やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

32 / 33
中ボス

まずは前衛と後衛に分かれる。

ディアベルは盾持ちの片手剣使いなので前衛に行ってもらった。

俺は後ろから抜刀術でムカデの足を斬り落とし、機動力を削ぐ役割だ。

あまり支援系のスキルはないが、全体回復もある。

それにいざとなったら俺が前衛に出ることできる。

 

ディアベルは持ち前の安定性でボスに確実にダメージを蓄積させている。

俺も得意の《居合》でムカデの脚を落としていく。

だが、そこはやはり『百足』。斬り落とし続けても尚、機動力は思ったよりも下がらない。

しかし、HPは徐々に減っていっている。

このまま行けば勝てるか?

 

おっと、ディアベルのHPが減っている。回復させなければ。

全体回復のスキルを使い、ディアベルのHPを緑色にする。

その瞬間、ボスにタゲを取られた。

 

「回復させたらタゲ取られるのかよ……」

 

こんな相手初めてだ。前衛と後衛に分ける意味がない。

隠蔽スキルを使い、姿を消す。

俺を見失ったのか、再びディアベルのタゲを取った。

よし、隠蔽スキルは効くみたいだ。

 

なら……。

 

「エイトマン君、スイッチ!」

「了解」

 

察しがいいな、ディアベルは。

隠蔽スキルを解除して、ディアベルと位置を交代。

ディアベルは後ろで攻撃強化やら、防御強化のバフをかけ直している。

俺は納刀する。抜刀術の準備だ。

 

「シャァァアアッ!」

 

気味の悪い雄叫びをあげ、突進してくる。

《居合》で、右脚を一気に斬り落とす。

続けて《稲妻》を使い、さらに胴体を斬りつける。

 

「っ……!」

 

流石に硬い。外骨格を持っているだけのことはある。

真っ二つに斬り裂けたら楽だったんだがな。

 

ムカデはその巨体を暴れさせる。

その勢いで俺は後ろへ吹っ飛ばされる。

 

なんとか受け身を取り、即座に体勢を戻す。

眼前には、ものすごいスピードでこちらに突進を仕掛けるムカデ。うげ、気持ち悪ぃ。

右脚なくても動けるのかよ……。

って、そんなこと考えてる場合じゃねぇ。

あの硬さからして、受け止めることが出来る気がしない。絶対弾かれる。

……じゃあ受け止めなければいいか。

 

「ぐっ……!」

 

先程斬り落とした右脚はまだ再生していない。

刀を突進してくるムカデの右側に当て、左側に押す。

ルートが左に逸れるムカデ、右脚がないため俺には被害がない。

あの巨体を受け流すことができるかどうかは賭けだったが……成功だ。

 

「無事か!」

「ディアベル……俺は平気だ」

 

ディアベルはしっかり回復した。

さて、また前衛後衛に……いや、そろそろこれもやめた方がいいのかもしれない。

あのムカデ、だんだん俺達の動きに慣れてる様な気がする。まさか、ここに来てモンスターのアルゴリズムが変わったのか?

HPは確かに減ってきているが、2人だと流石に全然削れ切れないし……まずいかもな。

 

「エイトマン君、あのムカデ。君でも削れないかい?」

「…………とりあえず《抜刀術》の内、よく使うスキルはぶつけたが余り減らなかったな」

 

《居合》と《稲妻》では威力に欠ける……いや、あの装甲が硬すぎる。

低い層とは言っても、スノードラゴンのラストゲージを削りきれる火力はあるんだ、あのムカデが異常なだけ。

 

《大袈裟》のスキルならもしかすると……隙が大きいから使ってる間に吹っ飛ばされそうだがな。

 

「困ったね……瞬間火力ならエイトマン君が最強だと思ってたんだけど……」

「どうだろうな。一応、奥義技ってのもあるが……」

「奥義技……片手剣なら《ファントム・レイブ》みたいなのかな?」

「そんなところだ。一旦、また前衛後衛に分かれるぞ、あいつが動いた」

「わかった」

 

ボスがこちらへ再生した脚攻撃を仕掛けるが、ディアベルがそれを盾で止める。

俺はその脚を斬り落としつつ、後退する。

 

さて、どうするか……。

昔一度試した奥義技。確かに威力は他のスキルを大幅に超えていた……だが、あのスキルは流石に隙が大きい。

当てられさえすれば、あのムカデにも大ダメージは与えられるか?

 

まず納刀した状態で、刀が届く距離まで近づく……この時点で、あの脚の攻撃範囲内だな。

《居合》や《稲妻》はあの脚の攻撃範囲外から攻撃出来るからいいが……隠蔽スキル使って行けるか?

 

その時、ドンッ! と強い衝撃が耳に伝わった。

身体が勝手に宙に浮いて……いや、俺が吹っ飛ばされてるのかーーーーーー?

 

次に背中に強い衝撃が来た。壁にぶつかったのか。

 

「ゲホッ、がはっ」

 

遅れて身体の中に衝撃が伝わる。

肺が圧迫されたのか。

 

「エイトマン君! ーーーーーーくっ!」

 

ディアベルが奮闘する。

ムカデが思っていたより近くに来ていたのか……いや、違う?

さっきより大きくなって……。

 

「巨大化……!?」

 

まさか、いや、嘘だろ。

急いでステータス画面を開く。

気づいたら、クエストを一つ受注していることになっていた。

クエスト名『ボス部屋を守護する蟲を撃退せよ』

徐々に巨大化を繰り返すモンスターを倒し、ボス部屋の鍵を手に入れろーーーーーーは……?

 

この部屋に入った時点で、自動的に受注されるのか?

何より、巨大化って……。

 

「避けろっ!!」

 

身体が咄嗟に動く。

しゃがみこみ、回避行動をする。

頭上ーーーーーーさっきまで俺が立っていたところを何かが通過した。

ムカデの脚だ。

 

「ディアベル! こいつ、巨大化してるぞ!」

「くっ……これ以上大きくなったら対処が出来ない!」

 

ディアベルは既に満身創痍だ。これ以上負荷をかけてしまったら……!

急いで回復ポーションを飲み、ディアベルの近くに行く。

 

「もう、一か八か、奥義技を使う」

 

その言葉にディアベルが驚いた。

自分も奥義技を使ったことがあるのだろう。

奥義技が隙が多いのが、わかってるのだろう。

なら、いいーーーーーー。

 

「ーーーーーー行くぞッ!」

 

ボスのリーチが極端に長くなっている。

だが、接近すれば、攻撃はしにくくなるんじゃないのか?

 

ーーーーーー違った。何も、こいつは一番前にある2本の脚でしか攻撃しないわけではなかった。

他の脚が、俺を襲ってきた。

『百足』だもんな。くそっ……。

もうダメか……!?

 

「エイトマン君! 走れえええっ!!」

 

ディアベルが、ボスの大顎を片手剣で……いや、あれは両手剣!?

両手剣スキル《イラプション》

剣を振り下ろした後すぐさま振り上げる、二連続の重攻撃技。

その、振り上げ攻撃でボスの身体を浮かしたのか!?

いつのまに両手剣スキルをーーーーーーいや、違う。そんなことはどうでもいい!

 

こいつを、仕留めるタイミング、だっ!

 

「はぁぁっ!!」

 

納刀した刀の柄を握る。

そのまま、右斜め上に振り抜く。

ムカデの胴体に大きな傷がつく。

 

《稲妻》による攻撃でその傷を切り開く。

 

「シャアアアァァッッ!!」

 

ボスの叫び声が響き渡り、動きが止まる。

ーーーーーーここだ!

 

《稲妻》を使ったため、納刀された刀。

再び、その刀は抜かれた。

ムカデの、その傷を広げるかの如く、《抜刀術》の奥義技を使う。

 

「ぁぁあああッッ!!」

 

奥義技《龍返し》

一撃ーーーーーー振り抜いた刀によって、ボスの傷が広がり、穴が開く。

二撃ーーーーーー振り下ろした刀によって、ボスの胴体が千切れかける。

三撃ーーーーーー横薙ぎに振るった刀によって、前方に衝撃波が発生し、前方にあった玉座が崩れる。

そして、遠くの玉座を破壊するほどの衝撃波を発生させた、刀。

それに、直に触れていたムカデの胴体がーーーーーー爆ぜた。

 

完全に2つに千切れたムカデ。

 

「ぜーっ、ぜーっ……流石に、終わった、だろ……」

 

HPは減っていないが、肉体的に疲れた気がする。

その場にどさりと、座り込む。

何か足りない気がする。

ボーッとした頭でその何かを考える。

なんだっけ……。

そうだ、ボスを倒したなら、あれが出るだろ……。

おかしいな、出てないな?

 

「まさか…………」

 

だんだん、意識が覚醒してくる。

《Congratulations》の文字が浮かばないってことは、倒してない?

最低でも、クエストクリアのメッセージは届くはずだろ。

それすら出てないってことは……。

 

なんとか力を入れて、起き上がる。

目の前には、ムカデの大顎が映っていた。

 

しまっーーーーーー!

 

ドゴオオォォン!!!

 

ギュッと目をつぶり、死を覚悟した。

とてつもない音が聞こえ、俺の死が迫ってきたのがわかる。

 

ーーーーーー……まだ、身体の動く感覚がある。

もしかして実はもう死んでるのか……?

 

ゆっくり目を開けると、ムカデが力無く朽ちるのが目に入った。

 

その残骸の上に立っているのはディアベル。

 

「最後まで油断は禁物だよ、エイトマン君」

 

今まさにポリゴンの欠片となって消えそうなムカデに、両手剣を刺して笑っていた。

 

「はは……すまん」

「借りは、これで返したことになるかな?」

 

一層のことを言っているのだろうか?

もうその時以上に、俺たちはお前に助けられてるよ、全く……。

 

ディアベルの後ろに《Congratulations》の文字が浮かび上がる。

クエストクリア、だ。




ディアベルに両手剣使わせました。
1人だけ盾と剣のごく普通の片手剣というのもなんだか……と思いまして。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。