絶望を告げられたあの日からもう一ヶ月。
SAOは最悪の展開へと進んでいっている。
死者は増える一方、それにまだ一層すらクリアしていない。
死者の半分はβテスターらしい。
ため息をつき、迷宮近くの石に座る。
そういえば、キリトはβテスターだったな。
一応会話した相手だから、死んでいたら目覚めが悪い。生きていてほしい。
「死ぬ、か」
俺も一度死にかけた。
あの絶望を伝えられたその日のうちに、俺は無理なレベルのモンスターがポップするところでがむしゃらに戦った。
気が狂っていたのだろう、夜まで戦っていて、死にかけた。
なんとかポーションを飲み、頭を冷ませた時に見た光景が今の俺を支えている。
ここはゲームだ。だが遊びではない、現実だ。
とてもゲームとは思えない、美しい風景を見た。
綺麗な湖で、蛍のようなものも飛んでいた。
これはゲームだ、だがゲームだと割り切るには惜しい風景だ。
そう思うほど魅力的で綺麗だった。
「んーっ……はぁ」
一つ伸びをする。
と、その時、気配がした。
俺は索敵スキル、隠蔽スキル、観察眼スキルをガン上げしている。
ぼっちプレ……ソロプレイを極める俺に前二つのスキルは必須だ。
観察眼スキルはクリティカルを出しやすくするので取得した、おかげで攻撃面は問題ない。
三つに絞って上げているのでかなりレベルは高い、そんな俺の索敵レーダーに何かが映りこんだようだ。
俺は物陰に隠れ、隠蔽スキルを使う。さて、誰が来るか……。
「隠れてないで出てこいよ。別に怪しいもんじゃない」
この声は……。
「キリトか……って、え?」
「なんだ、エイトマンか。隠蔽スキルを使って何してる……って、エイトマンか?」
全然顔が違う……すっげぇ童顔……。
「え、エイトマン……でいいよな?」
「そうだ、正真正銘、敏捷に極振りのエイトマンだ」
「そ、そうか……目が随分と個性的なんだな」
隠しきれてないぞキリト……。
「お前もそんな童顔だったとはな」
「言うなよ、気にしてるんだから。それで、隠蔽スキル使ってまで何してるんだ?」
あっさり見破られてる……なんか悲しいな。
「PKとか怖いだろ」
「しないよ、ていうか反応早かったな。索敵もあげてるのか?」
「ああ」
「道理ですぐに俺のレーダーから消えたわけだ。俺より索敵上げてるだろ」
人と比べたことないからわからんが……まあキリトが高いと言うなら高いのだろう。
それで、本題はここからだ。
「キリトは何しに来たんだ?」
「いや、ディアベル達がボス部屋を見つけたっていう情報があっただろ? だから確認しておこうかと」
ナニソレ、ボス部屋? 俺知らないぞ?
「……あー、エイトマンは知らないかもな。街の方でチラシ配ってたから」
そう言ってキリトはチラシを渡してくる。
見てみると、メンバー募集、ボスを倒してゲームクリアしよう! 的なイケイケな文が書いてあった?
「街の方にはあまり顔出さないからな……」
「そうだ、エイトマンもボス戦に来いよ、索敵、隠蔽スキルなかなか高かったし戦力になるはずだ」
「俺がかぁ?」
こんなやる気が微塵も無さそうな死んだ魚の目の男普通誘うか? 自分で言っててちょっと悲しくなってきた。
「明日の10時にチラシに書いてるところに来いよ、じゃあ俺はボス部屋見てくる」
そう言い残しキリトは迷宮に入っていった。
……誘われたし行ってみようかな。
ーーーー
「えっと、初めまして。俺はディアベル。職業は気分的にナイトやっています」
ボス会議の集合場所で、初めにリーダーらしきやつが自己紹介をした。
SAOには職業システムがないので彼なりのギャグなのだろう、そこそこ笑いも取れてる。
あいつリア充じゃないよな……。
俺がムンムンとリア充滅せよ! オーラを出していたらキリトに話しかけられた。なんだよリア充滅せよオーラって、リアルに充実してるなら俺もしてるわ。いやしてなかったか。
「どうしたエイトマン」
「いや……あいつ人気者っぽいなって」
「エイトマンも人気者になりたいのか……まずは目を治した方がいいぞ」
「煽ってんのか」
キリトと話していたらディアベルがあの言葉を発していた。
「それじゃ、まずはパーティー組んでくれないか」
まじかよ、その言葉をこの世界でも聞くとは思ってなかったわ。
周りの奴らはすぐに組み始める。何? 前から決めてたの? 早くない?
とりあえずキリトと組む、あと誰かいないか……。
「あのフードのやつはどうだ?」
「誘ってくる」
流石キリトさん! 俺に出来ないこと(コミュニケーション)をやってくれる! そこに痺れる憧れるぅっ!(ただのコミュ障)
「俺はキリト、んでこの腐った目の男はエイトマンだ」
「……顔は元に戻ったんじゃないの?」
「失礼な、これはデフォルトだ」
名前は、《アスナ》か。女か? フード被っててわからん。
「とりあえず後で連携確認だけしておこうか」
「そうだな、連携どころか協調性のなさそうなやつばっかだもんな、俺含め」
「一言余計だ」
ぼっちも三人寄れば上手くいく、とはならない。寧ろ全員消極的なので会議が発展しないどころか喋ったら負けゲームのようなものが発生する。
キリトは割と話せるやつなのでそこら辺ば大丈夫か。
そんなことを考えながらぬぼーっとしていたら一際大きな声が聞こえた。
「ワイはキバオウってもんや。この中に謝らんとあかんやつがおるのわからんか?」
なんだあの栗頭……大人しくそこら辺で転がってろよ。
あいつが言うには、今まで死んだプレイヤーはβテスターが情報などを独占したからだ。
だからここにいるβテスター、謝れ、身ぐるみ剥ぐぞってことか。
「馬鹿か」
隣のキリトを見ると青ざめている。そういやキリトはβテスターだな。
恐らくβテスターであろうものは視線を逸らしたりしたり、身体を揺らしたりしているのでわかりやすい。
仕方ない、ここは一つβテスターに借りを作っとくか。
「おい、栗頭」
「なんや? あとワイはキバオウや」
「βテスターは出てきて、謝れ、アイテム寄越せってことでいいか?」
「そ、そうや! なんか文句あるんか!?」
「よし、解散しよう。こいつは馬鹿だ」
キバオウの顔が真っ赤になる。かなり頭にきたようだ。
「な、なにが馬鹿なんや!」
「考えてみろよ。明日することは? ボス戦だよな? なんで前日に戦力低下しなきゃならねぇの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「うっ……」
よし、もう一押しだ。
「せめて謝ってほしいってだけならまあわかる。だけどな、死んだプレイヤーの半分は誰かわかるか?」
「し、知らんわそんなん」
「βテスターだよ。恐らく自分の力に過信したんだろうな」
周りがザワつく、俺も詳しくは知らんがキリトが言っていた。本当かは知らんが今のこの場を凌げれば十分だ。
「それで、まだなにか文句あるのか?」
「ぐぬぬぬ……」
ここまで言われたら流石に引くだろう。
不意に、肌が黒い男が手を挙げた。
「俺はエギルだ。ついでに言わせてもらうがこのガイドブック。あんたらも知ってるだろ? これはβテスターの協力によって無料配布されたものだ。ここまでしてくれたβテスターにまだなにかあるのか?」
「ぐぬぬ……うぐぐ……」
パンパン、と手を叩く音がする。
ディアベルは声を大にして言った。
「もうやめよう、ここまでだ。仲間割れしたって意味が無い。」
そうして、第一回ボス会議は終わった。