艦これ Short Story改《完結》   作:室賀小史郎

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心からのThank you. の談。

真面目なシーン、独自解釈含みます。


艦これSS改52話

 

 ○○鎮守府、一二四〇ーー

 

 執務室ーー

 

雷「は〜い、司令官♡ 午後のお仕事前に一服しなさい♡ 無理しちゃダメなんだから♡」

提督「色々と気を遣わせてすまないな」ナデナデ

雷「いいのよ〜♡ もっとも〜っと頼っていいんだからね♡」エヘヘ

 

 昼食を終え、本日秘書官の雷と執務室へ戻ってきた提督。相変わらず甲斐甲斐しく世話をやく雷だが、提督に撫でられて、それは更に加速する。

 提督に一服を勧め、雷はその間に見るべき書類を提督の机につつがなく並べていき、その表情はとてもキラキラしていた。

 

 するとドアがノックされ、提督が「入りなさい」と透かさず声をかける。

 

ウォスパ「お邪魔するわね。雷はいるかしら?」

 

 入ってきたのはウォースパイトで何やら雷に用がある様子。

 

雷「ウォースパイトさん? 私に何かご用?」

 

 雷がそう訊ねると、ウォースパイトはさり気なく提督の顔を伺う。提督は小さく頷くと、煙草の火を消し、スッと立ち上がって雷の肩をポンと叩いた。

 

雷「?」クビカシゲ

提督「ウォースパイトが雷の口から()()()のことを知りたいそうだ」

 

 提督がそう言うと、雷の眉がピクンと動く。提督の言葉とイギリス艦であるウォースパイト、そしてこの日ということで察した雷は「お茶淹れるわね♪」と笑顔を見せた。

 

 お茶の準備も終え、ウォースパイトがソファーへ腰掛けると、その正面に雷が座り、提督は雷の隣に腰を下ろす。

 

雷「何から聞きたいの?」

ウォスパ「当時の状況、そしてそこでどういうことがあったのか……それを聞きたいわ」

雷「分かったわ♪」

 

 すると雷は「えっとね〜……」と当時の記憶を思い浮かべ、静かに語り出した……

 

 ーー

 ーーーー

 ーーーーーー

 

 時は一九四二年、三月二日。一〇〇〇頃。

 先のスラバヤ沖海戦で艦が沈み、それから逃れた多くのイギリス兵達が海を漂流。

 何時間にも及ぶ漂流で精神的にも参ってしまい、劇薬で自決しようとする将官もいた。

 そんな中、たまたま、単艦でこの海域を哨戒中であった日本の駆逐艦『雷』が、漂流しているイギリス兵を発見。

 

 当時の雷の艦長、工藤俊作少佐(最終階級は中佐)は『敵兵を救助せよ』と乗組員に命令。

 多くの者が『艦長は正気なのか』、『元気になればまた襲ってくる』、『敵はうちの倍だぞ』と不安の声をあげる中、工藤艦長は武士道の精神に基づき、

 

『敵とて人間。弱っている敵を助けずして、フェアな戦いは出来ない』

 

 と言い、救難活動中だと知らせる国際信号旗を揚げた。

 

 それからは怪我人や病人を優先して引き上げ、当時では異例の一番砲塔の乗組員だけを残し、残り全員で救助活動を命じる。

 助かったと安堵する中、力尽き、海へ沈んで行ってしまう者もいた。しかし青年士官達が海へ飛び込み、その者達を救い、更には魚雷搭載用クレーンも使用して救助活動を行った。

 

 救助されたイギリス兵達を日本兵達が、アルコールを含ませた木綿の布で重油や汚物で汚れた顔や体を丁寧に拭き取り、貴重な真水、温かいミルクやビール、ビスケットを惜しげなく与え、更には新しいシャツと半ズボン、靴までも支給した。

 辺り一帯の救助が終わると、工藤艦長は『まだ終わってはおらん』と言い、遠方に見える敵兵も一人残らず救助。

 味方から戦闘になった際に燃料が足りなくなるとの言葉にも、工藤艦長は『足りなくなっても構わん』と言って救助活動を続け、四二二人を救助した。

 

 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー

 

ウォスパ「『一人、二人を助けることはあっても、全員を捜し出すことはしないでしょう。困っている人がいれば、それが敵であっても全力で救う。たとえ戦場でもフェアに戦う。それが日本の誇り高き武士道である』と、当時救助された方がそう言っていたわ」

雷「えへへ、何か嬉しいわね♪ それでね、工藤艦長は甲板にイギリス軍の士官さんだけを集めてーー」

 

 You had fought bravely.

 

 Now you are the guests of the Imperial Japanese Navy.

 

 I respect the English Navy,but your government is foolish make war on Japan.

 

訳)諸官は勇敢に戦われた。

  今や諸官は、日本海軍の名誉あるゲストである。

  私は英国海軍を尊敬している。ところが、今回、貴国政府が日本に戦争をしかけたことは愚かなことである。

 

ウォスパ「ーーこう言ったのよね」フフ

雷「そうよ♪ それからお互いに敬礼して、翌日にはオランダの病院船に移乗させて、マサッサルの捕虜収容所へと移っていったの♪」

提督「その時の雷の様子を足柄に乗船していた高橋伊望中将殿は『こんな光景は初めて見た』と唖然としたそうだ」フフフ

雷「えぇ、そうなの!? ひど〜い!」プンプン

提督「更にその時、第三艦隊参謀で工藤艦長と同期の山内栄一中佐殿が高橋中将殿に、『工藤は兵学校時代からの愛称が「大仏」であります。非常に情の深い男であります』と言って高橋中将殿を笑わせたそうだ」

 

 提督が当時あったエピソードを笑顔で教えると、ウォースパイトも「まぁ♪」と言って口を手で押さえて笑った。

 

雷「でも本当に優しい人だったからね……それは否定出来ないわ」ニガワライ

ウォスパ「救助された人が『My Lucky Life』という自伝を書いててね。その自伝の一ページ目にはーー」

 

『この本を私の人生に運を与えてくれた家族、そして、私を救ってくれた工藤俊作に捧げます』

 

ウォスパ「ーーって書いてるのよ」ニコッ

提督「その方が自伝を書き、来日しなければこの話は誰も知らなかった。本当に感謝だな」

雷「ん〜、確かに感謝するけど、工藤艦長なら『俺は当たり前のことしかしてない。別に誉めることないじゃないか』って言うと思うのよね〜。あの人はそういう人だったから」クスッ

 

 その後も雷は工藤艦長の話をウォースパイトに聞かせ、気が付けば随分と時が過ぎ、時計の針は一五〇〇を指していた。

 

雷「いっけな〜い! もうこんな時間!?」

 

 ガチャーー

 

暁「雷〜、もう休憩時間になった?」ヒョコ

響「今日は司令官も一緒にお茶する約束だろう?」ヒョコ

電「どこでお茶するのです〜?」ヒョコ

 

 ドアを少し開け、串団子のように頭を並べる暁達。

 雷はもう大慌てで、いつもの頼り甲斐が鳴りを潜めてしまっている。

 

提督「ははは、落ち着きなさい。書類は特に大変な物はないからな。お茶した後だって十分に間に合うぞ」ナデナデ

雷「で、でもぉ〜」オロオロ

ウォスパ「素敵なお話を聞かせてもらったお礼に私の部屋にいらっしゃい。今はビスマルクもアイオワもいないから私が特別な紅茶をご馳走するわ」ニコッ

雷「い、いいの?」

ウォスパ「えぇ♪」

 

暁「英国淑女の高貴なる紅茶……」ゴクリ

響「私はロシアンティーがいいな」フフフ

電「楽しみなのです〜♪」ピョンピョン

 

 こうして一同はウォースパイトからおもてなしされ、その際にウォースパイトは電からも当時のことを話してもらった。

 お茶会が終わると提督と雷、暁達も執務を手伝い、雷は今日も笑顔の絶えない一日となったーー。




今日は工藤俊作中佐が救助活動をした日ということで、工藤俊作中佐のエピソードを書きました。

本編内の情報は『エクゼターとエンカウンター・・・日本の武士道精神』という記事、Wikipedia、2007年4月19日の奇跡体験!アンビリバボー・『誰も知らない65年前の奇跡』の動画から得ました。

工藤艦長のことをお話になった方は当時エンカウンターに乗っていた、元イギリス外交官のサー・サムエル・フォール卿であり、この方が来日した際、お話を聞き、本にまとめたのが元海上自衛隊士官の惠 隆之介さんです。
因みにその本のタイトルは『敵兵を救助せよ』です。

作中の「工藤艦長なら『俺は当たり前のことしかしてない。別に誉めることないじゃないか』って言うと思うのよね」という雷の発言元は当時雷の航海長、谷川清澄さんがアンビリバボーの取材で工藤艦長について語っていたところを元にしました。

工藤俊作中佐、サー・サムエル・フォール卿に心からお祈りします。

読んで頂き本当にありがとうございました!

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