明くる日、俺は惰眠を貪っていた。
ピコン、とメッセージが届く音で目が覚めた。
俺のフレンドはキリトとアルゴしか……キリトはここにいるし……じゃあアルゴか。
なんだ? と思いながらメッセージを開く。
そこに書かれていた内容を見て、目を見開く。
『ディアベル反対派の軍がボスに挑んだみたいだゾ』
「……はぁ?」
一気に頭が覚める。同時に血の気が引く。
待て、今は何時だ。
時間を見ると既に昼を回っている。
大慌てで仕度をする。惰眠を貪っていたことがバレたらキリトやアスナになんて言われるか……。
パンを頬張った直後、ピコんとメッセージの音が届く。
キリトからだ。
『エイトマン、ディアベルとヒースクリフから緊急収集がかかった、大至急○○に来てくれ』
危ない、寝てたら絶対に怒られていた。
それにしても緊急収集か……。
多分、いや絶対軍についてだろう。
「なんで俺が……」
再び思い出す、アルゴからのメッセージ。
『軍がボスに挑んだ』
それだけならいい、だけど、勝利の報告がない。
それはつまり…………。
俺はボーッと何も無い壁を見つめていた。
頭の中が、真っ白になった。
ーーーー
俺はディアベルとヒースクリフに指定された部屋に行った。
ドアを開けると、キリトがディアベルに掴みかかっている場面だった。
胸ぐらを掴み怒気を孕ませた声でキリトが問う。
「どういうことだディアベル。軍はお前の指揮下にあるんじゃないのか」
「…………どうにも、僕の意見と噛み合わない者がいたんだよ。そいつらが軍の中でグループを作り今回のことをーーーーーー」
「そういうことを聞いてるんじゃない、なんでわかっていて止められなかった!」
ここには俺とキリトとディアベル、ヒースクリフしかいない。静かなのは当たり前だがキリトの声でいっそう静かになった。
コホン、とヒースクリフが小さな咳をする。
それは物凄く静かなこの部屋に響いた。
キリトも冷静になったのか、ディアベルに一言「すまない」と入れてヒースクリフの方を向く。
「これからの方針について話そうと思う。……アスナ君はまだ来ないようだね」
「ヒースクリフ……それでいいのか」
「おいキリト、やめろ」
「……けど」
食い下がるキリト。過ぎた事をまだ言うのか。
今大事なのは、軍の戦力がダダ下がりしたこと、それと軍が思っていたより統率が取れていないことだ。
「ディアベル、どのくらい死んだんだ」
「……軍の古参はほとんど僕についている。だから中参、新参辺りが……」
「じゃあ古参はいるのか、戦力はまだ維持できるのか?」
「メインアタッカーはもう出来ないと思うけど、サポートなどに関してなら問題は無いはずだ」
「てことは、これからは聖竜とかを中心にアタッカーするしかないのか」
「その必要は無いわ」
部屋ドアからアスナが顔を覗かせていた。
呼吸が多少荒く、肩が上下に動いている。
アスナが遅刻……ってわけがないから、何が他のことをヒースクリフにでも頼まれて、それを今終わらせて走ってきた……って感じだろうか。
「これからは、私、キリト、エイトマンがメインアタッカー、ディアベル、ヒースクリフはサブアタッカー及びタンク。22層での経験を糧にすれば充分戦えるはずよ」
「おお、アスナ君。ようやく来たか」
「ごめんなさい、用事があったので」
ペコリと頭を下げるアスナ。
おい、遅刻だったのかよ。用事ってなんだよ……。
「異論はない、軍にメインアタッカーを務める度量は今ないからね」
「私もだ、現在の攻略組トップの3人にメインアタッカーを譲ろう」
「ははは、冗談はやめてください」
「おいエイトマン、乾いた笑い声あげるな。目の腐りと相まって傀儡人形に見えるぞ」
なんていい草だ、俺じゃなかったら今頃泣いて喚いてたぞ。
まじかよ……メインアタッカー? 22層のあれをやれって?
なんかもう話進んでるし……。
俺が口を挟む余地がないみたいだ、もう俺はボーッとしてよう。
現実逃避ってすごい(但し現実は変わらない)
「それでは、最後にフレンド交換をしておこうか」
ヒースクリフが解散間際にそんなことを口にした。
「そうね、交換しておいた方が何かと便利よね……って言っても私ほとんど交換してるんだけど」
「僕もだな」
「俺も」
皆の視線が俺に集まる。
「お、俺も交換してありましゅ……」
「エイトマン君、交換しよっか」
「あっはい」
あっさり嘘を見破られ、皆とフレンド交換する。
…………メアド交換みたいなのに全然嬉しくねぇ。