まずは前衛と後衛に分かれる。
ディアベルは盾持ちの片手剣使いなので前衛に行ってもらった。
俺は後ろから抜刀術でムカデの足を斬り落とし、機動力を削ぐ役割だ。
あまり支援系のスキルはないが、全体回復もある。
それにいざとなったら俺が前衛に出ることできる。
ディアベルは持ち前の安定性でボスに確実にダメージを蓄積させている。
俺も得意の《居合》でムカデの脚を落としていく。
だが、そこはやはり『百足』。斬り落とし続けても尚、機動力は思ったよりも下がらない。
しかし、HPは徐々に減っていっている。
このまま行けば勝てるか?
おっと、ディアベルのHPが減っている。回復させなければ。
全体回復のスキルを使い、ディアベルのHPを緑色にする。
その瞬間、ボスにタゲを取られた。
「回復させたらタゲ取られるのかよ……」
こんな相手初めてだ。前衛と後衛に分ける意味がない。
隠蔽スキルを使い、姿を消す。
俺を見失ったのか、再びディアベルのタゲを取った。
よし、隠蔽スキルは効くみたいだ。
なら……。
「エイトマン君、スイッチ!」
「了解」
察しがいいな、ディアベルは。
隠蔽スキルを解除して、ディアベルと位置を交代。
ディアベルは後ろで攻撃強化やら、防御強化のバフをかけ直している。
俺は納刀する。抜刀術の準備だ。
「シャァァアアッ!」
気味の悪い雄叫びをあげ、突進してくる。
《居合》で、右脚を一気に斬り落とす。
続けて《稲妻》を使い、さらに胴体を斬りつける。
「っ……!」
流石に硬い。外骨格を持っているだけのことはある。
真っ二つに斬り裂けたら楽だったんだがな。
ムカデはその巨体を暴れさせる。
その勢いで俺は後ろへ吹っ飛ばされる。
なんとか受け身を取り、即座に体勢を戻す。
眼前には、ものすごいスピードでこちらに突進を仕掛けるムカデ。うげ、気持ち悪ぃ。
右脚なくても動けるのかよ……。
って、そんなこと考えてる場合じゃねぇ。
あの硬さからして、受け止めることが出来る気がしない。絶対弾かれる。
……じゃあ受け止めなければいいか。
「ぐっ……!」
先程斬り落とした右脚はまだ再生していない。
刀を突進してくるムカデの右側に当て、左側に押す。
ルートが左に逸れるムカデ、右脚がないため俺には被害がない。
あの巨体を受け流すことができるかどうかは賭けだったが……成功だ。
「無事か!」
「ディアベル……俺は平気だ」
ディアベルはしっかり回復した。
さて、また前衛後衛に……いや、そろそろこれもやめた方がいいのかもしれない。
あのムカデ、だんだん俺達の動きに慣れてる様な気がする。まさか、ここに来てモンスターのアルゴリズムが変わったのか?
HPは確かに減ってきているが、2人だと流石に全然削れ切れないし……まずいかもな。
「エイトマン君、あのムカデ。君でも削れないかい?」
「…………とりあえず《抜刀術》の内、よく使うスキルはぶつけたが余り減らなかったな」
《居合》と《稲妻》では威力に欠ける……いや、あの装甲が硬すぎる。
低い層とは言っても、スノードラゴンのラストゲージを削りきれる火力はあるんだ、あのムカデが異常なだけ。
《大袈裟》のスキルならもしかすると……隙が大きいから使ってる間に吹っ飛ばされそうだがな。
「困ったね……瞬間火力ならエイトマン君が最強だと思ってたんだけど……」
「どうだろうな。一応、奥義技ってのもあるが……」
「奥義技……片手剣なら《ファントム・レイブ》みたいなのかな?」
「そんなところだ。一旦、また前衛後衛に分かれるぞ、あいつが動いた」
「わかった」
ボスがこちらへ再生した脚攻撃を仕掛けるが、ディアベルがそれを盾で止める。
俺はその脚を斬り落としつつ、後退する。
さて、どうするか……。
昔一度試した奥義技。確かに威力は他のスキルを大幅に超えていた……だが、あのスキルは流石に隙が大きい。
当てられさえすれば、あのムカデにも大ダメージは与えられるか?
まず納刀した状態で、刀が届く距離まで近づく……この時点で、あの脚の攻撃範囲内だな。
《居合》や《稲妻》はあの脚の攻撃範囲外から攻撃出来るからいいが……隠蔽スキル使って行けるか?
その時、ドンッ! と強い衝撃が耳に伝わった。
身体が勝手に宙に浮いて……いや、俺が吹っ飛ばされてるのかーーーーーー?
次に背中に強い衝撃が来た。壁にぶつかったのか。
「ゲホッ、がはっ」
遅れて身体の中に衝撃が伝わる。
肺が圧迫されたのか。
「エイトマン君! ーーーーーーくっ!」
ディアベルが奮闘する。
ムカデが思っていたより近くに来ていたのか……いや、違う?
さっきより大きくなって……。
「巨大化……!?」
まさか、いや、嘘だろ。
急いでステータス画面を開く。
気づいたら、クエストを一つ受注していることになっていた。
クエスト名『ボス部屋を守護する蟲を撃退せよ』
徐々に巨大化を繰り返すモンスターを倒し、ボス部屋の鍵を手に入れろーーーーーーは……?
この部屋に入った時点で、自動的に受注されるのか?
何より、巨大化って……。
「避けろっ!!」
身体が咄嗟に動く。
しゃがみこみ、回避行動をする。
頭上ーーーーーーさっきまで俺が立っていたところを何かが通過した。
ムカデの脚だ。
「ディアベル! こいつ、巨大化してるぞ!」
「くっ……これ以上大きくなったら対処が出来ない!」
ディアベルは既に満身創痍だ。これ以上負荷をかけてしまったら……!
急いで回復ポーションを飲み、ディアベルの近くに行く。
「もう、一か八か、奥義技を使う」
その言葉にディアベルが驚いた。
自分も奥義技を使ったことがあるのだろう。
奥義技が隙が多いのが、わかってるのだろう。
なら、いいーーーーーー。
「ーーーーーー行くぞッ!」
ボスのリーチが極端に長くなっている。
だが、接近すれば、攻撃はしにくくなるんじゃないのか?
ーーーーーー違った。何も、こいつは一番前にある2本の脚でしか攻撃しないわけではなかった。
他の脚が、俺を襲ってきた。
『百足』だもんな。くそっ……。
もうダメか……!?
「エイトマン君! 走れえええっ!!」
ディアベルが、ボスの大顎を片手剣で……いや、あれは両手剣!?
両手剣スキル《イラプション》
剣を振り下ろした後すぐさま振り上げる、二連続の重攻撃技。
その、振り上げ攻撃でボスの身体を浮かしたのか!?
いつのまに両手剣スキルをーーーーーーいや、違う。そんなことはどうでもいい!
こいつを、仕留めるタイミング、だっ!
「はぁぁっ!!」
納刀した刀の柄を握る。
そのまま、右斜め上に振り抜く。
ムカデの胴体に大きな傷がつく。
《稲妻》による攻撃でその傷を切り開く。
「シャアアアァァッッ!!」
ボスの叫び声が響き渡り、動きが止まる。
ーーーーーーここだ!
《稲妻》を使ったため、納刀された刀。
再び、その刀は抜かれた。
ムカデの、その傷を広げるかの如く、《抜刀術》の奥義技を使う。
「ぁぁあああッッ!!」
奥義技《龍返し》
一撃ーーーーーー振り抜いた刀によって、ボスの傷が広がり、穴が開く。
二撃ーーーーーー振り下ろした刀によって、ボスの胴体が千切れかける。
三撃ーーーーーー横薙ぎに振るった刀によって、前方に衝撃波が発生し、前方にあった玉座が崩れる。
そして、遠くの玉座を破壊するほどの衝撃波を発生させた、刀。
それに、直に触れていたムカデの胴体がーーーーーー爆ぜた。
完全に2つに千切れたムカデ。
「ぜーっ、ぜーっ……流石に、終わった、だろ……」
HPは減っていないが、肉体的に疲れた気がする。
その場にどさりと、座り込む。
何か足りない気がする。
ボーッとした頭でその何かを考える。
なんだっけ……。
そうだ、ボスを倒したなら、あれが出るだろ……。
おかしいな、出てないな?
「まさか…………」
だんだん、意識が覚醒してくる。
《Congratulations》の文字が浮かばないってことは、倒してない?
最低でも、クエストクリアのメッセージは届くはずだろ。
それすら出てないってことは……。
なんとか力を入れて、起き上がる。
目の前には、ムカデの大顎が映っていた。
しまっーーーーーー!
ドゴオオォォン!!!
ギュッと目をつぶり、死を覚悟した。
とてつもない音が聞こえ、俺の死が迫ってきたのがわかる。
ーーーーーー……まだ、身体の動く感覚がある。
もしかして実はもう死んでるのか……?
ゆっくり目を開けると、ムカデが力無く朽ちるのが目に入った。
その残骸の上に立っているのはディアベル。
「最後まで油断は禁物だよ、エイトマン君」
今まさにポリゴンの欠片となって消えそうなムカデに、両手剣を刺して笑っていた。
「はは……すまん」
「借りは、これで返したことになるかな?」
一層のことを言っているのだろうか?
もうその時以上に、俺たちはお前に助けられてるよ、全く……。
ディアベルの後ろに《Congratulations》の文字が浮かび上がる。
クエストクリア、だ。
ディアベルに両手剣使わせました。
1人だけ盾と剣のごく普通の片手剣というのもなんだか……と思いまして。