やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

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エイトマンvsカーレン

笑顔を顔に張り付かせているカーレン。

気持ち悪い笑顔だ。作り笑いとは違う、不気味な顔。

最初に話しかけられた時もこんな顔だったような気がする。

朧気な記憶を遡っていく間に、カーレンは俺に向かってお喋りをはじてた。

 

「やぁエイトマン君。元気だったかい? 相変わらず感情を見せてくれないね、何か不満でもあったかい?」

 

「……ああ! スパイがいることには気づけたが、なぜ防げなかったのか……ってことかい? 答え合わせ、してあげようか?」

 

「それはねぇ、僕がスパイ対策に行ったことを全て裏から排除、削除を繰り返してたからだよ」

 

「僕のこと、怪しいと思ってたでしょう? でも防げなかった、その程度なんだよねぇ、攻略組ってのは」

 

聞いてもいないことを、自慢気に話される。

ペラペラと、よく喋るやつだ。

 

俺はゆっくりとカーレンに歩み寄る。

カーレンは俺の歩みに合わせて少し下がる。

が、この距離なら十分だ。

 

「なんだい? もしかして僕を殺すのかい? 僕はグリーンカーソルだ、そんなことをしたら君もオレンジプレイヤーにーーーーーー」

「黙れ」

 

目に止まらぬ速さで抜刀、カーレンの首元に当てる。

カーレンの額から冷や汗が垂れるのが見える。

 

「はは……」

 

苦笑いを浮かべるカーレン、無駄な抵抗はしていない。

何故だ、もう死ぬってわかったからか?

ーーーーーーそうじゃない、こいつの本性は最低最悪、人を騙すことに長けてる。

 

索敵に集中すると後ろから2人のプレイヤーが襲いかかってくるのがわかった。

その程度の隠蔽スキルで、気づかれないとでも思っていたか。

 

「ぎゃっ!」

「うああっ!」

 

振り向きざまに刀で腕を切り落とす。

そのまま縄で拘束し、床に転がす。

 

「な、なんで……!?」

「あんまり、俺を舐めるな」

 

カーレンも覚悟を決めたのか、動く素振りを見せる。

いいだろう、お前の全力を俺の全力で叩き潰してやる。

これは闘争心だとか、復讐心だとか、そんなもんじゃない。

 

こいつは、このままリアルに帰せない。

 

「《煙幕》!」

 

カーレンの服の裾から煙がもくもくと出てくる。

その煙に紛れて俺から離れる。

暗視スキルを咄嗟に使ったが意味が無いみたいだ。

俺も後ろに下がり煙から逃れる。

 

「エイトマン、なんだこの煙は!?」

「カーレンの野郎だ」

「カーレン……! くそ、あいつーーーーーー」

「いい。俺が、やる」

 

元々、カーレンのことを探るのは俺の役目だった。

だが失敗した。……なら、尻拭いは俺がやるしかない。

 

「来いよ、ゲス野郎」

 

煙が晴れた瞬間、カーレンが飛び込んで来たのが目に映った。

……弱すぎるな。

 

ーーーー

 

 

カーレンside

 

 

待ってくれ。なんだこれは。

知らない、情報にないぞ。

ボスの時も、PvPの時も、こんな戦い方はしていなかった。

知らない、知らない!

 

「何なんだよお前ぇ!」

 

後ろに気配を感じる。

すかさず後ろを振り向く。

振り向いた速度で剣を振る。

ブン、と風を切る音しかしない。

 

「聞いてない、知らない、おかしい!」

「PvPの大会の時、俺のことをよく知ってるやつと俺を戦わせたのがお前の間違いだ」

 

気づくと前に、横に、後ろに、あっちこっち。

目で追えない、索敵に引っかからない、足音もしない。

唯一追えるのは、気配のみ。

 

「俺のことをよく知ってるやつだからあんな戦い方をするんだ。…………お前が俺を知ってるわけねぇだろ」

「うるさい!」

 

闇雲に剣を振るがろくに当たらない。かすりもしない。

 

「カーレン、残念だったな。エイトマンはそこらにいるオレンジプレイヤーよりも……狡猾で、ずる賢い戦い方だ」

 

攻略組の黒の剣士が言う。

攻略組トップに入るこの男、エイトマン。通称《抜刀術》《紫色の影》。

そいつが、今まさに僕を仕留めようと、刀に手をかけているーーーーーー。

 

「《居合》」

 

その言葉が耳に入る。

頭で理解する前に意識は、途切れた。

 

 

エイトマンside

 

 

「相変わらず、恐ろしいな……PvPの時にやられなくてよかったよ」

「…………カーレンは牢獄エリアに飛ばした。他のやつの援護に回るぞ」

「ああ」

 

……あいつは馬鹿だった。

なんでも自分は理解していると思っている馬鹿だ。

きっと、あいつの頭の中はこの世界での自分の強さ、栄光、そればかりだろう。

そんなもの、現実では無意味なのに。

ぞくり、と背筋が凍る感じがした。

この感覚は、前にも一度味わっている。

 

「来たか」

「待って、いたぞ」

 

フードから赤い目を覗かせる、この男。

《赤目のザザ》ーーーーーーあの時に、カーレンといたやつだ。

 

「流石、だな、カーレンも、なかなか、強いやつ、だが、貴様の、方が、強かった」

「そんな話はいい。俺はお前を牢獄エリアに飛ばせればそれでいい」

 

刀を構える。大丈夫だ、キリトもいる、負けたとしても死にはしない。

隣にいるキリトを確認しようと顔を動かす。

 

「ーーーーーーッ!?」

「おぉっ? 俺のこと察知したのか?」

「お前は……くっ、キリト!」

「わかって、るっ!」

 

突然の自体にもすぐさま反応するキリト。

襲いかかってきたやつを吹っ飛ばす。

が、キリトの服に何か引っ掛けたのだろうか、吹っ飛ばす奴と一緒にキリトも転がる。

 

「こりゃ攻略組最強と噂される黒の剣士様だ。ヘッド! 俺に任せてくださいよ〜……ってヘッドはいないんだった!」

 

子供っぽい外見に、ヘッドという呼び方。

こいつ……ジョニー・ブラックか。

 

「とりあえず剣士様をぶっ飛ばしちゃって? それからだ、抜刀術君はね」

「誰が通すかよ。さっさと牢獄に飛べ」

「や〜っだね! 通してくれないんだったら、殺してやるぜ」

 

ジョニーの方はキリトが何とかしてくれるようだ。

今は信じるしかない。

俺は眼前にいるこいつに集中だ。

 

「ザザ……!!」

「来い、『影』、俺が、お前を、倒す」

 

攻略組トップ2人とラフィンコフィントップ2人の戦いが始まった。


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