「ハッピーバースデートゥーミー」
そんな歌を口ずさむ俺ガイル。
今日は8月8日、SAO開始から約10ヵ月。
そして、俺の誕生日。
「ケーキでも作るか」
俺は甘いものが結構好きだ、いやかなり好きだ。練乳とか大好き。
MAXコーヒーとラーメンを作るためにせっせと料理スキルを上げた。
おかげさまで大体のものは作れる。専業主夫になるならこのスキルは必須だな。
卵やらスポンジやら用意していたらメッセージが来ていた。
「キリトか」
ボスを倒したあと、結局フレンド削除はしなかった。
信頼し合える仲間という認識になったからか?
削除ボタンを押せなかった。
よくわからない感情が渦巻いていたが、キリトと友達になったってことだろう。
とりあえずメッセージ内容を確認する。
『お前の宿の前にいる』
なんでですかね……
作りかけのケーキを放っておいて、とりあえずドアを開ける。
ドアの前にはキリト……と知らない面子が揃っていた。
「なんで俺の泊まってる宿がわかったんだよ」
「フレンド欄からサーチ出来るだろ?」
まじかよ、今までフレンド欄ほとんど開かなかったから知らなかったわ。
てか、隣にいる奴ら誰? と目で促す。
キリトは思い出したように説明を始めた。
「俺、月夜の黒猫団ってギルドに所属したんだ。それでこいつらがそのメンバー」
「お前がギルドにな……ぼっち脱却か」
「エイトマンも入るか?」
「絶対嫌だ」
見た感じ中高生のイケイケ系のグループのようだ、同級生か?
「えーと、紹介すると……月夜の黒猫団のリーダーがケイタってやつだ。で、そっちのメイスを持ってるのがテツオで、ソードを持ってるのがササマル、槍を持ってるのがダッカー。ケイタの後ろに隠れてるのが……サチだ」
「よろしくな、えーと」
「エイトマンだ」
ケイタ、というやつが気楽に話しかけてくる。ほほん、こいつ俺のぼっちオーラを無視するタイプか?
「それで、ギルドメンバー紹介に来たわけじゃないんだろ? 何しに来たんだ、俺は忙しい」
「いやさ、攻略組に参加したいらしくて。それでレベリングとかをな……」
「キリトが適任じゃねぇか」
「俺1人だと少し厳しくてな、監督してくれるメンバーがもう一人多くなると嬉しいと思ってな」
チラチラ俺を見てくるキリト。なるほど、そういうことか。
俺の返答は決まっている。
「断る、じゃあな」
「待ってくれエイトマン! …………いい武具店紹介するぞ」
武具店……俺の武器は基本的にドロップ品だ。耐久力が切れる度に他のに切り替えている。
だが、キリトの武器はほとんど耐久が切れていない、いい武具店に入り浸っているのだろう。
気になるな……。
「…………」
俺が黙っていると、キリトは仕方ないと言った表情で口を開いた。
「美少女いるぞ」
「よし、乗った」
あっさり俺は承諾したのだった。
後ろのメンバーは苦笑いしていた。
いやだって……俺も男の子だし……。
ーーーー
ここは23層の迷宮区。
トラップが比較的多い迷宮だ。
ちなみに攻略は今のところ24層まで進んでいる。今は25層の迷宮に挑んでるところだろう。
一応攻略組の俺は月夜の黒猫団のメンバー方に連れられてここでレベリングの手伝いをしていた。
「はぁ……面倒くさい……働きたくねぇ」
「そんなこと言うなって、ほらまたポップしたぞ」
クランのメンバーがえいえいとモンスターを倒している。
俺はその隣でぼーっとしているだけだ。
キリトからは、危なくなったら助けろとしか言われていない。
「お前の速さなら間に合うだろ」
……そう言われたら何も言い返せないだろ。
信頼するなよ恥ずかしい。
何とか話を変えようとあれこれ模索すると1つ聞きたいことを思い出した。
「そういえば、キリト、βテスターってことは伝えてるのか?」
「ああ、そっちの方がいいだろ? 攻略組になりたいみたいだしさ」
「そうか」
もしキリトがβテスターってことを隠したりしてこのクランに所属してたら…………。
そう考えると、1層での俺のヘイト稼ぎは結果的に良かったってことか。
「じゃあ、俺はサチに片手剣の戦い方とか教えてくるよ」
「ああ、わかった」
月夜の黒猫団はアタッカーが少ないみたいで、サチを片手剣使いのアタッカーにしたいみたいだ。
攻略組の片手剣使いのキリトはうってつけの専属教師になるってことか。刀使いの俺は誰の教師になればいいんですか。クライン? 嫌だよおっさん。
「お、宝箱!」
「っと、目を離した隙に……」
隠し部屋の宝箱を発見したケイタ達、まあここはトラップだらけのエリアだ。先にそう伝えてあるしどう動くか……。
「じゃあ開けるぞー」
「ばっか、何してんだ」
慌てて止めに入る。開ける寸前だった。
「ここはトラップだらけのエリアだって言ったろ。ここの辺りは宝箱開けるな、いいな」
黒猫団のメンバーはポカーンとしていたが、事の重大さをわかったのか真面目に返事をしてくれた。
おお、俺上司みたい。
「そういえばエイトマン、家では何してたんだ?」
「ああ? ケーキ作ってたんだよ……思い出したら今日俺の誕生日じゃねぇか……ゆっくりしたかった……」
「誕生日だったのか!? それは……」
しまった、誕生日のこと言ってしまった。
「そうだ、せっかくだし俺たちが祝ってやるよ」
「は? いやいい、まじやめろ」
「まあまあ、これのお詫びってことで」
「なら美少女でも紹介しやがれ」
紹介されても話せる自信はないがな。
「キリト、誕生日なの?」
前衛の練習をしているサチが俺のところへやってきて言った。
聞いてたのかよ……。
よくよく周りを見渡すと他のメンバーを俺のことを見ていた。
「もしそうなら、皆でお祝いしよっか?」
「それは……ほら、会ったばかりだろ」
「……いや?」
身をよじらせて上目遣いでこちらを見てくるサチ。やめろ、その目で見るな。
ていうか声が雪ノ下に似てるからあいつのことを思い出しちゃうだろ。
「いや、じゃないが……」
「やった!」
他のメンバーに嬉しそうにパーティーのことを伝えに行くサチ。
そんな自分のことのように喜ばれたら……いやって言えないよなぁ……。
隣から視線を感じた。キリトが俺をニヤニヤしながら見ている。
「女には弱いなぁ、エイトマン」
「うっせ」
結局、この日は夜が明けるまでパーティーで騒いだ。