六道の神殺し   作:リセット

2 / 22
初投稿


一章 六道(原作1巻)
プロローグ


 その電話は、学校で護堂が帰り支度をしているときにかかってきた。ディスプレイに表示された通知不可能の文字を見て、不審に思う。通知不可能。これが表示されるのは、主に海外からの電話だ。それだけに電話の主が誰なのか、判別つかない。電話に出るか少しばかり考え、結局でることにする。

 

 

「やっと出たわね護堂。この私をこんなにまたせるなんて、ずいぶんと礼儀知らずなんだから。まあいいわ、あなたがのんびりやなのは分かっていたことだし」

 

 

 開口一番とは思えない言葉である。しかしこの口調から、誰からの電話なのか察する。この電話の主―エリカ・ブランデッリは非常に我侭な女である。この女は、間違いなく世界の中心で輝いているのは、己だと思っているタイプだ。ゆえに、言葉が少しばかり、いや、聞く人によっては非常に不快に聞こえるものが多い。まあ、性根自体は悪い奴ではないのだが。それがわかっているので、護堂のほうも特に怒ることなく、返答する。

 

 

「あのな、エリカ。通知番号が分からん時は、基本的に俺は電話に出ない。今度からはメールにしてくれ。それなら差出人でエリカだとすぐ分かる」

「もう、無粋な事を言うのね。メールだと護堂の声を聞けないじゃない。あなたのことが愛しくて、声が聞きたいと思うのがおかしなことかしら。護堂のほうもそうでしょうし、いいでしょ? 」

「あのな、エリカ。俺が覚えてる限りでは、前に会ってからそんなにたってないと思うのだが、どうだろうか? 」

「私がそれで我慢できると思ってるのかしら? 」

「うん、聞いた俺が馬鹿だった。しかし急に電話してくるなんて、どうしたんだよ?またなにか厄介な揉め事…神様や魔王関連でなにかあったのか? 」

「察しがいいわね、護堂。ええ、その通りよ、またまつろわぬ神に関することで、護堂にひとつお願いがあるのよ」

 

 

 その言葉に護堂の、放課後を向かえ明日から休みだわーい、と言う気持ちが急降下していく。だがそれもしょうがない。神が絡む事態は、いつだって世界の危機に直結するぐらい大事になるのだから。

 

 

「…はあ、やっぱり神様関係か。なんで毎度の事ながら、こんなにぽんぽん世界の危機になるんだ。人類全体が呪われてても納得するぞ。しかし、なんで俺なんだ? ドニの奴はどうしたんだよ。あいつなら神の相手が出来るなら、尻尾を振って喜んで飛び込んでくるだろ? 」

「あのね護堂、サルバトーレ卿なら、貴方が山ごと吹き飛ばした時の怪我の療養中よ。そしてサルバトーレ卿が動けない今、私が頼める相手が貴方しか……曲がりなりにも魔王である護堂しかいないのよ。他の神殺しの方々に頼むと、おそらくイタリアが地上から消滅することになるわ」

 

 

 さらりとエリカはとんでもないことを言う。一個人を捕まえてひとつの国が消えるなどと、本来であれば、酒の席のつまみになるのが関の山だ。しかし、イタリアの、いや、全世界のある事情から表にはでない者達がこの発言を聞けば、こう言うだろう。

 

 

 だよね、と。

 

 

「……分かった。分かったよ。前に命がけの戦いをしてからまだ一月程度だってのに。…でだ、俺はなにしたらいいんだ?」

「さすが話が早いわね。マイペースなのが欠点ではあるけど、その察しのよさはとても好きよ。…とりあえずイタリアまで来てもらえるかしら、そこで詳しいことは話すわ」

「了解。俺がこの間渡したお守りあるか?捨てたりしてないよな? 」

「いま手元にあるわ。このお守りがどうしたのかしら?……護堂? 」

 

 

 プツン。いきなり通話が切れた。そしてエリカの後ろに突如人の気配が現れる。驚愕にエリカの顔が歪む。エリカは魔術世界で、齢16にして大騎士の称号を授かるほどの天才である。これは10年に一度レベルの神童だ。そのエリカが、近くに寄られるまで気づかなかったのだ。胸のうちの感情を押し殺し彼女の愛刀、魔剣クオレ・ディ・レオーネを手元に呼び出し気配の主に向けて振り向きざまに剣を突きつける。剣を突きつけられた人物は暢気そうにあくびをしながら、エリカの剣を指先でつかみながらこう言い放った。

 

 

「どうしたんだよエリカ、俺またなんか悪いことしたか? 」

 

 

 さきほどまでエリカが話していた相手、数千キロかなたにいるはずの草薙護堂がそこにいた。

 

 

 

 

 -------------------------

 

 

 

 

「ねえ、護堂。貴方は私のことをあれこれ言うけれど、あなたも根本から治さないといけない悪癖がたくさんあるわ。おかしなことを口にしたり、重要なことを相手をおどろかしたいなんて理由からだまっていたりね! 」

 

 

じとっとした目つきでエリカは護堂を見下ろしながら言う。そしてこの言葉をたたきつけられた護堂は床に正座させられているのに反抗する。

 

 

「まあな、確かにエリカの言うことも俺は分かるよ。しかしだ、俺はただエリカの驚いた顔が見たくてな」

 

 

後悔や反省の態度をまったく感じさせない口調と暢気さで、悪びれもなく頭の悪いことを言い放つ。このマイペースに生きる点こそ、草薙護堂のおかしさの真骨頂だと言える。

 

 

「……はあ。このひとはどうしてこんなにあれなのかしら? しかし驚いたわ護堂。あなた長距離転移まで使えたのね! 」

 

 

 振り回したつもりが振り回されている。護堂の厄介な特徴に対して、頭が痛くなってくるのを自覚するエリカだが、同時にいまこの床で反省(形だけだが)の正座をしている男の子が、当然のごとく神秘の秘奥を体言することに畏怖の感情を抱く。今、エリカが口にした長距離転移、これは魔術のなかでも最高峰に位置する代物である。エリカは、もしスポーツの選手ならオリンピックで金メダル確実と称されるほどの天才だ。そんな彼女でも空間転移は使えない。いや、おそらく彼女を超える地や天を極めた魔女や、彼女が信頼してやまない欧州最高の騎士パオロ・ブランデッリですら使えないだろう。そんな秘術を息をするように行う、それも数千キロも!しかし、それも護堂であるならば当然かと納得する。なにせこの少年は、自分が愛する上にこの世に7人しかいない、最強の称号を持つのだから。

 

 

「長距離転移?ああ、飛雷神のことか。いや、なんか驚いてくれたのは目的通りで、嬉しいんだけど、これそんなに便利な術じゃないぞ。移動したいところにマーキングしとかないと飛べないし」

「マーキング? もしかしてこのお守りって」

「そ。それに俺のチャクラ、エリカたちは呪力っていうんだっけ?をこめてあるからここに転移できたたけだよ」

 

 

 まるで使い勝手が悪いかのような物言いだが、それでも日本からイタリアまで転移できるだけでとんでもないのだが。まあ、この人のおかしさは、今に始まったことじゃないかと無理矢理に納得する。色々と言いたいことはあるが今は

 

 

「もう怒ってないから、正座をくずしてもいいわよ。それよりも護堂。愛する二人がこうしてひさしぶりにあったのだから、なにをするかなんていわなくても分かるわよね?」

 

 

 先ほどまでの態度はどこへやら。正座を崩した護堂の胸に甘い言葉とともに飛び込む。護堂は平均的な同年代の男子に比べ、はるかに力が強いがそれでもそこそこの大きさの女の子が胸に飛び込んできてふらつかないほどではない。また、正座を崩した直後で体勢が悪かったのもあるだろう。あっさりと後ろに倒れこむ。

 

 

「こういうのも俺は悪くないとは思うけど、今はほかにすることがあるんだろう? 」

 

 

 そういいながらあっさりと上にいたエリカを押しのけ立ち上がる。押しのけられたのが不満なのか、エリカが口を尖らせている。そのエリカの頭を、また今度なと軽くなでる。それだけであきらかな不満顔が、少し緩む。

 

 

「ふん、こんなので終わらすつもりはないのだけれど、今回はあなたの顔をたてて引いてあげるわ」

 

 

 不満さとは無縁の声で答えるのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。