東方不死人   作:三つ目

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あれから一週間という時間が過ぎた。

八雲は脳に埋め込まれている術に結界を施す為に永遠亭へと向かっていた。

紅魔館の復旧は順調に進み、ほとんどはもう終わっていると言っても過言でもない
壁の復旧も、たいした労力を必要とはしなかった
壁さえしっかりと完成すれば、あとは咲夜の能力でいくらでも引き伸ばし、大きくする事が可能だからだ
八雲はあの病院の一件の後から、毎日アリスの家から紅魔館に足を運び、瓦礫処理から外壁作成、それに塗装と様々な作業を手伝った。

それが一番大変だったかと聞かれると、そうだ!と八雲は答えないだろう
それくらい、八雲にとって紅魔館での一週間は大変なものになった



紅魔館の復旧 その1

 

 

初日の殆どは瓦礫運びがメインとなり特にこれといって変わった事はなかったが

 

問題は二日目から起きた

 

「手合わせをしましょう!」

 

あの中国娘、紅美鈴が満面の笑みで八雲ににじり寄る

 

「待ってくれ、まだ瓦礫の処理が終わってないだろう」

 

「大丈夫です!こう見えても私は色んな事を考えています!」

 

一体何が大丈夫なのか?何を考えたのか?等ツッコミ所は満載だったが、彼女が自信満々にその胸を突き出すので、八雲は溜息を漏らしながら美鈴の考えを引き出した

 

「私が瓦礫を八雲さんに投げますので、それを八雲さんは体術か獣魔術で破壊する!」

 

「それのどこが手合わせなんだ?」

 

「それを交互に行います!どちらかが壊せなかったり、瓦礫の直撃を受けたほうの負けです!」

 

なるほど、簡単なゲームを行いつつ、瓦礫処理も出来て、手合わせ・・・という名の近接訓練も出来ると

一応の納得をした八雲だったが、効率を考えたらそれは仮にも良いとは言えないだろう

どうしたものかと考えている八雲の足元に、コトリと妖精メイドが瓦礫の一部を置いた

小さな瓦礫しか運べない妖精メイド達は、その話を聞きつけて瓦礫を八雲と美鈴の近くに集めだしたのだった

 

「ちょっと待ってくれ、なぜ集めてきた?」

 

「お!丁度いいですね、コレとか!」

 

笑顔で瓦礫を拾う美鈴に、八雲は待てといったジェスチャーを送る

 

「ちょっと待ってくれ、何でやる気満々なんだ?」

 

「いきますよ、先攻は私です!」

 

そう言う前に、美鈴は既に振りかぶっていた

まるでプロ野球選手のピッチャーの様な綺麗なフォームで

 

「ちょ、ま――――」

 

待ってくれ、という前に、美鈴は既に瓦礫を八雲に向けて放って居た

剛速球で迫り来る瓦礫を、八雲は反射的に右腕の篭手の裏拳で砕いてしまった

 

「流石ですね!次は八雲さんの番です!」

 

いつでも来い!と言わんばかりに美鈴は大股を開き、八雲が瓦礫を投げるのを待ちわびていた

 

まぁ、余興も必要か。

 

そんな言い訳を頭の中で並べて、八雲は第一球を振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

外でそんな事が行われている中、レミリアは日の光を浴びないように、最優先で完成させた自室に籠っていた

そのレミリアを世話するのがメイド長の仕事と言っても差し支えない。

本来であればレミリアは既に寝ている時間なのだが、どうやら最近は昼夜逆転・・・ではなく夜昼逆転しつつある生活を送っている

 

「お嬢様、瓦礫の搬出はほぼ終わり、本日中に壁の下地と、室内の清掃を完了させます」

 

一礼をしながら咲夜は報告を済ませる

 

「そう、思ったより時間がかかったのね」

 

そんな咲夜を眠たそうな流し目で見つめ、紅茶を啜る

従者を責める言葉に何一つ言い訳も漏らさず

 

「申し訳御座いません」

 

垂れた頭を上げることもなく、謝罪をしていた

 

「まぁいいわ、仕方のない話しだし、それよりも作業の方はお願いね」

 

「心得ております、お嬢様」

 

「それよりも気が付いた?咲夜」

 

気が付いたか?と問われ、ようやっと咲夜は顔を上げた

何の話だろうか?何か粗相をしてしまったのかと思考を巡らせるが、咲夜には把握できない

 

「・・・何の事でしょうか?」

 

頭からハテナマークでも出そうな顔つきでレミリアに尋ねると

 

「さっきから凄い力の衝突を感じるのだけど」

 

「力?」

 

レミリアは壁を指差した、いや違う、正確には方向を指差したのだ

その壁の向こう側、それは正門方面にあたる位置になる

少しだけ、咲夜はそちらの気配を探ってみると、確かに何か妙な気配を感じることは出来る

 

「これは、まさか」

 

咲夜がその気配を感じ取った瞬間

 

物凄い轟音が響き渡った。

 

 

 

 

「んぎぎぎぎ・・・!!」

 

美鈴は自身に込められる力の全てを込めて、岩を持ち上げていた

美鈴の身長の三倍以上の大きさのある岩を、まるでウェイトリフティングの選手の様に支えていた

 

「やるな・・・!」

 

八雲もそれを見て冷や汗を流す

やはり、純粋な力比べでは八雲は美鈴には勝てそうには無い

その鬼神にも迫りそうな気迫を感じ、八雲も構える

 

美鈴はその体制のまま、気を練り上げる。

右腕に重きを置き、腰、右足へと気を送り込む

そして溜め込んだ気を一気に爆発させた

 

「これで!どうですかぁ!!」

 

その特大の岩を、八雲目掛けて放り投げたのだ

砲丸投げみたいな放物線ではない、一直線に低い弾道で飛んできた

 

これほどの威力ともなると、八雲では到底受けきれない

その岩は全速力で突っ込んで来るトレーラーみたいなものだ

 

「出でよ!光牙!!」

 

なので破壊を選択するしかない。

一直線に光牙は岩へと向かって行き、衝突と同時に岩は粉々に飛散した

光牙はそれ以上の破壊は行わず、即座に消す

 

「はぁ・・・はぁ・・・これでも駄目ですか・・・」

 

肩で息をする美鈴に、八雲はお返しと言わんばかりに、美鈴が投げたよりもさらに大きな岩に左手を当てる

 

「マウス!」

 

そして右手でマウスを呼び出す

マウスが復活している八雲には、この術の復活も意味する

 

「操演!」

 

音声入力で八雲が言うと同時に、岩がまるで無重力空間にあるかの様にフワリと浮かび上がった

浮かび上がって全容が見えた岩は、美鈴が先程投げた物よりも一回りも大きい。

 

それに対抗するために、美鈴は気を練り上げる

 

右腕に全身全霊を込める

 

二の手はない、一撃必殺を持つ美鈴が岩に対峙する

 

「いけ!」

 

八雲が合図を送ると同時に、岩は先程美鈴が投げた速度と同等の速さで迫っていった

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

気合の掛け声と共に、美鈴の気が爆発した

渾身の右の正拳が岩の中心を捉えた

本来ではありえないやりとりなのだが、美鈴は一歩も動く事はなく、『殴った岩を粉砕』して見せたのだ

 

「幻想郷の妖怪は凄いな・・・今のも素手で壊すのか」

 

そんな荒業をしたのにも関わらず、美鈴はまるで怪我をしていないのは硬気功のおかげだろう、

全身を鋼の様に硬くして岩を殴っているのだ

そして、先程の『殴った岩を粉砕』という意味

その拳には、さらに発剄の要領までも正拳の衝撃の後に織り交ぜたのだ

正拳で岩の速度をゼロにしてから、即時に発剄により砕く

そんなデタラメな芸当を今の一瞬でしてみせた美鈴は、満足気に拳を元に戻し、構えを取る

 

美鈴の構えは、さすが武道をやっているだけあってとても素晴らしかった

 

それを眺めていた観客である所の妖精メイド達がワイワイと盛り上がる中で

 

「なにを・・・しているのかしら?」

 

とても冷たい声が響いた

決して声を張ったわけではない、しかしその声はなぜか歓声よりも大きく聞こえた

声の主は十六夜咲夜で間違いないと目星を付けることは出来たが

しかしその声の主を探す事は出来ず、八雲はただ冷や汗が頬を伝うのを自覚した

 

この感覚はアレに似ている

 

ハーンに猛烈に怒っていた時の葉子の冷たい声だ。

 

「仕事を放棄して、遊んでいるのかしら?」

 

「・・・いいえ!これは・・・そのぉ・・・」

 

美鈴は何か都合の良い言い訳を探すも、何も出てこず

一緒になっていた八雲に助けを求める様に視線を送るが、肝心の八雲も何も言えないでいた

 

「瓦礫ではなく、庭石を砕くなんて何を考えているの」

 

そうだった、美鈴と八雲は瓦礫を投げ合って壊しあうというゲームをしていたはずなのだが

周辺に存在する瓦礫ではお互いに決定打にならず、近くにあった岩を使い始めたのだった

 

思ったよりも楽しくなってしまい、悪ノリがすぎたと思っても既に遅かった

 

「覚悟、出来てるわよね?」

 

言い終わると同時に、無数のナイフが飛び交う地獄へと八雲と美鈴は落とされた

 

 

 

三日目

 

瓦礫の運搬、粉砕による処理が大体完了し、外壁のほとんども妖精達の手によって完了しつつある

とは言え、妖精なのでどうしても自由な者も出てきてしまうのだが、それはご愛嬌と言うものなのだろうか、誰も何も咎める事は無い

 

そして肝心の八雲は図書館内部に呼び出されていた

 

そこはまさに本の壁、本の要塞とも呼ぶべき内臓量を誇る

 

「凄い量だな・・・」

 

その要塞を見上げ、思わず八雲は溜息を漏らす

それもそうだろう、一生を掛けてでなければこの量はとてもじゃないが全てを網羅するなど、不可能だろう

 

そんな図書館の中に円卓があり、魔法で灯されているであろうランタンを明かりとして、この要塞の中で一人の少女が本を読んでいた

 

「よく来たわね」

 

ただそれだけ伝えると、少女の向かいの椅子が勝手に動く

そこに座れという意味だろうと察し、八雲は円卓に就く

 

「私なりに、獣魔術を調べさせてもらったわ」

 

と言い、読んでいた書物を八雲に差し出す

タイトルだとか著者が誰だとか、そういった情報は一切無い

何の皮かすらもよく判らない、なめし皮のカバーに覆われた本を開くと、八雲はその細い目を見開いた

 

「これは・・・」

 

「そう、術そのものは精霊術や錬金術と違ってマイナーすぎて、流石の私もその術の生い立ち、構築式までは調べる事は叶わなかった」

 

「・・・」

 

「しかし、術者を見つける事は出来た」

 

そう、八雲が開いたページには確かに獣魔術者の写真があった

それに丁寧に補足まで書き込まれている

 

『その体に多くの術を寄生して操る能力者』

 

「・・・その先も読んでくれる?」

 

『その寄生には大きな代償を負う事になる、場合によりその命を犠牲にして使用する者もいる、しかしとある条件により常時使用可能になる』

 

「・・・」

 

『潤沢な生命力を所有する存在であれば単一の獣魔は使用可能、と表現されるがそれでは足りない。無限の精を有した”无”こそがその術者足りえるだろう』

 

そして、その説明の下に二枚の写真がある

 

エル・マドゥライ

 

そしてもう一枚、顔は影で隠れているがその存在感は計り知れない、写真からでも感じるほどの異様な威圧感を放つ大男

 

その写真に釘付けになっている八雲に、パチュリーは補足として説明した

 

「その写真は念写と呼ばれるものよ、ちゃんとした写真とは違うわ。だからその分はっきりとした情報は皆無と言っていい。その女性と男性が誰なのか、どんな獣魔術があるとか、そういった情報は皆無なのよ」

 

「だから、俺が呼ばれたと・・・」

 

「そうよ、約束したでしょう?」

 

獣魔術を見せてくれるって、とまるで小悪魔のような微笑みが八雲に向けられた

確かにそういった約束をした・・・ような憶えがある

仕方ないかと、八雲は一つだけ溜息を吐き出してから周りを見渡し

 

「ここでは狭いから、外に行こうか」

 

「その必要はないわ」

 

パチュリーが人差し指をヒョイヒョイ動かすと、その瞬間に結界が現れる

 

「私にだって、この程度の結界術なら使えるわ」

 

そういって現れたのは六角形の結界

八雲とパチュリーを中心に現れたそれは、八雲は見たことの無いものだった

虹色に輝く結界は、八雲を圧倒させた

 

「凄いな」

 

純粋に感じた感想を漏らしただけだったか、パチュリーは『無』と言った表情だ

 

「この程度の結界術は大した事はない、少し訓練すれば誰だって出来るわ」

 

誰だって出来る、というのは一体誰を指しているのだろう?

 

「私の結界は絶対と呼べる性能ではないから、破壊力の高い獣魔術はある程度手加減してもらえると助かるわ」

 

確かにな、と八雲は結界の強度を確認してから獣魔を呼び出す

 

「――――いでよ」

 

八雲はそれからパチュリーに多くの獣魔を見せた

特性に主性能から副性能、それに八雲が所持していない獣魔術も口頭でパチュリーに教えていった

そしてそれを吸収するようにパチュリーは黙ったまま八雲の言葉に耳を傾け続けていた

 

そして、八雲の獣魔術の中でも特にパチュリーが興味を示していたのは

 

「気持ちが悪いけど、これは凄いわ」

 

鏡蠱と闇魚だった

 

「光属性の無効化ではなく反射、攻防一体の術と言うのはなかなか見られるものじゃないわ」

 

「だけれど限界はある、さっき説明した鏡亀ならば完全に返せる光術でも、コイツじゃ返せない場合もある」

 

「けれど、代わりに粘着性の糸が出せるわけね」

 

「そういう事だね」

 

飲み込みの早い生徒に、八雲はニコリと笑う

 

「それに闇の魚、この気配遮断はありえないわ。視界を奪うだけではなく相手の気配すら完全に感じられない程と言うのはありえない事よ」

 

「確かに、使い勝手はいいな」

 

「けれど、速度は遅いのね」

 

ツンツンと闇魚の頭をパチュリーは突いていた

 

「だが、捕まえればコッチのものさ」

 

「・・・どうやって誘導するか、そして罠を仕掛けるか。それが決まれば勝敗を分けてしまう程の性能があるのね・・・獣魔術は厄介だわ」

 

まじまじと獣魔術と、その研究をじっくり重ねていくパチュリーに八雲はなにやら自分の内側を見られているような謎の気まずさを感じてきてしまい、呼び出していた闇魚を消してしまった

 

「あっ・・・」

 

名残惜しそうに、パチュリーは闇魚のいた空間を少し眺めた後

 

「ねぇ」

 

と、少し深刻そうな顔付きでパチュリーは八雲の顔を見つめた

 

「お願いがあるんだけど、いいかしら?」

 

どうも嫌な予感を感じつつ、八雲はそのお願いをまず聞く事にした。

 

 

そして、パチュリーが向かったのは紅魔館の門

・・・美鈴の居る場所だ

 

「あら?八雲さんにパチュリー様、お出かけですか?」

 

まぁ、それはそうだろう。

話を聞く限り、パチュリーは日中のほとんどを図書館で過ごすようなので、外に出る時は基本外出しかない

 

だが今回はそうでもなかった

 

「違うわ、少し体を動かそうと思ってね」

 

体を動かす、どうも凄く濁らせたワードに美鈴は嫌な予感を感じる

別に体を動かす程度なら室内でも出来るのだ、そのぐらいの空間であれば咲夜の空間湾曲で作り出す事は出来る

 

では、何故外に出てきたのか

 

「勝負よ、美鈴」

 

それを聞き、八雲はどうしたものか?と考える

 

「弾幕ごっこでは私に勝つ目はありませんよ・・・」

 

近距離型の美鈴と遠距離のパチュリーでは特性が大きく違う

近距離型の課題は、どうやって接近するかに尽きるのだが、手の内を全て知られているパチュリーに美鈴が有効打を当てる方法が存在しないのだ

しかし、それはゲームに乗っ取ったものだと、パチュリーも承知している

ルール上、美鈴よりもパチュリーの方が有利というだけであって、実践では大きく変わる

戦闘において、理論的ではないが有効なものも存在する

 

――――『捨て身』

 

防御を度外視した場合、美鈴でもパチュリーの魔法の壁を突破する可能性も大いにありえる

一度、美鈴の繰り出した捨て身の攻撃をパチュリーは見ている

そんな猛攻に晒された場合、勝つか否か。

パチュリーはそれが少し気がかりだった

 

「違うわ、勝負は実戦形式。当たったら負けではなく、降参したら負け、でも致死性の攻撃は禁止よ」

 

それを聞き、美鈴の口角が上がる

 

「では、いくら耐え忍んでも構わないと?」

 

「全てに耐えられたら私の負けよ、その時は降参するわ。もちろん攻撃してきても構わないわ」

 

「ですが・・・」

 

「もし怪我をしたら私の付き人が治してくれるから遠慮はいらない」

 

付き人、そうしてパチュリーが指差したのは八雲だった

 

八雲には治癒獣魔が居るため、多少の怪我は問題にならない

 

その治癒性能は美鈴も承知済みだ

 

「判りました、そういうことでしたら受けて立ちますよ!!」

 

まさか美鈴がOKを出すとは思わなかった八雲は天を仰いだ

 

今日はいい天気だ。

 

まさかとは思うが、今日は雨が降らない事を願おう

 

昨日みたいな、ナイフの雨は御免だと、眩しい日差しの中に溜息を吐き出した。

 

 

 

そうして始まった勝負

それを眺めていた八雲も少し考える部分はあった

 

体術では美鈴が負ける事はないだろう、接近戦に持ち込んだ時点で勝負は決すると言っても過言ではない

 

しかしスペルアサルトでは大きく変わる、潤沢な種類の魔法と呼ばれる能力で、美鈴の接近をパチュリーは許さない

 

八雲の転移の様な能力でない限り、パチュリーに接近戦を挑みに向かうのは無謀であろう、十中八九、魔法による迎撃をお見舞いされる

 

しかし、相手が防御に特化した場合、どうなるだろうか?

 

そして更に付け加えるなら、パチュリーは禁止事項に飛行の禁止を付け加えた

 

高速移動が出来ないパチュリーにとってこれは大きな足枷となるのだが、美鈴へのハンデ・・・ではない事は重々に八雲は認知している

 

試したいのだろう

 

「では、ルールはさっきの通り、どちらかのオーバーアタックや危険とみなしたら俺が止めるから、そのつもりで」

 

八雲が二人の間に入り、そして宣誓

 

「はじめ!」

 

先制したのはパチュリーだった

 

両手から火球を作り出し、それを複数個美鈴にむけて放った

もちろん、弾幕ごっこであれば禁止級の威力だが

 

「ふんっ!」

 

軽々と美鈴はそれを拳で粉砕して見せた

 

熱くないわけはない、しかし接触しているのがほんの一瞬であれば熱はそれほど感じない

 

一瞬で拳を叩き込み、熱を感じる前に拳を引き戻している

 

その拳圧だけで、魔法で作られた火球は爆ぜてしまう

 

「・・・」

 

トテトテと後退していくパチュリーに向かい、美鈴は足に気を集中させる

 

そして、あっさりと、さらりと、あっけなく勝負は決した

 

「これで魔法は使えませんよ」

 

飛び込んできた美鈴の迎撃用に更に放ったパチュリーの火球を軽々と拳と足で叩き落し、かなりあった二人の距離は一瞬で縮んだ

下がっていたパチュリーだったが、逃げ切れずに右腕を美鈴に掴まれた

 

近距離すぎる

 

八雲はそう思うが、特に焦る様子もなく行く末を見守る事にした

 

近距離すぎるというのは、魔法の有効射程の話だ

 

火炎魔法だろうが、冷却魔法だろうが、これでは美鈴を攻撃すればダメージがまるまるパチュリーにも及んでしまう

 

故に魔法は使えない

 

・・・と思ったのだろう。

 

少し考えれば判っていたであろう、少なくとも外から見ていた八雲は、今のパチュリーの腕を掴むなんて行為はしないだろう

 

明らかに誘われている、近距離戦が苦手なパチュリーがそんな愚を犯すはずがない。

 

少なくとも最初に弾かれた火球を見て、その敵が突撃体制でいる事を理解した上で、パチュリーが再度火球を迎撃目的で使用するだろうか?

 

そんな筈がない、パチュリーがそんな悪手を選ぶ戦士ではない

 

「捕まえたつもりでしょう?」

 

パチュリーは笑っていた

 

美鈴が遠慮して攻撃できないでいるのも、彼女にはお見通しだったのだろうか?

 

ボソボソと、パチュリーは呟いていた

 

それを聞き漏らさなかった美鈴は顔色を変えた

 

『これは・・・!!』

 

危険を察知した美鈴は、即座に手を離し・・・一気に10メートルほど後ろに跳躍した

 

「流石ね」

 

着地して、美鈴はパチュリーを観察した、こんな魔法は見たことがない

 

いや、こんな魔法を作り出す彼女ではない

 

「初見でこれを避けるのは無理だと思っていたわ」

 

ふふふと笑う彼女の両手は、最初の火球の熱を思い起こすほど

 

 

 

―――――熱く炎の龍が燃え盛り、美鈴を睨みつけていた。

 

 

 

 


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