少し真面目なシーン、独自解釈、独自設定含みます。
○○鎮守府、一七〇〇ーー
執務室ーー
ガチャーー
龍驤「おっす、司令官♪ 訓練の報告書持ってきたdーー」
ゴーヤ「てーとく! ゴーヤを慰めてほしいでち〜!」
提督「分かったから落ち着きなさい」ナデナデ
ゴーヤ「だって〜!」
龍驤は言葉を失った。何故ならゴーヤが提督を床に押し倒して馬乗りになっていたから。因みに本日秘書艦任務に就いている龍鳳は所用で席を外している。
しかも「慰めて」ということはそういうことだろう……とつい龍驤は考えてしまった。何故ならゴーヤは提督LOVE勢でもアグレッシブ勢だから。
龍驤「憲兵呼ぼか? 同意の上なら呼ばへんけど?」
提督「何の話だ?」
ゴーヤ「あ! 龍驤ちゃん! 聞いてよ〜!」ダイブ
龍驤「今度はうちかいな!?」ドサッ
今度は龍驤が押し倒されてしまった。
龍驤はどうしてこうなったのか理解出来ずにいると、起き上がった提督がゴーヤをヒョイと持ち上げ、ソファーへ座らせると龍驤の元へ。
提督「すまんな、龍驤。今のゴーヤは少し我を忘れているんだ」
龍驤「あ〜、そういや世間ではエイプリルフールやけど、ゴーヤにとっては特別な日やもんな〜」
提督に起き上がらせてもらいながら龍驤はそう言って、ゴーヤの方を見た。
ゴーヤはソファーの上で両膝を抱えながらふて寝しており、明らかにいつものゴーヤでないことが分かる。
それは今日ゴーヤが戦後、アメリカ軍による海没処分を受けて沈んだ日なのだ。
一九四六年・四月一日。
あの戦争を戦い抜いた武勲艦『伊五八潜水艦』は『伊三六潜水艦』・『伊四七潜水艦』・『伊五三潜水艦』・『伊四〇二潜水艦』などの仲間二十三隻と共に、五島列島沖でアメリカ軍の実艦標的として海没処分となった。
海没処分をされる当日、佐世保港内には複数の潜水艦が浮かんでおり、その一隻は鋼鉄の身を桜の木々で化粧を施したかのように佇んでいた。それが伊五八潜水艦の最後の姿だった。
その姿はまるで『花嫁姿のような出立ちだった』と言われた。
艦橋やマスト、アンテナといった各所に桜の枝を括り付けられ、伊五八潜水艦は静かに佐世保を後にし、五島列島沖で桜の花を散らせながら沈んでいったと記録されている。
提督「それも嗚呼なっている理由だが、少し込み入った事情があってな」ニガワライ
龍驤「どういうこっちゃ?」
提督の言葉に龍驤が訊ねると、提督はゴーヤの方をチラリと見、ゴーヤがこちらを向いていないことを確認したあとで龍驤に小声で説明を始める。
提督「今日はゴーヤにとって辛い日だが、世間ではエイプリルフールだろ?」
龍驤「」コクコク
提督「それでイク達、潜水艦組がゴーヤにエイプリルフールでのサプライズをすると言い出してな。ゴーヤと過ごすはずの時間を『用事が出来た』と嘘をついたことで、ゴーヤは今嗚呼なっているんだ」
龍驤「なるほどなぁ……んで、今は料理かなんかの最中って感じなん?」ニガワライ
龍驤の察しの良さに提督は流石と思いながら、静かに頷く。
龍驤「話は分かった……でもあのままでもアカンやろ?」
提督「そうなんだ。何とかしてやりたいが、事情を知っている以上、下手なことは出来ん」
龍驤「キミは嘘が下っ手やからな〜」
龍驤にそう言われた提督は「そうだ」と申し訳なさそうに目を伏せる。しかし龍驤はニカッと笑って、提督の背中を叩いた。
提督「?」
龍驤「簡単なことや。キミがゴーヤの隣に行って、ゴーヤを抱きしめたったらええねん♪」
提督「そんなことでいいのか?」
龍驤「そんなことやあらへん。こういう時、何も言わずに抱きしめてくれるだけってのも、それはそれで嬉しいもんやからな」
提督「しかし……」
龍驤「ここにゴーヤが来とるのは、信頼してる司令官がおるからや。そんな人にギュッてされて迷惑なはずないやろ」ナ?
すると提督は龍驤にしっかりと頷きを返した。それを見た龍驤は「しっかり慰めたれや?」と提督の胸を叩き、報告書を机に置いてからそそくさと執務室をあとにするのだった。
提督は龍驤に感謝しつつ、未だふて寝しているゴーヤの隣に座る。するとゴーヤは提督の肩にもたれるように座り直した。どんなに落ち込んでいても提督が側にいることが嬉しいようだ。
そんなゴーヤに提督は何も言わず、優しく、それでいてしっかりと力を込めてゴーヤの肩を抱いた……「ゴーヤは一人じゃない」、「みんながちゃんとゴーヤのことを考えている」という思いを込めて。
ゴーヤ「てぇ……とく?」キョトン
提督「」ニッコリ
ゴーヤ「えへへ……ありがと、提督♡ やっぱり、てーとくのところに来て良かった♡」ギューッ
提督の優しさにゴーヤはいつものような声色で、提督の腰に手を回して身を寄せた。提督はそれを拒まず、ちゃんとゴーヤを自身の体に引き寄せる。するとゴーヤは今度は「んっ♡」と甘い声をもらし、提督の脇腹の辺りに頬擦りした。
ガチャーー
イク「イク、颯爽と登場なの〜♪」
そこにイク達、潜水艦組が現れた。そこには龍鳳も一緒だ。
イク達の登場にゴーヤが目を丸くしていると、トテテテと呂がゴーヤの元へ。
ろ「でっちのためにみんなでケーキ焼いてきたの♪」
ゴーヤ「ケーキ?」
状況が把握出来ていないゴーヤに今度はイヨが声をかける。
イヨ「嘘ついてごめんね〜♪ でもいいサプライズっしょ?」ニシシ
ヒトミ「今日はゴーヤさんの大切な日なので、このような演出をしました。そのためとは言え嘘をついて申し訳ありませんでした」ペコリ
ヒトミが頭を下げると、残りのみんなが大きなお皿をテーブルに乗せた。
そこには龍鳳と共にみんなで作った桜の花を模したショートケーキが乗っていた。
五弁の花びらを模したスポンジ、そこに薄いピンク色のクリームを全体に施し、花の中央には八つのイチゴが綺麗に円を描いている。
ゴーヤ「うわぁ……」キラキラ
イク「今年は潜水艦も増えたから思考を変えたの♪」
ニム「ケーキのアイデアはみんなで出したんだ♪」
しおい「そのクリームはイチゴの果汁使ったんだよ♪」
まるゆ「喜んでくれると嬉しいです♪」
イムヤ「って、もう聞いてないわね」クスッ
はち「だね……目はケーキにしか行ってないもん」アハハ
龍鳳「頑張って作った甲斐があるわね」ニコッ
提督「良かったな、ゴーヤ」ナデナデ
ゴーヤ「うん! みんな、素敵な嘘をありがと!」ニパー
こうしてイク達の考えたゴーヤへのサプライズは大成功し、みんなしてショートケーキを美味しく頂いた。
ゴーヤはその前にケーキと一緒に記念撮影もする程で、本当に眩しい笑顔だったーー。
今日はゴーヤこと、伊五八潜水艦が役目を終えた日です。
最後まで戦い抜いた伊五八潜水艦に心からお祈りします。
因みに今でも伊五八潜水艦はあの日に沈んだ仲間と共に五島列島沖に眠っています。
戦後アメリカ軍によって接収された潜水艦の映像がアメリカ国防総省にカラーフィルムで保存されており、その映像には処分直前の伊五八潜水艦の姿も映っているそうです。
その映像を当時潜水艦長の一人として見た橋本は、海没処分される伊五八潜水艦の姿を見て、静かに涙を流し 「あの艦は私の人生の全てでした」と言ったそうです。
本編内の情報はWikipedia、小説家になろう『伊号第五八潜水艦 ~散りゆく海の桜~』より得ました。
回天については触れませんでしたが、そこはどうかご了承お願い致します。
そして今日は龍驤さんの竣工日でもあります!
おめでとう!
読んで頂き本当にありがとうございました!