艦これ Short Story改《完結》   作:室賀小史郎

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昔と今。の談。

少し真面目なシーン、独自設定、独自解釈含みます。


艦これSS改21話

 

 どんなに戦果をあげても

    どんなに敵を落としても

 

 消える時は一瞬だ

 

 どんなに頑張っても

    どんなに生還しても

 

 仲間を守れなければ

 

 戦果も生還もただの結果

    だから僕は

 

 "何も望まない"

 

 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー

 

 着任当初の僕は

 どこか達観して

 冷めた目で物事を見てた

 姉妹のみんなと話してても

 戦友のみんなと話してても

 何をしてても……

 

 だって消えてしまう時は一瞬だから

 だから僕は

 必要以上に関わりたくなかった

 

   あんなにも苦しくて

  あんなにも悲しくて

 あんなにも辛くて

 

 こんなにも無力なら

  こんなにも一瞬なら

   こんなにも簡単なら

 

 ダレトモツナガリタクナイ

 

 ダレモボクノタイセツニナラナイデ

 

             そう思ってた

 

 ーー

 ーーーー

 ーーーーーー

 

 ○○鎮守府、〇六〇〇過ぎーー

 

 駆逐艦寮、白露・時雨・村雨・夕立部屋ーー

 

時雨「ん……んぅ……」パチッ

 

時雨(変な夢、見ちゃったな……)

 

 日の出が近い早朝。僕は過去の自分の夢を見て、ふと目を覚ました。

 グルッと自分の周辺を見渡すと、白露、村雨、夕立が規則正しい寝息を刻んでいる。

 まぁ、村雨はちょっと苦しそう。

 だって白露姉さんが村雨の布団に潜り込んでるから。

 でも、ちゃんとぐっすり眠ってる。

 

 自分の枕元にある時計を確認すると、〇六〇〇を過ぎていた。

 すると僕はあることが頭の中に浮かんだ。

 

時雨(この時間、提督なら朝の鍛練してるかな?)

 

 そう考えた僕は、みんなを起こさないようにゆっくりと起き上がって、自分のコートを持って部屋を出た。

 寝間着姿だけど、提督はいないかもしれないし、このままでいいや。

 仮にこの姿を見られても何も恥ずかしくないしね。

 

 僕はコートを羽織りつつ、提督がいつも鍛練する室内訓練場を目指した。

 

 

 寮までの帰り道ーー

 

 室内訓練場に行ったけど、鍵が閉まってたから提督は来てないということだった。

 仕方ないよね。そもそも提督だったらもう鍛練を終えて、自室に戻ってる時間だと思うし。

 

 僕はちょっとだけ気落ちして、そのまま部屋に戻った。ちょっとだけだからね?

 

 どうせだから海を見て帰ろうと思った僕は、遠回りだけど埠頭の方から帰ることにした。

 冬のこの澄んだ空や空気も好きだし、こんな日は海も遠くまで見えるから……。

 

時雨「?」

 

 すると埠頭に誰かいた。

 その背中は僕がいつも見てる大きくて逞しい、大好きな背中だった。

 僕は早足でその背中に近付いた。

 

時雨「……提督」

提督「? おぉ、時雨。早いな、おはよう」ニコッ

 

 提督はいつも通りの笑顔を僕に見せて、挨拶してくれた。

 

時雨「おはよう。提督も早いね」ニコニコ

提督「今日はすべきことがあるからな」

 

 すると提督は海に向かって黙祷を始めた。

 そんな提督を見て、僕は不謹慎にも嬉しいと思った。

 だって今年も提督は今日のことを覚えててくれたから。

 

 僕はこの日の早朝。一瞬にして消えてしまった。

 今でもあの当時のことは覚えてる。

 一九四五年・一月二十四日。〇七一五。

 これが艦だった僕の最期の記憶。

 

 当時の僕はヒ87船団の護衛任務を遂行中だった。

 昨年十二月下旬に就いた年を跨ぐ任務で、戦況は日本側が劣勢だった。

 その影響か、一月十日にはタンカー四隻が沈み、海防艦「神威」も大破する大損害が出て、日本側は船団を二手に分けることにした。

 

 僕が担当したのはヒ87A船団で十七日の夜に香港を出発してシンガポールを目指した。

 そして二十四日、僕達がタイランド湾のマレー半島東岸を航行していると電探に敵潜水艦の反応があった。

 これは艦娘になって知ったことだけど、当時僕達が航行していた海域はアメリカ潜水艦の跳梁する難所で、シンガポール方面の日本軍はその海域を航行しないよう心得ていたけど、ヒ87A船団はその事を知らされていなかったみたいだ。

 

 潜水艦発見で艦幹部の人達は電探射撃を命じて面舵転舵したけど、これが敵に好機を与えた。

 アメリカ潜水艦「ブラックフィン」はそれを見逃さずに四本の魚雷を僕に向けて発射。

 この時、僕に迫る二本の雷跡を発見した人もいたんだけど、錯覚や連絡不備で艦幹部の判断を変えるには至らなかったんだ。

 そうしている間に一本の魚雷が僕の左舷後部に命中。

 その衝撃は凄まじくて、すぐに僕の船体は傾斜して、そして船体が分断された。

 これが僕が覚えてる最期の記憶。

 

 提督は黙祷を終えると、すぐに僕の方を向いた。

 

提督「去年も言ったが、生まれ変わってきてくれてありがとう、時雨。また一年、よろしく頼む」ナデナデ

時雨「ふふ、去年の今日だけじゃくて、色な場面でその言葉は聞いてるよ」クスクス

提督「む……そうだったか」

時雨「そうだよ……でも何度聞いても嬉しいよ。ありがとう、提督」スリスリ

提督「お礼なんかいい。私が出来ることなんて些細なことだからな」

時雨「敵の砲撃から守ってくれることは些細なことじゃない気がするけどね」クスクス

 

 僕がちょっとだけ意地悪を言うと、提督は「揚げ足取りめ」って言って僕の頭を強くワシャワシャしてきた。

 

 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー

 

時雨『どうして僕なんかを守ったの? 僕の代わりならすぐに着任出来るのに』

提督『仲間を守るのは当然だからな』

時雨『どうせ、死ぬ時は一瞬だよ……みんな……同じ……』

提督『そうだな。失うのは一瞬だ』

時雨『じゃあーー』

提督『でもな、それを理由に諦めることだけはしたくないと常に思っている』

時雨『……意味ないよ、そんなこと……』

提督『だから私は努力する。失うのは一瞬だが、()()()()()()()()()()()()()を』

時雨『……努力……』

提督『その努力の甲斐あって、時雨を守ることが出来た。私はこの努力を続ける。時雨や皆のために』

 

時雨『…………君には失望したよ』

提督『手厳しいな』ニガワライ

時雨『こんなに自分の命を軽視してる提督は初めて見た』

提督『ぬぅ……』

時雨『だから僕が強くなって、提督やみんなを守るね』ニコッ

提督『時雨……』

時雨『僕はもうただの時雨じゃない。この鎮守府の……そう、提督の時雨だから』ニッコリ

提督『あぁ、時雨は私の大切なたったひとりの時雨だ』ナデナデ

時雨『うん♡』

 

 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー

 

 提督の()()()()が今の僕に変えた。

 だから僕はこれからも、諦めない。

 

時雨「提督」

提督「ん?」

時雨「これからも僕はこの艦隊……提督の側にいて、いいんだよね?」

提督「当然だ。いてくれなくては困る」ナデナデ

時雨「提督は無茶するから、これからも僕がしっかり守ってあげるね♡」フフフ

提督「ありがとうな、時雨」ニッコリ

時雨「うん♡」ニコニコ

 

 それして僕は提督とそのまま日の出まで肩寄せ合って海を眺めた。

 その時の日の出はいつものより何倍も綺麗に輝いて見えて……提督と一緒だとこんなにも世界は輝いてるんだって心から思えた、そんな瞬間だったーー。




 おまけーー

 同日、一五〇〇ーー

 食堂ーー

時雨「あ〜♡」オクチオープン
提督「ほら」つパフェ
時雨「ん〜♡ 美味しい♡」モグモグ
提督「それは何よりだ」フフフ
時雨「〜♡」デレデレ

 おやつ時、時雨は提督の膝の上に座り、提督からパフェを食べさせてもらっていた。

白露「ーーで、今日の時雨はあんな風に雛鳥状態と……」ニガワライ
夕立「夕立もされたい〜」グヌヌ
村雨「今日は時雨姉さんの日だから仕方ないわよ♪」
春雨「でもあの様子だと、時雨姉さんが司令官に守られているように見えます」ニガワライ
五月雨「いいなぁ〜」ユビクワエ
山風「朝、みんなで黙祷してた時も、時雨姉は提督と、ずっと手繋いでた……」ムゥ
海風「まぁ今日ばかりは致し方ないわね」ニガワライ
江風「いつも凛としてる時雨姉貴があンなにデレデレしてるのって、ある意味レアだよな」アハハ
涼風「普段はあんまり行動ではグイグイ行かないからな〜♪」

 そんな時雨を姉妹達は微笑ましく(?)眺め、

扶桑「ふふ、幸せそうにしてるわね」
山城「そうですね……」マジマジ←羨ましがってる
最上「提督も甲斐甲斐しいね〜♪」
満潮「(ずるい……////)」ボソッ
朝雲「今度してもらっちゃおうかな♪」
山雲「いいわね〜♪ 私もお願いするぅ〜♪」

能代「時雨ちゃんったら……」フフフ
矢矧「いいなぁ……////」
阿武隈「いいよね〜////」
初霜「時雨ちゃん、幸せそう♪」
雪風「ですね〜♪」ニコニコ
天龍(LOVE勢の奴らはすげぇ見てるな〜)ニガワライ
鳥海(まぁ、あんなお二人がいれば自然と目に入っちゃうわよね)ニガワライ

 かつて共に戦場を駆けた戦友達も今の時雨の幸せそうな光景を眺めるのだったーー。

 ーーーーーー

本日は駆逐艦『時雨』の最期の日ということで、書きました。
今回は少し書き方を変え、時雨ちゃんの視点で書いてみました!

この日に沈んでしまった時雨と英霊の方々に心からお祈りします。
本編内の情報はWikipedia、『大日本帝国海軍 所属艦艇』より得ました。

では読んで頂き本当にありがとうございました☆

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