重い話、独自解釈含みます。
○○鎮守府、一〇〇〇ーー
埠頭ーー
長門「………………」
潮風はまだ冷たいものの、よく晴れたこの日。
長門は埠頭に立ち、まっすぐに空……というよりは水平線を見つめていた。
風の音や波の音、中庭で遊ぶ駆逐艦達のはしゃぎ声や工廠から聞こえる金属音……静かとは言い難いが、穏やかな時が長門を包んでいる。
しかし、長門の表情はどこはかとなく悲しそうで、それでも瞳には力強いものがあった。
本日はキャッスル作戦のブラボー実験が実施された日である。
この作戦はアメリカがビキニ環礁、エニウェトク環礁の二つの環礁で行なった、水素爆弾(水爆)実験であり、この作戦では合計で六回の実験が行われ、特に一九五四年の三月一日に行なわれたブラボー実験が最も有名。
有名な理由としては、
ブラボー実験の成功が、爆撃機に搭載可能な実用兵器としての水爆の出現を意味したこと
アメリカの不十分な危険水域設定により、第五福竜丸を始めとする約千隻の漁船が被曝し、またロンゲラップ環礁などにも死の灰の降灰があり、二万人以上が被曝したこと
これはアメリカが核実験で引き起こした最悪の被曝事故であり、実験を行なった島は消え去り、海底には深さ一二〇m、直径一.八kmのクレーターが出来た。
長門は作戦は違えど、自分が沈んでいる同じ海で起きたことを他人事のようには思えず、埠頭でこの日被曝してしまった人々に黙祷を捧げていたのだ。
長門「………………」
すると長門は背後に視線を感じ、振り返った。
提督「お邪魔かな?」ニコッ
長門「邪魔なものか」フフフ
提督は長門の隣に立つと、長門と同じく水平線を見つめる。
長門「提督は何しに埠頭へ? 艦隊の出迎えか?」
提督「出迎えではないよ……ただ、今日は多くの人が犠牲となった日だからな。少しでもそのことを忘れないようにと、黙祷を捧げに来たんだ」
長門は提督も自分と同じことをしに来たと知り、思わず胸が熱くなった。自分のことではなくとも、あの作戦のことをちゃんと知ってもらっていることが胸にきたから。
提督は長門の隣で直立し、帽子を取ってから水平線へ向かって静かに黙祷を捧げた。
この作戦、ブラボー実験ではあの広島型原子爆弾約千個分の爆発力(15Mt)の水素爆弾が炸裂、これは研究者達の予想を三倍も上回る結果だった言う。
黙祷を終えた提督は長門の肩にそっと手を回し、自分の元へと引き寄せる。
長門「て、提督!?////」
提督「今はこうさせてほしい……作戦が違うとは言え、長門も想像を絶する最後を迎えてしまった。その長門が生まれ変わってきてくれたことを実感したいんだ」
長門「……提督……」
提督「生まれ変わってきてくれてありがとう、長門」
提督が長門の目をまっすぐに見つめて言うと、長門は「あぁ」と小さく、しかし力強く返事を返した。
それからは提督の肩に頭を乗せ、そのまま暫く愛する提督に肩を抱かれて海を眺めるのだった。
埠頭前広場、物陰ーー
アイオワ「ど、どうする? 今ここで出て行ったら日本で言うKYよね?」
サラトガ「べ、別の場所で黙祷した方がいい、わよね?」
長門が提督と埠頭で過す中、その後ろでアイオワとサラトガが隠れるように二人の背中を見ていた。
二人にとってもこの日は複雑な日であり、今だからこそという思いであの作戦の犠牲者へ黙祷を捧げに来たのだ。
ただ来たのは良いものの、提督と長門が何やら良い雰囲気なので出るに出れない感じ。
アイオワ「長門は提督LOVEだし、この空気を壊したらダメよね」ウンウン
サラトガ「なら浜辺に行く? 浜辺なら誰もいないだろうし……」
「アイオワさん、サラトガさん、何してるんですか?」
ア・サ『What!?』ビクッ
背後から急に声をかけられた二人は思わず地が出てしまい、叫んでしまった。
プリンツ「どうしたんですか!?」
酒匂「な、何かあったの?」
そこにはプリンツと酒匂の二人が立っていて、二人はアイオワとサラトガの叫び声に驚いて目を丸くしている。
アイオワ「ご、ごめんなさい……急に声をかけられたものだから、つい」ニガワライ
サラトガ「ビックリしたぁ〜」ヘナヘナ
プリンツ「こちらこそ、ごめんなさい」ペコペコ
酒匂「どっちもビックリしちゃったんだね」エヘヘ
埠頭ーー
長門「何やっているんだ、あいつら?」
提督「どうしたのだろうな?」フフフ
アイオワとサラトガの叫び声を聞いた提督と長門は振り返って、アイオワ達のやり取りを眺めていた。
長門は首を傾げているが、提督はそのメンバーを見て察し、少し笑みを浮かべている。
提督「お〜い、みんな〜」ノシ
提督がアイオワ達へ声をかけると、みんなはすぐに気が付いて提督達の元へやってきた。プリンツと酒匂は笑顔で手を振り返しているが、アイオワとサラトガはどこか申し訳なさそうな、恥ずかしそうな複雑な表情を浮かべている。
長門「もしかして、お前達…………」
みんなの顔を見てやっと察することが出来た長門。
長門の言葉にみんなが静かに頷くと、そのまま埠頭に整列した。
プリンツ「今日は忘れてはいけない日です」
酒匂「だから黙祷するの♪」
二人がそう言うと、アイオワとサラトガは複雑な顔をしていた。しかし長門は透かさず二人に首を横に振って見せる。
アイオワとサラトガが何を思い、何を感じているのか察した長門は目で自分の思いを伝えたのだ。
それを見た提督は笑みを送る。
するとアイオワとサラトガはまた静かに頷いて、アイオワ、サラトガ、プリンツの三名は帽子を取り、そして同時に水平線へ向かって黙祷を捧げるのだった。
みんなが黙祷を終えると、みんなは笑顔で手を取り合って鎮守府へと戻ったーー。
おまけーー
戦艦寮、長門型姉妹部屋、夜ーー
陸奥「良かったわね、姉さん♪」
長門「? 何がだ?」
陸奥「これよ、こ・れ♪」つ写真
写真には提督に肩を抱かれた長門の二人背中の写真が写されている。
長門「写真……青葉が撮ったのか?」
陸奥「そうよ♪ さっき姉さんがお花を摘みに行ってる間に持ってきてくれたの♪」
長門「そうか……まぁ、いつになくしんみりしてしまったが、最後はみんなして笑い合えた。こう言ってはなんだが、良い一日だったよ」フフフ
陸奥「いや、そうじゃなくて……まぁ、確かに姉さんにとっては良かったのかもしれないけど……」ニガワライ
長門「何が言いたいんだ? ハッキリしない奴だな」ムゥ
陸奥「提督とツーショットよ? しかも提督に肩を抱かれて……これもいい出来事の一つじゃない?」
陸奥に指摘された長門はようやくことの重大さに気が付き、その顔をみるみる赤く紅潮させた。
陸奥「? 姉さん? お〜い、姉さ〜ん?」ノシ
長門「(((///Д///)))」プルプル
陸奥「ちょっと、長tーー」
長門「うわぁぁぁぁん!////」
一気に押し寄せてきた羞恥心に長門は耐えきれず、そのままベッドへダイブし、頭まで毛布を被って身悶える。
陸奥「……今更ねぇ」ニガワライ
その晩、長門は一睡も出来ず、目の下に大きなクマを作って提督に心配されたそうなーー。
ーーーーーー
今日はちょっと重いお話にしました。艦これに直接関係はないですが、やはり触れておいた方がいいと思ったので。
本編の情報はWikipediaの『第五福竜丸』・『ビキニ環礁』・『キャッスル作戦』の記事から得ました。
記事にはもっと詳しくあります。しかしショッキングな内容もあるので、もし読まれる際にはご注意を。
自己責任でお願い致します。
被曝した多くの方々に心からお祈りします。
読んで頂き本当にありがとうございました!