やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

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紫色の影

「皆さん、準備はいいですね」

 

ボス部屋前でアスナが問いかける。

皆真剣な表情だ。

 

「ヒースクリフ、頼むぞ」

「任せたまえ」

 

ヒースクリフの余裕の表情が俺の緊張を和らげる。

 

「行きます」

 

 

アスナが扉を開ける。

ギギィ……と固い音を立てながら扉が開かれる。

中には馬に乗った鎧を着たモンスターがいた。

入ってきたこちらに気づくボス。

キラリと目が赤く光り、馬が雄叫びを上げた。

 

「全軍、位置に着いて!」

「了解!」

 

アスナの指示が飛ぶ。

俺は最速でボスへと走り、斬りつけーーーーーーようとしたが、馬に乗っているので届かない。

 

「届かねぇ……」

 

仕方なく馬の足を切りつける。

 

「らぁっ!」

「オオオッ!」

 

ボスが声を上げる。馬の足が1つ折れる。

足にHPバーが表示されている、4つ削れば本体に届くのか?

 

「キリトッ!」

「ああっ!」

 

キリトがボスを片手剣で攻撃を与える。

なかなかいいダメージが入っている。

 

「ーーーーーーッ!」

 

ボスの刀攻撃がキリトを狙う。

間一髪キリトはそれを避けたが、まだボスはキリトを狙っている。

ある程度下がり、ターゲットから逸れるキリト。

 

「どうだ、キリト」

「攻撃が思ったよりも速い、ヒットアンドアウェイ戦法かいいってのは本当だな」

「てことは……」

「エイトマンの出番だ」

「だよなぁ……」

 

俺を軸にする作戦なんて嫌いだ。

覇気がないやつを軸にしてもろくなことがない。

 

でも、これがベストだというのならばそれに従うだけだ。

 

刀を抜刀し、構える。

 

後ろにはキリト、ディアベル、ヒースクリフと頼もしい面子が揃っている。

今のところ湧いている雑魚も後ろのヤツらが十分倒してくれている。

大丈夫だ、落ち着け、俺。

 

「行くぞ、鎧野郎」

 

スッと出た言葉。おかげで心臓の音が静かになった気がした。

ボスに向かって俺はいつもの、紫色の影と呼ばれる所以となった戦い方を始めた。

 

ーーーー

 

キリトside

 

「すごいな……」

 

ダァン! と強い音が鳴ったかと思うとボスがスタンする。

その間に復活した馬の四肢のHPをすぐさま削りきる。

倒れたボスを滅多打ち、ボスがスタンから復活した瞬間他のスキルでまたもやスタンさせる。

その間に1度下がり、MPポーションを飲み、息を整える。

 

「これが、エイトマンの本当の戦い方……」

 

いつも飄々としていて、やる気がなさそうな、あのエイトマンの本気。

「行くぞ、鎧野郎」と答えたエイトマンの雰囲気は確実に違った。

 

「おい、余所見すんな。俺1人であのHPを削り切れるわけないだろ」

「あ、ああ」

 

エイトマンがポーションを飲み、バフをかけている間に俺が追撃する。

俺の一撃、二撃、三撃。

 

「スイッチだ、キリト」

「わかった、スイッチ!」

 

前に出るエイトマン。すぐにボスをスタンさせ、またさっきの流れに持ち込む。

スタンで攻撃を止め、流れを変え、バフで上げに上げた攻撃力で削る。

敏捷が高すぎるせいで姿を追うのもやっとだ。

辛うじて服の色、紫色が移動してるのがわかる。

これが、エイトマンの二つ名の由来か。

 

「紫色の影、か」

 

本当に、似合う二つ名だな。

と、HPを半分まで削ったあたりでボスの行動が変わった。

明らかにモーションが大きくなる、これは……。

 

「エイトマン! 大技が来るぞ!」

「わかってるーーーーーーッ!」

 

エイトマンがスキルを発動するタイミングで大技が来る。

まずい、スキル硬直でエイトマンは動けない!

 

「ふんっ!」

 

ボスの攻撃が弾かれる。

ヒースクリフだ。

 

「ナイスだヒースクリフ」

「君のことは任せろと言っただろう」

 

エイトマンがスキルを発動する。

刀スキルの奥義《散華》

特大攻撃の×5回の直進突き。

それにエイトマンはバフを数個かけている。

 

「おおおおお!!」

 

ガクン、とボスのHPが減る。

残り3分の1ほどだ。

 

「攻撃パターンが変わるぞ、下がれ!」

 

ディアベルの指示が飛ぶ。

エイトマンは素直に下がり、体制を整える。

 

「流石だな、エイトマン」

「うっせ、そんな余裕ねぇ」

 

この戦い方はかなり神経を削るみたいだな。

エイトマンの顔に余裕が確かにない。

 

「攻撃パターンがわかったらまたハメるから、頼むぞキリト」

「……ああ!」

 

そんなエイトマンに頼られるってのは、嬉しいもんだ。

 

 

ーーーー

 

 

八幡side

 

本当にギリギリだ。

少しでもミスしたら一発食らって俺のHPは赤、それか0になる。

それでも俺は切り続ける、挑み続ける。

生きるために。

 

「流石だな、エイトマン」

「うっせ、そんな余裕ねぇ」

 

つい、強く言いすぎてしまう。

慌ててキリトの方を見るがキリトはなんとも思っていないみたいだ。

よかった、と思いつつもーーーーーーよかった?

 

何がよかったんだ? キリトに嫌われずに? わからない。

ここはゲームだ、だけど現実だ。

キリトとの関係は、なんだ。

 

ーーーーーーそんなのを考えている余裕はない。

 

「攻撃パターンがわかったらまたハメるから、頼むぞキリト」

「……ああ!」

 

ボスが雄叫びをあげる。

馬から降りるボス。馬はポリゴンの欠片となって消える。

 

「形態チェンジか、あと2回されたりしないよな」

「フリーザかよ。冗談言う余裕はあるんだな、エイトマン」

「余裕持ったふりでもしないと持たねぇよ。足なんかガクブルだわ」

 

ボスが手に持っていた刀を捨て、もう一つ、腰にあった方の刀を抜刀する。

その瞬間、俺とキリトの後ろにいたディアベルとヒースクリフ、それと他のクランメンバー達の間に炎が燃え上がる。

そのまま切り離される。

 

「エイトマン! キリト!」

 

ディアベルの声が聞こえる。炎で遮られ姿は見えない。

 

「エイトマン、これって……」

「あれだろ、一騎打ち的なやつ。……いや2人いるから一騎打ちじゃねぇな」

 

周りを炎で囲まれながらも、思考は冷えている。

やることは一つだ。

 

「ともかくだ、2人でやるしかない。行くぞ、キリト」

「ああ!」

 

ボスとの最終決戦が始まった。

 

ーーーー

 

襲いかかってくるボスの刀。

 

「はぁっ!」

 

その攻撃を避けながらキリトがソードスキルを発動する。

片手剣スキル《ホリゾンタル・スクエア》

 

「らぁっ!」

 

キリトにヘイトが移っている間に俺は《ウェポン・バッシュ》でスタンさせる。

そのまま次のソードスキルを発動。

 

「オオオ……ッ!」

 

ボスがよろめく、HPバー最後の1本の残り3分の1ほどだ。

 

「エイトマン!」

「ッ! しまーーーーーー」

 

スタンしていると思っていたら失敗していた。

ボスが放った刀スキルによって俺は吹っ飛ばされる。

HPバーが一気にレッドゾーンにまで減る。

死ーーーーーーんでたまるか!

 

「ぐっ……《ヒーリングサークル》ーーーーーー!」

 

追撃してくるボス、いつの間にかヘイトが俺に移っていた。

回復が間に合わない、くそっ!

 

「おおおっ! 《レイジスパイク》!」

 

キリトが突進技で無理やりヘイトを自分に移した。

ボスの一撃がキリトを襲う。

 

「エイトマンは早く回復を! ーーーーーーッ!」

 

キリトは1人でボスと切り合う。

その間に素早く回復を済ませる。

 

「エイトマン! スイッチ」

「ああ!」

 

間に合った、キリトの一撃でスタンしているボスに向かってソードスキルを放つ。

刀スキル《緋扇》の三連撃。

再びスタンするボス。

 

「キリト!一気に行くぞ!」

「はぁっ!」

 

まだスタンしているボスに俺はソードスキルを発動する。

 

「《ヴォーパル・ストライク》!」

 

キリトが片手剣重攻撃技スキルでボスに攻撃する。

だが、削りきれていない。大技は発動後の硬直時間が長い。

動けないでいるキリトの後ろ姿は、俺を信じているように見えた。

俺がそう見えただけ、だけどーーーーーー。

 

「信じられてるなら、応えないとな」

 

刀スキル《窮奇》

怒涛の6連撃でボスに反撃を与えない。

どんどん減るボスのHP。

 

「っらぁっ!」

 

《窮奇》の最後の一撃、最も威力が高い攻撃を与えーーーーーーボスのHPが0となった。

 

ボスはポリゴンとなって消滅する。

同時に炎も消え、ボスの取り巻きも消滅する。

《Congratulations》の文字が浮かび上がった。

俺達の、勝利だ。

 


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