やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

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独白

目が覚めた。

眩しい日差しが目の中に入り、頭も覚める。

 

まだ微かにボーッとした頭で無意識に索敵を広げる。

近くにモンスターはいない。

よく覚えてはいないが、昨日と同じエリアにいる、と思う。

なのに、なぜ俺は死んでない?

一晩、モンスターがポップするエリアで何もせず動かなかったのに……。

 

ふと、隣を見る。

 

うつらうつらしている、アスナがいた。今にも眠りにつきそうなアスナ。瞼が今にも落ちそうだ。

その顔が目に入ると、昨日の出来事を全て思い出した。

 

人殺しの感覚、周囲の視線、ジョニーの言葉。

ーーーーーーそうだ、俺は、人を殺してしまったんだ。

 

だがそんな感覚も、一晩過ぎると一旦は落ち着くらしい。

とりあえずは、アスナを起こして話を聞く。

それが最善の行動……だと思う。

自分のやってることが、正しいのか、悪いのか、わからなくなってくる感覚に襲われているな。

 

「アスナ、起きろ」

「うぅ……守らなきゃ…………ってエイト君か…………エイト君!?」

 

寝ぼけた顔をしていたが、俺の存在が目に入るとガバッとはね起きる。

 

「その、なんだ。…々勝手に抜け出した身であれなんだが、何があったんだ?」

 

恐る恐る、俺は聞いてみる。

 

「…………あの後、エイト君のことをフレンド欄からサーチして、見つけたの。そこにキリト君と一緒に行ってみたら……」

 

そこで一度言葉を区切るアスナ。

 

「モンスターに囲まれているエイト君を発見したの」

 

その一言で、俺は血の気が引くのがわかった。

首筋に冷や汗の感触が現れる。

脳裏には、モンスターに囲まれ、その中で俺は身動きしない俺の姿が想像された。

俺は、死ぬ寸前だったのだ。

 

「エイト君は眠っているのか、倒れているのかわからなかった。その場ではキリト君と一緒に無我夢中でモンスターを倒して…………エイト君を助けたの」

「…………そうか」

「エイト君のこと、私がなんとかしなきゃ! って思ってて。キリト君も残ってエイト君と話すって言ってたけど、これは私の役目なの。だからキリト君には無理言って帰ってもらった」

 

それからアスナは、モンスターがポップしなくなるお香を炊いたり、俺が起きるまで襲われないように見張っていたらしい。

何というか、本当に頭が下がる。

 

「…………悪かった。取り乱して」

「ううん、あれは仕方ないよ」

 

"仕方ない"

あの男の命はその一言で片付けていいものなのか。

あいつも悪いことをしてきただろう、オレンジカーソルだったから、人も殺していたかもしれない。

だけど、それを裁く権利が俺にあったのかと聞かれれば、答えはNOだ。

 

「エイト君、一人で考え込まないで」

「こんなことまでしてもらって、悪いが、すまん、一人にさせてくれ、頼む」

「ダメ、絶対に許さないんだから」

「そうか……」

 

死ぬところを助けてもらったんだ、強要はできまい。

俺が諦めるのを確認してから、アスナは俺の横へ体育座りをした。

そのまま、何分か経過する。

俺が気まづくてもじもじしていると、アスナがポツリと呟いた。

 

「私、最初この世界に閉じ込められた時は、もう終わりだと思ってたの」

 

…………。

 

「でも、違った。キリト君と迷宮で出会って、少し考えが変わったの。

あの時の私は死に急いでいたって、今は思う。

でも、死んじゃったら、何も残らない。それに気づいた」

 

目に涙が溜まっているアスナ。

俺のことを、逸らさず真っ直ぐ見てくる。

 

「生きてる、生きてるんだよ、私」

 

アスナは、俺の手を自分の胸に乗せる。

アスナの心臓の音が、振動が俺の手を介して伝わってくる。

 

「エイト君のやったことは、確かに許されることじゃない。……けど、それ以上に、誰かに感謝されることでもあるんだよ」

 

そう言って、アスナは俺を抱きしめる。

柔らかな感覚が俺を包む。

その感覚に囚われると、今までの苦労、努力、全てが吐き出されるかのように、口から漏れた。

 

「俺、リアルじゃ、ぼっちだった。

今ではそうでもないが、数年前くらいの時は、友達がほとんどいなかった。求められていない存在だったんだ」

 

アスナが、唐突に話し始めた俺に驚くが、

すぐに聞く体勢に入ってくれる。

 

「このデスゲームが始まって、絶望してた時に、綺麗な景色を見たんだ。

それを見た時に感じたのが、ここでも俺は生きている、っていう感覚。

この世界は仮想世界だ、偽物だ。…………でも、本物だっていうのがわかったんだ」

「…………うん」

「それから俺は、この世界から抜け出すために必死にやってきた、死にそうになったこともあった。

もう無理だ、って諦めかけた時もあった。

でも、その度にあの時のことを思い出すんだ。

俺は、生きている、それがわかるだけで、俺は続けられた」

 

アスナが、抱きしめる力を強める。

気づいたら、俺は涙が出ていた。

 

「俺は生きてるんだ、認められるんだ。この世界で。

キリトやアスナと出会って、やっと出来た物を失いたくなかった。

もう、離れられるのは嫌だ、一人になるのは、嫌だ。

そんなのは、もう嫌だった。だから、俺は……」

 

一度話すと、もう止まらない。

一度、ひっくり返した水は、もう戻らない。

俺は心の中のものを全てを吐き出した。

 

そんな俺をアスナは、話が終わるまで、泣き疲れるまで、傍にいてくれた。

 

ーーーー

 

「スッキリ、した?」

「…………ぉう……」

「返事はしっかり、男の子でしょ」

「おう」

 

…………………。

 

ああああ恥ずかしいいいい!!

女の胸元で泣きながら溜めていた全て言ってしまったああああ!!

もうダメだ、これをネタにこれからアスナに揺すられるんだ……俺はもう終わりだ、破滅だ。首でも吊るか、縄を用意してくれ。

 

「また馬鹿げたこと考えるでしょ」

「全然考えてないです」

「いいもん、エイト君のレアシーン見れたしもういいもん」

「レアシーンって……俺が泣いたこと、誰にも言うなよ」

「言わないわよ」

 

本当だろうな……いや、ここまでしてもらって、これ以上何かを求める気はない。

もう十分、与えてもらった。

晒されることくらいは仕方ないさ……はは。

乾いた笑いを心で浮かばる俺にアスナが質問を投げかけてきた。

 

「もういい時間だし、解散にする?」

「そうだな、そうす」

「はいブブー。レディーを一人で帰らせる気?」

 

おい、最後まで言わせろよ。

だがよく考えると、俺を助けてくれたやつに向かって今の態度は悪かったかもしれない。いや、確実に悪かったな。

 

「あー……悪い、気が回らなかったな」

 

素直にそう言うと、アスナは一瞬驚いた顔をした。

だが、すぐにいつもの笑顔へと戻る。

 

俺はアスナの家へと帰るため、歩き出す。

アスナは俺の前を小走りで進む。

僅かに離れてしまった距離。

 

ふと、アスナが立ち止まる。

 

「エイト君が泣いたところ、誰にも言わない理由わかる?」

「あぁ……? わかんねぇな、俺のことをこれで脅す気?」

「違うわよ。…………エイト君の泣き顔、私しか知らないって優越感じゃない?」

「さいですか、とんだ極悪女ですね」

 

適当にあしらう、余り深く追求したら恥ずかしいしな。

アスナはそんな俺を見て、納得いかないのか俺の隣に来る。

俺の耳元に手を添え、囁いた。

 

「私だけが知っている、私だけのエイト君」

 

流石にこれには俺もドキリと来る。

危ない、あと数センチ超えてたら惚れてたぞ。俺の鋼の心を震わすとかなんて女だ、小悪魔だ。

だけど、振り返りながら笑うその姿は、小悪魔でもあり、天使でもあった。

女の子は砂糖とスパイスと、素敵な何かで出来ている。

素敵な何か、それがわかったかもしれない。

 

 




八幡の心情、上手くかけたでしょうか?
女の子は、砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ている、原作で出てきた偉人の名言の中でも一番好きな言葉なので使えてよかったです。
素敵な何かがわかった八幡は一皮向けるのでしょうか。
そろそろアインクラッド編も終わりです。
タイトルの「独白」の意味は相手なしに語ることです。今回の八幡にはアスナがいましたが、実際の心情では心で溜まっていたものを何も無いところに吐き出したような心情なはずなのでこのタイトルにしました。

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