あの後、俺は準備をしている奴に声をかけてカーレンの居場所を知り、再び会いに行った。
友人に参加しろと誘われたから参加する、という意思表示を伝えたところ、カーレンはとても喜んでいた。
どのくらい喜んでいたかと言うと、尻尾があれば扇風機くらいには回してただろう。
抱きつかれそうだった。
「テンションが高い、言い回しがイラつくだけで別に悪いやつには見えねぇな……」
先入観で悪いやつと見なしていても、カーレンにはそういうところが一切見受けられない。
逆に言えば完璧すぎる、葉山レベルじゃなかったら無理だろ。
「考えるのはやめだ、疲れた」
ドサっ、とベッドに身体を投げ出す。
そのまま重い瞼をゆっくりと閉じた。
ーーーー
「会場は圏内……まあ妥当だな」
大会前日、スケジュールやら開催場所などが書かれたチラシにはそう書かれていた。
PvPの最中にモンスターに襲われちゃ困るわな。
今回出場するプレイヤーは全部で8人、ヒースクリフ、ディアベル、キリト、アスナ、クライン、俺。
残りの2人は知らん。
「はぁ………」
観客は48層に設置されている液晶画面から中継されてるのを見れる。
あまり上の層にし過ぎると調子に乗って戦いに行くやつとかいるかもしれないからな、よく考えてる。
だけど俺の家のある層じゃねぇか……そこも考えて……いや知らないか。
今回の出場者、知り合いが多いからな。
これを機に白黒つけたいもんだ。
まあ、やるからには勝つ気で……。
「って、目的を忘れるな」
バチン、と両の手で頬を叩く。
ヒリヒリした痛みが伝わり、頭が冴えてきたような気がする。
そうだ、俺の目的はあくまでカーレンの裏を知ることだ。勝つことじゃない。
…………まあわざと負けるつもりもないがな。
ーーーー
ー大会当日ー
「なんて盛り上がりだ……」
家を出たばかりでもわかる盛り上がり。
街の中央にある液晶画面に人が集まっている。そんなに気になるのかよ。
人数が多すぎるので、急遽47層にも設置されたらしいが……まあ人は変わらず多い。
「トッププレイヤーの戦いぶりを見たいってやつもいるから、仕方ねぇか」
俺も一応トッププレイヤーだが……まあ俺の戦い方を参考にするやつは今頃最前線に出てる。
見様見真似で出来るものじゃないしな。
さっさと大会場所へと移動しようとするが、やはり人が多い、なかなか前へ進めない。48層ってこんなに人多かったのかよ……。
なんとか転移をして大会場所へと到着。
他のメンバーはもう揃っていたが集合時間1分前だが間に合っているから平気だろう。
「エイトマン、ギリギリだぞ」
「間に合ったんだからいいだろ。少しでも仕事の時間を減らしたいんだ」
「エイトマンらしいな……」
苦笑するキリト。
こいつ、俺と会う度に苦笑してないか?
苦笑いを顔に貼り付けてるんじゃないの?
「エイトマンも誘われたのか、俺様もカーレン直々に誘われたぜ」
ビシッと決めるクライン。
まあ確かにクラインも強いがこの面子を見るとやっぱり霞むな……。
「そういえばエイトマン、例の件、どうなんだ?」
小声で聞いてくるキリト。
例の件? 何のことでしょうか?
全然知らないんだが、もし忘れてるのならば俺の記憶力の低下はかなり著しいことになるんだが。
「潜入のことだよ」
痺れを切らしたキリトが言う。
あーはいはい、潜入ね、最初からそう言ってくれよ。
「大丈夫だ。死にはしないだろ」
「物騒なこと言うなよ」
カーレンが近くにいてこんな話をしていいのか? と思ったがカーレンはもっと遠くにいた。誰かと話している。
話が終わったのか、振り向くカーレン。
丁度俺と目が会う。
ニッコリ笑ったかと思うと、こちらに近づく。
パンパン、と手を叩いた。
「時間だね、参加者8名全員揃っているようだ」
そう言い、マイクを握る。あれで液晶画面を見ている人に向けて話すんだろう。
「レディース&ジェントルメン! 本日は大会を見にいらっしゃって誠にありがとうございます!」
まあ無難な語りから始まる。
注意事項やらマナー、それに大会ルールを参加者と観戦者に伝えている。
色々言ってたが、ルールは簡単だ。
リングに上がり《初撃決着モード》でPvPを開始する。
リングの形状は、……天下一武○会とかセ○ゲームに似ている。
「長話もこのあたりで辞めとしまして、早速大会の方へ移らせていただきます。最初の対戦はーーーーーー」
デケデケデケデケーーーーーーデデン! とどこかで聞いたことある音楽が流れる。
こちらからも見える液晶画面にキリトとアスナが映る。
「《二刀流》キリトVS《閃光》アスナーーーだあっ!」
「いきなりアスナとか……お手柔らかに頼むよ」
「キリト君と戦うのね、この際どっちが上かハッキリしましょうよ」
ニッコリ笑うアスナは何とも言えない威圧感を放っていた。
キリトは苦い顔を浮かべながら再度「お手柔らかに……」と呟いていた。
キリトがこちらに目配せをしてくる。なんだ? 愛でも誓ったのか?
なんて冗談はいい。
ここからは俺の仕事だ。