艦これ Short Story改《完結》   作:室賀小史郎

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長雨の後。の談。

少し真面目なシーン、キャラ崩壊、独自解釈含みます。

※説明文が多く、ショッキングな内容が含まれています。読む際にはご注意ください。


艦これSS改42話

 

 ○○鎮守府、〇七〇〇ーー

 

 埠頭ーー

 

提督「総員、黙祷!」

 

 昨晩の真夜中から降り続く雨の中、埠頭に集まった者達は提督の号令により一斉に黙祷を開始する。

 

 この日はあのトラック島空襲の日であり、この空襲で当時の日本は多くの艦艇、人員を失った。

 

 一九四四年・二月十七日未明から十八日にかけて起きたトラック島空襲、またの名を海軍丁事件(かいぐんていじけん)。太平洋戦争中、アメリカ軍機動部隊による日本軍の拠点トラック島への航空攻撃である。

 

那珂「…………」

文月「…………」

舞風「…………」

 

 雨の中、傘を差して黙祷を捧げる三名。この三名はあの日の空襲により沈んでしまった艦である。

 

阿賀野「…………」

 

 そして阿賀野もまたこの日に沈んでしまった艦の一隻であるため、みんなと並んで黙祷を捧げていた。

 

 軽巡洋艦『阿賀野』は十六日、本土で本格的な修理のためにトラック島を出港。

 しかしトラック島近海に潜伏していたアメリカ潜水艦『スケート』が阿賀野に向け四本の魚雷を発射。その内の二本が阿賀野のボイラー室へ命中。

阿賀野はそれにより航行不能となり、炎上。轟沈は確実で、総員は護衛についていた神風型駆逐艦『追風』に避難。

 その後、阿賀野は日付けが変わった十七日の午前二時前、暗闇の中、赤く燃え上がったまま、徐々にその船体を右に傾斜して沈んでいった。

 

 しかし阿賀野の轟沈はこれから起こる悪夢の序章に過ぎなかった。

 

 十七日未明、軽巡洋艦『那珂』は阿賀野の救出に行くも、轟沈が知らされたため、やむなく引き返していた。

 そしてその最中、那珂はアメリカ艦載機に捉えられてしまい、入港寸前だった那珂は急遽反転、沖合に出て空襲をやり過ごそうとする。

 しかし近海に潜む空母二隻からひっきりなしに飛んでくる艦載機の攻撃によって、那珂は徐々に力を削がれ、主砲まで使って対空射撃を行うも、ついに那珂は艦首が切断され、その身を海に沈めていった。

 

 それからすぐの十七日、早朝。アメリカ空母『二代目ヨークタウン』・『エンタープライズ』・『エセックス』が無数の艦載機を発艦させ、トラック島を火の海へと変える中、駆逐艦『舞風』もその爆炎の中に飲み込まれてしまう。

 豪雨のように降り注ぐ砲弾の中、航行不能となった舞風だったがまだ沈むまでには至らなかった。

 やがて空襲が収まるも、舞風はそこで更なる悪夢を見る。

 

 相手は撤退したのではなく、とどめを刺すためにアメリカ戦艦『アイオワ』・『ニュージャージー』を中心としたアメリカ艦隊が、崩壊されたトラック泊地に現れたのだ。そう、空襲はあくまでもお膳立てに過ぎず、本格的な攻撃はこれからだった。

 

 舞風と大炎上をしている練習巡洋艦『香取』へ向けて、今度は艦隊からの砲撃が始まると、すでにボロボロだった舞風は、空襲から更に一時間の砲弾を浴び続け、爆散、船体断裂、黒煙を上げながら沈没。

 香取も最後の最後まで砲撃を止めず、必死に戦い続けたものの、轟沈。

 因みにこの時、駆逐艦『野分』もこの場にいたが、野分はこの地獄のような砲撃を最後まで耐え抜き、九死に一生を得ている。

 

 駆逐艦『文月』は一月三十日のラバウル空襲で被害を受け、その修理のためトラックで主機を分解した状態であった。

 しかしトラック島空襲により、文月は急遽復旧させ、片舷十二ノットの速力で回避運動をとったものの、機械室に直撃弾を受け浸水し航行不能となった他、至近弾も受ける。

 駆逐艦『松風』による曳航で擱座することが試みられたが、作業は空襲により中断され、繰り返される空襲や浸水の増加により曳航することは叶わず、翌十八日に沈没。

 この時の文月の回避行動の様子をアメリカ軍は「必死に怯える子羊のよう」だったと残している。

 

アイオワ「…………」

サラトガ「…………」

 

 この作戦に参加していたアイオワ、そして参加はしていないがアメリカ空母であるサラトガも黙祷に参列していた。

提督や他の艦娘達からは無理をしなくてもいいと言われたが、二人は日本とアメリカが手を取り合っている今だからこそ……と参列を希望した。

 

 どうして提督達が二人に気を遣ったのかというと、理由は二つある。

一つは二人がアメリカ艦であること。

そしてもう一つはこの作戦後の悪夢のことがあったからだ。

 

 戦闘終了後、アメリカ軍は日本の各艦から辛くも逃げ出した乗員達……それも戦意、戦闘手段を持たぬ者達を戦闘機からの執拗な機銃掃射を浴びせ、一人残らず殺害。

戦時国際法を守らずにこのような殺害が発生した例は数多くあるが、海上での戦いにおいてはこの「トラック島空襲」は特に有名であり、戦闘そのものがアメリカ軍の戦意高揚のために完膚なきまでに日本を叩きのめし、更に最後は戦艦が締めるという意図があったため、必要以上な攻撃があったのは明らかだった。

 

 しかし今日に至っては日米共に友好関係を築いていきた。

 だからこそ、アイオワとサラトガはあの日の日本の英霊達に黙祷を捧げているため参列したのだ。

 

 アイオワに至ってはその当時のことを思い出し、自然と涙を浮かべ、海を真っ直ぐに見つめて敬礼している。

 するとアイオワの左手を掴む者がいた。

 

アイオワ「?」

文月「アイオワさん、泣かないで?」

舞風「泣いてたらみんな心配するよ?」

 

 それは文月と舞風だった。黙祷を終えた二人はアイオワが泣いているのに気付き、透かさずアイオワの手を取ったのだ。

 

アイオワ「文月……舞風……」

 

 アイオワは震えた。当時圧倒的に辛かったのはこの二人の方。なのに当時敵だった自分を思い、気遣ってくれるその優しさにアイオワは心から震え、自然と二人を抱きしめていた。

 

アイオワ「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……!」

 

 二人を抱きしめ、アイオワは大粒の涙を流して謝った。

当時は敵、しかし今は大切な仲間。そんな二人にアイオワはその言葉しか出て来なかったのだ。

 しかし文月も舞風も、更には周りにいるみんなもアイオワに「謝らないで」と告げ、アイオワに寄り添う。

 

サラトガ「皆さん……」

提督「あの戦争は終わった。そしてあれから長い年月が過ぎた。我々はもう次の段階に来ている」

サラトガ「次の段階、ですか?」

提督「あぁ、あの時代のことを乗り越え、未来へ手を取り合う段階に来ているんだ」

サラトガ「未来へ手を取り合う……」

提督「皆を見てご覧」

 

 提督に言われたサラトガはまたアイオワ達の方を見た。

 

アイオワ「うぅ……ごめんなさい……私は、あれだけの、ぐすっ……ことを……!」

文月「戦争してたから仕方ないの」ヨシヨシ

舞風「そうだよ。ちゃんとお互いに分かり合ってるし、謝ることないよ♪ 今はこんなに仲良しな訳だし♪」ヨシヨシ

阿賀野「今はみんなで力を合わせなきゃ! せっかく英霊の人達が守った世界を守るのが、私達の役目だよ♪」

那珂「そうそう♪ それにそんなに下を向いてちゃ、前が見えないよ♪ 一緒に前を向いて頑張ろう? ね?☆」

アイオワ「Thank you……みんな、本当に、ありがとう……!」

 

 アイオワにみんながそれぞれ温かい言葉をかけ、アイオワは更に大粒の涙を流した。

 みんな当時のことは忘れもしない……が、それをいつまでも憎んではいけない、自分達はあの日のやり直しをしに生まれて来たのではないのだから……そうした思いを胸に日々を、過去を乗り越えている。

 

提督「みんな強い絆で結ばれている。何も二人が気に病むことはない。ただ、あの日に亡くなった英霊の方々を忘れないでほしい。みんなそれだけを思っている」

サラトガ「はい、決して忘れません」

 

 サラトガが提督の目をまっすぐに見つめ返して答えると、

 

文月「わぁ♪」

舞風「すっご〜い!」

阿賀野「綺麗〜♪」

那珂「わぁ〜お♪」

 

 みんなが空を見て一斉に声をあげた。

 みんなの視線の先には、この時期には珍しい虹が出ていたからだ。

 

提督「これは見事な冬の虹だな……雨もいつしか止んでいる。今日は良い日になるな」

サラトガ「はい♪」

 

 それからみんなであの虹の空に向かって敬礼し、より一層絆を深め、みんなして手を繋ぎ、前を向いて歩き出すだったーー。




本編に書きました通り、今日はトラック島空襲の日です。十八日まで続きますが、この日にまとめて書きました。ご了承お願い致します。

この日には
軽巡洋艦『阿賀野』・『那珂』
練習巡洋艦『香取』
駆逐艦『舞風』

続く十八日に
駆逐艦『太刀風』・『追風』・『文月』

と多くの補助艦船、英霊の方々、更には民間人が亡くなりました。
心からお祈りします。

そして年は違いますが同じ日に日本海軍の伊一七五潜水艦が、マーシャル諸島周辺海域で米駆逐艦の攻撃を受け沈没しています。艦これでは未実装ですが、この伊一七五潜水艦とその英霊の方々にも心からお祈りします。

本編中の情報はWikipedia、『大日本帝国海軍 所属艦艇』、ピクシブ百科事典、ニコニコ大百科から得ました。

読んで頂き本当にありがとうございました!

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