六道の神殺し   作:リセット

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幕間Ⅰ
エリカと護堂


 正史編纂委員会発足して以来の最大の呪的大災害、霞ヶ浦の決戦。二人の魔王のぶつかりあいから既に十日が過ぎていた。この間委員会を含む各省庁は大忙しであった。霞ヶ浦の修復が完了するまで、一般人の目から消滅した大地を隠す必要があったのだ。

 

 その間近くの町や市に住む者たちは家に帰れず、難民のような生活をする羽目になった。護堂も流石に自分がやらかした事なので大急ぎで消えた大地を新たに創り、土遁で整えその上に水遁で水を作り出し委員会協力の元土木工事に勤しむ事になった。無論その間は学校を休んだ。出席日数は教師に幻術を使い誤魔化した。護堂が睡眠時間を削り、影分身と六道仙人モードも駆使しての大作業。そのかいあって規模の割には早く作業が終了し、難民キャンプを強いられていた人々もそれぞれの家に帰り日常に戻りつつあった。

 

 しかし、委員会で働いている職員に休む暇などない。今回の大騒動は日本の魔術・呪術関係者全員にカンピオーネと呼ばれる人種が、一体全体どのような存在なのかを知らしめる結果となった。今甘粕やそれ以外のエージェントが記録した映像、それを編集した代物を鑑賞している甘粕と馨も護堂との付き合い方を模索しているのであった。

 

 

「何度みても凄まじいですねえ。この映像で分かるだけでもどれだけの権能を保有しているのやら」

「雷を防ぐ流動体の黒玉と大質量を移動させるほどの空間転移に、ゴルフ場の分析結果では物体を分子レベルに分解する箱だったよね」

「それに加えて撃剣会の師範代クラスの武芸、更に更に腕が数秒で生える回復力に水龍、後は何がありましたかね?」

「巨狼になった御老人を投げ飛ばすほどの怪力に大天狗の生成、これだけでも大概なのに神獣の召喚と雷の矢、そして霞ヶ浦が消滅するほどの権能を抑えることの出来る結界だね」

「後は祐理さんの話ですと死すらなかった事にできる現実改変と、ドラゴンになった侯爵を崩壊させる謎の攻撃ですね。後は飛行能力や顕身に呪力感知など盛りだくさんですね」

 

 

 日本初のカンピオーネの戦闘。これを記録するのは委員会としては当たり前の仕事であった。その当然を行った結果、知りたくもない事実がごまんと出てきたのだ。実態は違うのだが祐理の言から護堂は昔からカンピオーネであると認識されている。

 

 そして映像からの推測。この二つが合わさった結果、護堂はすでに最低でも十以上の神を葬っている、ベテラン中のベテランだと嫌な勘違いをされていた。映像を見る限りでも魔術では再現不可能な物ばかりなのだ。それゆえに権能だと判断するのは業界関係者としては何も間違えていなかった。

 

 委員会にも馨やそれに匹敵する秀才は数人いるが、流石に護堂が生まれたときからそうであったなど理解が及ぶわけなかった。結局の所護堂がバグの塊過ぎたのだ。

 

 

「けれどこの戦闘のおかげで、僕らが抱えていた問題が一気に解決したのだけは僥倖だったかな?」

「今回それだけが唯一の救いなのが良いのやら悪いのやら」

 

 

 甘粕達が記録し編集したこの映像。すでに委員会の重鎮達や有権者に配布済みである。その結果護堂の身内に手を出そうとする者が一人としていなくなった。だれが好き好んで歩く核弾頭に戦争を挑むような真似をしたがるのか。

 

 更に言えばこの決戦がなぜ起きたのかも通達済みだ。内容は護堂が祐理に言い放った言葉そのままである。これに関しては直接護堂に会い、あなたの身内に危害を加えようと画策している人物がいてその芽を潰すのに協力してくれませんかと頼んだ結果だった。そして護堂と直接話しをして、彼が祐理に対して並々ならぬ情熱を持っているのを馨は見抜いていた。

 

 実の所委員会も赤銅黒十時のように愛人を差し出して、護堂との関係を親密にしようと目論んでいたのだ。しかしその必要はもうなくなっていた。既に護堂と祐理はお互いの想いを知っている。有体に言えば委員会が手を出さなくとも、いつのまにか親密な関係が出来上がっていたのだ。

 

 確かに護堂ぐらいの年頃の少年には綺麗どころを揃えて全てあなたのものですとでも言えば、普通なら困惑はしても嫌がりはしないだろう。けれどもだ、護堂は普通と呼ぶには特殊すぎる。もしもこの愛人計画が実行に移されていたなら、委員会と護堂の中は最悪に近い関係、もっというならそれは護堂を挑発するのに等しい行為に他ならない。

 

 護堂は確かにエリカがいるのに祐理にもいつのまにか愛情を持っていた。だがこれはエリカに愛情を持っていないわけではない。そんな環境に護堂の力を目的に甘い蜜を吸おうと群がったとしよう。彼女らは自らの一族と己の栄光の為に護堂に愛の言葉を囁くだろう。なにせ護堂はカンピオーネ、日本で記録されている限りは唯一の神殺しだ。そんな彼に取り入る事が出来れば呪術界で絶大な影響を労せずに手に入れることが出来る。

 

 こんな簡単な事はない。実際候補者を募ったら何十人とエントリーしたくらいだ。しかし中身のない言葉は絶対に護堂に届かない。護堂は相手が自分に心を開いてる時に限るが、触れ合うだけで真意を知ることが出来る。そんな護堂に愛していると言うのに読めない相手が来たとしよう。

 

 とてつもない矛盾、だからこそ本当は護堂にそんな感情を抱いていないのを見抜かれる。更に言うなら護堂は呪力だけでなく悪意も感知する。自分の力だけを利用し、そこに相手への思いやりなど一つもない。そんな相手を護堂が好ましく思う事など万に一つもない。むしろエリカや祐理との仲を邪魔しようとする敵だと認識されかねない。

 

 本当に護堂に愛人を宛がうなら二つの前提を突破する必要がある。一つはその女性に護堂を利用するつもりがなく、むしろエリカのように例えそこが戦場であろうと共に歩み護堂の隣に立つ程の気概がある事。二つに護堂とその女性の間に護堂が断らないほどの強烈な縁がある事。

 

 一つ目ならクリアできる者は何名かいる。武家の出なら主君が前線に立っているのに自分は後ろに下がるのは恥だと、この業界なら教えられている事が多いからだ。だが二つ目、これを超えるのはほぼ不可能に近い。例え一つ目が大丈夫でも、護堂は間違いなくエリカ達を思ってすまないとでも言いながら断るだろう。そんな護堂の心情を突破するには彼との間によほどの縁がいる。護堂は元々イタリアで神殺しを行うまでは神隠しを除き大人しくしていた。

 

 そんな彼との縁など呪術関係者に築きようがない。だから普通は不可能。こんな条件を突破できる都合の良い存在などいるわけがないのだ。だがどんな事にも只人が神に打ち勝つように例外が存在する。この二つの壁を越えれる者、実の所一人だけいる。ただ惜しむらくは彼女は現在山篭りの最中な為、下界との連絡を取っていないのでこの状況をまだ知らないのだ。もし彼女がいつも通りに携帯電話のバッテリーが切れておらず、馨辺りと連絡を取り護堂の事を知ったなら間違いなく彼の元まで飛んでいき、かつての約束を果たしに行くだろう。まあこれはもう少し未来の話だ。

 

 ともあれ委員会の当分の方針は静観である。護堂とは絶対に争ってはならない、これが現在の結論だ。あの力を向けられたなら止める事など出来ない。日本中の戦力を掻き集めて九喇嘛をなんとか押し留める事が出来るくらいか。その為今は必要以上に接触せずに護堂を刺激しないように動く。馨と甘粕、二人を含む職員達は今日も彼のやらかした大災害の事後処理を徹夜で行うのであった。

 

 

 

 

 

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 呪術関係者の長い夜が始まった頃、同じように長い夜に挑むものがいた。護堂である。彼は今ベットの上に胡坐をかいて座っていた。しかしながらそのベットは彼の物ではない。そもそも護堂がいるのは自分の部屋ですらない。彼がいる場所はエリカの寝室であった。

 

 そして護堂は一人でいるわけではない。彼の胡坐の上に少女が座り込んでいた。部屋の主ことエリカ・ブランデッリである。彼女はそこが定位置だといわんばかりにすっぽりと納まっていた。そんなエリカを護堂も彼女の後ろから手を回し、自分の方に引き寄せ抱きしめていた。バックハグである。なぜ彼がこんな事をしているかと言えば、時間を数時間前まで遡る必要がある。

 

 霞ヶ浦の現場作業が完了したのは木曜日の20時頃であった。作業が終わり護堂に出来ることがもう残っていなかったので帰宅。120時間ぶりの睡眠を取った。

 

 そして起きた時にはなぜか時刻は金曜日の夕方。祖父に聞いた所起こそうとはしたのだが反応すらせず、死んだように眠っていたので静花も諦めたのだとか。だがたっぷりと寝た事で疲れも取れたのか護堂の体調は万全に近い状態に戻っていた。そしてすぐにある場所に彼は向かった。エリカのマンションである。

 

 アリアンナに居間まで通され久しぶりにエリカと会った護堂は彼女に祐理との事を伝えた。護堂から話を聞いたエリカは特に驚く事もなかった。護堂が学校に来ない間エリカは祐理と話をしたのだが、祐理の反応からなんとなく察したのだとか。護堂が二人目を作る、これはエリカとしては別に構わない。それは王者の特権だからだ。そもそも祐理はいずれは護堂の陣営に引き込む予定であった。それが多少早まっただけ。だから彼女は別の事を護堂に聞いた。

 

 

「そう、ところでそれを伝えにだけここに来たのかしら?」

 

 

 見透かすような事を言う。確かに護堂がここに来たのはもう一つ目的がある。電話口での約束を守りに来たのだ。護堂が後回しにしてきた彼女とのあれこれ。清算の時間である。そもそもなぜ護堂がエリカとのキスだのその先の男女の営みだのを断るのか。

 

 これには無論理由がある。エリカとのスキンシップで淡白な反応を取る事が多い護堂だが、別にエリカの事が嫌いなわけではない。むしろ彼女のどこが好きなのかを護堂に語らせたら軽く三時間は喋る。愛情を行動で表現したなら、意味もなく東京湾に大好きだの言葉代わりに日本列島を半分にする尾獣玉をぶっ放す。

 

 それぐらい護堂のエリカへの愛情は大きい。よく燃えるような恋愛等と表現されるが、護堂の場合は本当に燃える。しかも本人だけでなく国家規模の大災害に発展する可能性がある。そんな護堂が簡単に首を縦に振らない理由。それはこの気質にこそある。

 

 護堂とエリカ、この組み合わせは最悪に近い。最悪といっても仲が悪いなどではない。相性が良すぎるのだ。基本的に感情が暴走しがちな護堂といつでもバッチ来いのエリカ。この二人がお互いに求め合った時、止められる者がいなくなる。ゆえに自らの気質を理解している護堂は感情に枷を嵌めた。その結果エリカが求めてもそっけなく断ってしまう。護堂の後で、これは意地悪などではなくもし今エリカと行為に耽ると自分を制御できなくなるかも知れないから少し待って欲しいの意味だったりする。そして護堂はこの枷を今日は外すことにした。

 

 エリカの家でそのままアリアンナの料理に舌鼓を打った護堂はさっそく行動に移った。まず風呂に入る事にした。エリカと一緒にである。何をしれっとやっているのだとツッコミを入れたくなるが、護堂は至極大真面目である。もし誰かにこの状況を問い詰められたなら、逆に好きな子とお前は風呂に入りたくのかと問い詰めるまである。

 

 エリカも護堂の方から珍しく積極的になっているのなら断るわけもなく承諾。かくして二人して裸の付き合いである。体を洗いっこして先に髪も洗い終えた護堂は湯船につかり、浴槽の縁にもたれながら何をするでもなく、まだ髪を洗っている最中のエリカの体をぼーと見ていた。

 

 エリカの体はこうやって裸でみるとそのスタイルの良さが良く分かる。護堂が前に聞いた限りではバストサイズ87、先ほどの洗いっこで触ったさいの感触からDかEはあると推測している。それだけの大きさなのに垂れることなく形が整っているのは本人の気質を反映してか。

 

 腹回りにも贅肉などなく体操や陸上選手を思わせるほどすっきりとしている。肌はきめ細かく、白人女性らしい白さは眩しいほどだ。更に本人の顔はモデル雑誌の表紙を飾れるほど。単純な綺麗さならエリカ本人が護堂に自慢するように美少女と呼んでも差し支えない。そんな彼女の裸を見ても特に護堂は目を逸らしたりなどはしなかった。

 

 何も感じていないように見えるが実態は違う。表情が眠そうな顔から変化していない為

分かりづらいが、確実に変化が起きていた。この浴室、もっというならマンション全体が異界化してもおかしくないほどの呪力に満たされつつあった。その呪力の元は護堂。眠そうに目を細めているせいで見えづらいが、黒目が十字になっていた。護堂の感情が高ぶったせいでそれに比例するように、極大にすぎる力の一部が漏れ出したのだ。エリカもそれを感じ取っていたが、特になにも言わない。むしろ自分の体でここまで荒ぶるなら嬉しいものだ。

 

 そんな中何を思ったのか護堂が彼女に手を伸ばし、シャンプーが入らないように目を瞑ったエリカのわき腹をいたずらにつついた。とたんひゃっと声を出し反応する。そんな可愛らしい反応に護堂の頬が僅かに緩む。エリカが僅かに目を開き護堂の事を少し睨む。そんな彼女ににへら笑いを返しながら手を振る護堂。エリカが手についた泡を護堂に向けて投げた。

 

 護堂の顔にクリーンヒット。目に泡が入ったのか湯船の中で悶える。護堂が目の中の泡を出そうと頑張っている間にヘアケアも終えたエリカも湯船につかる。高級マンションとはいえ二人が入るには狭い浴槽。自然と密着しあう。エリカも護堂も特に何も言わない。今あるのは二人だけの空間。そこには言葉など不要であった。こつんと護堂がエリカの額に自分の額をぶつける。そのままキスでもしようかと護堂は考えたが止めた。夜はまだまだ長い。せっかくのお楽しみは後に取っておくべき。今は湯とそれとは別の温もり。これを堪能するつもりだ。

 

 そのまま十分ほど風呂の中でいちゃついた二人は浴室から出てエリカが髪の毛を乾かしたりしている間、彼女のベットの上で護堂はエリカの準備が終わるまで待機。その間に鞄の中から今日は必要になるだろうと持ってきた物を取り出す。極薄君1号を一ダースである。このままいけば恐らく、いや確実に護堂はエリカの初めてを貰う事になる。エリカはいつでも手折られる覚悟。護堂も女性を抱くなど初めてだ。

 

 祖父は護堂の年には何人も付き合いがあったらしいが、あいにくと護堂はエリカと出会うまではそもそも誰かを好きになったこともなかった。友達も修練に明け暮れるせいで少なく、祖父と違い誰かに好意を寄せられることもない。そんな護堂がイタリアで出会い共に駆け抜けた女性、彼が神殺しを成し遂げた理由そのもの。

 

 今夜そんな彼女の純潔を奪う。他でもない護堂だけに許された特権。その事実が嬉しく、今から気持ちを落ち着ける為に富士山にでも登って、空に祝砲代わりに超大玉螺旋手裏剣でも使うかと考えていた時にエリカが部屋に入ってきた。

 

 

「待たせたわね護堂、それは…ふうん、ようやく護堂もその気になったと言う事かしら?」

 

 

 護堂が手に持つ物を見てようやく心が決まったかと声をかけてくる。普段付けているリボンも外し、パジャマ姿な彼女。とてとてとベットに近づきポスンと音を立てて護堂の胡坐の上に座る。護堂も愛しい人がそんな行動に出て何もしないわけがない。

 

 後ろから手を回し、より自分の方に引き寄せる。ここまでが冒頭の流れである。エリカを引き寄せた護堂は最初は何もせずにじっとしていた。部屋は冷房が効いているはずなのに、二人の体温はお互いの熱で上昇していく。護堂がついと鼻をエリカの髪の毛に近づける。

 

 

「同じシャンプーを使ったのにこんなに匂いが違うんだな。なんでだろうな」

 

 

 ぽつりと呟く。なぜこんなに違うのか。これが男女の差なのか、それともあばたのえくぼなのか。どちらでもいいかと結論付ける。膝の上のエリカを自分の方に向きなおさせる。既に護堂の魂には火がついている。例えエリカが抵抗したとしてももう止められない。

 

 彼女がいくら魔術で強化したとしても、護堂の方が圧倒的に出力は上。けれどもこれはそこまで心配しなくてもいい。エリカはなにがあっても護堂を拒むつもりはない。やっと護堂がその気になっているのだ。エリカと手を交え、ゆっくりと彼女の唇に己の物を被せる。

 

 最初は啄むように触れ合う。想いを確かめ合うように軽く口付けを交わしていく。そしてある程度交わしたところで深くより深く求める。舌が絡み合い、唾液がまざり溶け合う。水音を立てて護堂とエリカが貪りあう。キスをしながら護堂がエリカのうなじをゆっくりとなでる。

 

 

「ん…………んう…」

 

 

エリカがこらえ難いのか声を漏らす。その反応が愛しくてうなじをなでる手に呪力を篭める。

 

 

「あッッ!!」

 

 

 びくりと体を震わせてエリカの唇が護堂から離れる。護堂が医療術の応用で神経に触れ、エリカの感度をわずかにだが上げたのだ。うなじだけでなく背中やわき腹も同じように撫で上げる。エリカはそのたびに全身を震わせる。護堂の膝の上でエリカがよがる。

 

 だがエリカは護堂から離れようとはしない。とろんとした目つきで護堂を見上げ、彼の胸板に自分の顔を押し付ける。護堂に自らを預けるように体重をかけてくる。その動きに合わせ、護堂も後ろに倒れた。必然的に護堂が下になり、エリカを全て受け止める形となった。わずかに感じる重み。それを纏めて飲み込むように彼女の体を力強く抱きしめる。

 

 エリカの頭がちょうど護堂の肩上に来る。今度は反撃だと言わんばかりにエリカが護堂の首筋あたりを舐め取る。猫が舐め取るような舌の感触に護堂の中の雄が反応する。

 

 

「やったな、なら今度はこれだ」

 

 

 護堂も同じようにエリカの首筋を舐める。ついでに先ほどと同じように感度も上げる事を忘れない。エリカから力が抜けていく。ぐったりとしたエリカの重みが心地よい。そして止めを刺す。エリカの服の中に手を入れ、背骨部分を上からゆっくりと下までなぞる。

この際に今まで以上の繊細さで呪力を制御。数キロ先の狙撃を命中させるような精度で行われた医療術は過敏にエリカの神経を刺激する。

 

 

「ッッッッッッッッああ!!!」

 

 

 人間は獣に過ぎないと証明するようにエリカが嬌声を上げた。彼女の腕に力が篭められ、護堂の背を砕かんばかりに握り締めて来る。目を瞑り、今まで以上に体を震わせ己の中に湧き上がった快楽に背を曲げる。そして今度こそ完全に力が抜けたのか、護堂の上でハアハアと荒い息遣いで喘いでいた。そんな彼女の余韻が抜けるまで今度は呪力を使わず、落ち着けるように頭をぽんぽんと撫でる。護堂がそれをしばらく続けていたらようやく持ち直したのか、エリカが顔を上げる。彼女の視線と護堂の視線が絡み合う。

 

 エリカを抱いたまま身を起こし、彼女をベットにゆっくりと下ろす。その手つきはガラス細工を扱うよう。そんなエリカに護堂が覆いかぶさる。

 

 

「エリカ、君が欲しい。…良いか?」

「いいえ、私の始めてはあなたと決めたもの。だからね護堂、あなたを私に頂戴」

 

 

 護堂の最後の問いかけにエリカは今更そんなことを聞くなと返す。エリカ・ブランデッリが愛するのはただ一人。

 

 最初はただのうそつきな邪術師だと思った。次に不躾でデリカシーもなく、ろくでなしな最低の男だと感じた。こんな男と一緒になるような奴はいないだろうと見下した。だがそれが興味に変わったのは彼と共に神獣と戦った時。エリカを遥かに超える力で神の化身をあっけなく叩き落とした。そして彼と共に行動し、彼女は神と出会った。エリカは天才だった、それがゆえに自らの力を過信していた。

 

 旧き神王の存在は彼女の誇りや自身をあっけなく打ち砕いた。そんな彼女の横にいた少年はただエリカを気遣っていた。神王の前から逃げた彼女はただ震えるしかなかった。あんなものをどうにか出来ると思っていた自分の浅はかさ、今までの人生で最大の恐怖。それを感じていた時にふと背中に癒しを感じた。

 

 少年がエリカを落ち着けるために術を行使していたのだ。情けのつもりかと確か自分は怒ったはずだ。今思えば淑女とは思えないほどの酷い八つ当たり。ただ少年は自らがそうしたいから行動しただけで、彼は何も悪くないのに非情な女だと思い出しただけで自己嫌悪に陥りそうになる。

 

 そこで見捨ててもいいのに、それでも最後まで見届けると彼は答えた。そう答えたのに彼は逃げたと思い、エリカは失望した。けれど違った、その数時間後神王は滅び世界で最も愚かで偉大な方々に新たな一人が加わった。彼がなぜ人類最大の偉業に挑戦し、そこにどんな意図があったのか。彼を駆り立てたのはたったひとつのやりたい事。イタリアの地で見つけたパンドラの箱の最後に残った希望の様な物。その後の軍神との顛末とシチリア島での彼との日々、そしてサルバトーレ卿とのあれこれと魔王式娘さんをください。

 

 思えば彼と出会ってから一月程度で色々とあったものだ。人生の中でもとびきり濃く、わずか一月なのに本来なら一生をかけても体験できないような日々。彼に恋したのは一体どこであったのだろうか。それを考えるなら恐らくは八つ当たりの時、罵られても動じず傍にいて彼女の恐怖が薄れるまで術を行使した時か。

 

 今までエリカに求愛してきた男性は多くいた。だが彼らは口先だけで、自らが添い遂げたいと思うような男は一人としていなかった。そんな中でどこまでも己を貫きその果てに王へと至った少年。

 

 どれほど強大な力を有していても、神が相手となれば死闘になる。それなのにただ一人の少女への想いを胸に彼は挑んだ。これ以上関らないで日本に帰り、全て忘れて日常に戻る選択肢もあったのに楽であっても己が納得できないなら絶対にそれを選ばない大馬鹿者。

 

 愚者の道を選び、何人に指を指されても道理を蹴っ飛ばして突き進む。そんな少年ー彼女が唯一異性として愛する護堂にこそ自らの処女を捧げる。だから腕を広げ、彼を迎え入れるような形を取った。

 

 

 

 

 

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 両想いなカップル、相手の為なら命を使いかねない恋人達。比翼連理の夜は長い。けれどもこれ以上のデバガメは無粋だろう。ここからは本当に二人の時間、その代わりに一つの話をしよう。今は大変仲睦まじくラブラブといってもいい二人だが、エリカがほんの少し回想したように、当初はあまり仲は良くなかった。

 

 だから今から語るのは彼と彼女の出会いの話。そう出会いだ。これは決してはじまりの物語ではない。草薙護堂にとってはじまりは生まれた時からだ。彼の持ちえた異能を考慮するなら、いつ魔術の世界に関係してもおかしくはない。だからこれは早いか遅いかの違いだ。彼にはいつでも機会があった。

 

 それは例えば学園の中で妹と一緒にいたとあるお嬢様とかもしれない。もしかするとイタリアに旅行した時にサルデーニャではなくナポリに行き、観光の最中に銀髪をポニーテールにした妖精のような少女に会うかもしれない。神獣を集めていたときになぜ少女が一人だけで山奥にいるのかをもっと疑問に持ち、彼女と何度も接触していたら現在の護堂の愛する人は腰まで伸ばした黒髪を持つ少女だったのかもしれない。

 

 しかしながらこれは全てifの歴史。どれだけ仮定を並べようと全て届かぬ妄想の世界。ゆえに今から語るのははじまりの物語ではない。そう、この物語にあえて名を付けるならこう呼ばれるべきだろう、ーーーーーと。


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