六道の神殺し   作:リセット

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前回、六道の力は使わないと言ったな。あれは嘘だ。


2話 ~模擬戦~

護堂が尻の痛みに耐えながらたどり着いたのはオアシスだった。

いや、実際にはオアシスなどではないのだが、先ほどまで地獄にいた護堂には

地面があるだけでそこは天国に変わる。護堂がたどりついた天国。

そこはガルガーノ国立公園という場所だ。護堂自身は初めて来たが、自然が多い。

そしてここなら、護堂の力を存分に発揮出来るだろうとのことだ。最初は、コロッセオ近くのパラティーノの丘と言う場所で、模擬戦を行う予定だったらしいが、エリカがこちらにしたらしい。

エリカ曰く

 

 

護堂があんな場所で力を振るったら世界遺産が滅ぶ

 

 

との事。

エリカの発言を聞いた総帥たちは、その提案を聞き入れ、こちらで戦うことになったのだ。

護堂としてはいささか、納得がいかない。いくらなんでも、世界遺産を粉砕するようなまねはしない。

確かに自分も山の一つや二つは破砕するかもしれないが、さすがに貴重な物を壊す気はない。

もしそんなやつがいるとすれば、そいつは後先を考えず、その場の思考で生きるタイプだ。

そう考えている護堂の視線の先で、エリカが後から来た総帥たちを迎えている。

その中から一人、前に進み出る。

 

 

「ふむ、本当に私などが立会人でかまわないのかね、『紅き悪魔』殿?」

 

 

そう疑問を投げかけたのは、『紫の騎士』と名乗った人物だ。

その疑問に対し、エリカも明朗に返答する。

 

 

「私などとはご冗談を。『紫の騎士』の活躍はこのエリカ・ブランデッリも聞き及んでおります。だからこそ、今回の立会人をおねがいしたのです」

 

 

こう返されては、立会人を断るわけにもいかない。了解したと『紫の騎士』も気持ちのいい返事を返す。

ところで、この『紅い悪魔』や『紫の騎士』という呼び方だが、これは魔術結社が代々受け継いできた名前である。

この称号を預かることは、非常に名誉なことらしい。そして護堂の認識では、市川團十郎みたいなものかとなっている。

護堂もいつかは二つ名を名乗ろうと、画策している。そしてその名前候補もすでに考えているのだ。

 

 

閑話休題

 

 

この場にいては戦闘の余波に巻き込まれるかもしれない、距離をとったほうがよろしいかと。

『紫の騎士』のこの勧めに従い、二人の総帥はこの場から姿を消す。

それと同時にエリカと護堂も距離をとる。

 

 

「エリカ、ルールはさっき言ったとおりだ。どちらかが降参したら戦闘終了。明らかにこれ以上の戦闘行為が不可能かもしれない場合は一旦中止、レフェリーの判断で決着。あとはなんでもあり、これでいいな」

 

 

さきほど車の中で交わした約束を、改めて口にする。これにより審判役を勤める『紫の騎士』もある程度判断しやすくなる。

それに対してエリカのほうも首を縦に振る。

 

 

「ではお互い準備は良いですね、………始め!」

 

 

エリカと護堂。二人の模擬戦の口火が切られた。

 

 

 

 

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先に動いたのは当然エリカだった。

 

 

「鋼の獅子と、その祖たる獅子心王よ。-騎士エリカ・ブランデッリの誓いを聞け」

 

 

エリカが呪文を唱えだす。それにあわせてエリカの呪力が高まっていく。エリカが言霊により自らの呪力を操作しているのだ。

 

 

「我は猛き角笛の継承者、黒き武人の裔たれば、我が心折れぬ限り、我が剣も決して折れず。獅子心王よ、闘争の精髄を今こそ我が手に顕わし給えー!」

 

 

その言葉が終わると同時、エリカの手に剣が現れる。つい数時間前に護堂に突きつけた剣だ。

 

 

「さあ、いくわよ。クオレ・ディ・レオーネ!」

 

 

エリカが剣を構え、護堂に接近する。その動きは、とてもではないが人のそれではない。

恐らく剣道の有段者でも、このエリカの動きには対応できまい。それほどに速い踏み込みだ。

だがそれに相対するは、世界に現在7人しかいない真正の怪物の一人。人の形をしているだけの何か。

当然護堂もその動きに対応し

 

 

「待てエリカ。いきなり心臓狙いで突きは危ないだろ!…ッ。あっぶね。今のがあたったら首が飛ぶぞ。エリカ、なんでもありとは言ったが

殺す気の一撃までOKといってないぞ」

 

 

情けないことを言っていた。その声に観戦していた誰かが、こけそうになる。だが仕方ない。護堂の近接戦闘能力は素の状態だと、エリカと同等なのだ。その同等の相手が武装していて、自分は徒手空拳。

誰でも、弱音の一つくらい吐きたくなる。

だが、そんな願いをエリカが受け入れるわけもなく

 

 

「護堂、勝負に待てはないわ。それになんでもありに同意したでしょう。今更そんなこと

を言っても遅いわよ!」

 

 

聞く耳持たぬ。そんな感情を声に乗せ、エリカは護堂を攻め立てる。それでも護堂は閃光の如く、繰り出されるエリカの斬撃を必死に避ける。避けきれないと感じた時には、近くの石を拾い数秒だけもつ、盾代わりにする。

そんな状態が少しの間続く。護堂も石を使い反撃する。その石を迎撃するためにエリカの意識がそれたところで、エリカの懐に飛び込んでいるのだが、すぐにエリカに突き飛ばされ距離を取られている。

 

 

そして、そんな状況がいつまでも続くわけがない。ついにエリカの剣が護堂の右腕を裂く。鮮血が散る。

 

 

「…ッ!」

 

 

護堂の顔が痛むに歪む。痛みに護堂の意識が奪われる。その隙を逃さず、胴を狙い突きが放たれる。

刺さった。明らかに致命傷の一撃。護堂の口から血が漏れる。

エリカが剣を引き抜こうとする。その前に護堂は剣を握り、エリカに対して前蹴りを放つ。

剣を護堂の腹に残し、その蹴りを避けるために後ろにバックステップでエリカが下がっていく。

どうみても勝敗はついた。草薙護堂は腹に剣を刺され、血を吐いている。たいして、エリカ・ブランデッリは無傷。

そう判断し、やはり魔王とは言っても半人前かと『紫の騎士』は失望する。最初に会ったときに、部屋に空間転移で来たのには驚いたが、その腕前が実戦に伴わないのでは話にならない。背に腹は変えられないが、かの狼王をイタリアに招かなければならないのか。

そのことを考えながら、この模擬戦を終了させようとしたときにエリカが護堂に対して、明らかに怒りのこもった声で話しかける。

 

 

「どうしたの護堂、いつもの動きとは全く違うけど。まさか、私相手に手加減しているんじゃないでしょうね。それなら、私に対する侮辱よ、その行為は。本気を出せとは言わないけど、少しは真面目にやりなさい!」

 

 

そう言葉を叩きつけられた護堂は腹の剣を抜く。そして血が大量に傷口から湧き出る。

この量では普通なら大量出血によって、この少年は死ぬ。この戦いを見守る全員が同じ感想を抱く。

だが、そうはならなかった。

 

 

護堂の腕と腹の傷が煙を立てながら、塞がっていく。たったの5秒程度で、死ぬほどの重症が完治する。

異常なまでの自己治癒能力。護堂が持つ能力のひとつだ。そしてその光景を見て、エリカが笑う。

分かっていたのだ。護堂はこの程度では死なない。なにせ、サルバトーレ卿に上半身と下半身に分断され、

内臓が零れ落ちても生きていたのだから。そして護堂が力を見せたがらないのなら、出させるまで!

 

 

エリカの元に、護堂が足元に投げ捨てた剣が空を飛び、戻る。

そして朗々と呪文を唱えるのだ。

 

 

「鋼の獅子に指名を授ける。引き裂き、穿て、噛み砕け!打倒せよ、殲滅せよ、勝利せよ!

我は汝にこの戦場を委ねる」

 

 

そう言い終わると、エリカは護堂に向かって剣を投げつける。その剣が護堂の元にたどり着く前に変化する。

膨張し、巨大な金属の塊になったのだ。しかもそれで終わらない。金属の塊は徐々に形を変えていき、

ついには銀の獅子へと変貌する。そして、魔術で生み出された獅子だ。彫像とはわけが違う。

その銀の獅子が本物のように動き出し護堂に襲い掛かる。

ダンプカーサイズの獅子と170半ば程度の少年。本来であれば、絶望的な戦力差の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

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護堂は獅子に襲われながらも、自分の世界に耽っていた。この模擬戦はエリカは自分にとって、重要な物だといったが護堂にとっても、重要な場である。生まれたときから自身に備わっていた、異能の力と前世の記憶の一部。

 

前世のことはほとんど思い出せないが、なにかがあって自分はこの異能の力を授けられた。どうして、授けられたのか分からないが、このことは恐らく何年生きても分かることはないだろうと思っている。

 

重要なのはこの力が本来なら自分のものではない事だ。もし自身に前世の記憶が少しでもなければ特別性に浸り、今とは全く違う性格になっていただろう。しかしそうはならなかった。

 

そして護堂は、この力とは別に自分で獲得した力を欲した。なにせ、どうして備わっているのか、分からないものだ。ある日いきなり使えなくなってもおかしくない。当然あるものが、ある日消える恐怖。それを感じた幼い護堂は、もし喪失したとしても、代わりになるようにと己の体を鍛えた。

 

だが異能の力を全く使わないわけではない。なにせ元が強大な力だ。もし、暴発でもしたら東京が消える。それを念頭に、異能の力の制御の練習も始める。そうして、護堂は自らの力の制御と体を鍛えるのに、これまでの人生の大半を費やしてきた。そうして培った力を護堂自身も、試してみたかったのだ。

 

異能の力を使えば、神が相手でも戦うことが出来る。これは、経験上知っている。ならそれとは別。自分で鍛えた力が、どれくらいの相手までなら通じるのか。それを、確かめたいと思う心が護堂の中にあった。そしてエリカならその相手にぴったりだ。自分が知る中でもとびっきりの天才。相手としては十分。エリカには言わなかったが、それくらい護堂にとっても絶好の機会だったのだ。

 

結果は腕を切られ、腹を刺されたが。この結果に、護堂は内心落ち込む。自分の本来の弱さに。特別な力がなければ、自分はこの程度だと。それでも、この戦いを降参はしない。それはエリカを裏切る行為だ。車の中での会話、そのときの、護堂との試合に本当にうれしそうな顔をみせたエリカ。あの笑顔を裏切る真似はしたくない。

 

だから、己で鍛えた体で戦うのはここまで。ここからは、異能の力を使う。そしてこの力を総称し、護堂はこう呼ぶ。

 

 

六道仙術と。

 

 

 

 

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銀の獅子に吹き飛ばされた護堂の体が、木に叩きつけられる。それを見た『紫の騎士』がさすがに止めようとする。いくら自然治癒力が高くても、あの質量にすでに何十発も殴られているのだ。

すでに護堂の服は原型をとどめていない。しかし止めようとする騎士に対して、エリカが目で訴える。

 

 

まだよ。

 

 

「しかし、『紅い悪魔』殿。もう草薙王は死に体だ。反撃しない相手をこれ以上嬲るのをみるのは、騎士道に反する。あなたが止めても、私はあの獅子を止めるぞ!」

 

 

そう宣言し、今まさにとどめの一撃を加えんとする銀の獅子に対して魔術を行使しようとする。だが間に合わない。無慈悲にも獅子の前腕は立ちあがりもしない、草薙護堂に振り下ろされる。

 

轟音。その光景にさすがの大騎士も目を逸らす。あの腕の下がどのようになっているのか、想像するだけで目をつぶりたくなる。

そして、エリカに抗議しようと口を開いたところで

 

 

 

 

呪力が爆発した。

 

 

 

 

あの獅子の腕の下から、桁違いの呪力が噴出しているのだ。その莫大な量に大騎士の心臓が止まりそうになる。そしてそんな騎士の前でゆっくりと、銀の獅子が上に浮いていく。

違う。浮いているのではない。何かに持ち上げられているのだ。だれが持ち上げたのか。そんなものは決まっている。

 

草薙護堂だ。草薙護堂が数十トンある獅子を軽々と持ち上げているのだ。

その護堂自身にも先ほどまでとは全く違う変化が起きている。ぼろぼろになっていたはずの服、それが黒のズボンと黒のTシャツによくにた服に変化している。

そしてその上に白いコートのような物を羽織っている。『紫の騎士』は日本の文化に疎いため、分からないが、それは羽織と呼ばれる代物だ。その羽織には、背中に勾玉模様が九つ描かれている。そして、黒髪のはずの護堂のそれが、白色に変色している。そして注視すれば気づいただろう。護堂の日本人らしい黒目、それが紫色に変色し波紋模様が広がり、その波紋を顕わしている黒の線上に、勾玉に良く似た模様ー巴と呼ばれる紋様が等間隔で三つずつ配置されているのに。

 

 

その姿を見るだけで、大騎士の体の震えが止まらない。

 

 

(…な、なんなんだあれは?あれが、先ほどまで『紅き悪魔』の獅子に弄ばれていた少年なのか?こ、こんな、こんな呪力が存在していいのか?あきらかに神殺しの魔王を超えている!

いや、違う。神殺しの魔王どころではない。これは、まつろわぬ神すら上回っているのでは!)

 

 

恐ろしい想像が大騎士の脳内を駆け巡る。そして、震える体を止めようとしている騎士の視線の先で、護堂が動く。持ち上げていた獅子の体を上空に投げる。軽やかな動きだ。

しかし、投げられた獅子のほうはたまったものじゃない。その軽やかさからは、想像できないほどの速さで上空千m近くまで飛んでいったのだ。そして獅子を投げた結果、護堂の手が空く。

 

その護堂の手に呪力が集中していく。集まった呪力は、護堂の手のひらの上で高密度に圧縮されていく。圧縮された結果、目に見えるほどの呪力の球が完成する。大きさはサッカーボール程度の大きさだ。しかし、それに込められた呪力は尋常じゃない。あれを作るだけで、エリカがあと100人集まって命を振り絞ってようやくできるかどうか。そんな術を簡単に行う。

 

その球ー護堂は螺旋丸と呼んでいる。その螺旋丸を、空中にいる獅子に向かって護堂は投擲する。音を軽々と超え、飛んでいった螺旋丸は獅子に着弾。一気に圧縮された呪力が開放される。

呪力の渦とでもいうべきか。それに飲まれた獅子は抵抗すら許されず、その身を削られ消えていった。

 

 

 

 

 

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簡単にエリカの魔術を粉砕した、護堂がエリカと大騎士のほうを向く。その行為に、騎士の心臓が死神に掴まれた様に萎縮する。今目の前にいるのは、まぎれもなく王だ。先ほど、半人前などと評した自分を殴り飛ばしたい。

その一応人の形をしているだけの、怪物が口を開く。なにをしゃべるのか。エリカに対する恨みか。止めなかった騎士に対する神罰か。そう畏怖の念を抱いている騎士と、何も言わないエリカに対して

 

 

 

 

「すまん、エリカ。確かあの剣って大事なものなんだよな?俺それを粉々にしちまったけど、大丈夫だろうか?許してくれるよな、な!」

 

 

 

 

エリカに対する謝罪であった。そしてエリカを含む全員が威圧感と、それにそぐわない気の抜ける謝罪に、こけそうになるのだった。


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