やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

18 / 33
The Gleam eyes

おはよう諸君。

今俺はエギルの店へにやって来ている。

 

「エイトマンさん! 見てくださいこのアイテム!」

 

シリカと一緒に、だ。

街中のベンチでボーッとしながら座ってたらシリカに話しかけられて色々連れ回されたのだ。

嬉しそうな顔で俺にアイテムを見せてくるこのロリっ子。

なんだよほんと、年齢制限どうなってんの?

 

「おいエイトマン、流石にその子に手を出すってのはいくらお前でも……」

「しねぇよ、てかどんな印象持たれてんの俺?」

 

そもそも相手が同年代でも無理ですし、年上も陽乃さん思い出すから無理です。

年下とか小町でお腹いっぱい、俺の満腹中枢は十分刺激された。

 

「それより、何の用で来たんだ?」

「…………キリトからも、アスナからも迷宮攻略のお誘いがなかった。マップで位置確認したら2人で一緒に挑んでた」

「それは……まあ、元気出せよ」

 

慰められる俺。

べ、別に悲しくなんかねぇよ!

 

「それなら私と行きますか?」

 

シリカが俺を慰めるかのごとく、そう言ってくる。

嬉しい提案だ、だがそうはいかない。

 

「シリカのレベルじゃ最前線は危ないからな、ダメだ」

「そうですか……」

 

しゅん、となるシリカ。

気のせいか、ツインテールも垂れ下がった気がする。

 

「1人で迷宮行ったりはしないのか?」

「俺は仕事は極力したくない、働いたら負けだからな」

「大人の俺からすると、その考えはやめておいた方がいいと思うが……」

 

でも、少し前までは1人で迷宮挑んでたんだよなぁ。

うーむ、と少し考える。

 

「……たまには、1人で行くのもいいか」

「考え直したか?」

「さんきゅ、エギル。初心は忘れるべからず、だからな」

「そうだな、初心は……って最初はソロプレイだったのな」

 

エギルの言葉を右から左へと垂れ流して、シリカの方に向き直す。

 

「シリカ、俺は今から迷宮攻略をしてくる。お前はあのおじさんとお喋りして飯を奢ってもらってから帰るといい」

「そうですか……迷宮攻略、大事ですもんね、仕方、ないですよね……」

 

シリカは悲しそう言う、やめろ、守りたくなっちゃうだろ。

その顔を見るとすごく申し訳なくなる。

 

「あー……なんだ、今度この埋め合わせはするからな」

「いいんですよ、元々は私が誘ったんですから。…………でも、また今度も一緒にいてくれる提案はとても嬉しいです!」

 

迷宮に付いていく、なんて言葉が出なかっただけでもシリカは成長した。

まあさっきレベル的にキツイって言ったからってこともあるだろうが。

 

「じゃ、俺は行くわ。エギル、子守頼んだぞ」

「私子供じゃありません!」

 

その場から離れ、転移装置から74層迷宮区まで飛んだ?

 

ーーーー

 

ところどころ、モンスターを倒した跡があるな。

必要ないアイテムは取らないからか、ドロップアイテムが散乱している。

これを辿ればキリトに会えるんじゃないのか?

 

そんなことを考えていたら、ピコん、とメッセージが来た音がした。

誰からだ?

キリトからだった。

 

「ーーーーーーまじかよ……」

 

慌てて走り出す俺、丁度迷宮にいてよかった。

キリトから送られたメールには74層のボス部屋までのマッピングデータ、それとーーーーーー。

 

『軍がボスに挑んでいる』

 

この一文、恐らく時間なく最低限の文字にしたんだろう。

多分、伝えたかったことはーーーーーー『ディアベル反対勢の軍が、ボスに単独で挑んでいる』、だ。

まだ、ディアベル反対派存在してるのかよ……。

 

「……クソが」

 

歯ぎしりしながら俺は全速力で駆けた。

 

ーーーー

 

「邪魔、だっ!」

 

躊躇する素振りすら見せずに刀が一閃を走る。

トカゲ型のソルジャーが真一文字に切り裂かれる。

 

キリトに渡されたマッピングデータによるとそろそろボス部屋だ。

 

うわあああっ!! という叫び声が耳に届く。

ボス部屋が近い!

 

「ーーーーーーいた!」

「アスナ! クライン! 10秒時間稼ぎ頼む!」

 

キリトが後ろに下がりステータス画面を操作している。軍の奴らは中にいるみたいだ。

ボスの名前は『The Gleam eyes』

羊の頭をしている、悪魔型モンスターか!?

 

「きゃあっ!」

 

アスナがボスに吹っ飛ばされる。

見た目通りパワーも高いみたいだ。

 

「おらぁっ!」

 

クラインが斬りかかるが、あえなく吹き飛ばされる。

そしてボスの目にはキリトが映る。

 

「キリト君!」

「くっ……!」

 

キリトはステータス操作をしていて動けない。

 

まずい、まずいまずい!

《抜刀術》を使うべきか!?

でも、キリト達の前で使ってしまったら、絶対バレる。

ーーーーーーっなんて考えてる場合じゃねぇ!!

 

「もう、どうにでもなれっ!」

 

即座に《抜刀術》スキル、《居合》を使う。

今にもキリトに襲いかかろうとするボスの腕をぶった斬る。

 

「グオオオッ!!」

「エイトマン!?」

「早くしろ! 10秒はもう経つぞ! ……くっ!」

 

《居合》に続けて、《稲妻》を使用する。

 

「ギャアアアアア!!」

 

両腕に麻痺効果を付与できた、これで十分時間稼ぎはできるはずだ。

 

「エイトマン! 下がれ!」

 

キリトの命令通りすぐに下がる。俺と入れ替わるようにしてキリトがボスの前に立つ。

麻痺効果が切れたボスがキリトに切りかかる。

それを右手の剣で間一髪で防ぐキリト。

 

防いでしまっては攻撃が……いや、違う!

 

もう一つ、剣がある。

キリトは左手で剣を握っているボスを切りつける。

 

「な、なんだありゃあ……」

「惚けてる暇があったら、早く援護しろ、それか軍の奴らを外に運べ!」

 

キリトのスキル……多分二刀流だろう。

それが終わるタイミングで俺の《居合》を浴びさせる。

連続攻撃によってボスが動けないでいる。

 

「エイトマン……まさか……!」

「余計なことは考えんな! 目の前のこいつを倒すことに集中だーーーーーーっ!」

 

《居合》《稲妻》を順番に浴びせる。

ボスがスタンする。

 

「スターバースト……ストリーム……!!」

 

二刀流の脅威のスピードで剣が振り抜かれる。

2.4.6ーーーーーー16連撃の大技か!

大技なら、硬直も長い。

だが、俺ならカバーが出来る。

 

何も《抜刀術》のスキルは2つしかないわけじゃない。

あの2つは使いやすいだけだ。

 

《大袈裟》ーーーーーーボスの身体をなんの抵抗もなく刀が通り抜ける。

 

「グオオォォッッ!!」

「らああぁっ!!」

 

抜刀術スキルから繋げるこの技は、相手の肩から刀が入り、胴体部分までを切り裂く。

鞘に納めた状態からでは使えない、唯一の技だ。

 

「オオオオッッ!!」

 

ボスのHPバーが、ぐんと減る。

大技のため、俺の硬直も長い。

ボスの目が俺を捉えた。

その目を睨み返す。

 

「俺を見てんじゃねぇよ」

 

お前が見るべきなのは、俺じゃない。

残念だったな、相手が俺だけだったら良かったものの。

 

「はああああ!!」

 

硬直が解除されたキリトの、2回目の大技……スターバーストストリームにより、ボスは倒された。

 

《Congratulations》

 

その文字が浮かび上がった。

 

ーーーー

 

「倒した……のか……?」

 

キリトがふらつきながら言う。

それに対して俺は無言で頷くだけだ。

安堵した表情になるキリト。それと同時に力が抜けたのかよろめく。

そのキリトを支えるアスナ。

 

「本当に、馬鹿なんだから……! 死んじゃうかと思ったんだからね……!」

 

アスナに怒られる俺とキリト。

現にキリトと俺はHPが黄色ゲージになっている、ボスの攻撃がモロに入れば死んでいたかもしれない。

 

「今更、終わったことを悔やむなよ、今は勝てたことを素直に喜べ」

 

アスナにそう言い、俺はポーションをグビッと飲む。

HPが満たんになるのを確認してから、ドカりと床に座る、流石に疲れているようだ。

 

「はぁーーーーーーっぶふぉっ」

 

大きな溜息をつきながら伸びをしていたらクラインに腹を叩かれた、なんだよ。

ジロりと目だけで訴えかける。

 

「流石エイトマンとキリトだ! てめぇらなら勝てると俺は思ってたぜーっ!」

「お、おう……」

 

なんだこいつ、普通にいいやつだな。ノリは戸部に似てる。てか戸部って誰?

 

「それはそうと二人共、なんだあのスキルは!?」

 

前言撤回、全然いいやつじゃねぇ、戸部に似てるなら空気も読めよ。

 

「そうよ、急に剣を2本出したりして、エイト君のスキルなんか刀スキルじゃないでしょ!? 見たことないわよ!」

「…………言わなきゃダメか?」

「さて、俺はここら辺で帰るとするか」

「逃がさないわよエイト君」

 

肩をがっしり掴まれる、あの、食いこんでます痛いです。

 

「はぁ……二刀流スキル。出現方法はわからない」

 

周りの軍のヤツらがざわめく。「二刀流!?」「なんだそれ、エクストラスキルか!?」取り巻きうるせぇ。

 

「そうなんだ…………道理であんな動きを……」

「キリトすげぇな、あっ、俺は刀スキルなんで関係ないですよね」

「そんなことないだろー? 刀使ってる俺様でも見たことないぞ!?」

 

ちっ、刀使いがここにいたか。

流石にもう隠し通せないな…………仕方ない。

 

「抜刀術だ、エクストラかユニークかは知らん」

「抜刀術……!?」

 

またざわめく周りのヤツら。

 

「もういいだろ、これ以上話せることはない。出現方法も条件もわかっちゃいないんだ」

 

キリトも頷く。

 

「ボスは倒した、誰か情報屋に伝えといてくれ。俺は疲れた」

 

重い身体を無理に動かし、立ち上がる。

んっ、と伸びを一回してから、俺は転移結晶で家に帰った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。