東方不死人   作:三つ目

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『・・・き・・・』

・・・

『お・・・・・・・・や・・・も』

・・・なんだ、俺は一体・・・

『いい加減起きよ、八雲』

暗い意識の中、俺はだんだんと意識が覚醒していくのが判った
この感覚、久しぶりだ

『なにを寝惚けておる』

寝惚ける・・・?あぁ、そうだ
確か、あの少女にやられたのか、俺は

『それ所ではないぞ、いい加減覚醒せい』

凄く懐かしい声が聞こえる
昔、俺を何度も助けてくれて、教えてくれた、俺の教師とも呼べる存在

貴方は・・・

『その話は後じゃ、意識を戻せ、良い物が観れるぞ』

良い物、か・・・
まだ鈍い頭を少しずつ回転させ、それを考えてみる
だが、何か嫌な予感がする

この人が言う、良い物とは大概こちらの意外な事ばかりしてきたような・・・

『えぇい面倒な奴じゃ』

視界が少しずつ開けていく感じだ
だんだんと光を認識出来るようになってくる

そこで確認した光景を観て、俺は何を言えばいいのか分からなくなった

館のほとんどは崩壊していて、まるで瓦礫の山と化している

そして、呆然として虚ろな吸血鬼と

気絶して倒れている門番の人

通路であったメイドさんも、何やら慌てた様子だが戦意を失っているようにも見える

被甲が呼び出されているみたいだけど、中に誰か居るようだ
この面子を見ると、中に居るのは、紫色の魔法使いだろうか

そして、誰だこの子は
虹色の宝石のようなもので彩られた羽を激しく揺らし、こちらを凄い形相で睨んでいる

そして俺は、体が痺れてまったく動けない
声すら出せない・・・
だが、俺の体の全てが、痺れて動けないはずなのに、勝手に動いている

この感覚、俺は憶えている
この感覚を、俺は知っている

「出でよ、土爪!」

呼び出したその獣魔を感じ、俺は仰天した

ちょっと待て!そんな精を使った獣魔なんか出したら!!

『黙って見てろ!』

土爪は虹色の羽を持つ少女に目掛けて突っ込む

「アハッ!!」

彼女の異様に伸びた爪が、土爪の爪と交差する
その瞬間、土爪が宙に舞った

そして彼女が右手を突き出し、その手を握ると

「ギィ!」

土爪の断末魔が聞こえる
一瞬のうちに土爪は木っ端微塵になり砕け散る

なんなんだ、あの力は・・・

『破壊の力、理から外れた力じゃよ』

破壊・・・
かの破壊神を相手にはしたが、こんな風な直接的な破壊は無かった
例え不死身でも、あんな風に砕かれてしまったら一溜りも無い

『ならば諦めるか?逃走できるなら脱兎の如く逃げるのか?それでいつまで逃げ切れる?そんな状況であの御方を護り抜けるのか?』

・・・
多くの質問だが、その内容は一つ

そしてその答えも一つだけ
その戦いは逃げられない、例え紙屑の様に倒されるだけでも俺は立ちはだかるだろう

『ならばこの場はお主の良い訓練所となるだろう』

まさか、この状況で代われって言うのか!?

『そのまさか、じゃよ。儂はもう疲れた』

ちょっと待ってくれ!俺は貴方に話したい事が山ほど――――――



『後で聞いてやる、この場を納められればな』


覚醒

感覚が体に引き戻される

まるでスイッチで切り替えたかのように、即座に切り替わる

 

そして体の調子を最優先で確認する

やはりあの人は凄い

ここには俺が相手をしたほとんど全員揃っていている、恐らく全員を一斉に相手にでもしたのだろう

そして倒れた者もいれば、戦意を失った者もいる

そんな乱戦で、体の再生をしっかりと行い、なおかつ精もある程度は回復するように立ち回っていた

きっと最初から俺と交代するつもりだったのだろう、最高の調子で俺に引き継ぐために

 

体の方は問題ないが、状況の方は最悪の形で引き継がれたみたいだが・・・

 

「お姉様達の仇討ちよ!!」

 

「・・・っ!」

 

仇もなにも、俺はなにもやっちゃいない・・・なんて言い訳が通用するはずは無い

俺の意思でやってなかったとしても、俺の体がしでかした事なのだから

 

しかし・・・何をしたのかすら記憶もしてないんだけど

 

「・・・やるしかないのか!?」

 

彼女のさっきの破壊の力を見ている

あれは怖ろしい能力だ、もしもあれに当たる事があれば

 

俺はきっと負けるだろう

 

本来であれば、考慮にも値しない

さっさと白旗を揚げて、事情を説明すれば、この少女の怒りも収まる可能性もある

 

だが、さっきの言葉が俺の頭に過ぎる

 

 

『ならば諦めるか?逃走できるなら脱兎の如く逃げるのか?それでいつまで逃げ切れる?そんな状況であの御方を護り抜けるのか?』

 

 

逃げの一手、それだけで護れるほど全てが甘くはない・・・そんな事は判っている

だけど何があっても護り抜くと誓っている

これがその訓練だと言うのなら、甘んじて受けよう

 

・・・甘んじて受けるけど、終わったらタダじゃおかないからな!!

 

「出でよ!闇魚!!」

 

掌から闇魚が出現し、それを観たフランはまるで子供の様に喜んでいる

 

「凄い!まるで動物園みたい!!」

 

魚を見て動物園と言う表現もどうかと思うが、彼女から見れば大差はないのだろう

彼女の眼には、闇魚は魚介類ではなく、一種の妖怪にしか見えていない

 

そしてコレが応用術

 

「埋め尽くせ!!」

 

闇魚の膨張

本来であれば、精の無駄使いでしかないが、彼女に対してこちらの的を絞らせるわけには行かない

さっきの土爪を破壊した力がヒントになった

恐らくこちらを視認して発揮するタイプの力だろう

視認されれば容赦なく彼女は俺の破壊を行う、そうすればもう戦闘どころじゃなくなる

ならば、それが出来ないぐらいの囮を用意するか、もしくはその視界を奪えば良いだけだ

 

彼女の周囲を、巨大な闇魚が泳ぎ回る

 

何も視認させない闇の壁

それを八雲とフランの間に立ちはだかる

 

しかし闇の壁は、彼女には何の役にもたたなかった

 

「邪魔」

 

期待していた闇魚の壁をギロリとにらみつけ少女が手を握ると一瞬のうちに闇魚は破壊され

赤く輝く瞳が、俺を闇の奥から睨みつける

 

破壊の能力。

それを目の当たりにして、冷や汗が流れる

反則的だ・・・コレはあってはいけない力。あの人が理から外れた力と呼ぶのも頷ける

 

「お姉様に、みんなに、一体何をしたの!?」

 

八雲は何もしていないのだが、それを説明する手段が無い八雲には、黙るしかない

自分じゃない誰かが勝手に自分の体を・・・なんて言い訳にしてもならない

 

「・・・」

 

「何も言わないの?それとも言えないの?」

 

言えない、が正しい

意識を失っている最中の事を説明しろと言うほうが無理なんだから

何も言わない俺を観察すると、少女は首をかしげた

 

「ん?なんなの?不思議」

 

「不思議って、何が」

 

「私の能力・・・の応用なんだけどね。〝目”が見えたり判ったりするんだけど、アナタの〝目”がさっきと全然違うの」

 

「目・・・?」

 

「壊れやすい目、節目みたいなものだよ。それを集約すればどんなモノでも簡単に壊せるのよ。人でも、妖怪でも」

 

例え話にしては怖い事を言う

異能の能力というのは、得た者に与える影響と言うものがある

それは自身だけでなく、その周りの環境でも大きく左右されてしまう

万能感を得て、優越感に浸り、道を踏み外してきた者達を・・・俺は嫌でも多く見ていた。

だからこそ判る

今、目の前にいる少女もその一例にすぎない

能力に溺れている訳ではないが

能力に振り回されている

それを支えるものが、支えてくれる助けが、きっと彼女には無かったのだろう

染まりたくて染まった訳ではない

 

さながらそれは、狂奔する狂気

 

コントロールなんか出来るはず無い

 

「本当に何でも壊せるのよ、幽霊でも、魂でも、命でも・・・!!」

 

『しまった!』

 

自身の選択ミスに内心で舌打ちするも、既に遅い

少しでも会話をして彼女の狂気を抑えられればと思っていたが、どうやら逆効果だったようだ

彼女はその右手を突き出し、俺へと目掛けた

確殺の間、必殺の瞬間が確かに在った

 

しかしその手を、彼女は握る事をしなかった

 

「・・・え?・・・なに?なんなの!?」

 

俺以上に、彼女の方が動揺していた

 

「なんなの!?イヤ!!そんなの!!」

 

途切れ途切れの彼女の絶叫とも捕らえられる声に、俺は少し気になったがチャンスであることは間違いない

即座に彼女から離れようと、ほぼ半壊している屋敷の通路を探し、廊下へと転がり込むように、俺は一時撤退する事にした

 

 

 

 







彼女は間違いなく、八雲を壊そうとした
彼女の能力はモノの目を掌に集約し、それを握り潰すだけで対象を破壊するという狂気の力
その対象は有機物だけでなく無機物にも、魂と言う形の無いモノですら有効という規格外の能力

彼女の狂気、その能力の影響で植えつけられた狂気に任せた行動が彼女の大きな失策に繋がった
八雲の破壊だけであれば、彼女は何を感じるまでもなく軽々と勝利出来たはずだった
八雲の足、腕、そして頭を砕け散るように破壊するだけなら、彼女の能力で易々と出来る
だが、彼女の狂気が、その狙いを狭めてしまった

―――狙うは唯一

八雲の魂、八雲の〝命”

それを掌に集約するだけでいい

あとは握り潰し、破壊するだけの簡単な動作で・・・八雲を壊せる

あっけなく、藤井八雲は死んでいたはずだった

だが、何も無かった
伽藍の洞・・・まるで無限の闇を覗き込んだ感覚に捉えられた
八雲の体の中に、八雲の命というものが存在していなかった
アンデットというものはフランも知っている
キョンシーやゾンビやグール、そういったものがアンデットに属するのだがそれはある種、単純な行動だけをインプットされた機械みたいなものだ
なら、そのインプットされた呪いが、その種の命に近い存在になる
それを絶てば、アンデットであろうとも命を破壊できるのだ
行動原理を失い、起源を失った死者は、ただ動かなくなる

動く死体が動かなくなる、それはただの死体に戻るという事であり、アンデットとしての死に繋がる

だが、八雲にはそのインプットされた呪いすらなかった

命を持たず、呪いを持たず、しかし動いている

そんなデタラメに矛盾した存在をフランは知らなかった




「なにアレ・・・怖いよ・・・」

こんなに怯えているフランを見るのは初めてかもしれない
今のフランからは、狂気が薄れていた
それを大きく上回る恐怖が、全てを上書きする

「・・・フラン?」
「・・・お姉様・・・今の、ナニ?何だったの?」

『今の』そう形容されているのは、あの男の事だろう
私よりも過敏な能力を持っているが故に狂気に染まった、我が妹
それ故に幽閉しなければならなかった、我が妹
それは私以外の屋敷の者を護るために行わなければいけなかった、私の枷

そして我が妹の運命

「何が見えたの?」

怯える妹に、私は優しく問いかけた

「何も見えないの・・・怖い、アレは凄く・・・怖いよ」

「何が怖いの?」

「何も無いの・・・破壊できるモノが・・・中に何も入って無いの!!」

何も無い、それにどんな意味があるのか今の私には推し量る事は出来ない
ただ今は、怯える我が妹の頭を撫でてやる事にした

「もう大丈夫よ、私が居るわ」
「・・・お姉様」

少し、落ち着いたのが判る
それだけで、私も安心出来る
まだこの子は平気だと、大丈夫なのだと

私が安心出来る

「咲夜」
「はい、ここに」
「あの男は、どこへ行った?」
「あちらの廊下から、ですが逃げた訳ではないようです」

「そう」

ただそれだけを残して、私はその先へと、進んだ

「お嬢様!」

呼びかける我が従者、でもそれは私を止める物ではないとその声色から判る

「ご武運を」

「誰に言ってるのかしら?」

敗北する恐怖
誰が上で下か、それを認めたくない消失感に苛まれていた
それがさっきまでの私だった

でも今は違う

妹を怯えさせてくれたお礼は、きっちりと私の手で付けさせてもらうわ




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