六道の神殺し   作:リセット

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16話 ~挑戦~

 地下神殿が地面ごと吹き飛び直径一キロの円状に粉々に砕け散る。護堂が輪廻写輪眼の力の一つ、天道の神羅天征で発生させた斥力でメルカルトごと穿り返したのだ。もうもうと舞う粉塵の中から飛び出すメルカルト。同じように土煙の中から白き影が飛び出す。六道の力を全開放した護堂だ。いまや神すら上回る呪力を解き放ち、音を遥か後ろに置き去りにして飛行。水蒸気爆発を起こしながらメルカルトを追いかける。

 

 メルカルトの手から護堂を打ち落とすために稲妻が閃く。それを変態機動で避ける護堂。護堂の飛行速度でも秒速数百キロから光の三分の一の速度で飛んでくる稲妻など避ける事は出来ないはずなのに、辛うじてではあるが避けてしまう。まるで来る場所が分かっているかのように移動し続ける。真実護堂には来る場所がある程度読める。その理由は護堂の感知能力にある。護堂は呪力だけでなく回りの気配や自らに迫る危険な存在を事前に知覚できる。その力を全開で扱えるのは六道仙人モードの時だけ。六道状態以外で使えば精神の方が先に参るほどの情報を得るのだ。

 

 護堂はトンボのようにいきなり直角に曲がったりと航空機では不可能なルートを使用し、徐々に距離を縮める。ある程度近づいたところで、護堂の眼がメルカルトを捉えた。それと同時に視線の先が空間事捻じ曲がる。

 

 神威による異空間転送を使った一撃必殺。それをメルカルトに使ったのだ。これで終われ、そう念じた護堂の予想を裏切るように空間の捻れがいきなり消えた。

 

 

(何! 神威が無効化された! )

 

 

 護堂は輪廻写輪眼で今なにが起きたのかしっかりと確認できた。護堂の神威をメルカルトの体から立ち昇った神力が弾いたのだ。神の持つ呪力耐性が護堂の神威の干渉力を上回ったのだ。その結果にしばし気を取られる護堂。そんな彼の頭上でいつの間にか空を覆っていた雷雲が光り輝く。稲光だ。雷雲が光ったなら起きる事など一つだけ。

 

 大気が引き裂かれ悲鳴を上げる。彼方まで響く轟音が空から地面へと落ちる。自然に発生することなどない大柱の如き雷が護堂へと波濤の如く流れ込んだのだ。気が散っていた護堂の回避が僅かに鈍る。直撃、人に雷が落ちた音とは思えない爆音。火薬庫に火をつけたような爆発音と共に、空中に浮いていた護堂が一直線に地面に墜落する。そこに二発目が落とされる。先ほどの雷も大概な大きさだったが、今地面に打ち込まれたのはそれすら上回る代物だ。

 

 護堂がいた場所を中心に森の木々が切り裂かれたように真っ二つになり、着弾の衝撃波で浮いた側から、電熱によって中の水分が蒸発し、火がつき燃え始める。更に言うならそれは外側の木々だ。本当の中心部はより悲惨な事になっている。火がつくのではなく一瞬で炭化し炭になった。地面はどろどろに熔けて溶岩の様になっている。山羊の降らした稲妻等と比べ物にすらならない。所詮護堂が降した山羊は神獣、メルカルトやウルスラグナが使う手駒の一つに過ぎない。その力には雲泥の差がある。普通ならこれで護堂も地面と同じく溶解するか、木のように骨まで炭化し元の形が分からない黒こげの塊になるのがオチだ。けれどもこれで終わるような護堂では、六道仙術ではない。

 

 

「あの小僧めまだ生きておるか。わしにあれだけの大口を叩く以上、相応の実力があるだろうとは疑っておったがやりおるわ、フハハハハハハハハ! 」

 

 

 稲妻と同等の音を持つメルカルトの嗤い声。神王の口ぶり通り護堂は死んでなどいない。赤い地面の中心に漆黒の球体が鎮座している。それが解け中から羽織が少し焦げつき、手などに軽く火傷を負った護堂が姿を現す。墜落時にとっさに求道玉を生成し、それで自分を取り囲むように形態を変化させ防御したのだ。不思議なのは一撃目は護堂を確実に捉えたのに、服が焦げ付き軽い火傷程度の被害で済んでいることか。しかしこれはそう可笑しな事でもなかった。

 

 先ほどメルカルトは護堂の神威を無効化したが、それと同じように護堂も自らの呪力耐性で稲妻の威力を大幅に減衰させたのだ。火傷で爛れた皮膚も目に見える速さで元に戻っていく。服も護堂の呪力で編まれた物、すぐに再生する。大自然の脅威すらものともしない不死性であった。

 

 

(力の総量が多いと術や権能の効果が薄くなったり、無効化できるのか。まさか神威が通じないなんてな……てことは他にも通らない手札があるかも知れないってことか。厄介だな、戦いながらどれが大丈夫で、どれが駄目なのか確かめながらあいつの防御を抜ける攻撃をしなきゃならないのか。…まあいい、やってやるさ、その為に挑戦しているんだからな)

 

 

 護堂が心の中でぶつくさ言っている間にも戦いは続く。メルカルトが呼び出した雲。それが地上目掛けて降下を始めたのだ。内部に雷と風の刃がたっぷりと詰め込まれた現代兵器も真っ青なそれ。一人の人間を殺す為だけに雲の爆弾が投下される。森に急降下した後、爆炎の変わりに雷が広がり、鋼鉄を両断する神の息吹がそれに付随する。森ごと護堂を蹂躙せんと嵐の軍団が殺到した。空からその光景を見ていたメルカルトは、少し満足げな表情を浮かべる。闘争とはすなわち征服だ、強きものが弱きものを淘汰する。それこそ自然の摂理に他ならない。例えそれが強大な力を持っていても神王に挑んだのは所詮は人間。それなりの対応はしてやるが、さりとてオリエントを支配した己と同等などと思い上がるなら報いを受けさせる。要塞のような防御手段を持っているなら削り取るまでだ。

 

 しかしそれは叶わない。森を包みように広がっていた雲が一点に向かって集中し始めたのだ。メルカルトはそのような操作を行っていない。彼の制御を振り切り排水口に飲まれる水のように、徐々に雲がその体積を減らしていく。ついには完全に消え去ってしまった。では雲はどうして消えたのか、雲が集まっていた場所は無論護堂。彼は輪廻写輪眼の力を使った。餓鬼道の封術吸印、その効果は固体を除き液体や気体などの流動体または呪力そのものを吸収し自らの呪力へと還元する。これを使って雷雲を消滅させたのだ。神王が唸っている間に護堂も術の準備をする。

 

 求道玉を棒状に変形させいまだにグツグツと煮えたぎっている赤い地面に刺す。突き刺した求道玉を通して溶岩に命を与える。生命力を与えられた溶岩から次々と何かが飛び出してくる。鳥だ。溶岩で作られたカラスによく似た鳥たちが何百羽と空を舞い始めたではないか。溶岩全てがカラスへと変化しつくす。鳥たちが狙うのは空中にいるメルカルト。護堂の指揮を受けたカラスが一斉に襲い掛かる。

 

 

「珍妙な真似をしよるわ。千変万化のあやつでもそこまで多彩な大道芸をこなさぬぞ! 」

 

 

 飛行し襲い掛かる鳥たちを迎撃するメルカルト。彼がそちらに掛かりきりの間に護堂は別の術の用意をする。雲の爆弾によって、禿山になってしまった森。そこに樹齢数千年はあるだろう大樹が生える。数は三。その樹の頂点に葉ではなく蕾がつく。蕾が急成長し花が咲く。護堂が用意したのは樹の砲台と花の砲塔。砲塔である以上弾が装填される。装填されたのは赤黒く濁った直径二十mサイズの砲丸。護堂の尾獣玉だ。

 

 

(俺の手でサルデーニャ島が吹き飛んだら元も子もない。威力と範囲を絞って精確に当てる)

 

 

 護堂は今もカラスを迎撃している最中のメルカルトに花砲を向ける。

 

 

「全砲門開け、……放てええええ! 」

 

 

 別に叫ばなくても良いのだが、その方が気分が乗るのか護堂の呪力が更に高まる。そんな呪力を乗せられて撃ち出された砲弾は核弾頭に匹敵する。威力を抑えて撃つとはいえ、全力で使えば北海道ぐらいの面積が荒廃した大地と化す護堂の尾獣玉。それが三発。空高くに打ち上げられ一斉に爆発する。カラス達とメルカルトを巻き込む巨大な花火が空に咲くのであった。

 

 

 

 

 

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 護堂が去った後、夜明けまで仮眠を取るつもりでいたエリカだが、そんな彼女を寝させるものかと言わんばかりの轟音と地響きが強制的に覚醒させる。寝起きの悪いエリカだが今回は一気に目が覚める。

 

 

「ちょっと何なの、一体なにがあったのよ! 」

 

 

 寝起き特有のぼやける目を擦り、周囲を確認するエリカ。そして今の地震の正体が何なのか理解できた。彼女から遠く離れた遺跡のある森。その場所の上空に嵐が到来しているのだ。これだけ離れているのに、それでもエリカの網膜にこびりつくほどの雷光が煌き稲妻が落ちる。今度は地面が陥没したのではないかと感じる程の破裂音。数十キロ先まで届くほどの音量。大気が引き裂かれ、慟哭を鳴らす。

 

 

「まさかウルスラグナとメルカルトの戦いがもう始まったの! まさか予想よりも早く始まるなんて。仕方ないわね、急ぐわよ護堂、……護堂? 」

 

 

 何時の間にか彼の名を呼んでいた自分に驚くエリカ。人類最高峰に近い実力を持つ癖に臆病風に吹かれて逃げ出した少年の名を、いつの間にか当然のように口にしていた。あんな奴の事をまるで仲間のように扱うものかと頭を振り、最後までエリカの脳裏に苔のように張り付いていた護堂の顔を払う。気を取り直しすぐに身支度を整えサン・バステン遺跡に向かう。走っている最中に空に何かが打ち出されるのが見えた。エリカが何だろうと訝しむもすぐにそれの正体が判明した。強烈な閃光と共に破裂したのだ。エリカのいるところまで衝撃波が振り撒かれる。そのせいで彼女の軽い体が僅かに浮き上がった。錬鉄の魔術で鎖を作り地面と同化させ、飛ばされないように必死で繋ぎ止める。数秒して爆風も収まった。地面に降りたエリカの膝が折れそうになる。彼女が今見た光景は出鱈目そのものだ。あんな力が当然のように扱われている所に、乗り込もうとする身を本能が押し留めようとする。それを意地だけでねじ伏せる。根性論なぞ本当はエリカの好みではないが、この数日の間は選り好みしている余裕も無かった。気圧されるな前を向け足を止めるな。そう必死で己に言い聞かせる。数時間前のような屈辱は二度と御免だ。

 

 森へ。遺跡のある場所へ。ただ彼女は向かう。その間にも戦いは続いているのか大地が揺れ、大気が炸裂する。近づいた事で戦っている者の姿が鮮明になる。闇を見通す魔術と遠視の魔術を組み合わせ目を凝らす。空を白い誰かが飛び回る。何かから逃げるようにジグザグに飛行して時折手に持った黒い棒を振る。恐らくエリカの目に映らないほどの速度の何かを打ち返しているのだ。そして

 

 

「どうしてあなたがそこにいるのよ…………護堂……」

 

 

 魔術を使っているがゆえに、白い人影が誰なのか見て取れた。白髪になっている上に着ている服が全く違うが、あれは護堂だと否が応にも理解させられる。最初はウルスラグナだと勝手に判断していた。かの軍神は千変万化の権能の持ち主。十の姿を取り、あらゆる戦場で勝利を掴む常勝不敗の神格。それが違う姿になっていたと思っていたのだ。けれども違った、あそこで戦っているのは逃げ帰ったはずの彼。その光景に流石のエリカも何がどうなっているのか理解できない。恐怖や畏れではなく困惑と疑問が、死に向かうはずの彼女の足を止めるのであった。

 

 

 

 

 

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 尾獣玉を放った花砲が萎れ散る。樹も反動で幹の半ばから裂け折れた。尾獣玉は強力なのだが、強力過ぎて撃つたびに一々発射装置を造る必要がある。生身で使うと六道仙人モードでも負担が重すぎて手が砕ける。須佐能乎で代用しようにも完全体でないと尾獣玉を維持できない上、完全体と尾獣玉クラスの術の併用は消耗が著しく激しいので護堂としても避けたいのだ。しかし使うのが面倒な分威力自体はお墨付き、現にメルカルトが呼び込み創り出していた嵐が大爆発で消滅した。けれども護堂の視線は空ではなく違う所に向けられている。護堂が睨み付けるのは無傷で地に降りてきたメルカルトだった。

 

 

(メルカルトは稲妻になって、どこかに飛び去っただったか。糞、ルクレチアさんの話から今の回避方法を検討しておくんだった……)

 

 

 メルカルトも戦士としての経験から尾獣玉の威力を考察し、共鳴爆破から全力で逃げた。流石の神王もあれに巻き込まれたら、死なないにしても行動が著しく制限されるほどの重症を負っていた可能性が高い。だからこそ雷化による緊急回避で尾獣玉から逃れたのだ。

 

 

(けれど今のでメルカルトの呪力、神様だから神力か?力が大幅に落ちているな。……なるほど、あれは消耗が激しいんだな。あいつの力の総量から考えても連発は出来ないはず、それにそこまでして尾獣玉を避けたってことは今のはメルカルトにとっても脅威だったんだ。いける、俺の力は神様相手でも通じる! )

 

 

 ここまでのやり取りで六道仙術は神様に十分通じると手ごたえを感じる護堂。ならば後は畳み掛けるだけ。メルカルトの周囲の地面がぼこりと膨れ上がる。顕現するのは鳳を拘束したのに良く似た土の腕、ただし大きさが全く違う。高層ビルと遜色の無い極太の腕が拳を握り、メルカルトを潰さんと神王目掛けて鉄拳を打ち下ろす。

 

 

「こやつを相手にするには素手では不利か。ならば我が武具の出番よな、追いて駆ける者、我が牙たる一対の武具よ、来たれ!ヤグルシよ、アイムールよ、我が敵を打ち砕き薙ぎ払え! 」

 

 

 メルカルトの眼前の虚空が歪み、そこから二本の棍棒が回転しながら飛び出してきた。棍棒は護堂の土遁を薙ぎ倒し、勢いを落とすことなく彼目掛けて獲物を狙う隼のように飛来する。護堂もギリギリで反応し求道玉を変化させた棒で打ち払う。

 

 

「ちょっと待て、何だよ今のスピードは。輪廻写輪眼でも追いきれないなんて冗談だろ! 」

 

 

 魔法の棍棒ヤグルシとアイムール。かつて技術神コシャル・ハシスがメルカルトに贈った武具だ。これを用いてメルカルトは竜王ヤムを玉座から引き離し撲殺した。すなわちこの棍棒だけで一柱の神を殺す事が出来るのだ。そんな武具が常識の範疇で収まるわけが無い。ヤグルシもアイムールも稲妻と同等の速度を出す事が可能なのだ。もし護堂が感知能力を限界まで引き上げていなかったら、今のは確実に直撃していた。

 

 そして魔法の棍棒は一度弾き返されたくらいで止まらない。弾き飛ばされたヤグルシが燕のように弧を描き、旋風を伴って護堂の元に戻って来る。アイムールは蓄えた稲妻を放電し、一直線に飛び込んでくる。護堂も先よりは余裕を持って対処しようとする。しかし、それは出来なかった。速度自体には対応出来たのだが、振り払おうと漆黒の棒を叩き着けた護堂の体が、バットに叩かれたボールのように宙に打ち出されたのだ。棍棒が当たった求道棒にも皹が入る。なおかつ、普段の体では耐えられない程の膂力を護堂は発揮しているのに、それでも一回接触しただけで腕が僅かに痺れる。

 

 

「最初に打ち返した時より威力が強くなってやがる……そうか、あの棍棒は雷と風を纏うことでより破壊力が増すのか、面倒なもんを出しやがって」

 

 

 護堂のぼやきに付け加えるなら最初の一撃は土塊を壊した時に若干ながら、勢いが落ちていた。それのおかげで護堂も簡単に弾き返せたのだ。だが今は違う。ヤグルシとアイム―ルはかつて竜を打ち殺した時の力を再現しながら襲い掛かる。

 

 護堂は猟犬さながらに襲い掛かる神王の牙を求道玉を使い凌ぎ続ける。しかしメルカルトの猛攻はこれで終わらない。先ほどの意趣返しのつもりなのか、魔法の棍棒に護堂が意識を割かざるを得ない状況を作り、その間にまた嵐を創り雲から雷を落としまくる。

 

 護堂も怒涛の攻めを良く凌ぐ。体を伏せ棍棒をやり過ごし、求道玉で雷撃を防ぎメルカルトの隙を探る。探るのだが見つけられないのか、舌打ちを一つする。護堂は正直この状況をどう打開するか考えあぐね弱っていた。隙が無いなら術を使い、無理矢理にでも作ればいいのだが現状ではそれが出来ないのだ。なぜかと言えば護堂の使う六道仙術の弱点が超がつくほどの高速戦闘のせいで露呈したからだ。

 

 護堂が誰からか授かった、あるいは貰った六道仙術は全能に近い万能と呼んでも問題のない術だ。エリカは魔術の延長線上で考えているが、その本質は神や神殺しの使う権能のほうがよほど近い。護堂は仙術を使う事で万物をこの世に産み出し、万象に干渉することで土や水を操作したり出来る。この他にも生命を癒し霊体そのものを封印したりとその効果は多岐に渡る。しかし様々な事が出来る代わりに一つ欠点がある。それは発動させるまでの時間の長さと制御の難しさ。権能クラスの術を行使するなら、相応の時間をかけ呪力を練り上げ意識を集中し、術が完成するまでの間暴れそうになる呪力の手綱を握ってやらなければならない。一度完成させるかあるいは事前に準備をしておいたなら、そこまで神経を使わなくとも良いのだが、その場で一から発動するなら時間が必要になる。とどのつまり、今のように1秒未満で数キロの距離を詰められるような攻撃をされると、体術か求道玉のようなあらかじめ出しておいた術でしか対応出来ないのだ。

 

 それに付け加えるならこの戦いこそが、護堂にとって初めてのまともな戦闘になる。そのせいで例え術が使えなくともどうにか出来るような経験など護堂には皆無。この戦いが始まる前に神相手に啖呵を切った護堂だが、そのツケを景気良く払う羽目になっていた。

 

 次々と攻め立てられていた護堂だが、ついに皹の入っていた求道玉が砕け散る。それで護堂も隙をこのまま探しても、追い込まれるだけと判断し、無い知恵を絞って出した賭けを実行する。残っている求道玉を一つだけ手元に残し、それ以外はメルカルトに向かって一直線に等間隔で並ぶように飛ばす。求道玉が減った事で防御力が低下し、稲妻等が護堂の体に直撃するようになる。須佐能乎は使わない。今からする事に須佐能乎を使っても意味がないからだ。そもそも須佐能乎はこのような高速戦闘に向いていない。展開しても滅多打ちにされてすぐに剥がされるだけ。だから護堂は六道状態の頑丈さと自らの呪力耐性に全てを任せる。ヤグルシとアイムールの打撃だけは手元に残した求道玉で対応する。稲妻が身を焼く激痛に顔をしかめながらも、歯を食い縛って耐える護堂。

 

 

(輪暮辺りで凌ぎたいがインターバルと持続時間の短さを考えると、まだ使いたくない。こうなったら根性だけで何とかしてやる! )

 

 

 そして耐えている間に求道玉の配置が終わった。それらに対して護堂は左眼を向ける。次の瞬間玉と護堂の位置が入れ替わる。輪廻写輪眼の力の一つ天手力を使ったのだ。そして一回では止まらない。次々と同じ事を繰り返していく。天手力の射程の短さを求道玉を使う事で補ったのだ。

 

 急激に接近してきた護堂にメルカルトも目を剥く。接近した護堂が振るうのは棒状の求道玉。本気で打ち込まれる打撃は隕石の衝突を思わせる衝撃を生み出す。メルカルトも腕でガードしたのだが堪えきれずに後ずさる。

 

 

「ほう、格闘戦か。おぬしが武具を持つなら、わしも無手では都合が悪いの。ヤグルシとアイムールよ、我が手に来れ! 」

 

 

 メルカルトの呼び声に応え、すぐに神王の手に棍棒が持たれる。それだけではない、いきなりメルカルトの肉体が巨大化し、背丈が15m近くまで伸びたのだ。せっかく護堂が素手のメルカルトに対して格闘戦を仕掛けたのに、それが無に帰した。けれども、苦労して距離を詰めた以上後ろに引くわけにもいかない。そのまま白兵戦を続行する。護堂の求道玉が棒の形から、鳳にも使用した風の太刀にも良く似た長大な形態に変化する。護堂が繰り出すのは斬撃の雨だ。常人の目では最早何をしているのかも分からない。しかしながら神王は確実に防ぎきる。

 

 メルカルトはヘラクレスとも同一視される神様だ。その武芸は軍神や武神に一歩も引けを取らない。護堂の愚直ながらも確実に骨まで断たんと、意思の込められた一撃必殺の豪刀を全て捌き切る。お返しに棍棒を交差させた一撃をお見舞いする。護堂が空に放り出された。

 

 

「ちくしょう、接近戦まで得意なのかよ!しかも距離が離された以上またあれが来るのか……」

「くくく、軍神との戦いも血湧き肉踊る物であったが、貴様との戦も悪くない物だ。ふぬあああ! 」

 

 

 メルカルトが直接神力を籠めたヤグルシとアイムールを同時に投げる。護堂も空を駆け巡り神速で飛び回る棍棒達をボールのように打ち返し明後日の方向に飛ばす。二者の争いはより過熱していくのであった。

 

 

 

 

 

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 どれほどの時間が過ぎたのだろうか。周辺は二人の争いの余波で絨毯爆撃にでもあったかのような有様になっている。地面には護堂の求道玉によって潰されたイナゴの残骸が大量に散っており、虫嫌いが見れば吐くかもしれない光景が広がっている。それだけの被害を出す戦いを、いまだ行っているメルカルトは護堂相手に神力を大量に使い疲弊していた。一方、護堂の方も求道玉のほとんどを消耗し、最初は九つあったそれも残す所後二つまで減っていた。その二つを使い自らを包み込む。

 

 

「術を使おうにもあの棍棒が邪魔すぎるな。六道仙人モードを維持出来るのもあと僅かだろうし、どう攻略したものか。……こうなったら求道玉を最大限に広げて、その中で螺旋手裏剣でも生成するか? …………駄目だな、そこまで薄くしたら一撃で叩き割られる。それに雷化もどうにかしないと、ただ投げた所で尾獣玉の時みたいに回避されるだけ。棍棒と回避、これさえどうにか出来ればあいつを間違いなく降せるのに、何も思いつかない自分に腹が立つなあ」

 

 

 頭を抱えながらああでもないこうでもないと打開策を考える。護堂が独り言で言ったようにヤグルシとアイムール、そして雷化による瞬間移動じみた回避をどうにかさえすれば、護堂の手札ならここからでも勝利を捥ぎ取れる。だからこそ護堂は求道玉が外から何度も叩かれ、皹が徐々に広がっていてもそちらに意識を向けず思索に耽る。

 

 

「回避に関しては輪墓で拘束して、4人がかりで邪魔すれば恐らく妨げるはず。それよりも厄介なのはやっぱりあの棍棒だな。あれを拘束しようにも速過ぎる。どうにか二本同時に一か所に纏めれたら良いんだが鳥みたいに飛びやがるしな、ああもう面倒くさい」

 

 

 心の中だけで思案するよりもやりやすいのか、口で考えを呟きながら護堂なりに纏めていく。そして

 

 

「……まてよ、鳥か。そういや鳥を捕まえる時は基本銃で撃つよりも、罠を仕掛けておく方が効率がいいんだっけか。罠、……トラップ、…………トリモチ…そうかあの棍棒は棍棒である以上、俺に近づかなきゃ攻撃出来ないんだ、それならどうにかなるぞ! 」

 

 

 最初からこれをやっておきゃ良かったと、自分の思い付いた戦法に満足げな顔をする護堂。思い付いたなら後は実践するだけ。呪力を練り始めた護堂の目の前に砂の塊が顕れ人によく似た形を取り出した。その人型に護堂は更に呪力を注ぎ込むのであった。

 

 

 

 

 

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 メルカルトの瀑布染みた嵐とヤグルシとアイム―ルの乱舞が、ついに護堂の求道玉を全て破壊する。砕かれた直後に、勢いよく飛び出した護堂が空高くに舞い上がっていく。その後ろを追い掛ける棍棒たち。棍棒の速さは護堂の上をいく。二振りの牙がすぐに追いつき当たる直前に護堂がようやく完全体須佐能乎を展開する。

 

 しかし須佐能乎では神速で移動する棍棒に対応出来ない。足や腕、胴体が次々と打ち据えられ呪力で形作られた肉体が削られていく。更に上空からお馴染みの雷と大気の奔流も押し寄せてくる。前門の虎と後門の狼に挟まれた護堂だが、須佐能乎がどれだけ破壊されても彼には届かない。

 

 須佐能乎が6割近く壊された所で雲の中に護堂が突入する。護堂がなぜそのような事をしたのか推察したメルカルトが嘲笑を浮かべる。

 

 

「雲の中に移動してワシの目を掻い潜るつもりかもしれぬが無駄よ。その雲はわしが呼び創りだした物、すなわちわしそのものだ。今も手に取るように貴様がどこにいるのか知覚できるわ、痴れ者が! 」

 

 

 雲の中でも護堂を確実に捕捉しているのか、ヤグルシとアイムールが須佐能乎を完全に壊しに行く。更に雲の中で四方八方から嵐に襲われ、再生させる間も無く須佐能乎が体積を減らしていく。それでも護堂は止まらない。更に上へと昇っていく。ついにメルカルトの雲を突き抜ける。それと同時に須佐能乎が完全に消滅する。

 

 そして護堂は勝つ為に術を行使する。自信を追って来た棍棒二振りに向かって手を向ける。使うのは護堂の術の中でも数少ない出の速い術、輪廻写輪眼の天道だ。だがヤグルシとアイムールの衝突力を神羅天征で弾き返すのは難しい。だから護堂は斥力で弾き飛ばすのではなく、その反対引力を発生させる万象天引で自らに引き寄せたのだ。

 

 無論そんな事をすればどうなるかなど一目瞭然。引き寄せた事で更に速度を増した棍棒が、護堂を勢い良く挟み潰してしまう。その行動を雲を目として観察していたメルカルトが、なぜそんな事をしたのか不審がる。その疑問に答えるように潰された護堂がにやりと哂ったのだ。その直後ばさりと音を立てて、護堂の身が解け砂になった。そして砂が護堂を挟み込んでいた事で、完全に停止していた二振りの棍棒を拘束し、鎖状に形を流動させる。拘束しただけでは、棍棒もすぐに砂の鎖を破壊して振り切っただろう。しかし、それは不可能だ。鎖の表面を護堂の封印術が刻まれた呪印がびっしりと覆ってしまったのだ。これによってメルカルトから遠く離れた所で彼の猟犬が捕まり、身動き一つも出来なくなった。すぐに雲から嵐を解き放ち鎖を破壊しようとするメルカルトだが、その前に一つの疑問を解消しようとする。先ほどまでのあやつが砂の偽者なら本物はどこへ、と。その疑問に本物の護堂はすぐに応じてくれた。

 

 メルカルトの頭上、すぐ側の空間が捻れそこから護堂が飛び出す。その手に巨大な螺旋丸を手にしながらだ。護堂が今回やったことは単純だ、自らの砂分身を囮にしてメルカルトと戦わせる。その間に本体の護堂は神威空間に逃げ、そこで呪力を思いっきり練り上げ時間を十分にかけて螺旋丸を作成。そして砂分身をヤグルシとアイムールに追いかけさせ、メルカルトから距離を離させる。離れたら棍棒を分身に引き寄せ、あらかじめ仕込んでおいた封印術を起動させて戻って来れなくする。そうすれば必ずメルカルトは少しの間だけだが、注意がそれるはず。そこに螺旋丸を携えた護堂が、神威空間から不意打ちで攻撃する。それが護堂の考えた戦法だ。

 

 だがメルカルトには雷化がある。神の体がバチリと稲妻を放電し始めた。けれども護堂も一度見た以上、そう易々と逃がすつもりは無い。護堂の輪廻写輪眼が見開かれる。それはいきなりだった。メルカルトの四肢に何かが絡みついたのだ。

 

 

「何! これは……まさかわしの力を吸い取っておるのか!? 」

 

 

 メルカルトの四肢にしがみついた五感では感じ取れない誰か。それは位相のずれた世界にいる護堂の影達。彼らがメルカルトを捕まえ、皮膚から直接神力を吸い取っているのだ。雷化の神力も奪い取られる。

 

 

「喰らいやがれえええええええええ!! 」

 

 

 護堂の超大玉螺旋丸がメルカルトに勢い良くぶつかる。じりじりとだが押し込んでいく。しかし

 

 

「ぬ、ぬううああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 」

 

 

 神も負けてはいない。吸い取られる以上の神力を、命を燃やして生成し螺旋丸を拒絶する。護堂も負けじと呪力を上げて神を潰しに掛かる。メルカルトと護堂の押し合いは今は拮抗しているが、いずれは力の総量が勝っている護堂に傾くだろう。だがそれだけの時間が護堂の方に残っていない。六道仙人モードが解けかけているのだ。なおかつ、メルカルトを動けなくしている輪墓も持続時間が短く、後十五秒もすれば解除されてしまう。その前に決着をつける為に護堂は螺旋丸を押している利き腕に対して、もう片方の手を気合のと共に勢い良く叩き付ける。

 

 

「死ねええええええええ!!!!!!!! 」

 

 

 世界中に届きそうな大音声が響く。護堂もこれほどの汚い言葉を大声を出すのは初めてだ。しかし護堂にとっては汚かろうと気合は入った。今日一番の出力を叩き出す。メルカルトの決死の防御を貫通し、螺旋丸が捻じ込まれる。圧縮してもなお巨大な呪力の塊がその力を解放し、極大の渦を成形。メルカルトと護堂を中に取り込み、地面に天をも貫けそうなドリルで掘った様なクレーターが出来上がるのであった。

 

 




エリカへの酷評が原作と大体同じなのは偶然だろうか。(原作護堂にすらケチとかやさしくないとかついてくんなとかエゴイストとか意地汚いとか評価される)

後今作のメルカルトはぶっちゃけ原作より強いです。理由はウルスラグナが健在の為、弱体化していないから。てか原作護堂より優秀な智慧の剣を持つウルスラグナ相手に相打ちに持ち込めるメルカルトは強すぎると思う。

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