視界が目まぐるしく変わる。
ものすごいスピードで走っているのがわかる。
マップをその都度確認しながら走る。
目的地は、すぐそこだ。
ーーーーーー見えた!
白い服装に身を包んだキリトと……死神面のあの男!
キリトに剣を突き刺している。
どんどん減っていくキリトのHPバー……だが、間に合った。
「死ねぇっ!」
男が剣を深く突き刺そうとする。
「おい!」
久しぶりに出した大声。自分でも驚くほど低い声が出た。
だが、好都合だ。
その声で驚き、一瞬固まる男。
俺と目が合うと、死んだような目が大きく開かれる。
俺が刀を抜刀すると同時に、男の手首が落ちた。
「は……あああ!!? 俺の、俺の手がぁっ!?」
思い切り蹴り飛ばす。
男は手が無くなったショックと突然現れた俺によってわけがわからなくなっている。
「エイト、マン……」
「黙って早く飲め」
麻痺回復ポーションと回復ポーションを飲ませる。
あともう少しでHPが赤になっていた、キリトの黄色ゲージはポーションを飲むと緑色になり、満タンになった。
「平気か?」
「ああ……だけど、ゴドフリーが……」
ゴドフリー、そうか……死んだのか。
あいつに、殺されたのか。
刀を抜刀する。
キリトはもう大丈夫だろう。
後ろを向くと、死神男と目が合った。
手はもう再生してるみたいだ。
「お前のせいで……お前のせいで、私の計画はめちゃくちゃだぁぁっ!!」
無茶苦茶に剣を振り回してくる。
だが、その剣には確かな殺意が込められていた。
全て避ける。攻撃をいつしようか考えていたら、男が叫んだ。
「所詮、お前なんか! ユニークスキルがなかったらゴミなんだよぉ!」
なんだよその言い方、俺が抜刀術しか使えない猿とでも思ってるのか。
「違うな」
「はぁ!?」
キリトが声を上げる。
過剰に反応するこの男は、目の前にいる俺を無視してキリトの方を向く。馬鹿じゃねぇの。
「抜刀術は確かにエイトマンの強いところの一つだ。だけど……それだけが強みじゃない。……だろ? エイトマン」
「何言って……ーーーーーーあいつはどこ行ったぁ!?」
攻略組でも屈指の強さを誇るキリトにそう言われると、俺も恥ずかしい戦いは見せられないな。
隠蔽スキルと敏俊極振りでの高速移動。
これの組み合わせで相手の前から姿を消す。
戦ってる相手にとっては瞬間移動してるようにも見えるらしい。
「後ろ……!? がっ……」
ソードスキルを使わずに滅多斬りにする。
防具服で流石に斬り落とせないことはわかっていたが、もうかなりのダメージ、流石にもう諦めてくれるだろ。
刀を振りかざす。こんな屑、……殺してやる。
「わ、悪かった……俺が悪かった! もうお前らの前には現れねぇ! だから、殺すのだけは……!!」
"殺す"
その言葉で、一瞬俺の動きが止まった。
ラフィンコフィン討伐作戦のことを思い出す。
ダメだ、殺しては。
「……二度と顔を見せんな」
刀を納刀して、キリトを連れ帰るために転移結晶を準備する。
「バァーカ! 死ねーーーーーー」
俺の首元目がけて迫ってくる両手剣。
納めていた刀に手を伸ばす。
それと同時に、剣を掴んでる両手首は斬り落とされた。
「あああ……ああっ!?」
「まだ、懲りねぇのか」
何度も、何度も、殺そうとしやがって。
ゴドフリーが死んだ。
キリトも死んでいたかもしれない。
俺もだ。
なのにお前はなんだ、自分は生きてるのが当たり前とでも思ってるのか?
近くに落ちていたこの男の両手剣を拾い上げる。
両手剣スキルは上げてないが……こいつを殺すには十分だ。
「や、やめて……死にたくねぇ!」
両手剣を振りかざす。
剣の影が、やつの顔を真っ二つにしている。
そのまま、振り下ろーーーーーー。
「ダメぇっ!」
ピタッ。
剣は、男の目と鼻の先で止まった。
ぜーっ、ぜーっ、と息を荒げる女の声。
アスナの声で、俺は止まった。
「エイト君、落ち着いて。はい深呼吸…………どう、落ち着いた?」
「……すー……はー……あぁ……」
深呼吸をして、頭に新鮮な酸素が送られたおかげか、ずいぶん落ち着いた。
落ち着いた俺を見ると、アスナは男に向き直す。
細剣を抜き、先を男に突きつける。
「副団長アスナから命じます。今日限り、クラディールを血盟騎士団より除団、解雇。二度と私達の前に姿を現すことを禁じます」
「あ……」
つまりは、監獄エリア行きってことだ。
「もしこれを破り、私達の前に現れた場合は……言わなくてもいいでしょう?」
「は、は……い……」
アスナの覇気に押されて、男の勢いがなくなる。
もうその辺にある枯葉みたいな感じだ。
しかし、そんな状態でもアスナは許さないのか。いや、寧ろ怒っている?
「…………理解はした、それなのにすぐに私たちの前から消えないというのは、私達三人に対しての宣戦布告と取っていいんですね?」
「そ、そんな、滅相もない!」
「なら、さっさと消えて」
冷たく言い放つアスナ。
転移結晶を取り出す男。
自ら、監獄エリアを指定して飛んだ。
男の顔には、もう殺意も敵意もなかった。
それを影に、俺は一人震えていた。
また、人を殺そうとしてしまった。
俺の頭の中は、突然湧き上がったへの不安感でいっぱいだった。