艦これ Short Story改《完結》   作:室賀小史郎

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元気一杯の君が好き。の談。

少し真面目シーン、独自設定、独自解釈含みます。


艦これSS改22話

 

 ○○鎮守府、二〇〇〇ーー

 

 提督自室ーー

 

提督「…………」ペラッ

 

 提督は夕食後、自室へ戻ってからは明日の艦隊編成の確認していた。

 戦場は常に刻々と変化しているため、提督は何度も何度も最悪の状況を想定して編成を組んでいる。

 それが提督の仕事であり、使命である。

 

 提督が一つ一つの事柄を整理していると、自室のドアが控えめにノックされた。

 そのノックに対し、提督は自室ということもあるので「どうぞ」と軽く声をかけると、ガチャリと開いたドアから涼風を除いた第二十四駆逐隊の面々と五月雨が入ってきた。

 

海風「お休み中に失礼します」ペコリ

提督「いや、構わないよ。それで、どうかしたのか?」

五月雨「あの、涼風がこちらにお邪魔していませんか?」

提督「涼風? いや、来ていないが……涼風に何か?」

山風「お風呂から上がったら……夜風にあたりたいって、出て行っちゃって……」

江風「それから帰ってこないンよ〜。時期も時期だし、心配でさ〜」

 

 江風がそう言うと、五月雨達も同じように心配そうな表情を浮かべた。

 

提督「…………涼風に限ってもしものことは無いだろうが……承知した。私も思い当たる場所を探してみよう。何かあれば連絡する」

海風「よろしくお願いします」フカブカ

五月雨「私達に連絡がつかなければ、お部屋に白露達が待機してくれているので、そちらに連絡してください」

提督「心得た。捜索し過ぎて風邪を引かなぬようにな」ニコッ

山風「はぁい♪」ニコニコ

江風「ンじゃ、何かあったら連絡くれよな〜♪」ノシ

 

 こうして五月雨達は提督の自室を後にし、涼風をまた探しにいった。

 みんなの足音が遠くなるのを待って、提督は小さく息を吐いて虚空に向かって声をかける。

 

提督「これで良かったのか、()()?」

 

 そう、涼風はお風呂を上がってから夜風に当たりに来ていたのではなく、提督の元へやってきていたのだ。

 数分前、提督は突然の涼風の来訪に少し驚きながらも優しく招き入れた。

 そして先程、五月雨達の足音がしたのと同時に、涼風は「あたいはいないって言ってくれ」と言って提督の押し入れに隠れていたのだ。

 

涼風「ありがと、提督……ごめんな、嘘つかせちまって……」

 

 押し入れからオズオズと出てきた涼風は謝りつつ、また提督があぐらを掻く脚の隙間にちょこんと身を預けた。

 

提督「気にすることはない。だが、ちゃんと後でみんなには説明するんだぞ? みんなあんなにも心配しているのだからな」ナデナデ

涼風「分かってるよぉ……」ギューッ

 

 いつも元気一杯の涼風がどうしてこんなにも弱々しいのかというと、今日は涼風が沈んでしまった日だからである。

 

 一九四四年、一月二十五日。駆逐艦「涼風」は輸送船三隻の護衛としてブラウン諸島へ向かっている途中、二三時〇五分、ポナペ島北東にてアメリカ潜水艦「スキップジャック」からの雷撃により沈んでしまった。

 その時の記憶が残る涼風にとって、この日のその時間が迫るというのは、耐え難いものがあるのだろう。

 

 黙祷を捧げた日中は持ち前の明るさで何とか耐えていたが、夜になり、あの時刻が迫ってくると、涼風は段々と何かに押し潰されそうな感じがしてきた。

 そのため涼風は提督の元へ訪れたのだ。

 しかし、昨年や一昨年はこうはならなかった。

 黙祷をして姉妹と一緒に過ごし、笑顔が溢れていた。

 

涼風「提督……ごめんな」

提督「気にすることはないと言ったろう?」ナデナデ

涼風「でも……」

提督「誰にだってこういうことはある。それに艦娘なら尚更だろう」

涼風「…………」

提督「それに誰も涼風を恨んじゃいないさ。今もこうしてみんなを気遣っているのだからな」

涼風「……でも提督には迷惑かけてる」グスッ

提督「私は迷惑とは思ってないよ。寧ろこういう時に頼ってもらえて提督冥利に尽きるというものだ」アハハ

涼風「…………バカ////」

 

 提督の言葉に涼風の表情は少しだけ和らいだ。

 涼風はとある夢を見た……艦の頃の自分の夢を。

 

 その夢は涼風が沈む間際の夢だった。

 

 鳴り響く轟音、軋む船体の音、乗員達の叫び声……それらの夢をハッキリと見てしまった今年、涼風は思い知ってしまったのだ。

 魚雷を受け、乗員達と共に一瞬にして沈んでしまった、最期の時を……。

 

 その時の時間が迫るにつれ、その夢での音や声が涼風の頭の中を駆け巡り、自然と笑えなくなってしまった。

 そんな自分を見せたら自分の大切な姉達が心配してしまう。どうしよう……そう思った時に涼風の頭に、とある人物の顔が浮かんだ。それが提督だった。

 だから涼風は提督のところにやってきたのだ。

 

涼風「あたいって思ってたより全然弱かったんだな……みんなを巻き込んでさ……」

提督「戦争をしていれば、そうなることもある。涼風だけのせいじゃない」

涼風「でもさ……あの時のみんなの声がさ……聞こえて、くるんだよ……」ポロポロ

提督「涼風……」

涼風「あたいがあんなにあっさり沈んじまったせいで……みんなを……」

提督「だからこそ、今を明るく過ごしてほしい」

 

 提督はそう言って、涼風の小さな体を優しく抱きしめた。

 

提督「涼風が体験したことだ。私には到底、思いもつかない光景だろう」

涼風「…………」

提督「だからこうして泣いたっていい。だが、最後は笑うべきだと思う」

涼風「……」

提督「悲しいなら、辛いなら、苦しいなら、いつでも立ち止まって泣いたらいい。そしてまた笑顔で歩き出すことが大切なんだ」

涼風「歩き出す……」

提督「あぁ、涼風はあの駆逐艦「涼風」の生まれ変わりだが、それと同時に一人の人であるんだ。せっかく生まれ変わってきたんだ、今度は悲しい日々ではなく、明るい日々を過ごしてほしい」

涼風「提督……」

提督「戦争をみんなに強いているから、矛盾しているがな……でもみんなが明るく過ごしてくれるよう、私は努力している。これまでもこれからも」

涼風「知ってるよ……そんなの……」ギューッ

提督「いつもの調子が出てきたな」ナデナデ

 

 提督が涼風の頭をまた優しく撫でると、涼風は「もうちょいこのまま」と言って提督の胸に顔を埋めた。

 

提督「元気になったら、また涼風の本気を見せてくれ。私は元気一杯の涼風が好きだからな」ニコッ

涼風「うん……もう少ししたら、涼風の本気見せたげる♡」エヘヘ

 

 そんな涼風の笑顔に提督は少し安心し、自分も笑みをこぼして涼風の頭を何度も優しく撫でた。

 暫くすると涼風も元気になり、大手を振って提督の自室を後にするのだったーー。




 おまけーー

 駆逐艦寮、二三三〇ーー

 春雨・五月雨・涼風部屋ーー

涼風「な、なぁ〜、流石に苦しいんだけど」

 涼風はそう言って部屋にいるみんなを見た。
 涼風が部屋に戻ると、白露達は涼風の元に駆け寄り、それぞれ声をかけ、連絡を受けて戻ってきた五月雨達も加わり、涼風はおしくらまんじゅう状態になった。
 涼風はそれだけ心配をかけて申し訳ないと思う反面、こんなにも自分を思ってくれる姉達の気持ちが嬉しかった。

白露「こんなに心配かけたんだから、これくらい甘んじるべき!」ヒシッ
五月雨「今夜は放さないんだから!」ヒシッ
涼風「もしかしてこのままみんなで寝るのか!?」

春雨「雑魚寝すれば平気だよ〜♪」
海風「くっついて寝ればギリギリいけるからね」ニッコリ
江風「きっといつもより温かいぜ♪」
涼風「温かい通り越すんじゃね?」ニガワライ

夕立「でもぉ、その前に訊きたいことあるっぽい♪」
涼風「な、何をだよ?」
山風「涼風のパジャマから、提督の匂いする……なんで?」ニコニコ
涼風「」ギクッ
時雨「僕もそこが気になるな〜♪」
村雨「私達は心配してたのに、涼風は提督とお楽しみだったってことよね〜♪」
涼風「お、お楽しみっていうか……側にいてもらってはいたけど……」タラー
五月雨「でもでも、こんなに匂いが付くのって側にいるだけじゃ無理だよね? ね?」ニッコニコ
涼風「そ、それは……」
春雨「司令官は優しいから、抱きしめてもらってたんでしょう?」ニッコニコ
涼風「…………」ダラダラ
江風「今、なんで分かったって顔したな」ニッコニコ

白露「じゃあ……」ニシシ
海風「一人いい思いをした涼風は……」フフフ
姉ズ『罰としてお姉ちゃん達と一緒に寝ること♪』
涼風「わぁったよ、チキショ〜!////」

 こうして涼風は優しい姉達にもみくちゃにされつつ、今日という日を終えるのだったーー。

 ーーーーーー

二日連続して真面目な回となりましたが、ご了承を。
本編に書きました通り、今日は駆逐艦「涼風」が沈んでしまった日です。
涼風と多くの英霊の方々にも心からお祈りします。

本編の情報はWikipediaから得ました。

此度も読んで頂き本当にありがとうございました!

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