真面目なシーン、キャラ崩壊、独自解釈含みます。
○○鎮守府、二一〇〇ーー
執務室ーー
提督「本当にこれまでと同じでいいのか?」
村雨「えぇ♪ 寧ろ私はこれがいいの♡」ギューッ
提督は執務室のソファーへ村雨を膝の上にお姫様抱っこのように抱えた状態で座っている。
一方の村雨は提督にピッタリとくっついて提督の胸板に顔を埋めたり、提督の頬に頬擦りしたりとゴロニャン状態。
どうしてこのような状況なのかというと、本日は村雨にとって特別な日だからである。
一九四三年・三月五日
日本海軍の白露型駆逐艦『村雨』と朝潮型駆逐艦『峯雲』がコロンバンガラ輸送作戦中にアメリカ駆逐艦群の攻撃を受け撃沈した日で、この海戦は『ビラ・スタンモーア夜戦』と呼ばれている。
当時の情勢は日本が『第三次ソロモン海戦』に敗れたあと。
日本はガダルカナル島から撤退、次の拠点をニュージョージア島とし、村雨は峯雲と共に輸送任務を任された。
しかしこの時、既にアメリカ軍はこの二隻の駆逐艦をターゲットとして着々と準備を進めていたのだ。
当初の予定では日本が築いたムンダ飛行場へ砲撃を行う予定だったものを、六隻の艦隊なら二隻の駆逐艦など恐るるに足らず判断した故の夜戦だった。
アメリカ軍は開発が進んでいたレーダーを駆使し、闇夜に紛れて奇襲を仕掛け、レーダーを積んでいない村雨、峯雲の両艦は唐突な砲撃に面食らい、それが艦隊による攻撃ではなく空襲だと判断していた。
しかし見えない敵からは次々と砲弾が放たれ、峯雲は被弾後に炎上。村雨も機関をやられ、その後も容赦なく繰り広げられる砲撃に晒されることになり村雨は峯雲と共に沈没。
この『ビラ・スタンモーア夜戦』は、日本の駆逐艦が二隻とはいえ、レーダー射撃で全く何もできずに敗北したという、アメリカ軍にとって実は重要な夜戦となり、これまで水雷戦、特に夜戦において日本の訓練された攻撃に手を焼いていた状況を、この戦いでレーダー射撃の有用性が証明したのだ。
更にアメリカ軍は村雨、峯雲を轟沈させたあとでコロンバンガラ島への艦砲射撃も行っており、これにより目標は徹底的に破壊された。
提督「よしよし」ナデナデ
村雨「安心するわ……♡」
見えない敵から降り注ぐ砲撃。これがどれだけ怖いことか……。
ここに着任した時の村雨は自分の最期の日が近づくにつれて身体の震えが止まらなかった。そんな村雨を優しく介抱したのが、提督だった。
村雨が落ち着くまで抱きしめ、優しく「君は村雨だが、今日沈むことはない」と諭し、一晩中寄り添ってあげた。村雨が提督LOVEになったのも、これがきっかけだったと言っても過言ではない。
よって村雨はあの日から、自分の轟沈した日はこうして提督に優しく抱かれるのをご所望している。
ただ、それはあの時みたいに一晩中ではなく、あくまで自分が沈んだ時間を過ぎるまでの間だ。それ以上となると、今の鎮守府では朝から大戦へ突入しかねない。
村雨「提督、今年もありがとう」
提督「何かお礼を言われるようなことをしたかな?」
村雨「もぉ……今年もちゃんと私の大切な日を覚えててくれたからよ」フフ
提督「当然だろう? 村雨が沈み、峯雲が沈み、更には多くの英霊の方々が亡くなった。悲しいことだが忘れてはならない日だ」
提督が当然のように返すと、村雨は胸がポカポカと熱くなった。
こんなにも自分を覚えて、更には当時の乗組員の人々のことまでも考えてくれている……そう深く感じた村雨が体を熱くするのも当然のこと。
夕方も黙祷を捧げてくれたり、昼間も何かと気を遣ってくれたりと、村雨にとっては本当に今日は幸せな一日だった。村雨は英霊の方々に不謹慎だと思いつつも、そう感じられた一日を過ごしたのだ。
村雨「提督みたいな人が村雨の提督で、私は幸せよ♡」
提督「私がしていることは些細なことさ。村雨は勿論、艦隊全員がこういった日でも笑顔を絶やさないでほしい。これまでもこれからも……」
村雨「提督……♡」
提督「だからこれはいわば私のワガママみたいなものだ。皆の悲しみにくれる表情は見たくないからな」
提督はそう言うと、村雨を抱く手に少しだけ力が入った。それを肩に感じた村雨はまたトクンと胸が跳ねるのを感じ、提督に「ありがとう」と伝えるように、また提督の胸板に顔を埋める。
すると提督はまた優しく頭を撫で、村雨はそれが心地良くて甘えたような、甘い声をもらした。
するとそこに何者かが執務室のドアをノックしてきた。
提督は村雨に「入れてもいいか?」と目で合図をすると、村雨はニッコリと笑みを返す。
提督「入りなさい」
いつも通りに返すと、控えめにドアを開けて頭をちょこんと見せる者達がいた。
夕立「村雨〜」
五月雨「元気出ましたか?」
山風「村雨姉……」
それは村雨を心配して様子を見に来た、妹達。
今日は村雨が提督に甘える日。それを理解している姉妹達はあえて今まで様子を見には来なかったが、どうやらこの三人は我慢出来なかった様子。
提督と村雨は三人に中へ入るよう手招きすると、三人は嬉しそうにパタパタと二人の元へ近寄った。
夕立「えへへ、村雨が震えなくて嬉しい♪」
五月雨「あの時は大変だったもんね♪」
山風「あたしは知らない、けど……やっぱり、心配で……」ウゥー
村雨「ありがとう、三人共♪ でも提督のお陰でこの通りよ♪」
夕立は提督の右側、五月雨は左側、そして山風は提督の背中側へとひっつき、村雨のご機嫌な様子に安堵した。
提督「他の姉妹達はどうだ? ちゃんと皆に言って来たのだろう?」
そう提督が訊ねると、三人は揃って目を逸らす。何故なら、三人共黙って部屋を抜け出し、寮の前で鉢合わせたからだ。
村雨「もぉ、貴女達〜」ニガワライ
提督「各部屋の姉妹が心配しているだろう。早く連絡ーー」
連絡をしなさいと言おうとした矢先、今度は執務室のドアがバーンと勢い良く開いた。
そこには白露、時雨、春雨、海風、江風、涼風の姿があり、みんな何か言いた気な顔をして入ってくる。
白露「何も言わずに出て行った悪い子はだ〜れだ〜?」ニッコリ
時雨「あれれ? ここにその悪い子がいるね♪」ニコニコ
夕立「あわわわ……」
春雨「勝手な行動した人はどこかな〜?」ニッコリ
涼風「あるぇ? こんなとこにいたぞ〜?」ニコニコ
五月雨「ぴぃっ!?」
海風「行くなら行くって言ってから行きなさい」ハァ
江風「そうだぜ! 江風達を置いてくなよ!」
山風「ご、ごめんなさい……////」
提督「ははは、皆村雨が心配だったんだな」
村雨「ふふふ、みんなったら」クスクス
その夜、村雨は提督と姉妹全員と最期の時まで過ごし、幸せな気持ちであの時を迎え、提督や姉妹のみんなに心から感謝したーー。
今日は本編に書きました通り、駆逐艦『村雨』と駆逐艦『峯雲』が沈んでしまった日です。
この日沈んだ、二隻と亡くなられた英霊の方々に心からのお祈りします。
本編内の情報は『大日本帝国海軍 所属艦艇』より得ました。
読んで頂き本当にありがとうございました!