六道の神殺し   作:リセット

5 / 22
3話 ~決着~

 模擬戦とはいえ、戦闘中に謝罪をする。その行為のちぐはぐさにエリカの戦意が抜けそうになる。『紫の騎士』も今ので落ち着いたのか、先ほどまでの震えが止まっている。騎士が今も、すまない、本当にすまないと謝っている護堂に疑わしい目を向ける。そして、エリカに向かってその疑問を投げる。

 

 

「紅き悪魔殿、ひとつ聞きたいのだが。あれは、草薙王は素でやっているのかね?それとも、こちらが萎縮しているのを見て我々の緊張を解くために、わざとやっているのい?」

 

 

 その疑問に、エリカの頭が痛くなってくる。やる気がないように見えた動きをしていたと思ったら、六道仙人モードを出してきたので、ついに真面目にやる気になったのかと思った心を返してほしい。エリカはなんとか、眉間を揉み解し騎士に対して、答えを返す。

 

 

「護堂のあれは天然よ。絶対に治らない不治の病みたいなものね。どんなことをしても、驚かないつもりだったのだけれど、さすがにあれはないわね」

 

 

 エリカが騎士の前だというのに、草薙王と言う呼び方をやめる。どだい、護堂に威厳を醸し出せというのが無茶だったかと、考えを改める。なんにしろ今は、護堂に壊された剣を直すのが先かと手を前にかざす。そのエリカの手に、空から塵が集まってくる。集まった塵は形を変え、護堂が粉々にしたはずの剣に形になる。

 

 

「安心しなさい、この剣は私が生きている限りは、仮に溶かしても元に戻るわ!だから、いいかげんその謝罪を止めなさい。それと模擬戦の続きをやるわよ!」

 

 

 そう護堂に呼びかけると、謝るのをやめ明らかにほっとした顔をする。その光景に、頭痛が強まるのを感じる。その頭痛を振り払うように何度か、首を振り剣を構えなおす。それにあわせて、胸を下ろす動作をしていた護堂も構えを取る。とたんに、あの威圧感が戻ってくる。視線だけで、後ろに飛ばされそうなほどだ。先ほどまで、弛緩していた騎士は急激に増した緊張感に、足が無意識に後ろに下がっている。無理もないかとエリカは思う。なにせ、今の護堂は持てる力を、十全に発揮できる状態だ。すなわち、神を殺し、同格であるサルバトーレ卿を半死半生に追い込んだ力を、完全に使える様になっている。前に護堂から聞いた話が、エリカの脳内に再生される。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

「六道仙人モード?」

 

 

 エリカが不思議そうに、護堂の言葉に相槌を打つ。その相槌に対し、ああそうさと護堂は返答する。

 

 

「エリカも知ってるように俺の力は、正直俺自身、どこに底があるのか分からないくらいに、危険な代物だ。そんでもってそれは、おれ自身を蝕むくらいに強い」

 

 

 それはエリカにも分かる。実際、もともと持っている力が大きいゆえに、生まれながらにして体が病弱になり、満足に外も出歩けないほど、呪力に体が悲鳴を上げる事例が欧州の魔術界でも確認されている。人間の脆弱な体では、己の物なのに耐えれないのだ。そこまで考え、護堂が何を言おうとしているのかを察する。

 

 

「つまり、護堂はこう言いたいわけね。護堂自身の体は常人と変わらない。その体で全力を出そうとすると、肉体が崩壊するかも知れない。それを防ぎあなたの身を守る為の方法が、六道仙人モードだと」

「その通り、このモードになれば普段の体じゃ使えないほどのチャクラ、…呪力を最大限に引っ張りだせるようになる。それ以外にもエリカは見た事もあるし、分かるだろうけど、権能に匹敵する不思議な術が多く使えるようになる」

 

 

 この説明で、前々から護堂に対して抱いていた疑問が氷解する。普段の護堂は、正直に述べるとそれほど凄くない。確かに術の腕前は怪物の領域にある上に、体術の腕前もエリカに匹敵するほどだ。だが、それで神に挑めるほどではない。エリカ以上の達人はいくらでもいるし、術にしても護堂と比べることができる人間は片手で数えるほどだが存在する。

 

 自己治癒能力や呪術耐性の高さなどは、人外の域なのだが、それ以外は総合して人類最高峰程度に、普段の護堂は収まっている。どうして普段の護堂は、あの最強状態の時に使っている六道仙術や瞳術を使わないのか、不思議だったのだ。なんのことはない、通常の護堂では、使うことが出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 今の護堂は正直に言うと、エリカでは絶対に勝てない。あの六道仙人モードは、ただ護堂の体を呪力に耐えれるように、作り変えるだけに留まらない。あの状態になった護堂は、まず呪力や攻撃を察知する感知能力が増大する。

 

 数百キロ先の呪力を感知し、誰の呪力なのか判断できるほどだ。また、あの眼が厄介な代物である。まず眼をあわせてはいけない。眼を見るだけで、護堂は相手に幻を見せる。この幻を見せる過程で、相手の精神に干渉する。この原理を応用し、幻をみせた相手を自分の思い通りに操る人形に変えることも出来る。この幻術には、カンピオーネクラスの呪力耐性がないと、抗うことすらできない。

 

 このほかにも、相手の魂を抜く、呪力を吸収する、視線の先に黒い炎を発生させる、異空間に視界内の物体を飛ばす、記憶を読む、ブラックホールを発生させるなど、明らかに眼が関係ないだろうと言いたくなる能力のオンパレードである。

 

 そのうえ眼である以上、視ることにも長けている。本来呪力は眼に見えない。護堂がやったように、極限まで圧縮すればいけるかもしれないが、普通は視ることが出来ない。その呪力を視覚情報として、護堂は捉える。そのせいで護堂は呪力から、おおよそどんな術や権能なのか判断できる。そして、未来視に匹敵するほどの見切りまで備える。

 

 攻撃感知とこの見切りをあわせることで、護堂は神速を捉え、軍神や武神が相手でも引けを取らない体術を披露する。

 

 そして、何よりも呪力が最大限に発揮できることで、普段の護堂では使うことのできない仙術が開放されるのだ。はっきり言おう、この生物をこの世に生み出した奴は何を考えているのだと。パワーバランスという言葉を知らないのか。そうエリカは改めて護堂の戦力分析をして、思わず汚い言葉を使ってしまう。弱点でもないかと分析したのだが、特に見当たらないのが腹が立つ。だが構わないだろう。こんな子供の考えたような、出鱈目超常怪物と今まさに試合をしているのだから。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 エリカは、最初のように踏み込もうとはしない。踏み込んだところでそのまま捕まえられて、締め落とされるだけだ。エリカは、切り札である『ゴルゴタの言霊』を使うか考がる、が、使っても意味がないとこの思考を切り捨てる。護堂は陰陽遁により権能と体術以外通用しない。そのうえ、あの呪力量だ。エリカの魔術など、紙吹雪の様に散らされるだけだろう。さて、こうなるとエリカからは仕掛けられない。エリカから仕掛けないことに気づいたのか。護堂が今度は、先に動く。軽いジョブ。そして大気が弾けた。

 

 

 弾けた大気はエリカの横を通過、森の一角を吹き飛ばす。それにエリカは全く反応できなかった。当たり前だ。今のに反応できるのは、カンピオーネか神々、そして技量だけは

それらに並べる聖騎士くらいだ。

 

 さすがに、エリカの腰が抜けそうになる。いくらなんでも、実力差がありすぎる。今エリカの横を通った死神、あれですら護堂の拳に大気が押されたに過ぎない。もし、あの拳が直撃すればどんな防御魔術を使っても、防げない。その腰が引けた状態のエリカに護堂が降参を促す。

 

 

「エリカ、もういいだろう。やっぱりお前はすごいよ、俺にこの状態を出させたんだから。だから、止めよう。これ以上戦って、エリカを死なせるようなことになったら俺は嫌だ。エリカとしてはもっとやりたいんだろうけど、頼む。降参してくれ。もし、エリカが降参しないなら、心情を曲げてでも俺が降参してこの勝負を止めるぞ!」

 

 

 護堂の降参を促すにしては、悲痛な叫び。護堂は本気でこの勝負を終わらすつもりだ。確かに、どちらも現状は無傷。しかし、ここから本格的な戦闘が始まれば、いくら護堂が手加減をしてもエリカを傷つけないようにするのは難しい。護堂はエリカを悲しませたくはないが、それ以上に傷付けたくない。自分の目的も達成し、エリカとの力を示せという約束をこれで果たせただろう。それでもエリカは動かない。どうするのか、悩んでいるのだ。そのエリカの元に、護堂が近づいていく。

 

 

「護堂?それ以上近づくなら、戦闘続行と見るわよ!」

 

 

 それでも、護堂は止まらない。そんな護堂に対して、エリカは言葉通りに剣を振るう。護堂の首に当たる。だがそれだけ。肉に食い込みすらしない。そしてエリカの体を護堂が抱き寄せる。だが、それは攻撃のためではない。むしろ、恋人に対するような抱擁。

 

 

「…ちょ、ちょっと、護堂。今は戦っているのよ!情熱的な抱擁も私としては構わないけれど、今することじゃないでしょ」

 

 

 そう言いながら護堂から離れようとして、体を動かしたさいに護堂の顔が間近まで近づく。そして、エリカと護堂の眼が合う。エリカが気づいたときには遅かった。ひどい睡魔が襲ってくる。エリカの体から力が抜けていく。

 

 

「…ご、ごどう。ひ…きょ…うよ。こ……さな………て…こ……めの…………ふ…………………き」

 

 

 そこまで言ったところでエリカは夢の中に落ちていくのであった。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 エリカが眠ったことで、この模擬戦も終了した。眠るエリカを、地面に落ちないようにお姫様抱っこをした護堂の元に姿を消していた総帥と、護堂の気迫に押され、退避していた騎士が集まってくる。

 

 

「紅き悪魔殿はどうされたのですか?まさか、こ、殺したのですか!」

 

 

 騎士が護堂を糾弾する。護堂はエリカの胸が上下しているのをみれば、寝ているだけだと分かるだろうに騎士に向かってジト目を向ける。今の護堂の眼ー輪廻写輪眼に、そんな目を向けられた騎士はまた護堂から離れる。そして、総帥たちが怯えながら護堂に対して勝利の賞賛を送る。

 

 

「あなたの権能、確かに拝見させていただきました。まさか、これほどとは」

「それほどの呪力を保有しているとは思いもしませんでした。また、その顕身の力、ほんの一端とはいえ空恐ろしいものを感じましたよ」

 

 

 護堂としては、そんな言葉は要らないので今回どうして自分を呼んだのか教えてほしい。そしてアンナさんに預けるか、自分の手で腕に眠る姫を早くベットに運びたいのだ。

 

 

「おお、そうでしたな。今回、草薙王にはこの神具を預けたかったのです」

 

 

 そういいながら、総帥が魔術でトランクを呼び出す。その中から、一枚の黒いメダルが姿を現す。

 

 

「こちらは、ゴルゴネイオンと言います。いまから2月ほど前に、ある海岸に打ち上げられたのです。そして、この神具を狙っているまつろわぬ神がいることを霊視により知ることが出来たのです。我々の手にあっても、神からは守ることはできますまい。しかし、これほどの力をもつ御身であられるならきっと大丈夫でしょう」

 

 

 総帥の手から護堂にメダルが手渡される。メダルを持っている間は、エリカを空中に浮かす。そして、メダルを視た護堂はぽつりと呟く。

 

 

「ゴルゴン、メデューサか。かなり古い代物だな。これは、蛇か。蛇の力を蓄えているんだな。……なるほど、もしこれが神の手に渡ればその神は地母神に戻れるわけか。となると、こうするのが一番だな」

 

 

 輪廻写輪眼の力で、メダルを解析した護堂は呪力を練り上げる。護堂の手の中にある黒いメダル。そのメダルがその黒色よりもなお黒い、奇妙な紋様に覆われていく。ついにはメダル全体が完全に塗りつぶされる。

 

 

「な、なにをされたのです!まさか、メダルを使って何か良からぬことをするおつもりですか!」

 

 

 まさか、この王も実は神との戦いに楽しみを見出したり、混乱を引き起こすカンピオーネらしい魔王なのか。そう思う総帥たちだが

 

 

「いえ、この神具を六道仙術で封印しただけですよ。ただ、即席の封印なんであまり長くはもたないですけどね」

 

 

 護堂は総帥たちを安心させるために、なにをしたのか説明する。そして、漆黒に染まったメダルは、護堂の右眼に吸い込まれたのだ。

 

 

「更に万全を期すために、神威空間に転送しました。もう大丈夫ですよ、たとえ神でも異空間に封印された神具には手をだせません。それどころかメダルがもうどこにあるかも、

 分からないでしょうね」

 

 

 なんでもないようにさらりと言う。いま行われた偉業に流石の総帥たちも護堂が何をいっているのか、最初理解できなかった。だが、徐々に護堂の言葉の意味を分かり、この日最大の驚きを得る。今言ったことが本当なら、草薙護堂は破壊の力だけでなく、封印術のようなものを、しかも神具を封じれるほどの強力な権能を行使できると言うことになる。そしてその力は、現在あらゆる魔術結社が欲する物だ。魔術結社が行う仕事の中に、神具や魔本などの処理がある。しかし、物によっては最高位の魔術師が何日も係り、それでも処理できるか分からないものがある。

 

 そして、ゴルゴネイオンはその処理できない物であった。それを、わずか一分足らずで封印する。事ここに至り、なぜエリカ・ブランデッリが草薙護堂こそが今回、最も向いていると推薦したのか知ったのだ。戦闘力としてではなく、その特殊性こそを頼りにしたのだと。

 

 さきほど、総帥たちは最大の驚きを得たが、彼らは知らない。護堂がまだまだ奇跡を見せることを。護堂が森に向け手を突き出す。その行為にまた、何かするのかと関心が集まる。

 

 護堂が手を向けたのはさきほど己の拳の余波で吹き飛んだ木々たち。その木々たちが元の形に戻っていくのだ。この行為もわすが数秒で終わる。

 

 

「今のは一体全体、何をされたのですか」

 

 

 驚くのも疲れたのか、能面のような顔で、誰かが護堂に聞く。そして、聞かれた以上護堂も答えるのだ。

 

 

「木遁と陽遁の力を使い、残っている木に生命力を与え戻しました。根っこからえぐれた所には木を生やしたんです」

 

 

 総帥たちは驚くのではなく、乾いた笑いを漏らす。そして彼らは、ひとつの判断を下す。

 

 

「おお、もういい時間ですね。私は、娘との食事があるのでこれにて失礼」

「そういえば書類がたまっていたな。帰って片付けなくては」

「ああ、今から家に帰っては深夜帰りになるな。はは、妻に怒られるな」

 

 

 今しがた見た数々の奇跡。自らの中で処理できないなら、見なかった事にしよう。そして、それぞれ草薙護堂に別れの挨拶をし、この場を離れるのだった。そして眠るエリカと共に残された護堂はひとり寂しく呟く。

 

 

「そんな怖がらなくてもいいと思うんだけどな。確かに、俺の力は自分でも怖いほどだけどさ。だからって、あんなにさっさと帰らなくてもいいだろうに」

 

 

 相変わらずピントがずれていた。

 

 

 

 

 

 --------------------

 

 

 

 

 

 その後、土遁を使用し土を整え、エリカを抱っこし、主人を待っていたアンナのところに、護堂は戻った。その際六道仙人モードから通常状態に戻っていなかったせいで、彼女が酷く怯えた為解除。そしてなんとか、涙目になっているアンナを言葉が分からないなりに宥めエリカを預け、そんな彼女から逃げるように、護堂は飛雷神で日本に帰るのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。