東方不死人   作:三つ目

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『私の聞き間違いでなければ、きっとあれは・・・』

美鈴は目の前の状況を上手く飲み込むことが出来ない

「どうしたの?」

対するパチュリーは余裕綽々に美鈴に歩み寄る

近距離を得意としない彼女が、こんな大胆な行動に出ることが、美鈴には奇妙でたまらない

だがそれ以前に、その両腕に燃え盛っている炎の龍も気になった

『あれは魔法・・・ではない』

チラリと美鈴は八雲の方へと視線を送ると、一瞬だけ目が合ったが、すぐさまその視線を他所へと向ける

なるほど、と何か把握した美鈴は構え直す

パチュリーは接近戦を得意としない、その考えを覆す必要があるようだ

どうみてこの術は接近戦用に特化されている術だ

迫り来るパチュリーを見据え、構えを取る

・・・

・・・・・・

後三歩、歩くだけでお互いに手が届きそうな距離までパチュリーは歩み寄り、首をかしげる

「さっきの勢いがないわね」

そういわれ、一つ息を吐き出し美鈴は目を見開く

「それはそうですよ、そんな術を見せられれば慎重にもなります」

「嘘が下手ね」

そうだった、例え近接の術を纏おうとも、それがイコールで体術の向上とはならない
腕に纏うタイプの術であれば近距離戦を挑まざるを得ない
策に溺れるパチュリーではない、もし迂闊に手を出せば、手痛い反撃が繰り出されるかもしれない
しかし美鈴に焦りはない、パチュリーの攻撃に合わせて美鈴はカウンターを決めれば良いだけなのだから

しかし、手が届かない距離からその燃え盛る腕を、美鈴に突き出した

「!!」

パチュリー何かを呟いた、と思った瞬間

信じられないほどの爆炎が上がった

さっきの火球とは違い、広域に広がるその熱は美鈴の肌を焼き始めた

「くぅ!」

とっさに身を屈め、また距離を取る

そして三回転して、服の裾に引火していた火を消した

今の爆発も、さっきの腕の火龍も、どちらも魔力を感じられない

妖力、と言うよりは〝気"に近い

感じ取った情報を手繰れば、状況を解析する必要も無い
これに近い力、いや・・・同等の力を知っている

「・・・獣魔術・・・」

呟いた美鈴にパチュリーは嬉しそうに笑う

「やっぱり気が付いたわね。そうよ、この火龍もさっきの爆発も獣魔術よ」

まだ見ていなかった獣魔術、知らない術だ

獣魔術の性能を美鈴は身をもって体感した一人でもある

故に、迂闊に接近を許し、接近が出来なくなった、そして反撃を恐れた

生唾を飲み込み、少し焼けた裾をパンパンと叩き整える

「面白い!」

その眼に宿る闘志は冷める所か逆に熱を増す

対するパチュリーは静かに、冷静に、冷たく、相手を見据え

「藤井八雲の名において、パチュリー・ノーレッジが命ずるわ、来なさい―――ヘルフレイム!!」

獣魔術を放った





紅魔館の復旧 その2

 

 

 

 

またもやとてつもない爆炎を呼び起こし、美鈴を追い立てる

 

あまりにも凄い爆音だったため、流石に紅魔館の中でもちょっとした騒動になっていた

 

妖精メイド達は作業どころではなく音に怯え始め、隠れてしまってる者も数名出てきていた

 

「またですか・・・」

 

昨日の一件で懲りただろうと思っていたが、まさか連日で騒ぎを起こすとは思いもしなかった

呆れた声で、メイド長。十六夜咲夜は注意するために外に出た

 

外に出たのはいいが

 

注意しようと、吊り上げていた瞳はみるみるうちに下がっていく

とある人物にそれを止められた

 

「やめなさい」

 

「お嬢様!?」

 

外に出たすぐの所で、日傘を差したレミリアが立っていたのだった

 

「咲夜、そんな事をする暇があるのなら、今すぐにココにテーブルとお茶を持ってきなさい」

 

そんな事、で館の主に片付けられてしまっては咲夜も何も言えず、ただ言われるがままにするしかない

 

「承知致しました、お嬢様・・・宜しいのですか?」

 

「良いに決まってるわ」

 

「・・・では、すぐに準備してまいりますので、あちらでお休みください」

 

と、指し示した所には少し大きめのテーブルにパラソルが差し込まれて居る物だ

さっきまで無かったのだが、咲夜が時を止めて用意したようだ

 

レミリアは一言、ありがとうと咲夜に伝えると、更に付け加えた

 

「二人分ね」

 

 

 

 

 

 

爆炎の熱が引き、爆煙が晴れてきた

その中で、美鈴は腕を十字にして、顔を守っていた

 

「っつう・・・」

 

あの爆炎の直撃を受けて、美鈴はそれでも立っていた

 

その光景すら、パチュリーは当然と言った感じで、特別驚きもしない

 

「消えなさい、サラマンダーアーム」

 

宣言、その瞬間パチュリーの腕を覆っていた炎の龍は消滅し、元のパチュリーの腕に戻る

 

その腕をそのまま地面に叩きつけ宣言

 

「来なさい!グランドクロー!」

 

そう、パチュリーが飛行禁止にした理由は、これだ

 

宣言した瞬間、二本爪の獣魔が現れ、一直線に美鈴に向かっていった

 

地面を抉りながら突き進む二本爪が美鈴と交差した瞬間

 

「見切ったぁ!」

 

その爪の一本を、まるで真剣白刃取りの様に、両手で受け止めると言う荒業を成功させていた

 

一歩間違えればまたもやチャイナ服が無事では済まなかっただろう

 

白刃取りを成功させた美鈴はそのまま爪を地面から引っこ抜き

 

「うりゃぁぁあ!!」

 

パチュリーに投げ返した

 

宙を舞ったグランドクローが地面に落ちる瞬間、美鈴はパチュリーの構えが視界に入った

 

急激に何かが冷えていく

 

見たことがある、あの構えは知っている

 

パチュリーは腕を一直線に伸ばし、美鈴へと向けていた

 

『あれは、まさか』

 

「来なさい!ライトニングドラゴン!」

 

宣言共に現れたのは、美鈴も目にした事がある獣魔

 

光牙に瓜二つな獣魔が現れた

 

「やばっ!」

 

獣魔を相手に向かって投げつけるという、見た目重視の行動は裏目に出てしまった

 

そんな大技を使ってしまえば、隙が出来るのは当たり前だった

 

・・・しかし、ライトニングドラゴンは美鈴の脇へと反れて行き、地面を抉り抜いた

 

とてつもない衝撃波を浴びながら、美鈴はライトニングドラゴンの影響で飛び散った地面から身を守った

 

何が起きたのか判らないでいた美鈴だったが、状況は即座に把握できた、パチュリーと美鈴の間に鏡蠱を腕に纏わせた八雲が入り込んでいた

 

「当たったら無事じゃ済まないぞ」

 

「・・・ごめんなさい、少し熱くなってしまったみたい」

 

どうやらさっきの光の龍は、八雲の虫が反らしてくれたみたいだ

 

素直に謝るパチュリーと怒る八雲を、美鈴はキョトンと見るしか出来なかった

 

一体どうやったのだろう?

 

まるで八雲が瞬間移動でもしたかのようにパチュリーと美鈴の間に現れたので、言葉を失った

 

「でも、面白い事を思いついたの、もう少しいいでしょ?」

 

上目使いで女性から見つめられ、八雲はどうしていいのか分からなくなってしまった

 

何故か八雲も照れながら

 

「・・・次やったら終わりにするからな」

 

と伝え、パチュリーの細い腕を放した

 

「ええ、もちろんよ」

 

ニコリと満面の笑みで、パチュリーはまた美鈴に向かい合う

 

「美鈴、コレが私の最後の攻撃よ、これを防いだら貴女の勝ちでいいわ」

 

そう言われてしまったら、美鈴としてはそれを打破してみたくなる

 

「・・・判りました!受けて立ちます!」

 

パチュリーは右手を突き出し宣言する

 

「来なさい!サラマンダーアーム!」

 

今度は右腕だけに炎の龍が現れる、そして

 

「火土符!ラーヴァクロムレク!」

 

――――宣言。

 

現れた燃えた岩をそのまま地面へと突き刺し、更に宣言

 

「藤井八雲の名においてパチュリー・ノーレッジが命ずるわ!来なさい!グランドクロー!!」

 

それは八雲も見たことの無い光景だった

 

獣魔術に、付与効果を与えたのだ

 

そしてグランドクローは炎を纏い地面を焦がし、抉りながら突き進む

 

更にはサラマンダーアームの炎すらもその二本爪に付いていき炎を撒き散らした

 

本来であれば光に弱い土爪の亜種を、土で覆い、炎による光を遮断し、熱によるダメージを無効化し、そのまま土爪としての性能も殺さず使用して見せた

 

「!!!」

 

対する美鈴は燃え盛る爪を白刃取りする訳にもいかず、とりあえず前方に飛び上がり、爪の遥か上を跳躍だけで避けた

 

・・・しかし

 

「甘いわ!」

 

パチュリーが何か信号を送ると、グランドクローに付いていた燃える土が爆ぜた

 

「くっ!」

 

まるでそれは炸裂虫(チァリェチョン)という、エル・マドゥライの使用した獣魔術の様だ

 

八雲の説明だけで、パチュリーは獣魔術に近い事を魔法で再現して見せたのだ

 

しかし例え燃えている土が飛来しようと、美鈴の拳は揺るがない

 

器用に服の裾と掴み、それをぐるりと何周も回して、向かい来る土を全て弾き返す

 

しかし、その度に服に引火しては、振り回し鎮火する

 

まるで回し受身の要領だ

 

そして着地する直前だった

 

「!!」

 

パチュリーが目の前まで駆け寄っていたのだ

 

振るった裾が仇となり、パチュリーが近づいてきている事に気がつかなかった

 

火炎の龍を腕に纏わせて

 

「やぁぁあああ!」

 

掛け声と共に、パチュリーが渾身の右ストレートを振るった

 

もちろん、受けるのは容易だ

 

美鈴から見れば見切れない速度ではない、しかし着地により体制は崩れており、パチュリーの両腕にはあの炎の龍がいる

 

受ければ火傷は免れない、更にはどんな副効果があるかも判らない

 

しかし迷う時間は無い、そんな刹那の時間

 

『勝負アリだ』

 

間に、八雲が入ろうとした

 

パチュリーの右ストレートを、素手で受け止める為に、間に入った

 

・・・

 

・・・入ったのだが、視界が急に切り替わった

 

まるで強制転移されたかのような感覚、そう、されたような感覚であり転移魔法ではない

 

移動させられた、まるで瞬間移動の様に

 

「なんだ、これは・・・!?」

 

そしてなぜか八雲の向かいにはレミリアが椅子に座り、ティーカップを仰いでいた

 

「駄目よ、この程度で邪魔なんかしちゃ」

 

「何を言ってるんだ、これ以上は」

 

今まさに、パチュリーの拳が美鈴の腕を掠めた

 

「藤井様、問題はありません」

 

八雲の後ろにはメイド長、咲夜が居た。きっと彼女が時間を止め八雲をココまで運んだのだろう

 

あっけらかんとした感じで、レミリアは二人が戦っているのを眺めていたようだ

 

「この程度はじゃれ合いみたいなものよ、それに見てみなさい」

 

もう一度ティーカップを煽り、静かにカップを皿に置きながら、一つ吐息を漏らし

 

「二人はあんなに楽しそうにしているじゃない」

 

と、他人事の様に微笑んでいた

 

「貴方のお茶も用意させたから、ゆっくりと鑑賞でもしたらどうかしら?」

 

 

 

 

美鈴は慌ててパチュリーの拳をいなして行く

 

サラマンダーアームに覆われた両手を受け止める訳には行かない

 

「くっ・・・!」

 

皮膚の焼ける感覚が両手の掌から伝達されてくる

 

いなし、崩れた体制のまま距離を取ろうとするも、パチュリーはその差を開くことはしない

 

美鈴が下がる分、パチュリーは魔法で強化した脚力で前進して差を埋める

 

いつものパチュリーであれば、この様な戦法は選択しないだろう

 

しかし相手がパチュリーの術により近接戦闘を避けるのであれば、話が変わってくる

 

何度もサラマンダーアームを振るい、美鈴は直撃を避けるためにいなし、軌道を反らす

 

 

その度に、美鈴の腕は焼けていく・・・

 

 

美鈴の方が圧倒的に使用する手札は少なかった

 

向かい合うパチュリーの様々な術に比べれば、美鈴のスペル数はパチュリーの総数の4割にも満たない

 

それでは総力戦となれば手の内を全て剥がされるまで、そう時間は掛からない

 

あっという間に勝敗は決するであろう。

 

――――弾幕ごっこであれば。

 

確かに、美鈴の方が圧倒的に使用する手札は少ない、しかしそれがイコールで不利とはなりえない

 

「・・・」

 

パチュリ-は息を呑む

 

自らの術の熱気に当てられたわけではない、なのだが汗が頬を伝っていく

 

どうにも違和感が拭えない、攻め込んでいるはずのパチュリーが感じた違和感

 

あまりにも美鈴が防戦一方である事だ、パチュリーの目算ではそろそろ美鈴が反撃を出してきてもおかしくは無いと考える、パチュリーは己の体術のレベルの低さを理解している

 

美鈴は多くのスペルを所持していない、魔法使いの視点から見ればあまりにも手数不足、応用性に欠ける、それは工夫が足りないと言えなくもない。

 

状況に応じ、変幻自在な手段を多く所持する魔法使いからの風景ではそう見えるだろう

 

故に、反撃する手段が無いのではないかと錯覚してしまっていた

 

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・!!」

 

焼けた掌の痛みを堪え、短く、速く、美鈴は呼吸を整える。

 

体制を万全にするために

 

体内の気を膨らませるために

 

呼吸法と言うのは重要な役割を果たす

 

彼女は・・・美鈴は多くのスペルを必要としなかった

 

作る必要が無かった。後に作る必要も無かった。

 

研ぎ澄まされた業を放つ者

 

かの者に、多くは要らず

 

「奥義―――」

 

まずい、と相対した者が直感するが既に遅い

 

放つ前から既に完了した業、酷なまでに完結された技を防ぐ手段は存在しない

 

仮に理解された所で、それを崩す手段すら無い、もう既に完結してしまっているのだから。

 

――――故に必殺。二の手は有らず。

 

「彩光蓮華掌!!」

 

スペルカードではない、そのスペルの原型を宣言する

 

パチュリーは何が起きたのか理解できなかった

 

判るのは、一瞬で視界から消えた彼女と、何かを仕掛けられると思いつつも何も出来なかった自分

 

吹き抜けた風がパチュリーの髪をなびかせた

 

「パチュリー様」

 

静かに、笑みを浮かべ美鈴はたたずむ、グっと握られたその手には布が握られていた

 

「・・・っ!」

 

その布の正体に気が付いた瞬間、何をされたのかようやく理解した

 

美鈴の手には、白と紫のボーダーの生地がある

 

そして、パチュリーの胸の中央の部分、その付近の服の生地が綺麗に無くなっていた

 

「ははっ・・・これは参ったわ」

 

自傷気味に笑うパチュリーは、両手を上に挙げた。

 

 

 

 

「もう終わっちゃったの?」

 

レミリアがふわりと優しく微笑みながら、館へと向かうパチュリーに声を掛けた

 

「あんな技を見せられたら、お手上げよ」

 

あんな技とは、もちろん彩光蓮華掌の事だ

 

八雲の目にも今の技の恐ろしさに息を呑んだ・・・

 

「今のは、なんなんだ」

 

「アレが本来の美鈴の拳法、って所かしら」

 

美鈴の拳はパチュリーの胸の部分の布を綺麗に切り抜いた、もちろんこの業の狙いは服ではない

 

元来であれば、必殺の一撃になっていたであろう業

 

――――もしも彼女がそのつもりなら、心臓を一瞬で持って行っただろう

 

八雲の眼ならば見切れないものでもない、しかし業が完成してしまってからでは難しい

 

アレは一種の完結された技だ

 

完成ではなく、完結

 

放つ前から結果が完結されているという矛盾を生み出している

 

仮に防ごうとしても、心臓を狙った技がそう易々と止まりはしない、心臓を穿つという完結した結果を変えようが無い

 

それほどまでに洗礼させた業だった。

 

「良い勉強になったわ」

 

色々と考えていた八雲にパチュリーは手を差し出した

 

「獣魔術をお返しするわ、本当にありがとう」

 

八雲は目線を落とし、その手を取ろうとしたが―――取れなかった。

 

「いや!その!」

 

「ん、どうしたの?」

 

パチュリーも、それを見ていたレミリアも、常に廻りに気を配っている咲夜も、どうして八雲が手を取らないのか理解が及ばなかった

 

彼女達はどうにも、女性社会に馴染み過ぎている

 

八雲が目線を落とした瞬間に、思わず空を見上げた事の理由を理解するのに数秒を要した

 

「なるほど、そういう事」

 

と、片目を伏せて漏らしたのはレミリアで、その言葉を聞いてようやっとパチュリーも露になった胸・・・と言っても谷間だけだが、覗いている事を把握した

 

「・・・そういうリアクションをされる方が返って恥ずかしいわね」

 

「ごめん!」

 

「いいわ、別に見られたからって何かが変わるわけでもないもの」

 

気まずそうに八雲はパチュリーの手を取り、獣魔術の返還を行った。

 

 

 

 

 


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