やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

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潜入

「なんだよこれ」

 

74層ボスを倒した次の日。

号外をデカデカと配っている人がいたから俺もつい受け取ってしまった。

どうせ74層のことだろう、と思いつつそこに書いてあるものを見る。

俺はギョッと目を見開いた。

 

「『脅威の50連撃スキル!?』『一撃必殺、幻の抜刀術!』……はぁ?」

 

50連撃? 一撃必殺? いやいやいや……。

流石に尾ひれがつきすぎだろ、ボスの腕をワンパンで斬り落としたとか……いやないない。

 

どうやら相当のデマが広がっているようだ。

そんな俺の背中に、声がかかる。

知らない声だ。

 

「気に入ってくれたかい、影君」

「…………誰だ」

 

こんなに馴れ馴れしく喋ってくるやつ、怪しすぎる。

 

「おやぁ、僕のことを知らないのか?」

「知らん、少なくとも攻略組ではないな」

「はは、これは失敬。僕はカレーン、まあ気軽にカレンとでも呼んでくれよ」

「何の用だカレンダー」

「カレーン、だ。あれっ? これじゃカレンダーに……」

 

ブツブツ言い始めるカレンダー野郎。

悪いやつ……ではなさそうだが、どこか白々しい。いや、嘘くさい。

が、一応いつでも逃げられる準備はしておく、圏内だからと言って必ずしも安全というわけじゃないんだ。

 

「そんなに身構えなくてもいいよ、僕じゃ君には勝てない」

「話を戻すぞ、何の用だ。カーレン」

「強いていうなら……その記事の作成者、かな?」

 

俺が手に持っている号外を指差して、微かに笑う。

この記事を作った、ってことは……このデマも全てこいつの仕業か。

 

「このデマはなんだ、勘違いも甚だしいぞ。今すぐ取り消せ」

「僕はプレイヤーに希望を与えただけさ」

 

悪びれもせず、あっけなくそう返される。

こいつ……どうにも飄々としていて話したくなくなるやつだな。

 

「そんなに殺気を撒き散らさないでくれ、本当に君と今は争う気はないんだ」

 

両手をバンザイして無抵抗の意を表すカーレン。

俺は以前、逃げる大勢を変えずに目で問う。「何の用だ、次はないぞ」、と。

 

「言ったろ? 僕は希望を与えたいだけさ。ユニークスキル使いが3人もいるんだ、その強さをプレイヤー諸君に見せてはみたくないかい?」

 

肩を竦めながらカーレンは言った。

 

「どういう意味だ」

「勘は鈍いようだね、つまりは……僕が主催者として開く、トーナメント形式のPvP大会に出てくれないか、ってことさ」

 

わかるわけねぇだろそんなの、と心の中で呟きながら話を整理する。

こいつの目的はプレイヤーに希望とやらを与えること、この場合の希望とはゲームはクリア可能ということだろう。

25層、50層は他より強力なボスが出ている、恐らく75層も他より更に強力なボスが出るのだろう。それを前にして絶望している者もいないわけではないはずだ。

 

そこで俺やキリト、ヒースクリフが持っているユニークスキル。これをプレイヤーの前で使ってもらい、クリアは可能だということを示してほしい…………ってことだろうな。

確かに理に適っている。強い人がいるとわかればボス攻略に参加する人も増えるだろう。

だが気がかりなのが……こいつが、それ"だけ"を考えている様には見えないところだ。

 

「どうだい? 是非とも参加してほしいなぁ、《紫色の影》……いや、《抜刀術》のエイトマン」

 

ニコニコしていて、表面上だけを見るとすればこいつはいいやつだろう。

だが、今は俺の勘を信じる。

 

「悪いな、そういうのには興味が無い、他を当たってくれ」

「…………そうか……残念だなぁ」

 

そう言い残し、カーレンは去って行った。

恐らく、他のやつにも同じ様のことを言いに行くんだろう。

離れていくカーレンの背中に向かって、言う。

 

「…………理解は出来るが、お前が気に食わない」

 

ボソりと呟いた俺の声は、奴に届いただろうか。

 

ーーーー

 

カーレンに大会に誘われた日から3日が経った。

75層はターニングポイントのため、今まで以上に安全マージンに気をつけながらゆっくりと迷宮を攻略していく。

 

…………しかし遅すぎる。

流石にゆっくり気をつけながらだとしても、マッピングがまだ3分の1も終わっていないのは遅すぎるだろう。

攻略組働けよ! ……ってわけじゃない。

 

現在、町はあるイベントの準備で大忙しだ。攻略組も顔を出しているためなかなか攻略が進まない。

なんのイベントか? ……カーレンが開く、PvPの大会だ。

 

「あと4日か」

 

イベントの開催日までの日数だ。

カーレンの話を聞く限り、恐らく俺以外にもキリトやヒースクリフは必ず誘っている。

しかしあの2人だけで攻略が止まるほど人気が出るものなのか?

っつーか時間がかかりすぎだ。

この事から導き出される答えはーーーーーー攻略組も混ざってる、それか手伝ってるな。このPvPの大会に。

そういえばトーナメントと言ってたな。…………ディアベルやアスナ、他にも聖竜連合や風林火山のメンバーなどにも声をかけているんだろうな。

 

忙しそうに動き回る人をボーッと眺めながら、そんなことを考えていたらメッセージが届いた。

キリトからだ。

 

『今からお前の家に行く』

 

急だな……最低限の返事で返す。

 

『理由は』

『話したいことがある』

 

…………丁度いい、俺も話したいことがあったからな。

キリトに『了解』と送り、来るのを待った。

 

ーーーー

 

「悪い、待ったか」

「いや、俺も今来たところだ」

「ここお前の家だろ……上がるぞ」

 

付き合いたてのカップルのようなセリフを言ったがキリトあえなくスルー。

やっぱり鈍感系なのねキリト君は、私の気持ちに……気づいてよ!

いやこれじゃあ俺がキリトを好きみたいだな、うへぇ。

 

紅茶でも入れてやろうかと立ち上がる。

しかしキリトは首を横に振る、いらないってことだろう。

ならいい、勝手に押しかけたのはキリトだし俺が遠慮する必要は無いな。

 

「そんな長話をする気は無い」

「そうか、で、話は?」

「単刀直入に言う。PvP大会、カーレンの大会に参加してくれ」

 

思っていたことよりも斜め上のことを言われた。

一応理由は聞いとくか。

 

「何でだ?」

「…………俺の勘違い、考えすぎかもしれないからこれから先に言うことは余り、真に受けないでくれよ」

「わかった」

 

キリトは呼吸を落ち着かせるためか、一度大きく息を吐く。

 

「俺もカーレンに誘われた。別に断る理由もないしな、だが何か引っ掛かったんだ。だからあいつの跡をつけた」

「…………」

「誰かと会っていたようだが、夜だったから暗くてよく見えなかった。……俺は暗視スキルなんて習得してないしな」

 

ジトリ、と俺を見てくるキリト。

暗視スキルの便利差に今更気づいたか。

 

「だが会話は途切れ途切れに聞こえた」

 

そこで一度言葉を切るキリト。

覚悟を決めたのか、再び口を開く。

 

「ラフィンコフィン、そのワードが聞こえた」

「……ラフィン、コフィンか……」

 

PKをする奴らが集まる、ギルドだ。

 

「もしかすると全然関係ないかもしれない、だけど放置するのアレだ、だから……」

「事情はわかった。だが何で俺なんだ?」

「アスナやディアベル、ヒースクリフは潜入には向かない。だけどエイトマン、お前ならって思ってな」

 

割と高い評価を頂いているみたいだ。

だけど潜入って……まあスキルをしっかり使えば痕跡も残さず何とかできそうだが。

やべぇ、俺忍者に転職するべきかもしれない。

 

「仕方ないな、攻略組のキリト様に頼まれたんじゃ断れん」

「……! 助かる」

「……とりあえず俺はカーレンを大会中に追えばいいんだな」

「ああ! ありがとなエイトマン!」

「終わってからそれ言え」

 

やめろよ恥ずかしい。わかったからお礼はいいから帰れ。

ポカーンとするキリト。えっ、俺なんか言った?

 

「その言葉、どっかで聞いたな」

「気のせいだろ」

 

気づかれてしまったか……俺の記憶力の凄さに……。

ニヒルと笑うキリトは無邪気で、こいつはまだ子供なんだなってことがよくわかった。

……いや俺も子供ですけどね。

 




カーレン以外オリキャラ出す予定ないです

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