やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

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殺人

赤目のザザ。

この作戦に入る前に貰ったラフィンコフィンメンバーの資料に詳しく書いてあった。

途切れ途切れに話す癖があり、エストックの達人。

ラフィンコフィントップ3に入っている、実力者だ。

 

「どうした、攻撃、しない、のか」

 

エストックによって繰り出される刺突を避ける。

抜刀ができ、なおかつ最大ダメージが与えられる間合いにさせてくれない辺り、やはり本物の実力者だ。

 

刀を抜くタイミングは実は隙が結構大きい、こいつ相手にそんな隙は与えられない。

最悪の場合、死ぬかもしれないんだからな。

 

どうにかして縄で取り押さえられたらいいんだが……。

 

「くっ……!」

 

エストックの先が、頬を掠らせた。

HPが僅かに減る。

こいつは、本気で俺を殺しに来ている。

 

「所詮、『影』も、こんな、ものか」

「ばーっか、殺す気なのと捕まえる気なのじゃお前ら有利に決まってんだろ。ハンデあげてその程度か」

「御託は、いい」

 

多少煽ってみたものの、攻撃のリズムは一貫として俺に刀を抜かせないことに尽きている。

だか、それは裏を返せば「刀を抜かせてはならない」ということだろう。

刀さえ隙を突いて抜ければ……勝機はある。

 

「諦めろ、刀、なし、じゃ、俺には、勝てない」

「まあな、確かに刀がなきゃ勝てねぇ。…………だが」

 

勝つまでの、過程は作れる。

昔、習得した《体術スキル》。

今まで一回も使ってなかったが……習得していてよかった。

 

スキルを発動。

右手が輝くのを見て、ザザが驚いた声を出す。

 

「貴様、その、右手……まさか」

「悪かったな」

 

呟いたその声を置き去りにして、敏捷トップの力で腹を殴る。

HPがガクリと減り、後ろへ吹っ飛ぶザザ。

 

「体術スキル、情報にはなかったろ? 初めて使ったからな」

 

ムクりと起き上がるザザ。

顔は隠されているが、明らかに「やばい」と言った表情が映っているんだろう。

起きると同時に、エストックを構え飛びかかってくる。

 

だが。

この距離。

この間合い。

そして何より…………刀に手をかける時間が出来た。

 

「終わりだ」

 

抜刀術《居合》

抜き放った刀は、ザザの右足を捉える。

右足を斬り落とした時には、もう刀は納刀し終わっている。

足が地面に落ち、ポリゴンの欠片となって消える。

 

足を失い、前のめりに倒れ込むザザを上から覗く。

ザザは片足じゃもう勝てないと踏んだのか、諦めているようだ。

なんとか仰向けになるザザ、赤い目がこちらを睨んでいた。

 

「お前、だけは、必ず、殺す」

「そうかよ、俺はお断りだな」

 

牢獄エリアへとザザを飛ばす。

飛ばされる瞬間まで、ザザは俺から目を離さなかった。

 

ーーーー

 

「こっちも終わったぞ、エイトマン」

 

キリトもジョニーを捕まえていたみたいだ。縄で縛られているジョニー。

そんな格好でもジョニーは変わらず飄々とした態度でケラケラ笑っている。

 

何度も人殺しを続けて来たこいつが、それを止めようと奮起している俺たちを笑うのだ。

 

一瞬、頭がカッとなったが、すぐに頭を振りその考えを飛ばす。

冷静になった頭で周りを見ると、ラフィンコフィンのメンバーはもうほとんど捕まえたようだ。

 

数の力、ってやつか。

見たところ、目立った損失はない。

 

「ザザも捕まえている。牢獄で仲良くしてるんだな」

 

キリトがジョニーに伝えるが、相変わらずジョニーの態度は変わらない。

 

「アッハハ、俺を捕まえたところでPKはなくならないよーっだ。ボスを捕まえない限りは、ね」

「……うるせぇ……!」

 

怒気を込めたセリフで、キリトが転移結晶を準備する。

 

「キリト君、落ち着いて」

「アスナ……」

 

アスナがやって来て、キリトの怒りを鎮める。

まあ、何はともあれ、作戦は成功だ……ーーーーーーっ!?

 

俺の索敵に何かが引っかかった。

アスナの背後に迫ってくる。

アスナは気づいていない。

キリトも気づいていないのか。

 

「ただで、捕まってたまるかよぉっ!」

 

残ってたラフィンコフィンのメンバーか!

隠蔽スキルがかなり高い、キリトも発見できてない!

アスナを後ろから襲いかかる、首元目掛けて、ナイフを振りかざす。

ここで気づいたのか、キリトの目が見開く。

しかし、キリトは間に合わない。

 

思考が鮮明になる。

どうする、間に合うか? 抜刀術で、どこを斬ればいい。

どこを斬れば助けられる。

手か? 腕か? 足? 無理だ、そんな正確に、狙っている暇はない。

こんなこと考えている間にも、視界の先ではナイフがゆっくりとーーーーーー。

アスナの首が飛ぶ、それだけは、阻止しなければ。

何としてでも……ーーーーーー殺してでも。

 

気づいた時には、俺の刀は、奴の首を跳ねていた。

 

周りが静寂に包まれる。

ゴトリ、と頭が落ちる音が響く。

キリトもアスナも何が起きたのか、理解が出来ていないのか、固まっている。

いや、違う。俺自身もよくわかっていない。

 

何があった?

 

「エイト……マン?」

 

なんだ、その目は。

俺は、この世界から出るためにはアスナの力が必要と考えた。

そのアスナを失うわけにはいかなかった。

そして、奴を止めるにはこれしかなかった。

時間と、技量が足りなかったからだ。

俺は最善の行動をしたはずだ。

 

なのに、なんだ、その目は。

 

何かが足に当たる。

目を向けると、先程、アスナを襲っていた奴の頭だ。

俺と目があったかと思うと、ポリゴンの欠片となって散らばった。

そのエフェクト音が空気を伝わり、耳に入り、頭で理解した。

 

そこで、ようやく俺は、自分が何をしたのかがわかった。

 

「ぁぁ……ぁあああ!!」

 

悲鳴が聞こえる。

誰のだ? ーーーーーー俺?

固く閉ざしていた口の隙間から悲鳴が飛び出ている。

 

ジョニーが俺をニヤニヤしながら見ている。

その口が動いていた。

何て言っているかはわからない。

だが、自然と、何を言っているのかはわかった。

 

『お前も人殺しだ』

 

その言葉は俺の胸に深く突き刺さった。

 

頭の中が真っ白になり、俺は倒れかける。

何とか踏みとどまり、転移結晶を取り出す。

どこか、どこでもいい、1人になれる、適当な場所を指定した。

キリトやアスナが何か言ってたような気がするが、上手く聞こえない。

 

皆の視線が俺に注がれる中、俺は転移した。

 

ーーーー

 

「小町ぃ……戸塚ぁ…………雪ノ下、由比ヶ浜……俺、人殺しだ……」

 

何処ともわからぬエリアで、しゃがみ込み、呟く。

開いた口から飛び出るのは自己嫌悪の言葉と謝罪だ。

 

「仕方ねぇだろ、あの場面じゃ、捕まえるなんてことは無理だった。仕方ねぇだろ……」

 

なのに、周りのあの目はなんだ。

どこかで見たことある目だ。

…………あぁ、思い出した。

高校生になってから、いや、奉仕部に入ってからか。

短い間だったが、その短い時間で俺は忘れていた。

あの目は……ーーーーーー。

 

「は、はは…………もう、疲れた」

 

ここは圏外。

モンスターがポップするエリアだ。

このまま、目をつぶり、意識を何処かへと飛ばせば、楽になれるのだろうか。

 

人殺しの重圧、久しぶりに受けた周囲の嫌悪の視線。

ダブルパンチで、俺の精神は最早限界だった。

 

ゆっくりと瞼を閉じる。

 

ーーーーーーごめんな。

 

誰に対しての謝罪かもわからなかった。

 

 

 




……シリアス?に入るんですかね?

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