やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

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ラグーラビット

マルキュウマルマル。

今日はいい朝だ。

リズに作ってもらった刀、紫苑が朝日を反射してキラキラ輝いている。

いい刀を見ると心が洗われる……ほら、ゲームでも強力な武器手に入れると嬉しいだろ? あんな気持ちだ。

メッセージを確認すると、キリトから一件来ていた。

 

内容は、迷宮探索に行こう的な話か。

7時に送ってきていた、早起きだな。

流石にもう遅いかと思ったが、まあやることもないし行くか。

 

俺が自分から進んでこんなに働くなんて、明日は槍でも降るんじゃない? ていうか反動でリアルに戻ったらニートになりそう……。

 

ーーーー

 

迷宮までの道のりで森を通過する。

この森には様々なモンスターがいる、中にはS級の食材もーーーーーーうぉっ!?

 

目の前にナイフが飛んできた。それを慌てて避ける。

すぐに"薬研"を手に取り戦闘態勢に入る。

この武器、リーチ短いけどスピードが極端に早いからサッと取り出せて便利なんだよな。

 

「すみません! まさか人がいるとは……ってエイトマン!?」

「ゴメンで済んだら警察は……ってキリトか、驚くな、俺もびっくりしちゃうだろ」

「ごめんな! それよりあそこにーーーーーーいた!」

 

いつの間にかキリトは帰りの道を歩いていた。

2時間で探索やめるとかもっと働けよ。俺の分まで働いてください。

 

てか、キリトは何を探してるんだ?

視線の先を追うと、うさぎのモンスターが……。

あれS級食材のラグーラビットだわ。

 

「次こそ…………ふっ!」

 

キリトが投擲スキルでラグーラビットを狙う。

だが狙いが逸れたのか、ラグーラビットに刺さらず、近くの地面に刺さってしまう。

 

「キュゥ!」

 

それに驚くラグーラビット、飛び上がって今にも逃げ出そうとする。

俺の身体は勝手に動いた。

《抜刀術》は使ってないが、まあこの距離ならシステムアシストなしでも、それに近い行動は取れる。

刀スキル《絶剣》でラグーラビットを真っ二つにした。

 

「やったぞキリト、今夜は兎鍋だ」

 

手に入れたラグーラビットの肉をキリトに見せる。

 

「はは……相変わらず速いなぁ」

 

キリトは二本目の投擲準備をしていたところだった。

それを仕舞うと苦笑いで答えた。

 

なんだかすみません……。

 

ーーーー

 

「なんでアスナが……」

「何よ、私がいると悪いの?」

「いやそんなことないです」

 

俺の家には、現在キリトとアスナがいる。何故だ……。

俺の料理スキルでラグーラビットを調理しようとしてウキウキしてたら、帰り道にアスナに捕まって、キリトがS級食材をゲットしたって言ったからだな。口が軽すぎる。

 

「エイト君の料理スキルじゃ何が作られるかわかったもんじゃないわね、私が作るわ」

「おまっ……なりたけのラーメンとMAXコーヒーを作るためにどんだけ俺が頑張ったか……!」

「私コンプリートしたし、料理スキル」

「アスナシェフ、料理はお任せしました」

「ふふん、エイト君の家、結構調理器具揃ってるわね、助かるわ」

 

鼻歌交じりに料理を始めるアスナ。

俺はキリトの方をチラリと見る。

キリトはソファに座ったまま、自分のステータスを見ていたようだった。今更何見てるんだ……。

ていうかコート脱げよ。

 

「いつまでそんな格好してるんだよキリト。てか今更ステータス見ててどうした」

「いっ、いや、なんでもない……!そ、そうだな、コート脱がないとな、はは」

 

何を慌ててるんだ……。

アスナの手料理で興奮してるのか?

 

「出来たわよー」

 

そう言って、アスナが料理を持ってくる。

この匂いは……シチューか。

 

「キリト君、いつまでも座ってないでこっち来てよ」

「あ、ああ……」

 

オドオドした状態のキリト……ははーん、女の子の手料理を食べるのなんて初めてです! ってことだな!

残念だな俺は既に小町の手料理を食べまくってるから耐性付きまくってるぜ!(ただしぼっち)

 

「どう調理しようか悩んだんだけどね、ラグーなんて言うくらいだしやっぱり煮込んだわ」

「シチューか。美味しそうだな」

「ほら、エイト君早く座って。どうぞ、召し上がれ」

「…………いただきます」

 

スプーンに手をつけ、シチューを一口分掬って食べる。

 

「……美味いな」

 

そんなに下が肥えてるわけじゃないが、味の善し悪し程度はわかる。

これはかなり美味い、料理スキルコンプリートの称号を持つだけはある。

 

「シチュー以外も作ったからどんどん食べてね」

「アスナは強いのに料理まで上手いんだな」

 

おっと、キリト君が早速ラノベ主人公を始めましたね。

2人が仲良く話す中俺は影になる、僕は影だ……。

 

だけど、友達がいる食事も、案外悪くは無い。

 

 

ーーー

 

「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

「いやー、美味しかった」

 

キリトが紅茶片手に満足気に言う。

アスナも嬉しそうだった。

 

「本当、美味しかったな。さて、食べるもん食べたしもう用はないよな」

「何ですぐに帰宅させる発言するのよ、まだ用はあるわよ」

 

フォークを弄びながらアスナは言う。

 

「エイト君はいつまでソロプレイするつもりなの?」

「…………ぼっちに何言わせるんだ」

「本当にそれが理由なら私が組んであげようか? パーティー」

「それはいい提案だな……だが断る」

「ぶっ」

 

キリトが吹き出す、突然のジョ○ョネタについ吹き出してしまったのか。

アスナはわからないのかキョトンとしている。

キリトは笑ってしまったのを取り繕うがごとく俺に話しかける。

 

「そうだ、エイトマンも月夜の黒猫団に入るか? エイトマンがいれば心強いな」

「キリト、お前クラン入っててもソロプレイに近い動きしてるじゃねぇか……」

「そりゃまだ攻略組に入れるレベルには達せてないだろうからな」

「お前の大丈夫の基準が高すぎるんだよ、十分強いだろ」

「はい、話を逸らさないのエイト君」

 

ピシャリと言われる。このままなんやかんやで終わらせようとしたが、アスナはそんな気毛頭ないようだ。

 

「はぁ……1人の方が気が楽なんだよ」

「ふーん…………最近エイト君何か隠してない? 迷宮で会ったときも微妙に違う動きでスキル使うし……」

「それは俺も思ったな、なんかいつもより速い、というかなんというか……上手く言えないが」

 

何でそんな微妙なことがわかるんだよ、どんだけ俺のこと好きなの?

《抜刀術》の使い過ぎが原因だろうな。最近、雑魚相手には《居合》で速攻倒してるから身体がそれを覚えちまったんだろ。

いつもの要領でやろうとするとつい《抜刀術》使いそうになるから、動きが微妙に止まるとか、多分そんな感じ。

キリト達の前じゃ隠さなきゃダメだからなぁ……バレたら面倒だろうし。

 

「………………気のせいだろ」

 

長い長考の末、そんな言葉を発する。

 

「その長い空白の間に何を考えてたんだ?」

「空は何故青いか」

「ここでそんなこと考えるのか!?」

 

キリトは割とお馬鹿な子だった。

だがアスナはそうはいかない、今回は食い下がってくれたが、尚も俺を疑う視線は消えなかった。

 

「それじゃ、俺達はこの辺で帰ることにするよ」

「そうね、あんまり長居しちゃあれだものね」

「おう、帰れ」

 

アスナ達が家を出る直前、そうだ、これは言っておかないとな。

 

「あー、アスナ」

「……何? エイト君」

「えーっと……その、シチュー美味かった、ありがとな」

「………………え、えぇ、どういたしまして」

 

あちゃー、アスナめっちゃビックリしてたよ。

キモがられたかな……そうだとしたら悲C。

 

「じゃあな」

「じゃあね」

「またな」

 

ガチャり、とドアを閉めた。

 

 

ーーーアスナsideーーー

 

「…………」

 

何かがおかしい、エイト君は。

絶対に何かを隠してる、パーティーになってなんとかそれを暴こうとしたけどやっぱり対人防御固いわね……。

 

「あんまり詮索はするなよ、アスナ」

「……! ……そうね。スキル詮索はご法度だものね」

「ああ……」

 

キリト君も、か。

考えてもわからないことをいくら考えても意味が無い。

今考えるべきことは、74層の突破のこと。

そのために何をするのが最善かーーーーーーチラリとキリト君を見る。

キリト君と目が合う、「?」マークを浮かべるキリト君に私は言った。

 

「私とパーティー、組まない?」

 

 


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