六道の神殺し   作:リセット

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1話 ~会談~

 ついてきてほしいところがある。エリカに『頼み』とはなんなのか。

そう尋ねた護堂に対しての、どこかに電話しながらの、エリカの返答である。そしてエリカに共に車で移動することになったのだが、

 

 

「エリカ、本当にこの車は大丈夫なのか! さっきから、エンジンの唸り方がおかしいぞ!サスがついてないのか!尻が痛くなってきた! 」

 

 

普段はマイペース気味で、暢気な返答が多い護堂にしては、切羽詰った口調である。だがしかたない。さきほどエリカの御付のアリアンナと言う人を紹介された。エリカが雇うにしては、普通に見えるなと護堂は少し失礼な感想を抱く。なにせエリカの行動の方針、その大前提には『面白いかどうか』がある。そんなエリカも、たまにはまともな判断をするのだなと、自分の行動を棚上げして感心したほどだ。だが違った。考えるべきだったのだ。エリカがわざわざ直属にする以上、何かしらのおかしな要素があることを。まさか、こんなに車の運転が乱暴だなんて!

 

 

「くそ、俺は降りるぞ。どう考えても、自分で飛んでいくほうが安心だし、安全だ。一般道で出すには、明らかにこの速度はおかしい。………ちょっと待て。今隣を車が逆走していったぞ!…ああ違う、こっちが逆走してるのか! 」

「あら護堂、どう考えてもこの速さで飛び降りるほうが危険だと思うけれど…まあ、貴方の場合はたぶん飛び降りても大丈夫でしょうね。でも逃がさないわ! 」

 

 

ドアを開けようとした護堂の腕を、ガシリとエリカが掴む。その手からエリカの心の声が、己のチャクラー呪力を通して伝わってくるのを、護堂は感じる。

 

 

あなたがいないと、もしなにかあったとき誰が私を守るのかしら?それに、場所を知らないでしょ?

 

 

こんなときに自分の力が少しばかり恨めしくなる。心が通じ合うのは、こんなときでなくてもいいだろうに!

 

 

「大丈夫だエリカ、お前の魔術は強い。俺がいなくてもなんとかなる。場所はエリカの呪力を追えばいける……そうだ、だったら一緒に行こう!それなら、仮に神獣がエリカを襲ってきても大丈夫だ。うん、そうしよう」

 

 

 確かに仮にエリカが神獣に恨みを買っていて、襲われたとしても護堂なら1分以内に片をつけれる。最強のボディーガードだ。さらに護堂の飛行能力は、魔女が使う飛翔術より速い。快適なフライトになるだろう。だとしても面白さ第一のエリカが、こんなに狼狽している護堂を手放すわけないのだが。

 

 

「却下よ。そもそもあなた、大型車が追突しても須佐能乎で守りきれるじゃない。むしろ、この車と追突した相手を心配するべきね」

 

 

 冷徹な言葉と共に、護堂の提案は切り捨てられる。大丈夫と分かっていても怖いものがあるのを、全く理解してくれないエリカの姿勢に(本当は違うが)、とうとう護堂のほうが折れる。

 

 

(諦めよう。俺にはきっと相手と、分かり合う力がないんだ。俺は……無力だ! )

 

 

 絶望が護堂の心を埋め尽くしていく。きっと出荷される牛に心があれば、こんな感情を抱くのだろうと、自分の世界に沈んで逝くのであった。

 

 

 

 

 

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 絶望の時間が終わり、たどり着いたのはとある姫君が使っていた館を改装したというホテルだった。車から降りると同時に、自身の足で大地に立つ感触を、護堂は堪能する。内臓が口まで上がってくるような感覚が消えていく。やっぱ大地が一番! 。そう少し涙を流す護堂の耳に今、おかしな会話が聞こえてきた。

 

 

「私たちは行って来るわ。アンナはここで待っていてもらえるかしら。帰りもお願いするわ」

「分かりました、エリカ様。では会合が終わるまで、こちらで待機しておきます」

 

 

 なにを会話しているのかイタリア語がさっぱりな護堂には分からないが推測するに、帰りもあの車に乗るのだろう。そこまで考え護堂は決断する。用件だけ聞いたら、さっさと飛雷神で日本に帰ろう。そう決意するのだった。

 

 

 

 

 

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 ホテルの中に入りカウンターによらずに、エリカは早足に突き進む。その後ろを青い顔をした護堂が、黙々と何も聞かずについていく。そして一室の前でエリカが立ち止まる。

 

 

「護堂、わたしがよぶまで待機していてもらえるかしら。本来、あなたの身分ならVIPルームで待っていてもらうのがいいのだけれど。ただ、今回はそうもいかないの」

 

 

 エリカにしてはもうしわけなさそうな口調で告げてくる。別に護堂としてもVIPルームなぞどうでもいいので、構わないのだが、そうもいかないと言うのが気になる。

 

 

「別にいいぞ。ただ、そうもいかないってのはなんでだ?また、なにかしらの政治的な理由か? 」

「いいえ、違うわ。単純にあなたが来るのが早すぎたのよ。本来ならこの会合は、護堂が来てから開かれる予定だったの。でも護堂が来た以上、予定通りに開く意味がなくなったわ。そういう意味では政治的な理由になるわね」

「本当なら部屋を取っておいて、俺はそこに待機する予定だった。なのに、その張本人は空間を飛び越えて、一日かかる予定が、わずか10秒に短縮されたせいで、計画が全部狂ったのか。そうか、だから重要な事を言わないって怒ったわけか、納得」

 

 

 そう告げるとエリカは何も言わず、ただ目で、もっと反省しなさい、と訴えると部屋の中にはいっていった。そして一人残された護堂は、ポケットからスマホを取り出し、電子書籍アプリを立ち上げるのだった。

 

 

 

 

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 30分ほど経っただろうか。充電を忘れていたため、バッテリーの残量が切れかけのスマホを眺めながら、雷遁は直流なのか交流なのか、そして発電機の変わりになれるのか考えていた、護堂の元に部屋に入ってくれとエリカからメールが送られてきた。ちなみに入る際に、普通とは違う方法で入ってくれとの要望があったので、エリカが持っているお守りを目印に、部屋の中に飛ぶ。そんな明らかに、異常な方法で部屋にいきなり出現した人物にエリカを除く3人の人影が驚く。

 

 

「始めまして、草薙護堂といいます。以後お見知りおきください」

 

 

 エリカと同じ魔術師なら、日本語が通じるだろうと考え名を名乗る。

そう自己紹介する護堂にいたずらを成功させた子供のような笑顔でエリカが答える。

 

 

「お越しいただき真にありがとうございます、草薙王よ。あなたの第一の騎士エリカ・ブランデッリの願いを叶えてくれたことに感謝します」

 

 

 部屋に入る前までの軽さがうそのようなかしこまった物言いである。だが無理もない。いまこの部屋にはエリカと同等の大騎士に魔術結社の総帥が2人いるのだ。そんなところで、護堂と談笑じみたことをすれば、護堂自身が軽く見られることになる。エリカの考えを理解しているので、特に護堂のほうもエリカの口調に突っ込みを入れない。護堂としては多少低く見られても、別にかまわないのだが。そんな中、驚きから覚めたのか部屋の中にいた人たちが、護堂に対して日本語で自己紹介をするのだった。

 

 

 

 

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 全員がお互いの名前や立場を確認できたところで今回、なぜ神殺しの魔王である護堂がここに呼ばれたのか説明される。

 

 神殺しの魔王、現代ではカンピオーネとも呼ばれる人類最強の王者である。かれらはその名の通り神を殺し、神々が持っていた異能の力―権能と呼ばれる―を奪い取り常人、いや魔術師であろうと起こせぬほどの奇跡を手足のごとく扱うことが出来る。

 

 また、魔王となるまえの人間であったころに、本来であれば人間ごときに神を殺すことができない、この当たり前の常識を打ち破り、神に勝つ偉業を成し遂げた彼らは、魔術世界において王族のごとき敬意と畏怖を払われる。そんな神殺しが唯一、しなければならない義務がある。かつて成し遂げたように、この世に降臨し災厄と破壊をもたらす神々を殺すことだ。

 

 そんな魔王の一人である護堂しかできない神様がらみのことと聞いていただけに、これは正直護堂としても、予想外であった。

 

 

「まさか、エリカと戦うことになるなんてな。てか、あの人たち疑り深いにもほどがあるだろ」

 

 

 ため息をつきながら、疲れたサラリーマンのような声でつぶやく。

 

 

「あら、そうかしら。あれぐらいでないと権謀術数うずまく世界ではやっていけないわよ。まあ、護堂には政治的なしがらみなんて、無縁のことだから関係がないでしょうけど」

 

 

 あのあと自己紹介をし、エリカから告げられたのは、この人たちに護堂の力を見せてほしいとのことだった。

本来なら、神がらみの問題は欧州では、護堂と同じカンピオーネの一人であるサルバトーレ・ドニのところに、話が行く。

 

 だがドニは、一月前の護堂との死闘での怪我が癒えてない為、神と戦うかもしれない案件に関らせるわけにはいかなかったのである。そこで、エリカは今回7人目の魔王である護堂に、頼むつもりであった。

しかし、それに待ったをかけたのがあの部屋にいた、総帥たちである。

 

 いくら療養中とはいえ、盟主であるドニに話を通さず、外国のカンピオーネに助力を請うなどあってはならない。また、護堂自身カンピオーネになって半年もたっていない。そんな経験の浅い魔王で信用できるのだろうか。これが総帥たちのだした結論だ。ならば実力が確かならだいじょうぶなのですね。エリカがこう言い放ったらしい。そして護堂が飛雷神で早く日本に帰りたいんだけど、と思っている間に、エリカと模擬戦をして力を示し、総帥たちを納得させるという流れになったのである。

 

 

「でもな、エリカ。別にこんなことしなくても俺がいいから話な、あんらたうまい話をしってるんだろ。だせよ、ほらはやくよってやったら誰もさからえないんだろう」

 

 

 どう聞いてもチンピラのようなやり方だが、事実これをされると魔術師はだれも護堂に逆らえない。護堂に逆らえるのは、同格の魔王か神話の中の住人だけなのだから。

 

 

「そうね、一番手っ取り早い方法ではあるわね。でもね、護堂、この模擬戦はわたしにとっても重要なのよ。私は前々から思ってたのよ。護堂と一度戦ってみたい。その力を直に確かめたいって。確かに私は護堂の戦いを、近くで見てきたわ。それでも見るのと、実際にやるのは全く違うわ! 」

 

 

 どこか夢見る少女のような面持ちで護堂の肩によりそいながら、語りかけてくるのである。

 

 

「戦いに対しても情熱を注ぐ。エリカらしいとはいえ、物騒だな。俺のように平和主義者の思考にはわからん」

 

 

 神殺しの魔王としては異端の言葉をつぶやく。そして、そんな矛盾した言葉を見逃すほど、エリカは甘くない。

 

 

「平和主義って思考じゃないでしょ護堂は。むしろ戦争はなくならない、人類が生きてる限りな! って力強く主張してたじゃない」

 

 

 その言葉に対して護堂も力強く言い返す。

 

 

「だからこそさ。叶わない願いだからこそ、主義主張になり理想としてあり続けてくれる」

 

 

 草薙護堂16歳、彼は行動は別にして平和(になったらいいな)主義者である。だから今も彼は祈る。

世界の平和を。

自身の尻に、振動とエンジンの唸りを感じながら。

 




次回戦闘。でもさすがにエリカ相手に六道仙術は使わない。ローマが消える。

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