やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

16 / 33
スノードラゴン

「俺から離れるなよ」

「う、うん……へっくち」

「ああ、寒かったか。ほら」

 

イチャコラしやがって……マフラーを巻いてあげるとかイケメンかよ……。

なんで俺はこんな吹雪の中を歩いているんだ。

いや、俺が自分からやったんだけどね? こんな面倒だとは思ってなかったんだよ。

 

まあキリトと俺のコンビなら55層のモンスターなんて瞬殺だろ。

 

ここのスノードラゴンからクリスタルインゴットというアイテムが取れるらしい、それがあれば魔剣クラスの武器も製造可能だとか……俺も一つくらい欲しいな。このままじゃ俺織田信長になっちゃう。

 

「キリト、あんたは強そうに見えるけどさ……あの人は強いの?」

「弱いからやっぱり帰っていい?」

「おいエイトマン? 俺だけを置いていくとかないよな?」

 

冗談だわ……。

 

「リズ、エイトマンのこと知らないのか? ほら《紫色の影》って呼ばれてる……」

「アルゴさんの記事に書いてあったような……一応あいつも攻略組トップなのね」

 

一応ってなんだよ、一応って。てかあいつ呼ばわり!?

立派な攻略組トップだわ!

そんな会話(主にキリトとリズ)が続き、気づいたら一面キラキラした石で覆われたところに出た。

 

「わぁっ! こ、これって……!」

「クリスタルインゴットか?」

「違うわよ!」

 

違うのかよ

 

「おいキリト、これなんだよ」

 

キリトがウィンドウを見せてくる。……クリアインゴット……。

 

「スノードラゴンを倒すしかないのか」

 

視界の橋でリズがせっせとクリアインゴットを集めている。俺も少し集めておこうかしら……。

 

その時、グオオオォォォッ! というドラゴンの雄叫びが聞こえた。

えっ、何かしたっけ?

 

「刺激してないのに……全くなんなんだ」

「リズが巣に近づきすぎた! まずい、ロックオンされてる!」

 

はぁ? あの馬鹿野郎が……!

 

「あわわわ……た、助け……」

 

スノードラゴンの牙がリズを襲う。

その直前に、リズの前に立ち、牙を刀で弾く。

 

ガキィィン! 怯むと同時にスタン攻撃を浴びせる。

 

「ほら、立て。さっさと転移結晶使え」

「で、でも……」

 

ドラゴンが翼を大きく振りかぶり、強風を起こした。

まずいっ……! 確かこの下にはーーーーーー!

 

「エイトマンーーーーーー!!」

「きゃ!? きゃああああ!!」

「くっ……くそっ……たれ!」

 

ステージトラップ、大きな穴。

そこに落ちるリズーーーーーーの手を、掴んでキリトの方に投げ飛ばす。

 

「リズ! キリトの方に行け!」

 

人を引けば反作用で自分が前に出る。

つまりーーーーーー俺が落ちる。

 

「え、エイトマン……!」

「リズ! こっちに!」

 

キリトとリズの声が薄くなる。

どんどん下に落ちていくのがわかる。

 

これってステージトラップだから、死にはしないよなぁ、上がれるかなぁ。

 

そして、視界が暗転した。

 

ーーーー

 

「…………ん……暗いな……」

 

落ちてからどのくらい経った?

倒れた状態のまま、上を見るとまだ雲に覆われている空が見えた。

 

「そんな時間は経ってないか」

 

よく耳をすませば、キリトの声も微かに聞こえる、多分本当にほとんど時間は経っていないんだろう。

 

「《暗視》……よし、バッチリ見える」

 

こんなところで使える素晴らしいスキル。ありがたや。

周りを見渡すと色々散乱している。

なんか肉とか置いてあるし……餌?

その隣には…………これはまさか。

 

「なん……だと……」

 

多分ここ、ドラゴンの巣だな。うん。

理由として、《クリスタルインゴット》が置いてあるもの。

 

「……持ち帰ることできねぇかなぁ……」

 

どれくらい貴重かわからんが、出来ればたくさん持ち帰りたい。

インゴットに近づき、手を触れる。

 

「うおっ」

 

ステータス画面が出た。

《クリスタルインゴット》か、いや知ってるわ。

 

「アイテムストレージには……お、入る」

 

俺のストレージはほぼ空。

必要なものしか入れてないからな。

入れられるだけ入れる。

 

「よし、こんなもんか」

 

さて、後はどうやって出るかだな……。

 

そこで俺は、まずいことをしてしまったのではないかと悟った。

質問するぞ。

ここはどこだーーーーーードラゴンの巣だな。

これは何だーーーーーークリスタルインゴットだな。

もう一つ質問するぞ。

 

これから、何が起きる?

……君のような勘のいいガキはーーーーーーグオオォォォッッ!!

ドラゴン来たぁっ!?

 

なんでだよ! キリトはどこ行った!

いつの間にかキリトも転移して帰ったのか、おい助けろよ俺。

 

これやばいだろ! 見知らぬやつが巣に来て貴重なアイテムを持ち帰ろうとするとか激おこ間違いなし!

あたふたする俺を無視してドラゴンが空から落下、いや飛び降りてくる。

 

こうなったら一か八かだ。ドラゴンの背中に飛び乗る!

 

「うおおおっ!!」

 

タイミングを合わせて、落下してくるドラゴンの翼にしがみついた。

 

「グオオオォォォッ!」

 

ドラゴンが俺を見失ったのか暴れる。いや翼にいます。

隠蔽スキルを使い、バレないようになんとか背中によじ登る。

 

「ふぅ……背中ならドラゴンも見つけられないだろ」

 

灯台もと暗し。お前にピッタリな言葉だスノードラゴン。

 

しかし、よく見てみるとこいつ、HPバーがあと1つしかないな。キリトがある程度削ったのか?

1人だと倒すのが面倒とか無理とか言ってたもんな……。

でもここまで削ったなら倒しておけば……ああ、ここから行動パターン変わって面倒になるのかな?

 

そんなことを考えていたら、ドラゴンが巣を飛び出た。

うおおおっ!! 重力に逆らう感じすげぇ、エレベーターの高速バージョンみたいだ。

 

はっ、巣から出たってことは……。

 

「……転移結晶、使えるみたいだな」

 

早速転移して帰ろうとした俺の脳裏にある事が思い付く。

 

「《抜刀術》の威力、せっかくだし試すか」

 

かなりの高さまで飛び上がっているドラゴンの背中に立ちながら考える。

ここからなら、例え落ちても落下中に転移はできるはず。

よし、やるか。

 

「ふぅ……ーーーーーー」

 

深く息を吐く、呼吸を整える。

 

「行くぞ」

 

抜刀術スキル《居合》

 

刀を抜き、その勢いのまま切りつけ、再び納刀。

たったこれだけの動作。

防御を捨てた特攻だ。

 

叫ぶドラゴン、まだ削りきれないか。

初級スキルじゃそんなもんだよな。

でも、《抜刀術》のスキルは続けて次の技に繋げることが出来る。

 

納刀するモーションの最中に、次のスキルの発動を促す。

身体が動く、アシストによって身体が勝手に次の動作を終える。

 

「弐ノ太刀《稲妻》」

 

その名の通り、稲妻の如く敵へと迫り、一太刀で斬り捨てるスキル。ちなみに、弐ノ太刀の部分はオリジナルだ。中二病心が疼いてだな…。

 

その威力は、ドラゴンの首さえも落とした。

 

「やっぱ、恥ずかしいなこのスキル」

 

ドラゴンを倒したことで素材などがストレージに入ったのを確認した。しっかりクリスタルインゴットも手に入っている。

俺は落下しながら転移結晶を使った。

 

ーーーー

 

「ふぅ……」

 

家に着いた途端、だらけてしまった。

どのくらいだらけたかと言うと、ライオンのオスでもこうはならないレベルのだらけさ。まじ俺百獣の王。

 

「ん? メッセージか……」

 

視界の端でメッセージアイコンがピコピコ光っている。

そんなにピコピコするなよ、リンゴにペン刺すぞ。

メッセージを確認する、キリトからだった。

 

『エイトマン、いつの間に脱出したんだ?』

 

助けろよな、本当……。

続けてメッセージが来る。

 

『助けに行こうとして、お前の居場所を確認したらいつの間にか48層のお前の家にいることになってるんだから、ビックリしたぞ』

 

ああ……助けるためにもう一度行こうとしたのね。

 

だらけきった俺は返信をする。

 

『勝手に脱出した。スノードラゴン討伐したからこの素材は俺がいただくわ。明日リズに武器作ってもらうから話つけといてくれ、おやすみ』

 

ベッドで仰向けになり、目を閉じる。

再びメッセージが来たが、俺は開かずにそのまま寝た。

 

…………クリスタルインゴットは分けてやるか。

 

 

『スノードラゴン倒したのか? 流石だなエイトマン。リズには話つけておくよ、てかもう寝るのか。おやすみエイトマン』

 

ーーーー

 

「エイトマン……あんたって強いのね」

「スノードラゴン倒せるくらいにはな」

 

本当は残りHPが少なかったからなんだけど……まあいいや。

 

「そ、その……落ちる前に助けてくれて、あ、ありがと……」

「おかげさまでスノードラゴン討伐できたし別にいい」

「そ、そう? ならいいわよね!」

 

手のひら返しが早いやつだ。

政治家にでもなったらどうだ。

 

「そうだ、これからは私のことリズって呼んでもいいわよ! ……ほ、ほら、助けてくれた時だって……」

「あん? なんだよ、もっと大きい声で言えよ」

「だ、だから、り、リズって呼んでも……」

「聞こえないぞ」

「も、もういい! ほら! 素材渡して!」

「わかったわかった。ほらよ、リズ」

「ふーんだ、適当に作って……って今」

「適当に作るのか、へぇー……」

「う、嘘よ! ちゃんと作るから!ほら、キリトのだってちゃんと作ってるわよ!」

 

店の外でブンブン剣を振っているキリトを指さしながらリズは言った。

ほうほう、あの水色? 青色の武器かそれか。

俺のはどうなるんだろうか。

 

「何か希望することってある?」

「会心と攻撃力が高いやつ、なるべく軽く」

「わかったわ」

 

いつになく真剣な表情でリズは店の裏に入って行った。

……やっぱ武器作るのって大変なのか。

 

それから、約十分ほど。

リズが出てきた。

手には、キリトと同じような色の刀を持って。

 

「どう……かな」

「…………俺の宗三左文字よりステータスが高い……魔剣クラスの武器だ」

 

スノードラゴンの鱗とクリスタルインゴットを使った武器だ。そりゃ強くなるに決まっている。

でも、鍛冶をする人のスキルにも依存しただろう、この強さは。

 

「リズ、ありがたく使わせてもらうぞ」

「ふ、ふふ……どうよ、私の凄さは!」

 

緊張が途切れたのか、リズの態度がいつものに戻った。まあそっちの方が絡みやすい。

 

「本当にサンキューな。これで攻略もしやすくなった。……そういやこの武器の名前は?」

「えーと……Aster Shine……アスターシャイン……」

「紫苑の輝き、って意味か。この刀に合うな」

 

紫苑色をした刀が光を反射する。

それがどうにも眩しくて、俺は目を細めてしまう。

 

「刀の武器なのに英語って……い、違和感、あるかな?」

「別にいいと思うが、多分これからは略して《紫苑》って呼ぶだろうし」

「そそそうよね! 別に無理してアスターシャインなんて呼ばなくてもいいものね!」

 

そ、そうだな……何を焦ってるんだこいつ。

 

「まあ、色々サンキューな。また機会があったら鍛治頼むわ」

「! ……えぇ! 任せなさい!」

 

ドン! と胸を張るリズ、男らしい!

 

「キリト、いつまでも振ってないでどっかでモンスター斬りに行くぞ」

「エイトマン。どんな武器になったんだ?」

「魔剣クラス。試し斬りと並行して迷宮攻略するぞ」

「おお……エイトマンがやる気に……って魔剣クラス!? ……あっ、そうか。ドラゴンの素材も使ったのか……」

 

後ろを見ると、リズが手を振っていた。

俺も軽く手を振る。

恥ずかしいな、こういうのって。

それを隠すようにして、俺はキリトと共に迷宮へと向かった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。