬間を、美鈴はただただ美しいと感じていた

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