東方不死人   作:三つ目

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「はああああぁぁぁぁ!!」

彼女の豪快な気合と共に、またもや内に溜めた精を爆発させる

渾身の一撃が八雲に向かって放たれる

彼女は既に手加減と言うものをしていない
全身全霊の精を全て攻撃にのみ注ぎ込んでいる
当たれば必殺。二の手は無い

だがそれは武術の領域ではなかった

彼女は、美鈴は、防御を完全に無視していた
行ったら行ったきり、避けられれば反撃かカウンターで即死すらある捨て身に近い攻撃
精を全て攻撃にまわしている、獣魔術でなくとも簡単なスペルどころか、ただの打撃ですら当たり所次第では大打撃になりえる

この状況を見逃すほど、八雲は甘くは無い

しかし、そんな美鈴を刺す事が出来ないでいた

『しない』ではなく、『出来ない』のだ

美鈴の突進に近い飛び蹴りを避わすと同時に反撃を加えようとすると
咲夜がそのタイミングを見逃さず、反撃を加える前に八雲本人だけではなく、進行方向をも塞ぐようにナイフが飛び交ってくる

ナイフは別に脅威では無い、刺さったとしても致命傷は無く、ダメージを負う程度だろう
所詮はすぐにでも再生できる程度の傷だが、それをあえて避けていた
余計なダメージを極力抑えるように、八雲は立ち回っている

そんな事をしていると、美鈴がまた精を溜め込み、再度突っ込んでくる

美鈴を迎撃しようと構え、術を扱おうとすると

今度はパチュリーの眼が光る
八雲の術の全てを扱わせんと言わんばかりに、彼女は八雲に向かい魔法を宛がう
何か獣魔術を使う素振りを見せると、様々な術で即座にそれを潰しにかかる
パチュリーの攻撃を防ぐ手段が無い為、ここは多少被弾しようとも、仕方無しに八雲は美鈴の迎撃を諦め、回避に専念する
今はパチュリーの術よりも優先度が高いのは美鈴だ
目前にまで迫っている美鈴を対処しなくてはならない、最悪でも彼女の攻撃だけは何とかしなければいけない

彼女の一撃は、必殺なのだから。

とても良い組み合わせだと八雲は感心した

前衛は機動力と破壊力に優れているが、防衛力は皆無と言って良い
しかしそれを後衛がカバーしている、前衛の動きを完全に把握していなければ『こう』はいかない
そして、中衛の動きも良い、敵の動きに先回りをして塞き止める、そして前衛が攻めやすい場を作り出す

だがこれはコンビネーションではない
連携ではなく、カバーリングとスタントプレイだ

美鈴は突貫をしているだけで、後ろの二人のことを何も考慮していない
前衛は後ろの支援のタイミングを読んでこそ、その機動力を存分に発揮でき、なおかつ強打を与える事が出来る

咲夜は支援に意識し続けているようだが、前に立つ美鈴に神経を使いすぎている
共に立っているパチュリーの事を考えていない、ただ美鈴にナイフが当たらないように遠慮している

パチュリーはこちらの動きに敏感であり、美鈴と咲夜の支援内容も申し分ない
だが圧倒的に体力が足りていない、もう息切れしている。そして一番場を見れている者なのに、ただ奔走する前衛と後衛を纏める事を出来ずにいた

まだまだ荒削り。

三対一なのだ、常に必殺を狙わずとも良い、追いたて、追いかけ、追い詰め、主要な場面で決めればそれでいい、当たれば勝ちというのは心に慢心を生む、相手が何も出来ず逃げるているだけと思い込んでいる内は特に扱いやすい

これでいい、後はどうにでもしておこう

あの莫迦者が目を覚ました時、その時が本番じゃ


自信喪失

美鈴、咲夜、パチュリー、この三人の中で危ういのはパチュリーだ

戦闘においての感性は申し分ない、それに支援という点において彼女の能力は十二分に発揮されている

しかし、体力が圧倒的に足りていない

飛び回り、跳ね回る美鈴と比べて、パチュリーの動きは無と言って良い

魔法を扱うのに精一杯というほどではないが、どの魔法を扱うかという事を思考しつづけている

 

そして最適の魔法を、絶好のタイミングで叩き込む

 

彼女が機能し続ければ、戦いの流れを常に掴めるであろう

 

彼女がこの場を纏め上げている、でなければ既に美鈴は倒れ、咲夜は孤立していた

重要人物なのだ、この場において、彼女の能力はとても有能

 

にも拘らず

 

何度目になるであろうか、パチュリーが炎の壁を八雲と美鈴の間に作り出し、八雲の眼をくらませる

その壁を割るように、美鈴の突貫に近い攻撃が八雲に飛び掛る

それを回避する同時に、またもやナイフが幾重にも飛来する

 

美鈴にかけられている、この支援を彼女は受けられない

 

咲夜にもある程度の機動力があり、さらには時間停止まで備えている

彼女を捕らえる事は、雲を掴むより難しい

 

加えて、美鈴に掛けられた支援も強力無比、あれを突破するには多少の被害も覚悟せねばならない

 

その二人に比べ、パチュリーは・・・

 

八雲は腕を突き出し、印を取る

観察していたパチュリーはその違いに即座に気が付く

 

『獣魔術ではない?』

 

印を必要としない獣魔術とは違い、指で象っている

意味があるとするならば、警戒しなければいけない

 

人差し指を伸ばし、中指と薬指を折りたたみ、小指を伸ばし、親指は中指と薬指の間に支えるように添えられている

 

无は、主の危機に反応し無限の力を得る

それは闇の怪物であれば、誰でも知っている脅威の象徴でもある

三只眼に手を出してはいけない、さすれば无が己を殺しに来る

無限の命、無限の精、無限の体力、そのどれもを備えた怪物が生まれる

しかしそれは无でなければ体感する事はない

だがもしも、无でない者が、无の再生能力の片鱗だけでも得る事があるなら、思うであろう

 

『無限の力を得た』と

 

八雲の中の人物も、同じ感想を述べるであろう

 

『自身の絶世期とは比べ物にならぬ精を感じる』

 

――――と。

 

呪蛇縛(スペルスネークバインド)!」

 

八雲は宣言した瞬間、八雲の手から無数の蛇が現れた

その術は相手を捕らえ、身動きを封じる術ではあるが、多少の攻撃力も加えられている

とはいえ本来であれば直接的な攻撃の術ではないため、それ程多くの蛇を出す事はない

多くて6匹がいい所だろう、それで捕らえられないならば、それ以上出しても効果は薄い

それは良く理解しているにもかかわらず、彼はありったけの蛇を呼んだ

 

ゾブリと、異様な音を立てて蛇が溢れ出す

 

その数、およそ50匹

 

精の無駄使い、本来であればそう思うだろう

だが、湧き上がる无の精を感じ取り、このくらいなら即座に再生すると確信していた

美鈴は問題ないだろう、この程度の術であれば容易く拳や蹴りで蛇を撃退出来る

咲夜も同様、時間を止めて軽々と避けていくだろう

だが、彼女はどうするだろうか?

ニヤリと八雲の口元が綻んでいた

 

パチュリーは魔法を選択して使用するが、数が多すぎる

多勢に無勢、あらゆる方向から迫る蛇に翻弄されるも必死に避けていたが

 

 

ついに捕まった

 

右足に絡まりついた蛇を凍結させ、砕きながら振りほどく

だが、そんな事をしているうちに次々と蛇が押し寄せる

 

右腕に絡まりつき、左足にも絡まる

残された左腕を使い、右腕の蛇を破壊しようとしたが

その魔法が発動する前に、左腕も蛇に捕らえられた

 

「パチュリー様!」

 

咲夜がなんとかしようと時を止める

 

時を止めた

 

時を止めている

 

時を止めたはずだ

 

ありえるはずが無い、ありえてはならない

 

 

「意外、であろう?」

 

 

心を覗かれたような、そんな感覚を咲夜は覚えた

 

 

「何度も観た、流石に『憶える』わ」

 

『なんと言ったの?憶えた?憶えたと言ったの?』

 

停止している時、美鈴、パチュリー、レミリア、あの蛇の全てが停止している

だが、八雲は動いていた

 

 

「お主には加減はせん、その力は厄介じゃ」

 

 

動けるはずが無い、動いていいはずがない

にもかかわらず、八雲はレミリアと同様に跳躍し、一瞬のうちに咲夜に飛び蹴りを浴びせた

 

「かはっ!」

 

肺の中の空気が押し出され、咲夜は吹き飛び、壁に叩きつけられる

 

叩きつけられると同時に時間停止は解除され、蛇が集まりパチュリーを締め上げた

 

「パチュリー様!!さ、咲夜さん!?」

 

瞬く間に変わった状況に困惑している美鈴だが、八雲は待たない

 

「出でよ!被甲!」

 

鎧獣魔を八雲は呼んだ

それは自身を守るためではなく、自動操作で扱うのでもない

 

被甲がパチュリーを覆っていく

 

「なによ、これ!」

 

身動きの取れないパチュリーはその状況を見ている事しか出来ない

やがてパチュリーは被甲に覆われ、その無類の防御力を得る

 

しかし、動かない

 

動かせない

 

被甲が動こうとしない

 

それは、鎧で作られた牢獄のような物

パチュリーはその鎧に封じられた

 

「パチュリー様!!」

 

その鎧に、美鈴が近づいた瞬間

被甲が動いた。

その鋭利な爪を、美鈴に向けて振るう

間一髪でそれを避け、美鈴は被甲との間合いを開ける

 

「ガアアアアアア!!!」

 

その姿はまるで威嚇だった

しかしそれだけで、そこから被甲は動こうとしない

動く鎧に捕らわれたパチュリー、美鈴であれば外部から破壊できようものだが

もし鎧を破壊した時、中に居るパチュリーがどうなるか、それが判らない為に不用意に攻撃など出来ない

内側からの破壊も絶望的だ

内側から魔法で破壊しようものなら全てのダメージがパチュリーに跳ね返る

被甲の能力ではないが、こんな狭い空間で魔法を使えばどうなるか、誰が見ても明らかだ

 

「これで一人目」

 

残りは拳法使いと時間停止の能力者

 

美鈴は踵を返し、捕らわれたパチュリーは一時置いておき、八雲へと向かい合う

美鈴が近づかない限り、被甲は動かない

であれば、相手をする必要も無い

今は、八雲との一騎打ちを視野に入れる

 

「よくもパチュリー様を!!」

 

「いや待て、まるであの紫の少女を傷つけた様な言い方をするでない」

 

「問答無用!!」

 

怒りが込められている口調だが、その声色はそうでもない

むしろ楽しんでいるようにも聞こえる

 

先ほどとは違い、拳法だけではない様だ

三人一組ではなくなった事もあるのか、美鈴は弾幕を使い始める

 

七色に輝くその弾幕は八雲を魅了した

しかし、その密度にも、威力にもパチュリーには及ばない

 

「他愛ない」

 

八雲はどこからか剣を呼び出した

曲線が多く、片手で振るう事は難しいであろうと思われる大剣だが、八雲はその大きさを感じさせないほど易々と片手で振るい弾幕を切り裂いた

その弾幕の奥から、またもや美鈴が仕掛けてきていた

 

先ほどのパチュリーの真似事でしかないが、なかなか理に適っていた

 

近距離タイプの特性上、接近しなければ話にならない

かといって何も無しに突撃しては、迎撃してくださいと言っている様なものだ

それを先ほどのパチュリーから学んだのであろう

彼女なりに考え、学んだようだ

 

ならばもう思うところは無い

 

新たな課題を見つけるまでは十分だ、何もこちらから課題を与える事は無い

 

八雲は剣を投げ捨て、美鈴の拳を掌で受け止める

 

周囲に衝撃波が走るほどの威力であったが、美鈴も八雲も均衡し、その姿勢から崩れない

 

「出でよ!雷蛇!」

 

そして零距離の雷蛇を呼ぶ、八雲を中心として、その周囲に電撃を撒き散らす

当然八雲にもダメージがあるが、美鈴に確実に通せるダメージでもある

 

突然の痺れに、美鈴は怯んでいた

 

同じダメージ量であれば、无の方が再生能力が高い分、有利となる

 

「・・・っ!」

 

美鈴は僅かに声を漏らし、その雷撃に耐えた

しかし、防御面に精をあまり注ぎ込んでいなかったのが仇となり、美鈴に帰ってくる

まさか、自爆覚悟での電撃攻撃など予想していなかった

 

无ならではの戦法と言って良い

 

八雲の中の者も、生身の肉体であったときはこんな戦法は選択しない

そして八雲はゆっくりと美鈴が止められる速度で拳を放つ

痺れている美鈴に、当然それは受け止められるが、問題は無い

 

「雷蛇!」

 

二度目の電撃攻撃

今度は触れている拳から直接電撃を流し込む

その衝撃に真上を剥いた美鈴の口から、比喩ではなく本当に湯気が立ち上っていた

 

「悪いが、お主と拳法で争う気は毛頭無い」

 

美鈴はその口を閉じ、歯を食いしばる

反り返った上半身を急速に元に戻し、またもや右の正拳を繰り出す

 

それを軽々と八雲は避けた、その正拳には先ほどのような鋭さは無い、まるで最後の力を振り絞った後のような、そんな力の無い正拳

 

八雲は美鈴の額に、軽くコツンと手の甲を当てた

 

「・・・」

 

美鈴はもう動けなかった

いや、動かなかった

まるで電池が切れた様に、動かない

 

「飽きれたものじゃ・・・、精を防御に使わず電撃を耐えるとは、その耐久力があるなら次は攻撃だけではなく防御に重点を置いてみるとよい、お主であれば門だけでなくお主の守りを突破できる者は少なかろう」

 

倒れそうな美鈴を八雲は抱え、近くに寝かせる

 

「次があれば、また教えてやろう」

 

さてと、と八雲は残りの一人を見据える

王手をかけるための、最後の砦

 

十六夜咲夜

 

彼女が一番面倒だ

八雲は彼女の停止した世界を『突破できない』

もう一度言うが、八雲には時を操る能力は無い、そして中に居る者にも扱えない

しかし、『対処法』はある

その恐怖心を煽り、彼女が怯えれば、それがそのまま勝機になる

 

その肝心の咲夜は、やっと壁から這い出し、襲い掛かってくるダメージに顔を歪めつつ、先に居る八雲を見つめ、状況確認をする

 

あっという間に、美鈴も、パチュリーも、まるで赤子の手を捻るかのごとく倒された

 

「一体・・・どうやって・・・」

 

「言ったじゃろ、憶えたとな」

 

一歩、八雲が咲夜に近づく

それだけで、咲夜には異質な恐怖を感じ

 

――――時を止めた。

 

その止まった世界で、本来なら動けるのは咲夜だけの筈なのだ

 

しかし、八雲は止まらなかった

 

また一歩、もう一歩、歩みを進める

 

それが咲夜には恐怖でしかなかった

 

死んでも止める、彼女は確かに八雲に言っていたが、それはどこか自分のアドバンテージに依存していた

それが崩れたとき、どうしていいのか分からない

ただ、止まった時の中を歩んでくる八雲を見つめる事しかできなかった




ナイフは既に死んでいる
何度も刺した
何度も、何度も、何度も、刺した感触がまだ手の中に生々しく残っているくらいには刺した
それでも、彼にはなんの意味も成さなかった

だから時を止め、私はどうにかしようとした

どうにか、どうにか?どうにかしようって、何?

「それこそがお主の考慮しなかった想定外の世界」

彼は止められない、止まらない

なら、私に何が出来るのだろうか

ナイフも効かない、弾幕すら有効でない相手に、どう戦えばいいのだろうか

「お主ではもう勝てぬ、諦めよ」

諦める、諦め・・・

それでいい筈がない

諦めるとは捨てる事だ

一体何を捨てるのか、そんなのは決まりきっている

それはレミリアお嬢様を・・・じゃない

私自身の存在意義を捨てる事だ

それだけは捨てる訳には行かない


捨てたくない!!


「じゃが、何も出来ん、無力なものじゃ」

その通りだ、私に彼を止める術はない

「お主は強靭無比な力を持っておるのに、腐らせている」

そう、それを痛感している

「足りぬものはもう分かった、ようじゃな」

既に手は何も残されていない

「・・・・・・」

歯を食いしばり、考える、何でもいい、何か無いか・・・
考えても、残された手札では何も出来ない事を痛感する
せめて自爆技でもあれば、少しは清々しただろうか

「いいや、お主は良くやった、今回は相手が悪かっただけじゃよ」

「・・・」

「それに、何も出来ないのと、何もしないのでは大きく違う」

「・・・」

いいや、同じだ、結果は何も変わらない

「そんな事はない、確かに結果は同じでも、その道程は違う」

思考まで読むのか、本当に化物のようですね

「別に思考など読めんよ」

彼は呆れたように首を横に振っていた

「今まで何もしていなかっただけ、故にこの結果なのじゃ」

「・・・」

「これからは異なった結果になるじゃろう、お主の意思で『しない』をまずは『出来ない』に変えてみよ」

そんな意志の力で、まるで悟りの妖怪染みた事や、私の時間の中にまで入ってくるのか・・・
ふざけた話、酷いくらいに理不尽・・・

「まぁ・・・ぼちぼち頃合かのう」

八雲は言った、時を動かしてみよ、と

最早止めている意味も理由も無くなった



私は、時を動かした



その瞬間、目の前に居たはずの彼は消え、別の場所から現れた

いや、違う

あの場所は、私が時を止めた時に彼が居たはずの場所

どういうことだ?

「ようやっとお目覚めか」

お目覚め・・・?私は・・・一体何を・・・

「幻術を仕込ませて貰った、お主が時を止めれば、その瞬間発動するようにな」

幻術・・・?あれが?
初めて、本物の幻術を体感した
大抵は幻を見せるモノである筈の幻術
所詮は子供騙しに近い術でしかないはずなのに
先程、時間を止めた時、幻は私を攻撃してきた
そのダメージも、しっかりと未だに残っている
霞の様な幻ではなく、質量を持った幻とでも言うのか
それがとんでもない上級魔術なのだというのは、素人の私にでも判る

格が違いすぎている

ナイフも効かない、時間停止も惑わされた

状況を確認するために、私は辺りを見回した

パチュリー様は、鎧の化物に捕らわれたまま未だ身動きが出来てない

美鈴は完全に床に倒れこみ、意識を失っている

お嬢様の戦意も、喪失されたまま

私は、全ての手札を剥がされ丸裸

これ以上、私達は戦えない

そう思った時

「なに・・・これ・・・」

聞き憶えのある声が聞こえた
その声の主の方へと、私は咄嗟に首を動かしていた

「・・・フランドール様、いけません!」

「咲・・・夜・・・?お姉様も、みんな一体どうしたの・・・?」

不安そうに、廃墟にも近い部屋を見渡すフランドール様の眼に、あの男が留まる

「あなた・・・ナニ?」

ただその一言に、フランドール様の怒りを感じる
戦慄が走る、それ以上の悪寒も感じる、このままではダメだ、止めなくてはいけない!

「ナニ、か。いきなり出てきて凄い事を言うものじゃ」

私は叫んでしまった

「逃げて下さい!」

この言葉は、一体誰に向けられて言ったものなのか、自分でも判らなかった
フランドール様に向けられたのか、それとも藤井様に向けたものか
もしくはそれ以外の全員に向けたのか

それとも、私自身に言っていたのか

判らないけれど、ハッキリしている事がある

「お姉様に、みんなに、何をしたの?」

「見て判るじゃろう」

「あ、そう・・・」

静かにフランドール様の手が上がる

「・・・しんじゃえ」

確かに聞こえた狂気の声、私はただ呆然と見守る事しか出来なかった

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