東方不死人   作:三つ目

3 / 23
『一体コレはどういう事なの・・・?どうして私が、いえ・・・私達がこんな・・・』


その先もアリスは考えたが、思考することすら憚られた

あってはならない、というよりもあろうはずがない

魔理沙とのタッグはアリスにとってベストな相性と言いきれる

お互いの呼吸も揃いやすく、力の波長を合わせるには申し分などあるはずもない

にもかかわらず、なのにもかかわらず


『どうして効かないの!!』


そう、まるで効果がない。

どう試行錯誤しても『当てる』事ができない。

通常、弾幕戦とは相手の弾を避ける事が最重要視されている

いかに避け、いかに攻撃を継続するかに重きを置く

しかし、今まさに対峙している相手はまるっきり違う発想を持っていた


『大丈夫とは、そういう事なの・・・!?』


焦りが弾幕を大きく歪める、それはアリスも重々承知している

しかし湧き上がる感情を抑えきる事は出来ない

でもこの相手には、歪みなど関係ない

むしろ最大の問題は別にある


『不死身とは、そういう意味なの・・・!?』


アリスと魔理沙の前に見たことも無い虫の化物がただ悠然と存在していた


弾幕初心、戦闘熟練

「ほらほら、どうした!」

 

「うわ!っとお!」

 

 

 

魔理沙の手から放たれる星型の弾が八雲に襲い掛かる

 

それをなんとかギリギリのところで回避し続けている八雲もなかなかのセンスを持っているようだ

 

「くそ!なんて量だ!」

 

一発一発の破壊力はたいした事は無い、むしろ当たった所で怪我もしないだろう

 

でもこれは戦いではなく、ゲームだ

 

『当たれば負け』というゲーム、そこに不死性など何の意味も無い

 

まさに質よりも量、そんな攻撃が有効なのは誰が見ても明白だろう

 

だが逆に捕らえれば『当たらなければ勝ち』という事だ

 

ならば八雲の答えは決まっている

 

耐えて耐えて耐え続け、相手が降参するまでこの状況に耐えるまで

 

それが八雲にとっての最良の勝利の形だ

 

 

 

でもそれも、もう既に危うい

 

 

 

假肢蠱(チィアチークウ)の羽では、そのうち避けきれなくなる

 

最初のうちは手加減してくれていた魔理沙も、八雲の健闘にだんだんと攻撃方法を変えてきている

 

八雲の動きが段々と魔理沙に捉えられて来ている、ようは八雲の動きに対応してきているという事に他ならない

 

それではぎこちない飛行しか出来ない八雲に勝ち目など到底無かった

 

 

 

「初心者にしてはなかなかやるな、でもコレで終わりだぜ!」

 

 

 

魔理沙は一枚のカードをスカートの中から取り出し

 

 

 

――――宣告

 

 

 

「スターダスト・レヴァリエ!」

 

 

 

次の瞬間、複数の魔方陣が魔理沙の周辺を囲うように現れ廻り出す

 

その魔方陣からは赤や青や黄、様々な色の星が射出され、空間に固定された

 

そして八雲のほうにも、水色と紫色の『星の帯』とでも例えるような弾の列が出来上がり固定される

 

 

 

『まずいぞ、帯状だとすり抜けるスペースが足りない!』

 

 

 

そしてその帯が移動を始める、魔理沙を中心にクルクルと、グルグルと

 

魔方陣と帯がせわしなく移動する、まるでそれは流れ星の様にキラキラと輝いていた

 

 

 

「そこだ!」

 

 

 

魔理沙が八雲を指差すと、今度は魔方陣が八雲に向かって突撃してきた

 

数多の星を避けながら、魔方陣もなんとか八雲は避けてみせる

 

 

 

が・・・

 

 

 

「なに!」

 

 

 

その魔方陣の後から、まるで流星群の様に星達が真っ直ぐ八雲の周辺に目掛けて飛来する

 

そして左右から来る星の帯の波状攻撃に

 

 

 

「くっ!!」

 

 

 

八雲はついに被弾した。

 

 

 

その一部始終を見ていたアリスは鼻で笑っていた

 

 

 

「ほらね、言ったとおりでしょう?そんな飛行で避けれるはずないじゃない」

 

「今のは・・・?それにあのカードはなんだったんだ」

 

「スペルカードの事?あれはただのカードよ、別に特別な効果はないわ、ようはあれが魔理沙の実力って事よ」

 

 

 

なるほどね、と八雲は納得する

 

 

 

「質問なんだけどさ、相手の攻撃ってのは消してもいいのか?」

 

「原則ではダメよ、でもあまりその原則も守られて無いわね、私もたまに相殺目的で弾を出すし」

 

「オッケー、ならもう一つ質問だ。俺は色んな獣魔を操れるって説明したけどさ」

 

「えぇ、してたわね」

 

「ならその獣魔が被弾した場合、それは俺の被弾になるのか?」

 

「いいえ、それは被弾とカウントされない、あくまで生身の貴方に当たったときだけカウントされるわ」

 

 

 

それを聞き、八雲の口角が上がった

 

 

 

「よし、なら次は勝つさ」

 

「何言ってるの?さっきの貴方は避けるだけで精一杯で、一度も攻撃してないじゃない」

 

「大丈夫だって」

 

 

 

一体何が大丈夫なのか、アリスは判らなかったが

 

その八雲の異様な自信が少し気になった

 

 

 

「何か策でもあるの?」

 

「ある、って言い切ってみたいけど、どうかな?もしかしたらルール違反かも・・・」

 

 

 

ハッキリしない八雲をよそに、アリスは静観を崩さなかった

 

そして魔理沙もまだ元気一杯で飛び回っている

 

 

 

「どうした!もう降参か?」

 

「まさか、勝負はこれからだ!」

 

 

 

この状況で八雲の勝ちになるはずない

 

勝たねばならない、地球に帰るために、その手がかかりを知る人物に会う為に

 

 

 

「藤井八雲の名において命ずる―――出でよ!!」

 

 

 

本当の勝負はこれから

 

 

 

ルールを聞いた所で何も変わるはずが無い

 

普通ならそうだ、普通なら、そうであって普通なのだから

 

しかし八雲自身が普通ではないイレギュラーの場合、状況が変わってくる

 

そしてそのルールが実は八雲に大きく味方しているとアリスはまだ知る由もない

 

 

 

被甲(ピージャー)!!」

 

 

 

そう―――宣告。

 

 

 

その瞬間、見たことも無い虫が現れ、まるでその虫自体が鎧の様に八雲を覆った

 

そして一直線に魔理沙目掛けて突進した

 

 

 

「突撃!?何考えてんだ!!」

 

 

 

魔理沙はその突進に合わせ、収束させたレーザーを当てて迎撃しようと試みる

 

しかし、レーザーがまるで水鉄砲の様に表面の装甲に弾かれる

 

 

 

「なんだって!?」

 

「グオオオオォォォ!!!」

 

 

 

まるで効果がない、レーザーの傷すら見当たらない、歯が立たないとはまさにこの事だろう

 

だが、その突進自体は魔理沙からすれば粗末なもので、避ける事はとても容易い直線的な軌道

 

本来なら、敵の攻撃が避けやすいという事は、一方的に相手を攻撃し、簡単に倒せるという意味にもなる

 

 

 

でもこれは簡単に倒せないスペルという矛盾が外で静観していたアリスを困惑させる

 

 

 

『避ける必要なんて無かったのね、魔理沙の攻撃の全てを受けきるつもりだ』

 

 

 

避けるとはまったく逆の発想

 

というよりも、幻想郷にそのような使い手がいなかっただけの話で

 

そんなスペルなど、誰も考えなかっただけの話でしかない

 

強固な獣魔の鎧による防壁により魔理沙の攻撃の全てを無力化させる、それはまさに鉄壁のバリアのようなもの

 

 

 

 

 

『相手を倒すよりも、相手の術を倒すことに専念している!!』

 

 

 

魔理沙もその鎧のスペルを破るために、様々な術や武器を使用し始めた

 

しかしそのどれもが決定打にならないどころか、攻撃と認識されていないように虫の鎧が全てを弾く。

 

 

 

それがどういう意味か、アリスにも、もちろん魔理沙にも判っている

 

これが普通の人間だったり、妖怪だったり、神だったら特になんの意味も無い

 

むしろ相手に賞賛を贈るべき状況だろう

 

でも、アリスも、魔理沙も、魔法使いなのだ

 

己の術の敗北は、己の研究の敗北

 

今までの研究の全ての否定に繋がる

 

己の研究とは、己の命と同価値に相当する

 

その研究の為だけに、魔道を巡り、魔力を高め、魔法を磨き、新たな力を得るために命を尽くして努力し

 

・・・場合によっては、人間という枠すらも捨てなければならない。

 

そんな覚悟の上で得た研究の成果が、命の結晶とも呼ぶに相応しい結果が、今まさに無という結末に蹂躙されようとしている

 

ただ弾幕に敗れるのであればいい、でもコレは違う

 

術の完成度で敗れるのではなく、術の意味が意味を成さないで敗れるのは駄目だ

 

絶対にあってはならない、相手がそれを知っての行動か、知らずの行動なのかは重要ではない

 

ただその結末は、魔法使いにとってこれ以上無い屈辱

 

そしてその屈辱を、目の前にいる魔法使いは味わおうとしている

 

苦戦している人物が大切な友人なら、それを助けるのは自然な行動なのだろう

 

 

 

「行きなさい!上海人形!」

 

 

 

真っ赤なレーザーが人形から放出され、被甲の装甲を焼き斬ろうと襲うも

 

その表面が焦げるどころか、やはり傷一つ与えられていなかった

 

 

 

「アリス!?」

 

「苦戦してるみたいだし、手伝ってあげる」

 

 

 

「全力でいくわよ、魔理沙!!」

 

「モチロン!そのつもりだぜ!!」

 

 

 

二人の魔力が更に強く、練り上げられた


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。