東方不死人   作:三つ目

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やっぱり来たか・・・と、あの男の声が廊下に響く、あの男は逃げも隠れもしなかった
堂々と私達の館の廊下の真ん中に立っている
まるで私を待っていたみたいだ

「あの中で動けるのは君か、もしくはさっきの子だけだろうとは思っていた」
「あの子はフランドール、私の妹よ」
「い、妹!?」
「そう、酷くも愚かな・・・私の妹」

その愚かとは、レミリアの事か、妹の事か、それともその両方か
レミリアの表情からそれは推し量れないが、何か深い事柄があるのは間違いなさそうだと、八雲は察する

「もうこんな戦いは無意味だ」
「私には意味があるのよ」

レミリアは深く溜息を吐き捨て、呟くように言葉を紡いだ

「私は過去、とある人間に負けた・・・その時の屈辱を、私は片時も忘れはしなかったわ」
「プライドか?そんなものの為に」
「そんなもの・・・?」

レミリアは歯を食いしばる
異様に発達している吸血鬼の証、その八重歯がレミリアの口から覗いていた

「誇りを取り戻す事が、そんなに悪い事かしら」
「良い悪いじゃない、俺は無意味だと思うだけだ」
「それは貴方の勝手な認識でしょう、それを私に押し付けないで」
「押し付けているのはソッチの方だ」

八雲はただ静かに、レミリアに問う

「俺に何を重ねてる?」

レミリアは何も言わなかった

「それでアリスを巻き込んで、利用したのか」

流石に見透かされた様だ
随分と鋭い妖怪だと、レミリアは少しだけ感心した

「俺に重ねた誰かを倒して、そんな方法で君の誇りは取り戻せるのか?」
「・・・」
「そんな方法で保たれるほど安い誇りなのか?」

「・・・そんな訳が無いじゃないっ!」

「だったらもう止めるんだ、これ以上はもう」

意味が無い、その言葉にレミリアは頷けなかった

「まるで強者のセリフね、弱者の気持ちも知らないで、よくも軽々とそんな事が言える」
「君は十分強いじゃないか、少なくとも俺は一度負けてる」
「手加減されて勝っても、逆に侮辱だわ・・・馬鹿にしないで」
「・・・」
「〝今のまま"では勝てないのはもう分かってるの」

静かに、レミリアは語りだした

「私ね、少し後悔していた・・・貴方の影はまさに鬼神の様だった、あっという間に私だけでなく、私の従者達は軽々と手玉に取られてしまった。それを観たら手を出すべきじゃなかったのかもしれないって、ちょっと後悔した・・・。でもね、やっぱり私の選択は正しかった」

石化され、再生できなくなった右手が本来あった部分をレミリアは目で追う
そして残されている左腕を動かし、何かを確認する

「何が正しかったって言うんだ」

「やはり越えなければならないのよ、有象無象を、強きもの全てを私は越えなければいけない、そうしなければ私は〝家族”を護れないじゃない」

レミリアの精が爆発的に高まる
右腕を除き、既に彼女は完全なまでに再生を終えている
吸血鬼の不死性が彼女の力を元通りに復元していた

「紅魔館に居る者は全て私の〝家族”よ。妖精一匹であろうと、私を主としている以上、私は彼女達を護る義務がある!!それが王というものよ!!貴方を超えて、私はやっと王だと胸を張れる!!」

一体彼女の誇りとは何だったのか、八雲にもなんとなく理解は出来た
でも
それでも
家族を守るために、己の自信と誇りを取り戻す
それはただの勘違いだと・・・八雲は悟っている


「負けたままじゃ、いずれ滅ぼされる!!」

「それが、君の戦う本当の理由か?」

レミリアは少しだけ考え、八雲を睨み付ける

「答えるわけ無いじゃない」

その形相は、さすが夜の者と言うべきだろう
威圧感も、生半可なものではない

「・・・分かった、やろう」

八雲もその意思に折れた
しかしレミリアに言いくるめられた訳ではない
一度思い知らせるべきだと判断した
彼女の想うその考えの足りない物を正さなければならない、身をもって証明するためにも手を抜くなんて器用な真似は、藤井八雲には出来ない

「本気で」

パキっと八雲の篭手が開く
様々な術式が仕込まれた、ハーンの特別製の篭手が起動する

「いいわ、望む所よ」

対するレミリアも、左腕を水平に振るうと爪が異様に伸びた
先程のフランと同様、レミリアにも吸血鬼の基礎と呼べる武装は己が肉体に宿っている

「君となら、アンフェアじゃない」
「そうじゃないとフェアじゃないわ」

そろそろ、時刻は夜になる
彼女の本領
レミリアの世界
黒く塗られ始めた空は、レミリアには強大な味方となる
しかし、レミリアの目の前にいる化物は未だ本領ではない
さっきの勝利は、あくまで偶然でしかない
ここからが本来のレミリアの闘争になる

だがそれは藤井八雲にも同じ事が言えた
ごっこ遊びと称される、弾幕では本来の八雲の力は引き出されることは無いだろう
命のやり取り、それが八雲の置かれた世界
それだけが、藤井八雲に許された世界
藤井八雲が自ら身を投じた世界
そして、何かを護る戦いこそが、八雲の闘争を呼び起こす






決着

 

 

 

 

ありとあらゆる攻撃は意味を成さず、さながら子供扱いといった所だろう

 

「ハァッ!」

 

気合の掛け声と共に、レミリアは残された腕を使い、八雲に斬りかかる

 

精・盾(エナジーシールド)!」

 

対する八雲は、六角形のバリアを周りに展開させる、そして八雲のバリアとレミリアの爪が幾度と無く交差する

レミリアの爪は、何度ぶつかろうとも八雲のバリアの破壊には及ばない

どれだけ繰り出しても、全てが無意味という結果に結実していた

 

爆発(エクスプロージョン)!」

 

そして逆に、八雲の攻撃を、レミリアは受けきれなかった

どんな些細な攻撃でも、レミリアにはダメージとして残る

今も精の爆発の衝撃を残された左腕だけで凌ぐ

指は爆発のダメージで本来なら曲がらない方向に捻じ曲がり、五指の全ての骨が砕けていた

 

「ッ!!」

 

しかし怯まない

レミリアはまるで関係ないと言わんばかりに、その腕を振るう

八雲もそのレミリアの様子に気が付いていた

既に、その爪は役には立たず、ただの掌を利用した打撃攻撃と変わっていた

 

本来の弾幕ごっこであれば、ここで戦いは終わっていただろう

 

 

しかし、二人は止まらなかった

 

腕だけでは駄目だと判断したレミリアは足刀を八雲に浴びせようと、一度距離を取り、まるで射出された投擲兵器の如く速度で八雲を肉薄する

だが、軽々と障壁がレミリアの足刀を弾いていく、その蹴りも八雲には届かなかった

本気の状態での八雲が相手では、どれだけ速く動こうともレミリアの動きは捕らえられてしまう

軽く弾かれ、そのお返しと言わんばかりに獣魔を呼び出す

 

呼び出されたのは三本爪の獣魔

 

先程は簡単に避ける事ができたが、さっきと今とではその爪の速度も段違いであった

相手を負かす戦法ではない、相手を倒す戦法へと切り替えた八雲に、レミリアの眼にはもはや隙らしい隙は見て取る事はできなかった

 

腹部を三本爪に切り裂かれ、激痛でレミリアの動きが止まる

口からも大量の血液が逆流し、傷口からも大量の血液が滴り落ち続ける

 

「どうした?もう降参か?」

 

眼前の怪物のような妖怪には、小手先の技術など意味を成さない

遊びであれば勝機があった相手かもしれない

魔理沙よろしく、ごっご遊びの範疇であればレミリアでも八雲を倒す手段があるかもしれない

 

だが実践と遊びは大きく違う

 

予想はしていた、惨敗する未来の予見

さっきはその恐怖も在った

だが、今は違う

 

レミリアの世界

夜の世界

それがレミリアの身体を支えている

 

フランの怖がっていた顔

美鈴の倒れる姿、パチュリーの封印、咲夜の無力化

どれも、レミリアの背中を押すには十分な理由がある

 

それだけで、レミリアの精神は奮い上がる

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

絶叫とも取れる掛け声と共に、何度目かの突撃を八雲に仕掛ける

そして潰れた左手を再度八雲に向ける、その激痛を伴う決死の攻撃も無常にも八雲の作り出した盾が容易に弾いていく

 

「私は・・・私はッ・・・!!」

 

それでも、レミリアは盾を突き破り、八雲を捉えることを諦めない

 

「―――負けてらんないのよ!!」

 

「なっ!」

 

その光景は八雲も目を疑った

吸血鬼の本物の再生を、八雲は初めて垣間見た

 

レミリアの砕けた指は瞬時に再生し、その爪は先程と同様の切れ味を取り戻し

切り裂いたはずの腹部は、既に跡形も無く復元し、その爪を八雲に突き立てようとした

 

しかし、それだけの事

 

レミリアの爪は、八雲の盾を貫通出来ない、先程何度もその盾により防がれていた

当然今も軽々と弾かれている

だが、盾に接触出来ているという事は、八雲との距離は限りなく近いという事でもある

 

レミリアには一つ、八雲の影から課題を与えられていた

『狙った者を必ず貫くと言われる神の槍の模倣。速度は申し分ないが、当てるのであれば工夫が足りぬわ』

あの時はただ槍の速度だけで八雲に当てようとしたが、その軌道と投擲のタイミングを読まれて軽々と避けられてしまった

ならばその工夫こそ、レミリアへの課題

そして考え付いた、影からの課題への回答

 

「避けられるものなら避けてみなさい!」

 

失われていた筈の右腕の部分に、どこからか現れたコウモリ達が集まり、右腕を即座に復元させた

それはまるで假肢蠱(チィアチークウ)の様に。いや、それ以上の速度でレミリアの腕を象る

復活してフリーになっている右腕へ、急速に妖気を送り込み、その妖気を限界まで編み込み、とある槍を模倣する、それは神々の王が携えた究極の武具、狙ったモノを必ず貫いたという逸話を持つ神槍

その槍の名を、レミリアは口にした

 

「グングニル!!」

 

紅く輝く槍を眼前にして八雲は何が起きたのか判らなかった

事が起きたのはほんの一瞬

目の前のレミリアが槍を作り出し、投擲したと思った瞬間

 

その槍はレミリアの手元からだけでなく、八雲の視界からも消えていた

 

同時に、八雲の作り出した盾も貫通、破壊された

 

軌道が読めたとしても、投擲のタイミングが測られたとしても

どれほど先読みしていたとしても避ける事の出来ない

 

〝回避不可能の絶対距離”

 

レミリアはそれを考え、その絶対の間合いまで詰めていたのだ

今までのレミリアであれば、こんな戦い方は選択しなかっただろう

八雲の影との戦いで得た経験値が、八雲に牙を剥く

 

「がはっ」

 

そして投擲されたグングニルは狙い違わず八雲の心臓を捉え、突き破る

それだけでなく、極限の速度から生み出された衝撃波が心臓を突き破った後から八雲を襲い、まるで紙くずの様に体を吹き飛ばし壁に衝突させた

更には衝突した壁すらも破壊して、八雲の体を中庭へと弾き出されていった

 

その光景を目の当たりにしても、レミリアはまだ勝利を確信できなかった

 

『あれくらいで倒れるはずが無い・・・!』

 

レミリアは自分で作り出した壁の穴を通り抜け、中庭へと飛び出した

そして吹き飛んだ八雲を即座に見つけ出す

中庭の花壇の中に突っ込んだ様だ、その花壇の土と花がクッション代わりとなってしまっていた

 

まだ相手は健在だ

 

渾身のグングニルでも、まだ足りない

並みの妖怪であれば、再起不能か、一撃で殺せる自信はあった

八雲の心臓がある部分に大きな風穴を開けた、本来であれば必殺の技なのだが、相手が悪い・・・八雲相手に必殺という文字は存在しない、レミリアもそれを既に理解している。

レミリアが勝利するには、藤井八雲を屈服させるしか方法は無い

絶対に勝てないという諦めを、植えつけるしかない

 

「いってぇ・・・、なんて威力だ」

 

胸の真ん中から少し外れた部分、そこが完全な空洞になっていた

肺の片方も潰されている、冷静に外傷を分析しながら、八雲は体を動かそうとしたが、上半身を起こすだけでも痛みが八雲にのしかかる

 

痛みをこらえ、倒れていた八雲が体を起こすと同時に、レミリアは館から飛び出しフワリと八雲の前に着地する

 

「どうしたの?もう降参かしら?」

 

さっきの意思返しと言わんばかりに、勝ち誇ったような顔でレミリアは八雲を見下ろす

 

「いいから、さっさと来ればいい。今がチャンスじゃないか」

 

そんなレミリアを前にしても、飄々と八雲は両手を広げ『やれやれだ』といったジェスチャーまでしていた

 

「チャンス?そんなものどこにもないわよ」

「・・・」

「貴方のその妖気の昂ぶりに、気が付かないと思ってるの?」

「・・・はは、見抜かれてたか」

 

自傷気味に笑いながら上半身だけ起こして座り込んでいる八雲は、はたから見れば圧倒的に不利な状況にも見えなくない

だが手負いだとしても、不利な体制でも八雲が所有する手札は多い

この体制からでも、いくらでも相手を打倒する手段はある事を、レミリアは理解していた

 

獣魔術、スペルアサルト、転移

 

どれもがレミリアには脅威でしかない、一手違えば、次に地を舐めるのは自身になるかもしれない

レミリアの仕留める大振りを待っていて、そのカウンターを狙っている可能性も十分にある

まだ勝てた訳ではない、ならば確信も、油断も、全て排除するべき思考

現に八雲は闘う気で居る

まだ八雲からほどばしる妖気に衰えなど微塵も無い

グングニルが胸を、心臓を貫いたというのに

 

「もう一度貫いてあげるわ」

 

そう言い、レミリアはまた手に妖気を集中させる

 

対する八雲もやっと立ち上がる、すぐに立ち上がれないでいたのは痛みもあるが、自分の体のバランスが狂っていた事もある

いきなり自分の胸に巨大な風穴が出来れば、誰でも平衡感覚を失うだろう

だがそれも再生と時間経過で感覚を掴める

未だにアンバランスな平衡感覚と失血で足元がフラつくが、目の前の状況を打破するために八雲は立ち上がる

 

「家族を護る為、俺に重ねた人物を倒して、それで満足か」

「・・・満足なんて無いわ、安息があるだけよ」

「君一人で成す安息に、他の皆はどう思うだろうな」

「何が言いたいのよ」

「そんなものは只の自己満足だって言いたいのさ」

 

紅い風が吹き荒れる

レミリアの放つ妖気が、先ほど放ったグングニルの時よりも遥かに高密度なものとなる

 

「私は館の主であり、紅魔の王よ!王が民を護る事の何が悪い!」

「だから良い悪いじゃないんだよ、そんなのは矜持を盾にした理屈だ」

「理屈があって当然よ、私は家族を守る為に誰にも負けない!負けられない!!負けたままではいられない!!」

「君は護る側の事しか考えていない、護られる側の事を考えた事はあるのか?」

「・・・なによそれ」

「この館に居る全員は、君に護られたいと思っているって、本気でそう考えてるのか?」

「意味が判らないわ」

「君はその理屈で行動している、だけどそれは彼女達の事を無視しているだけだ」

「無視・・・?そんな訳がないじゃない!貴方に私の想いの何が判るというの!」

「分からず屋め!」

 

会話をしながらも、レミリアの妖気の収束は止まらない

 

更に紅く、更に濃く、更に輝く、神の槍が彼女の手の中に完成していた

 

「次は頭を狙うわ、そうすればもう無駄口も叩けないでしょう?」

 

「もう躊躇いはない、まだ続けたいなら・・・俺は全力で君を倒す!」

 

互いに、それ以上会話は無かった

 

レミリアは右腕に槍を持ち、体を捻り、限界まで引き絞る

 

八雲は手をレミリアへと向け、構えを取る

 

「グン――――――」

 

「出でよ―――――」

 

そして互いに、相手へと放つ

 

「――――グニル!!!」

 

「――――全ての獣魔!!」

 

互いに、意地の一撃を

 

 

 

 








レミリアの放つグングニルは、狙い違わず八雲へと向かった
その速度は幻想郷最速のあの烏天狗すらも大きく上回る
八雲の放つ全ての獣魔も、かつてアマラが委任され、使用したものとは大きく違っていた
それぞれが、それぞれとして、個が集まり、群れとなる
ただ集約された力の結晶ではなく、個が能力を使いあう

まず先行したのは被甲

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

咆哮と共に、その槍を両腕で掴み、それ以上進行させまいと食い止める

その瞬間、槍と被甲の間に衝撃波が発生した
到底止められる物でもない
その槍を掴み、食い止めるだけで被甲の装甲はヒビは入り、今すぐにでも砕けてしまうほどである。
だが被甲の破壊を阻止するように导息が被甲の背後から破壊された箇所を即座に修復していく。
そして遅れながらも四天精聖奉還が展開し、被甲にバリアシールドを展開する

―――それでもグングニルは止まらない

狙った獲物を必ず貫く神槍の、模倣。

模倣であれど、本物に及ばない通りは無い

狙いは八雲、ただ一つ

その結果を、その運命を果たすべく、槍の進行は止まらない

少し、また少し、槍がその三匹を圧倒していく

次第にグングニルは四天精聖奉還の障壁を押し始める、バリアシールドでは支え切れなくなった衝撃波が被甲を襲う

被甲の装甲にまた一つ、もう一つ、ヒビが増え始める

もはや导息の修復だけでは間に合わない、それを上回る威力でグングニルが被甲に迫る、この三匹では破壊されるのも時間の問題と言えた

『何故・・・どうしてなの!!』

だが・・・レミリアは焦燥感を隠せなかった、放った槍は八雲を貫けない・・・それどころかグングニルの進行が次第に、確実に弱まっていく
上回っていたはずだった、あとは互いの注ぎ込む力の優劣が勝敗を分けるはずだったのに

確実に、少しづつ・・・

レミリアの放った全身全霊のグングニルが押し返され始めていた

『どういう事なの!?私の方が・・・妖力の差では勝っているのに!!』

八雲の獣魔の中で、一番危険な存在を・・・レミリアはまだ知らなかった
もしその獣魔が本領を発揮すれば、世界をも滅ぼす可能性を秘めた、最弱で最凶の獣魔

「ホェェエエエエエエエッ!!」

―――哭蛹。

究極のごくつぶし。
どんな攻撃ですら弾き返す、最強の防御を誇る四天精聖奉還のバリアシールドに対して、グングニルの衝撃波が通った理由でもある
ある意味それは諸刃の剣、もし失敗すればグングニルの前に四天精聖奉還のバリアシールドから先に消滅していた可能性だってある

哭蛹はそのどちらも喰べていたのだ
グングニルの妖気と、四天精聖奉還のバリアシールドを

どちらも弱まれば、共倒れになるのは明白だった
共倒れになれば、八雲に軍配が上がる
それで倒せるのは四天精聖奉還のみであり、その後ろに控える被甲と导息にまで、グングニルの刃は及ばない

「うぁぁぁああああああああああああああ!!」

レミリアも、残された妖力を、夜の力で再生している分まで、全てを槍に送り込む

グングニルはその推進力を取り戻しつつある

またもやレミリアの槍が三匹を破壊する勢いを取り戻し始めた



『いける!このまま押し切れる!!』



徐々に、四天精聖奉還のバリアシールドの効力が薄れていく・・・

対するレミリアの槍は、レミリアの妖気にリンクし、その決意に応じるように更に威力を上げていく。
哭蛹に喰われる速度よりも、レミリアの注ぐ妖力が上回っている結果である
レミリアの槍は八雲の獣魔を凌駕した、後はあのバリアシールドもろとも鎧獣魔が吹き飛ぶのを待つだけ

だが・・・八雲が呼び出したのは

――――〝全ての獣魔”

「!!!」

レミリアはそれを見た瞬間、息を呑んだ
槍を止めているのは、あくまで防御系に特化した獣魔のみ
獣魔には攻撃に特化した種も多く存在している

白銀に輝く光龍がレミリアを睨んでいた

―――それも、二匹。

目が合った刹那、真っ直ぐに光龍はレミリアに襲い掛かる

思わずレミリアは両手を突き出し、龍の頭を掴み、光の龍に拮抗する
とてもじゃないが、防御に回すほどの妖力の余裕などない
肉体の再生と、吸血鬼という種の力で、二匹の光の龍を止めていた

レミリアの体が悲鳴をあげる

触るだけでも被害の出る光術、まして吸血鬼に対して光の属性は毒にもなりえる

昼なら耐え切れなかったであろう、だが今は月がレミリアを護っている

指の骨が砕けるたびに、即座に再生を行い、人外の力で二匹の光龍を食い止める

互いに退かないレミリアと光龍・・・その場を、次は爪の獣魔が介入してきた

またもや二匹。

三本爪と二本爪の獣魔が連携してレミリアに迫り

その刃は軽々とレミリアの両腕を切り落とす

斬り落とされた両腕が地面に落ちる前に、塞き止めていた光龍がレミリアの体の内側を交差するように通過した



「そ・・・んな・・・」


あっけなく、その瞬間は訪れた

この瞬間、八雲と紅魔館の戦いは―――終わりへと向かう




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