東方不死人   作:三つ目

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必死だった、それは書いて字の如く
必ず死ぬ、そんな場面

余力を残す余裕なんて無い、全力で防がなければ死ぬ

ありったけの魔力を振り絞り、法陣を展開する

そして最初の光術が法陣に触れる

「っ!!!」

気を抜けば容易に法陣が破壊されてしまう
更に魔力を注ぎ込むも、第二波、第三波の光術が襲い掛かる

『支えきれない!!!』

一部の光術が、法陣を突破してパチュリーに襲い掛かった

ほんの僅かな光術が軽く肩を掠めただけで、パチュリーの肩は焼けたように爛れる

『信じられない!一体どれだけ圧縮した妖力なの!!』

軽減してこの威力、もし真正面から当たりでもしたら・・・骨すら残さず灰になるだろう

『このままでは崩される・・・っ!!』

耐えきれないと判断したパチュリーは防御方法を切り替えた
元々張っていた法陣を放棄し、支えていた光術をプラズマに変え、方向を操り、それを逸らした

しかしまだ光術の余波が来る

法陣を手に集中させ、全身を覆っていた物よりも遥かに密度の高い法陣を両手に作り出す
しかし護れているのは両手だけ、身体は完全に無防備に近い状態

『面白い!全て防いでみせるわ!!』

今のパチュリーに、いつものクールな様相は無く
次々と迫り来る光術に挑んでいったのだった




決意という呪い

「・・・・・・・・・」

 

もう声も出ない・・・

 

酷くボロボロ・・・服も、魔力も・・・身体も・・・

 

完全に防ぐつもりだったけれど、やっぱ無理だったみたい・・・

何発かは掠ったり、弾き損ねて余波に当たってしまった・・・

 

いつ振りかしら・・・私が相殺でも、避けるのでもなく、防御の法陣を使ったのは・・・

いつ振りかしら・・・私がこんな痛手を負わされるなんて・・・

いつ振りかしら・・・私がこんなにも熱くなるなんて・・・

 

ほとんどの魔力をさっきの攻防で使い切ってしまった・・・

 

思い返すだけで、鳥肌が立つ刹那の時

拡散された一本の光術ですら、当たりどころが悪ければ死んでもおかしくなかった・・・

そんな異常の妖力の術を、よくもまぁ行使できたものね・・・

 

怪物・・・としか言えない。私よりもあちらの方が遥かに消耗しているはずなのに

それでも私と互角か・・・いいえ、それ以上・・・彼はまだそれでも少しの余力を残している

まるで魔力の泉の様ね・・・

無尽蔵の魔力、尽きる事のない溢れる魔力の源泉、永久機関とも呼べる至高の力

 

知りたい

 

その源は一体なんなのだろう?

 

どうしてあれほどの妖力を引き出して、まだ立っていられるの?

 

男だから、なんて言い訳は通用しないわ

魔力量に性別は関係ない・・・それは妖力量も一緒・・・

 

どうしても知りたい

 

あの術の真髄まで・・・

私はその片鱗に触れただけに違いないのだから

 

もっと、もっと、もっと、もっと・・・

 

でも、もう、おしまいね

 

今はもう、立っているだけでも・・・精一杯・・・

 

「楽しかった・・・」

 

久々だったわ、この私が裏をかかれるなんて

油断していた証拠ね、本来ならあれくらい・・・

 

いいえ、それは結果論だわ

例えあの攻撃を完全に防げていたとして、私に余力があったとしても・・・きっと次の手が来る

それを防いでも、更に次が来る・・・

経験が違う、遊びではなく、真剣勝負の実戦経験の違い

 

そして悪あがきとは違う、本当の意味の足掻き

効率だけを求めた結果で言えば、私よりも彼の方がよっぽど効率的

 

私は相手との属性相性効率で使用する手札を相手に合わせて選択していた

彼は今持っている手札で最大の戦果という効率を得るように選択をした

 

そこに生まれた差だ、その差が、この結果

 

とりあえず、私はここまで・・・

 

あとはあの二人次第だけど、どうなるかしら?

彼がこの程度なら・・・多分あの二人でも大丈夫でしょうけれど、気になるわ・・・

彼がその経験値を生かして死中の活を見出せるか否か、それだけが気になる・・・けれど・・・

 

・・・もう体が動かない・・・

 

体がもう・・・支えきれない・・・

魔力の使いすぎ・・・のようね・・・寒くて仕方が無い・・・

それに酷い怪我・・・私の法陣はそんなに脆くはないのに・・・容易く壊された・・・

 

凄く、だるい・・・もう指一本ですら・・・動かない・・・

 

「出でよ!导息(タオシー)!!」

 

え・・・?

何を、しているの・・・?

 

「今治す!安心しろ!」

 

・・・どういう事・・・?

 

あぁ・・・なんて顔・・・

 

どうして、悲しそうなの・・・?

 

私・・・一体・・・どうなってるの・・・?

 

赤くて、温くて、でも何も感じない・・・

 

でも、酷く・・・寒いわ・・・




导息を使い、八雲はパチュリーを癒す
それほどまでに、パチュリーのダメージは深刻なものだった

『頼む、目を開けろ!!』

心の中で叫ぶ八雲
既にパチュリーは完全に意識を失なわれていた
光牙のダメージでここまでの負傷を追うとは思っていなかった
きっと何かしらの術である程度まではダメージを抑えると、八雲はパチュリーを過信していた
しかし彼女の防壁は、光牙の散開した余波が紙切れの様に破ってしまった

『こうなる予測すら出来なかったのか、俺は・・・!』

今まで、八雲が全力で術を使ったことは無い
それは八雲の術が攻撃に特化しすぎているからだ
そしてもう一つ、少女を傷つけるというのは、八雲も良しとはしない
けれど、この世界の少女達は少し違っていた
まるで戦いを遊戯の様に楽しみ、それに熟練していた

八雲とは違う、八雲は殺し合いの中で磨かれたものだ

故に八雲には大きなハンデが最初から課せられていた
八雲の術は遊びではなく、殺しの技といっても過言ではないのだから
当然手加減をしなくてはならない、最大限に手加減をした状態からが八雲のスタートとなる

今回のパチュリーに対してはその手加減が無かった
むしろ、八雲の方も加減をしている場合じゃないと判断した結果なのだが
それでも、自分の力で少女を怪我させてしまった後悔は拭えるものではなかった

ここで消耗の激しい导息を使い続けるデメリットは大きい

まだあのメイドと、この舘の主が残ってる
他にも確認していないだけで、まだ居るかもしれない
その事を考えても、ここで力を使い切るわけには行かない

その考えはあっても、八雲は导息を使い続ける

その甲斐があってか・・・パチュリーはゆっくりと目を開けた

「・・・私は・・・」

上体を起こそうとするパチュリーを、とっさに八雲は止めた
「動かないほうがいい、かなり失血してる」
その通りだった、力を込めようとしても入らない
酷い貧血状態で思考も鈍く、上手く回転しないで居るパチュリーはただ呆然と天井を見つめながら
それでも現状を確認しようと、体のあちこちを確かめた

負った筈の怪我が全て治っている
それどころか、体のだるさまで段々と消えていっている
きっと八雲が呼んでいる獣魔術の効力なのだろう

とパチュリーはすぐさま考察する

考察した瞬間に真紅の扉の方向から轟音が聞こえた

「だ、大丈夫ですか!!パチュリーさん!!」

それは美鈴が扉を破壊した音だった
扉に見事な回し蹴りを決めたシルエットが八雲の眼にも留まる

その美鈴の横には、先ほどの小悪魔が付いていた
どうやら彼女が呼んで来たみたいだ

「・・・大丈夫よ・・・多分」

その言葉を聞き、ようやっと八雲も导息を解除した
精を消耗し、かなりの疲労が襲い掛かってきたが、それでも彼女の無事に満足していた
彼女を傷つけた事
それが後悔となり八雲にのしかかる
確かに彼女は八雲に立ちはだかった
でもそれは乗り越えるべきもので、彼女を打倒するべきものではない

矛盾しているようでも、八雲の気持ちは整理できなかった

整理できないまま、八雲は先の扉に向かってフラフラと歩く

体力は美鈴に削られ、精はパチュリーによって持っていかれた

時間があれば、再生も容易だが
今はその時間が惜しい

アリスは無事なのか?

それが気がかりだった

「パチュリーさんを頼む。美鈴さん」

「ちょっと!八雲さん!!待ってくださいよ!!」

フラフラの八雲をみて、パチュリーをお姫様抱っこした状態の美鈴が声を掛ける

「そんな状態で行くんですか!?」

「あぁ、大丈夫だ。早くアリスを見つけないと・・・」

切羽詰っている八雲に対して、美鈴はとても落ち着いていた

冷静に考えれば、レミリアがアリスに何かをするとは思えない
もしその二人が交戦するつもりであれば、紅魔館が破壊される規模の戦闘になるはず
でもそれが無い、となると・・・アリスは無抵抗でレミリアの意思に従ったことになる

どうして?

もしかしたら試しているのだろうか、この男を

門の前にいた美鈴には屋敷の中の会話まで知らない、二人のその思惑が分からない

当然八雲は美鈴以上に状況がつかめない
幽閉される理由も、そんな相手に無理をしたアリスにも
でも、それでも八雲は進もうとする
そんな姿に、美鈴は思わず零す

「どうして・・・そこまで?」

「決まってるだろ」

八雲は次の扉に辿りつき、手を掛けた

「俺はもう、アリスを仲間だと思ってるからだ」

その瞬間、土爪が扉を切り裂き
扉だけでなく壁まで、一瞬のうちにバラバラにした
瓦礫と化した扉が崩れるのも見つめながら、美鈴はどこか異質なものを八雲から感じた

『あれは・・・?一体・・・』

八雲の背後に居る何かを美鈴は観ていた
八雲が弱った事により出てきた何かなのか、それとも何かが憑いたのか
まるで八雲の身体から湧き出る様に、それは益々浮き彫りになる

『幽霊・・・霊体・・・にも見えるけど少し違う、あれは何?』

さっき手合わせしたときには確実に無かったソレは
何やら怒っている様にも、呆れている様にも見える
様々な複雑な思いの矛先は・・・八雲だ
八雲本人に、何やら強い思いを向けているのは間違いない

それを伝えるか、否か・・・悩む美鈴を尻目に

八雲は更に先へと進んだ

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