今俺は55層に来ている。
理由は、ヒースクリフに会うためだ。
昨日のPvP大会、あそこでザザと会ったこととカーレンの素性をわかる限り伝える。
記録結晶に撮ってないから信憑性はないが……まあそこは俺の信頼度ってことで。
……あれ? 俺って信頼されてるのん?
そんな不安に駆られながらも、到着だ。
何気に初めて来るのでちょっと不安、ここであってるの……?
違ったら恥ずかしいから帰ろうかな。
「止まれ! 何の用だ貴様!」
入口でムンムン唸ってたら門番らしき人に止められる。いや、入ろうとしてませんけど。
顔パスとかダメなのん?
とりあえず威厳があるように装っておこう。
「団長に用があって来た」
「そんな話は聞いていない、立ち去れ」
心が折れそうだ。もうポッキリ逝ったかもしれない。
そりゃ俺の独断で来たんだから聞いてるわけないよな……。
てか立ち去れとか……門番プレイって楽しいのかな。
さて、どうするか…………いや、名乗るしかないよな。
「エイトマンって言えば誰かわかるか?」
「知っている、だが素性もわからぬ者を入れるわけにはいかん」
素性もわからぬって……確かに交流関係は狭いけどさ!!
狭いだけど深いんだよ、ディープで深いんだよ。
こうなったら仕方ない……。
「ちょっと待ってろ」
門番に静止をかける。
メール画面を開き、ヒースクリフにメールを送る。
ほどなくすると、門番にメールが届いた。
そのメールを確認する門番。
「……団長から許可が降りた、入れ」
「おう」
全く、こんなことしてて将来大丈夫なのか?
俺みたいにしっかりした夢を持たないとダメだぞ(専業主夫)。
ヒースクリフの部屋は……まあ団長だし大きいところだ。大抵のボスは一番上にいる。
一番上の階に行くと大きな扉が目に入る。多分これだろ、違ったら帰る。
大きな扉をノックする。入れ、との声が聞こえたので扉を開ける。
中にはヒースクリフがいた。よし、正解だったようだな。
「何の用事かね? 血盟騎士団に入ってくれる決断でもついたのか?」
「冗談はやめてくれ。昨日の大会で得た情報を伝えに来た」
「ふむ、そうか」
「っと、その前に……大会優勝おめでとう」
「知っていたのか、途中で君は帰ったから知らないものだと思っていたよ」
「その日の晩に、このことで愚痴を吐きに来た黒い奴がいたからな。プレゼントとかは用意してないぞ」
「そうか、プレゼントは君が血盟騎士団に入団でもいいんだがね」
「もう一度言っておく、冗談はやめてくれ」
他愛もない話だ。
一息つくと、俺は話し始める。
俺はカーレンのこと、ラフコフのザザのことを伝えた。
少し考え込むヒースクリフ。
「…………そうだな、少し長引くかもしれないから座ってくれないか?」
「わかった」
近くにある椅子に座る、おお……フカフカ、やっぱり団長の部屋にあるものは高価なのね。
話したからか、喉がカラカラだ。
「コーヒーは飲めるか?」
「いやいい。自前のがある」
そう言って持ち物画面から《MAXコーヒー(エイトマン作)》を取り出す。
グッ、と飲む。
甘味が舌から体内へと伝わり脳を潤す。俺作だが割とよく出来てると思う。
「それは……」
「あ? MAXコーヒーだ。知らねぇのか?」
「いや、知っている。どこで手に入れたのかね?」
「俺が作った。このために料理スキルを上げたんだよ」
そう言い残りを飲む。
ふと視線を感じ、ヒースクリフの方を見る。
ヒースクリフは心なしか物欲しそうにこちらを見ていた。
その視線は俺の手元にーーーーーーMAXコーヒーに向かっている。
「……1本だけなら」
「本当か、ありがとうエイトマン君」
今までに見たことない笑顔ーーーーーーいや笑顔? まあ無表情ではないな。
ヒースクリフもMAXコーヒー好きなんだな……。
「やはり甘い物は脳を働かせる」
そう言えば前に言ってたな、甘い物がいいとかなんとかってな。
「後でもう少しあげるから話の続きを頼む」
「ん? そうだな……ラフィンコフィンのザザ……」
考える素振りに入るヒースクリフ。こいつでも考えることがあるんだな。
こいつも立派な、人間だ。
感情がないロボットみたいなやつだと昔思ってたこともあったな。
「ラフィンコフィン討伐」
「討伐? 殺すのか?」
「いや、捕獲の様なものだ」
転移結晶を見せてくるヒースクリフ。
なるほどな。
「捕獲作戦、か…………わかった。作戦が出来次第、伝えてくれ」
うむ、と頷くヒースクリフ。
もう話は以上だな。
帰ろうと、いや、まだ伝えることがあったな。
「そうだ、スパイが紛れ込んでいる可能性がある。その対策も頼む」
「ああ、わかった」
多分スパイに関してこれで平気だろう。
今度こそ帰るか。
背を向け、扉に手をかけるとヒースクリフから声がかかる。
「MAXコーヒー、とてもいい再現度だったよ」
「優勝祝いのプレゼントだ。今度も持って行ってやるよ」
そうか、と言うとヒースクリフはいつもの無表情が僅かに緩む。
やはりMAXコーヒー好きに嫌な奴はいないな。