六道の神殺し   作:リセット

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あれ、可笑しいな。万里谷とのあれこれやエリカの転校を書くだけでなぜこんな文字数になるんだ?


6話 ~転校生~

草薙護堂は学校では、地味な生徒であった。勉強の成績は普通。体育では手を抜いている為、体つきは良いのにそれほどスポーツが得意だとは思われていない。

なぜ手を抜かなければならないのか。それは彼が普段しているトレーニングにある。彼は無人島に飛雷神で移動し、そこで六道仙人モードになり、神威空間と言う彼だけが入れる異空間で訓練している。

 

 

彼がする修行方法は簡単だ。実体のある分身を作り、その分身と組み手をする。しかも一組ではなく、複数の組を作ってだ。そして、ここからが重要なのだがこの分身には一つ特徴がある。分身が得た経験値が、本体の護堂に還元されるのだ。

 

 

すなわち、人の何十倍もの効率で訓練できる。そんな反則同然の練習を続けていた為か、本気で走ったりすると通常状態でも呪力強化なしで100mを10秒台で走れるほどの身体能力になった。その為手を抜かないと、部活動もしていない護堂では、色々と怪しまれる。

 

 

そんな理由から護堂のクラスの立ち居地は、少し体を鍛えている1生徒として認識されていた。しかし、つい最近あることから護堂の名前は校内で有名になった。そのあることとは一人の女子生徒が関係していた。

 

 

「草薙さんはこちらにおられますか?お昼のほうをご一緒に頂こうと思って、来たのですが…」

 

 

 お昼休みになったので、食事にしようとしていた護堂の元に女子生徒ー万里谷祐理が尋ねてくる。この少女の存在こそが、護堂の名を校内に広めた。なにせ、彼女はこの学校一の美少女かつお嬢様。また、男子生徒と彼女が積極的に関係を持つことがなく、浮ついた噂もなかったほどである。そんな彼女がある日を境に、男子生徒と一緒にいるところを目撃されるようになった。

 

 

 スキャンダルである。しかも会うだけではなく、今日の様にお昼まで一緒に食べる。護堂のクラスメイト達が興味を持たないわけがない。ある質問を護堂はされた。その質問に対して護堂は適当に答えようとしたのだが、同じような質問をされた祐理が先にこう答えてしまった。

 

 

「私が草薙さんと一緒にいるのは、彼が私にとって重要な人だからです」

 

 

 無論祐理は神殺しとしての護堂を指して、重要だと言ったのだ。しかし、それを聞いたクラスメイト達はそんな事情を知らないので、言葉の意味をこう捉えてしまった。

 

 

万里谷祐理は草薙護堂と付き合っていると。

 

 

 この噂は瞬く間に拡散される。家に帰った護堂が静花に詰問されたほどだ。なんとか護堂は、静花の勘違いだけでも正したが、それで噂が消えるわけではない。かくして、護堂は女子にすら人気のある美少女の心を奪い取った男として、悪い意味で校内一有名になったのだった。

 

 

 

 

 

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教室で食事をするには、不躾な視線が多すぎる。その為祐理と護堂は屋上に移動し、昼食をとるようにしている。

 

 

「すみません、草薙さん。わたしが不用意な返答をしたせいで、草薙さんに迷惑をかけてしまって…」

「…万里谷は悪くないよ。むしろこちらこそ悪い。俺なんかと付き合ってるなんて言われても迷惑だろ」

「い、いえ、迷惑というわけではありません。ただ、やはり草薙さんと付き合っていると言われて、混乱することが多いのは事実です」

 

 

 混乱するほどかと護堂は落ち込む。自分が祖父と違って女性に好かれにくいのは分かっていたが、祐理程の美少女にはっきり言われるとやはり傷つく。なにせ学生時代には10股の伝説をもつ祖父とは違い、今のところ護堂の好意に応えてくれたのはエリカぐらいなのだから。

 

 

 そんな凹む護堂を見て、自分は草薙さんを落ち込ませるような事を言ってしまったのかと祐理は気づく。そして、思うのだ。草薙護堂はカンピオーネとしては、彼女の知る魔王とはやはり全く違うことに。

 

 

 もしこの状況に陥っている魔王が護堂ではなく、他の魔王であれば権能を駆使して、自らに対し無礼を働く民衆を決して許さないだろう。少なくとも彼女の知る魔王ーヴォバン侯爵であれば彼の持つ権能を使い、戯れ程度の感覚で魂を縛り、塩の彫像に変え、狼たちの狩りの獲物にし、必死に逃げる人を何百頭もの狼が追いかけ絶望の文字に心が支配されたところで食い散らかすことだろう。

 

 

翻ってみれば、護堂のあり方はその辺りの只人と対して変わらない。むしろ穏やかとすら言える。今祐理の目の前でしているように、しょんぼりしている姿をみると彼は普通の学生で、神を殺せるような人には見えない。

 

 

 だが、真実は違う。彼はいざ戦いとなれば、人々の矢面に立ち災厄をもたらすまつろわぬ神を滅ぼす戦士。権能を簒奪していなくとも、神を殺す力を持つ人類最強の魔王なのだから。

 

 

 

 

 

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 落ち込んでいた護堂だが、いつまでも沈んでいては昼休憩が終わってしまう。気を持ち直し惣菜パンにかぶりつく。そして前から少し気になっていたことを、祐理に質問する。

 

 

「そういえば万里谷さんは、俺の事を委員会の方にどんな風に報告したんだ?」

「…委員会では現在草薙さんは、小学生の頃に神殺しを成し遂げたことになっています。そして、なぜ神を殺したのかが分からなかったのは、幽世で戦った為と報告しました」

「幽世?ああ、アストラル界の事か。たしか、この世ではない場所だっけ?」

「はい、幽世は生と不死の境界、あの世とこの世のはざまです。そこであれば、草薙さんが神殺しを成し遂げていても分からなかったのは、不思議ではないので」

「そっか、ありがとう万里谷。俺の真実を話さず、委員会の方に報告してくれて」

「い、いえ、その、草薙さんと誰にも話さないと、約束しましたので…」

 

 

徐々に祐理の声が小さくなっていく。そんな彼女を見て、あんな荒唐無稽な話しを信用してくれたことに感謝する。そして、口約束なのに守ってくれる律儀な彼女なら、仲良くなって損はないと護堂は確信する。

 

 

「万里谷、少し時間良いかな?」

「はい、何でしょうか?」

「もう一度俺の事を、君の眼で見てくれないか?」

 

 

そう言われ、もう見ているのに何のことなのだろうと、祐理は不審に思った。そして気づく。彼が言っているのは、生身の目ではなく霊視で見てくれと言っているのだと。

だが護堂を霊眼で視たらどうなるのかを知っている祐理は、その言葉に頷くことは出来ない。

 

 

「草薙さん、それはあなたのお願いでも出来ません。あなたを霊視でみたら、またあの世界に囚われます。そうなったら今度こそ、私は死ぬかもしれません」

「大丈夫、今の万里谷なら、精神トラップは発動しない。…安心して」

 

 

護堂は微笑みながら、祐理に語りかけてくる。その顔を見て、本当に大丈夫なのかを考える。

 

 

「…草薙さんを信用します。ですが、もしまた囚われたら助けてくださいね」

 

 

そう伝えると祐理は、護堂を視る。前回と同じように精神感応で護堂の精神に触れる。そのとたん、彼女の意識がまた落ちていくのであった。

 

 

 

 

 

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祐理の意識はまた精神世界にいた。ただ、今度は前回と違う。あの暗い世界ではない。祐理が今いる場所。花畑だ。空に太陽が輝き、多種多様な花に囲まれている。そんな彼女の前に一箇所だけ花が生えていない広場がある。その広場には、白い丸テーブルと椅子が2つ置かれ、日除け代わりなのか傘が立ててある。その椅子の片方には誰かが座っている。その人物が祐理を手招きする。

 

 

(草薙さんのうそつき!またこの世界にいるじゃないですか!)

 

 

これが精神トラップならあの手招きしている人物が、自分を殺すのだろうか。そう考え逃げるか検討する。無駄だ。どうせあの巨人のように、簡単に祐理を捕まえることが出来るのだろう。そう悩んでいた祐理の元に座っていた人物が立ち上がり、近づいてくる。

近づくにつれ、その人の顔がはっきりとする。

 

 

(く、草薙さん!)

 

 

服が学生服ではないし髪の色も違う、また奇妙な眼になっているが、間違いなく草薙護堂だ。祐理に近づいた護堂は話しかけてきた。

 

 

「すまない万里谷、怖い思いをさせて。あっちで少し茶でも飲もう」

 

 

そう言いながら祐理の手を取り、広場の机までエスコートするのだった。

 

 

 

 

 

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「きちんと説明せずに、こっちに招いたから、最初またトラップだと思ってびっくりしただろ」

 

 

護堂がどこからか、カップとポットを取り出しながら祐理に語りかけてくる。

 

 

「万里谷は紅茶かコーヒーどっちがいい?なんなら、ほうじ茶もあるけど」

 

 

そう聞いてくるが、祐理はこの世界では喋れないのだ。それをなんとか伝えないと。

 

 

「草薙さん、私は…!」

 

 

喋れる。でも、なぜ。この間は悲鳴を上げることさえ、出来なかったのに。

 

 

「あー、そうか。トラップの方だと喋れないから驚いてるのか。まずそこから説明するか。まずこの間万里谷が捕まった奴なんだけど、あれは俺の許可なく内面を探ろうとすると、勝手に発動する。そして、引きずりこんだ者の精神を破壊して、二度とそういったことを出来なくする偽者の精神世界なんだ。それに対してこっちは本物の俺の中。俺が許可する限りは喋る事だって出来る。それで万里谷を招いて、お茶でもしようかなと考えたんだ」

「…そうだったのですね。しかし、どうして草薙さんは私をこの世界に招いたのですか?現実の世界でもお茶は出来ると思うのですが?」

 

 

そう疑問を呈する。護堂自身が、霊視で干渉した祐理を招いたのなら危険はないのだろう。だが、今祐理が言ったように現実の方で護堂の言うお茶会をしても良かったはずだ。

 

 

「ああ、万里谷の言うとおりだよ。ただね、俺が万里谷を招待したかったんだ。もう昼休みの時間もあまりなかったらからね。こっちでは時間も空間も質量も俺の思いのままだから。…俺は万里谷に委員会との窓口を頼んだ。

そうである以上、俺は多分万里谷と長い時間付き合っていくことになる。だから、まあ、親睦を深める為にね」

 

 

最後の言葉辺りは自身がなさそうに喋る。そんな彼を見て、祐理は少しおかしくなる。親睦もなにも護堂は神殺しの魔王だ。彼が祐理に窓口を頼む以上拒むことは出来ない。だと言うのに、まるで友達のように仲を深めようと言うのだ。

 

そんな魔王らしからぬ律儀さに、心の片隅のどこかにあった、祐理自身気づいていなかった護堂への警戒心が解けていく。

 

 

「もちろん、万里谷が俺なんかとお茶なんて嫌っていうなら、すぐに現実に戻ろう。……何も言わないって事は、やっぱり嫌か。分かった、現実に戻ろう」

 

 

そう呟く護堂をあわてて祐理が止める。

 

 

「いえ、草薙さん。私などでよければお付き合いさせていただきます」

 

 

祐理はまだ気づいていない。元々彼女は、男性との交友関係などがない。そんな彼女が、護堂に対してだけは気を許し始めていることに、己自身気づいていなかった。

 

 

 

 

 

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祐理を己の中に招いた翌日、護堂の教室は少しざわついていた。なんでも、今日転校生がこのクラスに編入するらしい。そのおかげで、今日に限っては護堂の方になにかしらの視線を向けるものはいない。是幸いとばかりに机にうつぶせになって、護堂は寝ていた。

チャイムが鳴る。護堂も起きる。そして教師が入ってくる。

 

 

「席に着け。知ってると思うが今日からこのクラスに転校生が来る。外国からの留学生だ。お前ら失礼なことをするんじゃないぞ」

 

 

教師が転校生とやらを教室に入るように促す。その入ってきた転校生をみてだれかが、きれい、などと呟いた。男子は転校生が女子で、しかもモデルでも出来そうな美しさにうおお!などとテンションがあがっている。

 

そして護堂は心が無になっていた。赤みのある流れる金髪、日本人では到底叶わないメリハリのある体つき。そして、護堂がとても見覚えのある顔。それらが護堂を色即是空に至らせる。その少女は黒板に向かわず、まっすぐに護堂のところに向かう。

そして護堂にしだれかかる。その行動に、誰かが息を呑む。

 

 

「チャオ、護堂。久しぶりね。護堂の方は元気にしてた?」

「や、やあエリカ。俺は元気だったよ。エリカの方はメールしても返事がないから、心配してたよ」

「あらそう、心配してたのに会いに来てくれないなんて酷い人ね。護堂の愛なら日本からイタリアまですぐのはずなのに」

「お、俺のほうもい、色々あったからな。はははははは」

「ええ、私もちょっと色々あったわ。護堂が私を言葉でだまして近づいて、無理矢理昏睡させたことに心が傷ついたりしたのを治したりね。あんなことをしなくても護堂なら、私をめちゃくちゃに出来たのに」

 

 

(だました!無理矢理昏睡!心が傷つく!めちゃくちゃにする!)

 

 

クラス一同の心が一つになる。そして、それらの言葉は思春期真っ只の彼らに一つの連想をさせる。その連想故に、全員が護堂を性犯罪者でも見るような目になる。その視線を受けて護堂の心がますます虚無に近づく。

そんな目を向けている中の誰かが、エリカに問う。

 

 

「あ、あの、あなたは、その虫けらの知り合いなんですか?」

「虫けら?それって護堂の事?…あのね、私の未来の旦那をそういう風にいうのはやめてちょうだい」

 

 

その言葉に今度こそ全員の殺意が一気に高まる。旦那ということはつまり、この転校生は護堂の嫁、あるいは妻。

 

「つまりこいつ結婚相手がいるのに万里谷さんと付き合ってたって事か?」

「万里谷さん可愛そう」

「いや、この転校生もだよ。さっきの言葉はどう聞いたって…」

 

 

なぜか勝手にクラスのボルテージが上がっていく。そんなひどい連想ゲームを聞きながら、不思議そうな顔をしているエリカ。更に高まるクラスの殺意。

 

それらをバックに護堂はただ思う。やっぱり神様殺したりしたら罰が下るんだなと。

こうしてあっさり数日間で、護堂はクラスの地味な存在からみんなの中で、虫けらのごみ屑へとジョブチェンジしたのだった。




よし原作一巻分終わり。次はやっとこさ書きたかったヴォバン侯爵戦だ

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